【2726】 音の響きがホラーですね  (柊雅史 2008-08-01 00:50:46)


〜乃梨子のあらすじ紹介〜

リリアン女学園の七不思議を解明すべく探索の旅に出た、菜々ちゃん、由乃さま、祐巳さま、真美さま、志摩子さん、私の六人は、第1の不思議「魔の13階段」の謎を解き明かすことに成功した。
だが、そのための犠牲は大きかった(由乃さまの涙目&菜々ちゃんへの拳骨投下)
恐怖の七不思議は残り6つ、果たして我々は無事全ての謎を解明し、生還できるのだろうか?
って言うか、瞳子。とっとと合流してツッコミ役の半分を担ってよ。この面子、ツッコミ役が明らかに少なすぎるから……。

【No:2725】>これ



『魔の13階段は元々13段ある普通の階段でした。ぼんやりしていると最後の1段に躓いたり、屋上に出る時の1段に気付かずに転ぶので気をつけましょう』
 真美さんがどこか疲れたような顔で、メモ帳に書き込んだのは、そんな内容だった。もはや他の七不思議への関心も期待も、最初の不思議で吹き飛んだ風情だけれど、祐巳もその意見に全面的に同意である。大体、祐巳たちの代では七不思議なんてものは聞かなかったのだ、大した謎ではないことなど、容易に予想できる。
「良いから、ちょっとそのメモ貸しなさいっての! どうせあんたの悪ふざけなんでしょ、これも!」
「ああ、お姉さま、酷いです! プライバシーの侵害ですよ!」
 由乃さんは菜々ちゃんに拳骨を一つ落とした後、菜々ちゃんの七不思議調査書を取り上げ、内容のチェックを開始している。由乃さんも最初にやっておいてくれれば良かったのに。
「でも、言われてみれば不思議よね。どうしてこの一段を作ったのかしら? 危ないわ」
「うん、そうだね。そうだけど、全然怪談じゃないよね」
 13段目の階段をしげしげと見詰め、唯一人「不思議だわ」と首を捻っている志摩子さんに、さすがの乃梨子ちゃんもちょっと返答がおざなりだ。
「――って、何よこれ!?」
 と、そこで調査書を開いた由乃さんが声を上げた。
「どうかしたの、由乃さん?」
「これよ! 今の魔の13階段のページ!」
 由乃さんが真美さんにぐっとノートを突きつける。祐巳も二人の下に歩み寄り、由乃さんの指し示す箇所を見て目を丸くした。

 『魔の13階段 ぷろでゅーす・ばい・有馬菜々』

「あんたが作ったんかーい!」
「だって、お姉さま。学園の不思議と言えば七不思議じゃないですか。中途半端に5個とかだとインパクトに欠けるじゃないですか」
「そういう問題じゃないわよ! 他の不思議もそんなんじゃないでしょうね!?」
「あ、ダメですよ! お楽しみが減ってしまうじゃないですか!」
 ページをめくろうとした由乃さんの手から、菜々ちゃんが素早くノートを取り返す。その動きは正に電光石火。こと運動神経が絡む件では、菜々ちゃんに太刀打ちできるメンバーはここにはいない。というか、多分リリアン女学園中を探してもごく僅かだ。
「どうかご安心下さい。他の謎はちゃんとした謎ですから」
 言いながら菜々ちゃんはぐっと体育着の襟元を引き、そこにノートをしまいこむ。
「卑怯よ、菜々! そんなところに隠すなんて!」
「ふふふ、無理に取ろうとしたら黄薔薇姉妹は怪しい関係という噂が立つこと必至ですよ、お姉さま」
 ほれほれ、と襟元を引っ張る菜々ちゃんに、由乃さんが悔しそうに歯噛みしている。そんなの気にせず手を突っ込んで取れば良いのに、と呟いた祐巳に、乃梨子ちゃんが「祐巳さまと瞳子くらいです、平然とそんなことできるのは」と返してきた。むぅ、そんなものだろうか。
「とにかく、次の七不思議です。これもまぁ、定番と言えば定番ですけど、リリアンらしいと言えばリリアンらしい七不思議ですね」
 菜々ちゃんが気を取り直すように説明を始め、とりあえず由乃さんも一旦姉妹喧嘩(というかじゃれあい?)の矛を収める。
「舞台は2階、2年生の教室があるところです。時刻は日が翳り始めた夕刻――少し早いかもしれませんが」
 菜々ちゃんが窓の外を見て頷き、階段を下り始める。詳しい内容は現地に着いてから、ということだろう。
 仕方なく後を追う祐巳たちだが、道中でこっそりと真美さんが耳打ちしてきた。
「祐巳さん、どうしよう……私、今凄く後悔しているんだけど。もう帰りたいわ……恐怖とは関係ない理由で」
「うん、大丈夫。私も同じ気持ちだから」
 でもきっと、ここで抜けると言えば菜々ちゃんと由乃さんが怒る。怒るだけならともかく、絶対後でしっぺ返しが待っている。だからここは、菜々ちゃんに付き合うのがベストなのだ。
 夕暮れの2階廊下は、真っ赤に染まる。ちょうど西日が反対側の窓から差し込むためだ。ただ今は、まだ日が高いのでそれほど赤く染まってはいない。
「うーん、真っ赤に染まった廊下の方が、雰囲気は出るんですけど」
 残念そうに言う菜々ちゃんは、仕方ありませんねと首を振る。
「第2の不思議――リリアン女学園に現れる、真っ赤に染まった廊下を歩く大きな影……」
 じっと廊下の先を見詰める菜々ちゃんの真剣な雰囲気に、祐巳たちも廊下の先を見た。
 ゆっくりと、窓から差し込む光には赤みが滲み出している。もう1時間もすれば、廊下は真っ赤に染まるだろう。去年、何度か見たその光景を、祐巳は綺麗だと思っていたけれど――今それを思い出すと、ちょっとだけ背筋が冷たくなった。怖いくらいに真っ赤に染まった廊下……そう、血のように、真っ赤に染まった廊下だ。
「その影は信じられないくらいに大きな影だそうです。真っ赤な廊下に真っ直ぐ伸びる、黒い影。私たち一年生は、こう呼んで恐れています」
 菜々ちゃんがくるりとこちらを向いて、その名を――第2の不思議の名を告げた。

「トイレのカナコさま、と」

 うん、そりゃデカイよね、と一同が頷いた。



『第2の不思議、トイレのカナコさんは優しいイイ子です。バスケ部のエース候補です。恐れずに応援してあげましょう』
 真美さんの取材メモには投げやりな筆跡で、そんな一文が書き込まれた。その向こうでは、菜々ちゃんが廊下に正座して、由乃さんにこってり怒られている。自業自得だと思う。
「た、確かに可南子さん、向こう側の階段使ってますから……窓の前を通れば、影は長くなりますよね……くっぷぷぷ……」
 いつもは冷静な乃梨子ちゃんが、余程「トイレのカナコさま」がツボに入ったのか、涙を流しながら必死に笑いを堪えている。堪えられてないけど。
 それにしても可南子ちゃん……自分がトイレのカナコさまと呼ばれ、リリアン女学園の七不思議に組み込まれてるって知ったら、さすがにショックなんじゃなかろうか。
「ですから、これは私が言い出したわけではないんですってば。実際に目撃した子がいるんです」
「じゃあ、なんで可南子ちゃんの名前が出てるのよ? 1年生ではそれほど知られてないでしょ、可南子ちゃんは」
「あ、それは私が『それって可南子さまじゃないですか?』と言ったからですけども」
「やっぱあんたが原因じゃないの!」
「ですけど、原型は既にあったわけで――」
 そんな不毛な会話を続ける黄薔薇姉妹や、お腹と口を押さえて震えている乃梨子ちゃん、そして呆れ返っている祐巳と真美さんをきょろきょろと見回していた志摩子さんは、「でも……やっぱり不思議だわ」と呟いている。
「志摩子さん、どうかしたの?」
「ええ。どうしても不思議なことがあって」
 祐巳が問いかけると、志摩子さんは首を捻りながら言った。
「なんで、廊下なのにトイレなのかしら?」
「……うん、そうだよね。どうでも良いことだけど」
 着眼点がずれている志摩子さんの疑問に、祐巳が疲労度を濃くしていると、菜々ちゃんが志摩子さんの疑問に答えてくれた。
「あ、それはですね、語呂がイイので私が命名しました」
「菜々―――――――っ!」
 この日、2度目の由乃さんの絶叫が、2階の廊下に鳴り響いた。


 残る不思議はあと5つ。
 なんかもう、祐巳はとっとと瞳子と仲良く帰りたかった。



>第3の不思議に続く



※ホラー風味のSSに触発され、便乗して書いています。
※投票の「感動だ」を「怖かった」に……変えないで良いです……。
※いずれ、きっと、ホラーな展開になるに違いないかもしれません。
※ちなみに意外と七不思議を扱ったSSが多い……ネタが被ってもご愛嬌ということでひとつ。


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