【2814】 時を越えて再び  (まめとりもち 2009-01-10 00:00:34)


※注 当作品は、若干「ハローグッバイ」のネタを含んでおります。
   未読みの方は、ネタバレにご注意ください。


-------- 以下、本文 --------------------------

 私、島津由乃にとって特別な日となったその日…。
 お姉さまである令ちゃんが、卒業したその日…。
 菜々と姉妹となったその日…。
 春の穏やかな日差しの中、山百合会のメンバー達に祝福され、これから始まる楽しい学園生活を予感させるものであった。

 なのに……………。



「なんで、こうなるのよーーーーーー!!」
「いきなり大声出して…。体に負担が掛かるからやめなさい。それでなくても学園祭の準備で無理しているんだから…」
 翌日、私は昨日卒業した筈の令ちゃんと一緒に学校へ登校していた。



 そう…。
 翌日、目が覚めると何故か1年生の時の学園祭直前時期まで時間が戻っていた。
 久々に味わう心臓の手術前の重い体で、これは本当の事だと思い知った。
 もしかすると私が経験した未来の出来事は、昨日見た夢の中の出来事だったのだろうか?

 否!
 断じて認められない!!

 おんぶだっこされる関係を打破すべく令ちゃんにロザリオを付き返した事も
 なけなしの勇気を振り絞って心臓の手術した事も
 祐巳さん、志摩子さんと共に過したあの時間も全て夢でしたなんて、誰が認められるだろうか?
 それに菜々と姉妹になるのに、また1年半待たねばならないなんて…。
 今日から本来訪れるであろう日々に、期待に胸を膨らませていただけにガッカリ度も甚大であった。

 マリア様…、私、何か悪いことしましたか?
 菜々と姉妹になったのに浮かれて、お祈りしないで帰った事に怒っているのですか?
 こんな仕打ちあんまりです……。

「由乃ぉー。きつく注意した事、怒っているの?」
 私が難しい顔をしている為か?令ちゃんが何か勘違いしているし。
 思えばこんなヘタレた令ちゃん見るのも久々か。
 この頃の令ちゃんは、黄薔薇革命前の輪をかけてヘタレた令ちゃんだ。
 改めて見ると………。やっぱイライラするわ。
 早く黄薔薇革命を起こそうかしら? ああ、でも今起こしたら学園祭が滅茶苦茶になりそうね…。

 …………ん? まてよ…。 そうよ!、そうだわ!!
 先の出来事を知ってるというのは、大きなアドバンテージなのよ。どうして気づかなかったのかしら?


 そう、後ろ向きなのは島津由乃らしくない。
 これはマリア様がくれた大いなるチャンスなのよ!

 以前の経験を生かせば
  あの失敗も(バレンタインにもっとまともなチョコをry)
  あの失敗も(体育祭のクラスの種目決めで挑発に乗ってry)
  あの失敗も(江利子様に挑発されて妹紹介ry)
  あの失敗も(薔薇さま選挙のスピーチで調子に乗ってry)
  あの失敗も(卒業式の送辞で蜂に驚きry)
  あの失敗も(菜々にもっと美しく姉妹の申し込ry)

 そう、ぜーーーーんぶまとめて挽回できる。
 うまくやって今度こそ前回の失敗を取り返すのよ!
 よし、前途は明るいぞ!!

「がんばるぞーーーーーー!!(くらっ)あれ?」
 急に眩暈がして体の力が抜ける。ああっそうだった…。この体は手術前だったわね。

「由乃!しっかりして由乃!!!」
 薄れ行く意識の中、私は思った。なるべく早く手術受けよう…。


 やっぱり、前途は多難かもしれない………………。




■■置かれた情況を有効に利用すべく決意をしたものの…■■


 まあ意気込んではみたんだけどね。
 あれからよーく考えた。そして私は悟ってしまったのだ…。
 
 こ の 時 点 で 私 に 出 来 る こ と な ど 何 も 無 か っ た わ。

 今は後に親友となる祐巳さんが、山百合会のメンバーになるかならないかの大切な時である。
 紆余曲折はあったが、前回の結果は愛すべき親友にとって、最善のものであったと言っても過言ではない。
 私の余計な行動が、めぐりめぐって2人を破局させるなんて結果も有り得る訳で…。そんな事にでもなったりしたら、私は祐巳さんの前で腹を割っ捌いて詫びねばならないだろう…。
 まあ幸いな事に、このポンコツな体の方が言うことを聞かないから、余計な行動をする余裕が無いのが救いね。
 本当は、今の時点からもっと親しくなりたいんだけどなあ……………。
 ストレス溜「こら!由乃ちゃん、今は仕事中でしょ? 集中しなさい!」まるわ…。
 ああマズイ、書類作業にちょっと退屈気味な凸に目を付けられたようだ。考え事に夢中になって油断したわ。
 この頃は心臓のことも有り、それほどしつこくは無かったが、良い玩具にされていたんだよね。
 令ちゃんがここに不在なのを良いことに、令ちゃんダシにしてネチネチと仕掛けてきたか…。
 思えばこれに、何度煮え湯を飲まされたことであろうか?平常心、平常心…。挑発に乗ればそれこそ凸の思う壺だ!
 フッ…。残念だったわね。ここに居る由乃は、嘗てのやられてばかり居た由乃ではない!
 そう、ここに居る由乃は選挙を勝ち抜いた未来の薔薇さまVerのオトナな由乃なのだから!!
 
 その現場に居合わせた志摩子は、「どこかでゴングの鳴るような音が聞こえたと」後に語った。
 

 余談ではあるが由乃は今後、この場のやり取りが大層お気に召したらしい江利子から、前回以上の猛攻を受ける羽目になるのだが、それはまた別の話…………。




■■そして学園祭の時は来て■■

「全ては親友のために…」をキャッチコピーに、色々とコラえた結果だろうか…。(※言う程堪えてません)
 大まかな出来事は、前回同様に進み、学園祭の当日を迎えることが出来た。
 当然の事ながら全てが同じだった訳ではない。由乃はちょっと早めに体調を崩してしまった。

 前回は学園祭が終わった後だったけど… なにも学園祭当日の最中に崩れることないじゃない?。
 調子にのってはしゃぎ過ぎたかな? それとも凸との戦いに力を使い過ぎたのかな? 
 そういえば、今回の江利子さまはやけに絡んできたわね。大人しくしておけば良かったかな?

 脆弱な体に長年お付き合いしていたものの、時折私の感覚はつい手術後のつもりで動いてしまう。
 そして、そのツケは確実に由乃の体を襲うのであった。


 周りが楽しそうに過ごしている学園の廊下の片隅で、私は独り体調の悪化に耐えていた。
 折角のお祭りなのに、これはもうじき限界かなあ…。まあ祐巳さんと祥子さまが以前通りにうまく行きそうなので私としては喜ばしいことである。
 ここで下手に心配させて感動の場面に水を挿したりしたら……間違いなく馬に蹴られるわね…。
 柄じゃあないけど、令ちゃんが迎えにくるまで大人しくしてるか…。
 

 しかし思っていた以上に体調の悪化は速く、由乃は焦り出すことになる。
 
 もう肝心な時に来てくれないなんて、令ちゃん減点50点ね。あーマズイ…。
 ちょっともう立て「顔色悪いですけど大丈夫ですか?」なくなりそう…。
 そんな私は、ふと通りすがりの子に声を掛けられ驚愕することになる。
 
 ……え? 嘘!!
 そこには、心配そうな表情をした、嘗てずっと先の未来で私の妹となった有馬菜々が居た。
 
 
 ドク、ドク、ドク…
 そんな心臓の鼓動が自覚できる。辛うじて取り乱す事は無かったが、心中はもうイッパイイッパイである。
 マズイマズイマズイマズイ………………。
 こんな事は前回起こってない。私達の出会いは来年の剣道の対抗戦の会場であった。もっと慎重に行動するべきだったかな?
 私は未来を大きく変えてしまったようである。もうこの子のことを妹にすることは出来なくなったかもしれない。
「心配してくれてありがとう。いつもの事なの大丈夫よ。少しして落ち着いたら保健室に行くから」
 内心の動揺を抑えて、せめてこの子の前では情け無い姿を晒すまいと精一杯の虚勢を張る。
「無理しない方が宜しいですよ。保健室にお連れしましますので、私に掴まって下さい」
 そんな私に、菜々は手を差し出して微笑んだ。

 ………結局、私は菜々支えられながら保健室に行くことになった。
 下級生に支えられて連行される「黄薔薇の蕾の妹」は大変良く目立った。そりゃもう、まともな状態で無い今の私が周から来る視線に気付く位に…。噂を聞きつけた令ちゃんが保健室に駆け込む姿が目に浮かぶ。
 うーん、学祭明けのリリアンかわら版の裏面のネタにされるかもしれないなあ。(どうせ表は赤薔薇の蕾姉妹ネタだろうし)
 保健室に着くと堪えていた脱力感が一気に襲ってきて私は立てなくなった。



「お加減は如何ですか?」
 ベッドに横になった私を心配そうに見つめる菜々。養護の先生はお姉さまである令ちゃんに連絡に行っているので、今は二人っきりである。
「大丈夫と言いたいけれど、やっぱちょっと辛いかな…。」
 もう付き添う必要も無いのに…。菜々はまだ律儀にも私に付き合ってくれた。そんな彼女を前につい本音が漏れてしまったのは仕方のないことだと思いたい。(というか、もう虚勢を張る余裕すらありませ〜ん)

「そうですか。本当にお体が弱かったんですね…」
 さも以外そうに言うな! 不本意だけど、この当時は猫を何重にも被っていて理想の妹像として見られていたんだぞ。
「………………」
 私が無言で不機嫌ですオーラを出し始めるも、何処吹く風な所は、この子の好きな所でもあり嫌な所でもある。
 この頃からこうだったのか。ちょっと幼い菜々を知ることできたのは嬉しいのだが…。
「中等部の方の噂で今の黄薔薇の蕾の妹である由乃さまはお体が弱く、病弱な薄幸の美少女を絵にしたようだと聞きましたので…」
 この子の前ではカッコイイ姿で有りたいのに。もう既に台無しのようだ。 誰だ!そんな噂を流した奴は!!
 まあそんな碌でもない噂が蔓延しているのは薄々知っていたけどね…。言ってた奴は手術後にシメる…じゃない「お話」をする必要があるようね…。そんな事を考えたとき、私は何か妙な違和感の様なものを感じた。


 …ん? なんだろう?なにか引っ掛かるのよね…。
 そう、菜々の様子が何か昔とは違う様な気がする。私は違和感の正体を探すべく前回の出会いを思い返し、ある事実に気が付いた。

「な ん で あ な た が こ の 時 期 に 私 の こ と を 知 っ て い る の よ!?」

 そうよ! 会ってから暫くの間、菜々は私を「支倉令の妹」と呼んでいた。私の名前なんて記憶すらして居なかった筈なのに…。あ〜〜〜、なんか思い出したらムカついてきたわ。
「山百合会のメンバーは中等部でも有名人ですから、黄薔薇の蕾の妹の名前くらい存じていても不思議ではないのでは?」
 思わず口にしてしまった言葉に、しれっと答える菜々。そんな澄ました態度がどことなくワザとらしく見える。
 そして疑念は次第にある確信へと辿り着いた。即ち『菜々も戻ってきているのでは?』である。ならば問い詰めるのみ!!
「そうね。普通の生徒ならそうかもしれない。でもね菜々…。貴方はこの時期に私のことなんて知らなかったはずよ!」
 さあ白状しなさい!!

「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
 あれ?なんでそこで黙るの? もしかして早合点した?!!
 
 マズーーーーーーーーーイ!!!
 
 現在の菜々が、今回は偶々私の事を事前に知っていた場合、私は単なる頭のオカシイ人に見られてしまう。
 ……そんな怪しい人の妹に? 私だったらならないわ。『やっぱ今のなしー!』は今更出来ないよねえ…。

 どれだけ時間が経ったのか? いや多分そんなに時間は経っていなかったかもしれない。
 やがて菜々は、先ほどと同じように澄ました顔で決定的言葉を言った。
「名乗ってもいない私の名前をよくご存知ですね? お 姉 さ ま …」
 コノヤロウ…。やっぱり確信犯か!!
 私は起き上がって姉に対する礼儀を教育しようとするも、如何せん体が言うこときいてくれない。
 無理矢理起きようとして崩れ落ち、菜々にもたれ掛かる姿勢になってしまった。
 ああ!今心臓の手術後であるならば、この無礼な妹を手討ちにしてくれるのに…。
「少し悪ふざけが過ぎたようですね。興奮させてしまって申し訳ありませんでした」
 崩れる私を抱きとめる形をなった菜々は、さすがに済まなそう表情になっていた。
 
 事情を聞くと菜々は10日程前の時間に戻っていたらしい。(ほぼ私と同じ時期のようだ)当初は、かなり慌てたものの自力でどうにか出来るようなレベルの話で無いので、普通に生活していたそうだ。そして他にも同じ境遇の人が居ないかコッソリと探っていたと言う。
 菜々の周りの人で同じ境遇の人は居ないそうだ。本当は高等部の方も調べたかったようだが、未来が大きく変わることを懸念して控えていたと言う。
「しかし…よく私に話し掛ける気になったわね?」
「本当はするつもり無かったですよ。でも随分長い時間、由乃さまが苦しそうな表情をして居ましたので…」
 あ〜〜〜〜、ずっと見られていたのか。一体、何時から私を見てたのよ? 
 というか気付けよ私…。何時の間にかストーキングされてるし。
「先ほど…、先ほど声を掛けた時、由乃さまは私を見てとても驚いた顔をされていました。それは全く知らない人に声を掛けられた驚き方とは違う質のものが感じられました」
 ああ、思いっきり顔に出てたかもしれないわね! 祐巳さんの性でも移ったかしら?
「それで由乃さまも私と同じ情況ではないか?と考えました。いえ確信しましたと言うべきでしょうか」
 確信したなら直ぐ言って欲しかったわ。余計な緊張することになったじゃない!
「由乃さまが一緒に来ている… そう確信した時、私は嬉しくもあり、少し…いえ凄く腹立たしく感じましので」
 マテ!!なんで腹立たしいという事態になるのですか?菜々さんや!?
「私は独り寂しく日々を送っている間、由乃さまは私を放って置いて、令さまと毎日イチャイチャと…」
 ちょっと待ったーーー!! 冤罪!冤罪よ!! 私が何時そんな事してた?
「では、一昨日の夕方。由乃さまは支倉令さまに「すみません、私が悪かったわ!」」
 ああ、ちょっと気分が悪くなって、支えられながら帰宅したのを見られていたのか。
「ですから少しだけ意地悪をしてみました。申し訳ありません」
 ああ、なんか可愛い…。妹ってこうなのね!! ちょっとだけ、うちの姉と祥子さまの気持ちが分かった気がする。


「あ、そうだ菜々。ハイこれ」
 少しして落ち着いた後、私は自分の首の掛かっているロザリオを外し菜々に差し出した。
「宜しいのですか?私はまだ中等部ですよ?」
 それこそ今更だ。前回だって菜々は中等部であったではないか。
「いいのよ。私はあなた以外の子を妹にするつもりは無いわ!何れどうせ渡すんだから、今渡しても変わらないでしょ?」
「ありがとうございます。お姉さま」
 菜々は私からロザリオを受け取ると、先日と同じ様に愛しそうに触れていた。
 ああマリアさま、やっぱりお持ち帰りしていいですか? 思わず抱きしめてしまったけど問題無いですよね?



「由乃のおおおおおおお!」
 突然、保健室の扉が開かれて令ちゃんが駆け込んで来た。(ちょっと空気読んでよ…)
 というか菜々の奴、凄い反応で私から離れたな…。伊達に剣道やってるわけで無いということか。
 さすがに直前の格好(抱き合ってる)を令ちゃんに見られると、説明が面倒だからGJ!!なんだけどね。
 宥めすかして事情を説明すると、ようやく落ち着いたのか菜々にお礼を言ってる。
 菜々のあの表情は…。
 あ〜、うん! 完全に戸惑ってるな。 自分の知ってる嘗ての令ちゃん姿とのギャップに脳の処理がフリーズしたようだ。
 信じられないかもしれないけど、これが黄薔薇革命前の令ちゃんなのよ………。
「迎えの方が来られたようなので、私はこれで失礼します。ごきげんよう…」
 なんか足取りが微妙だった気もするけど…。まあ、あの子ことだから、落ち着いたら面白いものを見つけたとばかりに後でちょっかい出してくるかもしれないわね。
 そして私達も帰宅の途に付く。荷物は既に令ちゃんが準備してくれていた。
 まだファイヤーストームは始まっていない。まだ星は見えないが、空にはうっすらと月が見えた。

 月とマリア様だけが見ていた空の下……………。
 かつての親友が、そう表した空間(とき)は、間も無く訪れるようだ…。
 同じ日、私も大切な存在を再び得ることが出来た。


 帰り道…………。マリア像にお祈りをする。
  菜々に再び巡り合わせてくれたお礼を…。
  そして、やがてマリア様の目の前に現れるであろう、祥子さまと祐巳さんが上手く行きますようにとお願いを…。

 大きな懸念事項は1つ減った。
 次は…。そう、私の心臓の手術だ。
 前回は、たしかに成功したが、今回も成功するとは限らない。
 正直言えば凄く怖い。でもこれは避けては通れぬ戦なのだ。大丈夫。きっとここでも上手くやっていける。
 私には待っている卵(まだ雛にもなってもの)が居るのだ。
 そして目の前の姉には気の毒であるが、一度、姉妹を解消しなければならない。
 ごめんね令ちゃん…。すごく、すごーく落ち込ませることをもうじきするけど、がんばって乗り越えてね。
 そして、また仲の良い姉妹になろうね…。












 あ、ロザリオ菜々に渡しちゃったんだ!!
 どうしよう…………………。(汗)


Fin


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