【2846】 撲殺剣士由乃ちゃん  (パレスチナ自治区 2009-02-21 18:27:26)


ごきげんよう。【No:2836】の続きです。
オリキャラメインですので初めての方は【No:2831】、【No:2833】を先に読んでいただけると2割増くらいお楽しみいただけると思います。
少し百合っぽい表現が出てきますのでご注意ください。
視点が途中で変わります。咲→出雲→咲→出雲→咲です。読みにくくてごめんなさい。


それは去年の桜舞う4月。
無事入学式を終え、ホームルームも終わり、新たな学友たちとこれから始まる楽しい学園生活に思いを馳せていたときの事でした。
真新しい鞄を手に取り教室を出ようとした時、上級生の方が教室に入ってきました。
どなたかに用事なのか、その方はきょろきょろと部屋の中を見渡しています。
見覚えのない方だったので私には関係無いだろうと教室を出ようとしました。
どなたかを探していた彼女は相手が見つかったらしく嬉しそうに微笑みます。とても綺麗なその顔は同じ女の子でも惚れてしまうほど魅力的でした。
微笑まれた相手の方が羨ましくなってしまうほどに……
少し呆けていると彼女は私のいる方に歩いてきます。
ハッとして周りを見ても誰もいません。そんな私を見てさらに微笑む彼女。
そして私の前まで来て何かを取り出します。周りが黄色い声に包まれています。
この方はどうやらリリアンにおいては有名人らしいです。外部から来た私にはわからなかったですが……
みなさん彼女の一挙手一投足を見守っています。もちろん私もですが。
取り出した何かを私に差し出して口を開きました。
「ごきげんよう、吉田咲さん。いきなりで悪いけどこのロザリオを受け取ってほしいの」
一瞬何を言われているのか理解できませんでした。それになぜか私の名前を知っています。面識は無い筈なんですけど。
「どうしたの?」
「あのう…私その……先輩と面識ありましたでしょうか?たぶん無いと思うのですが」
「ああごめんね、私入学式に参列していたの。その時に貴女の名前を覚えたの。だから私たちはまるっきり初対面よ」
「そうでしたか……それで先輩のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「あ!そうね、自己紹介してなかったわ。私2年の菜々、有馬菜々。黄薔薇様をしているの」
「有馬先輩ですね」
「ちょっと違う。『菜々様』よ。この学校では相手を呼ぶ時は下の名前で呼ぶの」
「はあ、わかりました。それで菜々様、ロザリオを受け取れというのは……」
「貴女から本題に戻してくれるなんて嬉しいわ。このロザリオを受け取って私の妹になってほしい」
『妹』。私には確かに兄弟が3人いるけど…
「妹になるというのはどういう意味ですか?」
「貴女外部受験で入って来たのね。なら理解してなくてもしょうがないね」
「はい……」
「リリアンの高等部には『姉妹制度』っていうのがあって、ロザリオを渡して誓い合って姉が妹を指導するの」
確かに私には至らないところがたくさんありますけど……
「この関係はねお互いの同意なくしては成立しないの」
「それって婚姻みたいなものですね」
「そうね一対一っていうのもそうだし、お互いが好き合ってなくちゃ」
「え?!でも私たち面識ないですよね?どうして…どうして私を妹にしようと思ったのですか?」
「貴女を妹にしたい理由?一目惚れ!一目惚れしたの、だから私の妹になってください」
一目惚れ?!15年生きてきて一度も言われた事の無い言葉。
私はおとなしい性格で外見も地味で人から注目を浴びずにこれまで生きてきたのに…
一目惚れなんて……それもこんな美人の先輩に……もったいないお言葉。
「あ、あの…」
「なぜか貴女が光り輝いて見えたの!貴女には絶対なにかあると確信したの!だから私の妹になって!それにもう貴女しか妹にしたくない!!」
菜々様がたたみ掛けてきます。それも真剣な瞳で……
周りの声も一層大きくなってそれに比例するように私への視線も多くなっていきます。
「お願い!!!」
ああ……菜々様……頭を下げないでください。そんな瞳で私を見ないでください。
熱烈な告白を受け、さらにとどめを刺された私は……
「……その…お受け……します……」
ロザリオを受け取る以外選択肢がありませんでした。こんなだから押しに弱いと言われるんですね…
「ほんとに?!」
「はい……」
「やったー!!嬉しい…」
菜々様の目じりにはうっすらと涙が光っていました。
「よかった…一世一代の告白だったから……」
「そうですか…菜々様」
「あ!咲ちゃん、もう貴女は私の妹なんだから呼び捨てで呼ばせてもらうから。それと私の事はお姉さまって呼ぶのよ、いい?」
「はい、お…おねえ…さま」
なんだか凄く恥ずかしいです…
「咲!顔赤くして…なんて可愛いの!!そんな咲には私の妹になった特典としてキスしてあげちゃいます!」
えっ!キス?!どこに?ほっぺですよね?そんなことを考えているときに…

チュッww

「!!!!!」
私の唇に柔らかいものがって、唇?!
「菜々様!なんで口にするんですか!?」
「お姉さまって呼べっていったでしょ」
「ですから!」
「姉妹なんだしいいじゃない。もしかして咲ってば初めてだった?ラッキーww」
「うう……」

こうして私は菜々様の妹になりました。その年に誕生した『姉妹』では一番早かったそうです。
数日後、菜々様のお姉さまに会いに行きました。初めての菜々様とのお出かけだったので嬉しかったです。前日は眠れなかったのを憶えています。
由乃様とのおしゃべりも楽しかったのですが、菜々様が私を妹にした時の話をした時、由乃様から笑顔が消えました。というよりは笑顔なんですが目が笑ってないという感じでした。
そして帰り際に
「これから外にいるときは後ろに気を付けた方が身のためかもしれないわよ?」
と言われました。目の笑ってない笑顔で…
いろんな意味で怖かったです。

それからの一年間由乃様に襲われるかもしれないという不安以外、平和に時間が流れていきました。
妹になってからしばらくの間は『なぜあんな地味な子が黄薔薇の蕾に?』なんて話題が尽きなかったようですが、いつの間にかみなさんに認めてもらえ『嫁薔薇』と呼ばれるまでになりました。小夜子さん、美華柚さんという親友にも恵まれ充実した学園生活になりました。
ただ、菜々様にとっては、面白いもの好きのお姉さまにとっては少し、いや、だいぶ退屈な一年だったようです。
話題に上がるのは自分の妹ばかり……しかも『嫁にしたい一年生』に私が選ばれた時にはかなりイライラされていたようです。
お姉さまは嫉妬しているらしく私としては嬉しかったですけど…

だからこそ今のお姉さまが嬉々として『出雲ちゃん』の話をするのは必然だと思うのです。
『出雲ちゃん』は今や時の人…彗星のごとく現れ学園中の話題を独占しているのですからお姉さまが食いつくのも無理ありません。

今日は土曜日で授業も無く、山百合会の幹部たちはのんびりと仕事をしています。
だからこそというよりは見えないもの、遠くにいる人の気配には気付かないわけで…
鬼人がリリアンに近付いてくるのには気付いてはいませんでした。

「おのれ四季潟出雲!!覚悟して待っていろ!!」



今日は土曜日、授業が無い日なので学校に来る必要は無いのだけれど、級友のキセルさんにお願いされて登校している。
いつもの癖でマリア様にお祈りをしているとシャッターを切る音が…その方向に振り向くとカメラを構えたキセルさんが立っていた。
「ごきげんようキセルさん」
「ごきげんよう」
「いきなり写真を撮られてびっくりしました」
「すみません。お祈りする出雲さん…魅力的だったものですからつい…」
そう言って申し訳なさそうに俯くキセルさん。なんか可愛い…
「ふふ、今日はそのために来たのですから別にいいですよ」
「そうですか、でも今日は無理言ってごめんなさい」
今日は写真を撮る練習をしたいというキセルさんの手伝いで学校に来た。
真剣にお願いしてくる彼女に断るのが嫌だったので快諾したのだ。
「協力するといったのは私ですから気にしないでください」
「ありがとう出雲さん、では早速もう一度マリア様に向かってお祈りしてください」
「はい、わかりました」
意識の向こうでシャッターを切る音がする。キセルさんの真剣な表情が見なくてもわかるような気がする。この緊張感が心地いいと思う。
何枚か撮られている内にキセルさん以外の視線を感じて周りを見てみると、数人の生徒に囲まれていた。
「あの、どうなさいました?お邪魔になっているのでしたらどきますけど」
キセルさんは撮影を止め周りの生徒たちに話しかける。
しばらくの沈黙の後、そのうちの一人が啖呵を切ったように言った。
「そのお写真、ください!」
「は?」
俺は間抜けな声を出す。
「その声も可愛らしいww、私出雲さんの事好きなんです!だから写真が欲しいんです!!」
その台詞を皮切りにみんな写真が欲しいと言い出す。
「わかりました。月曜日には仕上がりますので1年椿組の黒条キセルのところまで来てください」
生徒たちは歓声を上げて了解したようだ。みんな口ぐちに楽しみだと言いながら散らばっていく。
しかし、『私出雲さんの事好きなんです!』なんて恥ずかしすぎる。
「それでは出雲さん次に行きましょう」
「はい…」
「それにしても出雲さん、モテモテで妬けちゃいますねwふふww」
うう…キセルさん意地悪だ……

その後は教室で机に座っている写真、窓に息を吹きかけている写真、水道で水を飲んでいる写真なんかを撮った。
凄く恥ずかしくて水着を着て大胆なポーズをして写真を撮られるグラビアアイドルの人たちを尊敬してしまった。
極めつけは『図書室で高いところにある本を取ろうと背伸びしている』写真の時。
凄く美人な委員さんに注意された。
穴を掘って埋まってしまいたかった。

撮影が終わり現像するために写真部部室に行ったキセルさんと別れ、校内を散歩してみようと外へ出ると、殺気を隠そうともしない人が仁王立ちしていた。
怖いのでとりあえず挨拶して通り過ぎようとしたが声をかけられた。

「あんたが四季潟出雲ね」
名前を言い当てられたことに冷や汗を掻いたが素直に頷くと危ない気がした。
「い、いいえ。ひ、人違いだと思うのですが…」
「ふん、なんでどもるのよ。まあ嘘ついても無駄よ、写真持ってるんだから」
そう言って写真を突き出してくる。そしてそれには紛れもなく俺が写っている。
「……それで私に何の用でしょうか?」
恐る恐る聞いてみる。
「何の用ですって?!あんたが一番心当たりあるんじゃない?!」
心当たりなんてない。
「いいえ何の事かさっぱり……」
「はん!しらばっくれて、あんた私の妹たぶらかしといてよく言うわね!!!」
「ええ?!」
「まだしらばっくれる気?!!有馬菜々よ!」
有馬菜々…これまでに何度か彼女に薔薇の館に呼び出されているけどそんなことした憶えはない。
「まあいいわ、令ちゃん奴にあれ渡して」
「よしの〜やっぱりやめようよ……彼女目を白黒させてるし勘違いだよ……」
「令ちゃん?」
「うう…わかったよ……ごめんね出雲ちゃん、私じゃ由乃は止められないの…」
そう言って令様に何かずっしりしたものを渡される。よかった引導じゃなくて……
「さあ、四季潟出雲。それを抜いて私と勝負しなさい!!菜々を懸けてね!!!」
「ええ?!」
「うるさい問答無用!!!」
抜くってことはこの妙に重いものは……日本刀?!引導より厄介だ!
「ほら!早く抜けい!!!」
由乃様の迫力に押されて剣を抜く。鞘はどうすればいいのかわからないので地面に置いた。
「ははは!!鞘を捨てたか、鞘を捨てたか佐々木小次郎!!!」
「あの……私四季潟出雲ですけど…」
「あんた巌流島を知らないの?!もっと勉強しろ!!!」
「巌流島くらい知ってますけど……確か宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘してそれで…」
それで……確か小次郎は…小次郎は……!
まずい!殺される!!!逃げなきゃ!!!!
「あ!逃げるな!!!」

ガキン!!ガキン!!ガキン!!!

刃と刃がぶつかり合い火花が散る。俺はどんどん押されている。
「ふん!!あんたこの私についてくるなんてなかなかどうして!!!おもしろいじゃない!!!」
「……!!!」
必死になると人は信じられない力を出せるというけど、今正にそれを実感していた。
でも、初めて日本刀を握った俺はすでに限界だった。
その時、由乃様はいきなり俺と距離をとった。

「まあがんばったわね。でももう限界でしょ。そろそろ終わりにしてあげる」
不敵に笑う由乃様は剣を月を描くように回して……ってもしかして円月殺法?
やだ!!死んじゃう!!!

「だりゃーーー!!!」

ガキーン!!

俺が持っていた剣が宙を舞いどこかへ飛んで行った。
「ひいい……」
腰を抜かしながらも地を這いながら逃げようとしたが、

ザクン

俺の目の前に落ちてきた剣が地面に突き刺さった。
「ふふふ……もう終わりね……」



出雲が由乃に襲われているころの薔薇の館
お姉さまの出雲ちゃん話を聞いていると小夜子さんが真っ青になってみんなに話しかけます。
「出雲ちゃんが大変よ!」
「「「ええ?!」」」
部活でいない美華柚さん以外の私を含めた全員がそちらを向きます。
「由乃様に殺されそうになってるの!」
「殺されるって…」
「刀持って出雲ちゃんを追いかけてるの!」
「お姉さま何やってるのよ…」
「お姉さま、止めに行かないと」
「わかってるわ。咲!早く行くわよ!!」
「はい!」
山百合会メンバーは急いで薔薇の館を後にしました。

お姉さまに聞いた話だと由乃様は手術した後剣道を始めたが、最初は竹刀を振るのもままならなかったそうです。
しかし、負けん気が強く、並はずれた根性と精神力で必死に自分を鍛え上げいつの間にか令様より強くなってしまいました。
それだけでは満足せず、居合の達人に弟子入りしてそれすらも会得してしまいました。
本来なら彼女を止めるはずの令様は今では頭が上がらなくなってしまいこのような状況になってしまったのです。

スカートが乱れるのも構わず現場に走ります。
今正に由乃様の剣が出雲ちゃんに振り下ろされそうになっています。

「お姉さまダメーーーーー!!!!」



あとから来た山百合会の人たちに助けられ、菜々様が誤解を解いてくれた。
「なんだ出雲ちゃんは咲の妹候補なのね?」
「えーと、そうなのかもしれません。とりあえず菜々様をたぶらかしてはいません」
「わかったわ、怖い思いをさせてごめんね?最近菜々があんたの話ばかりするからちょっと勘違いしてたのよ」
「もうお姉さまったら…私からもごめんね出雲ちゃん」
「いいえ」
ほんとは許したくなかったがまた面倒になるのは嫌だったので頷いておく。
「それにしても小夜子や美華柚の候補でもあるのか、凄いじゃない」
「ほかにも狙っている人が大勢いるみたいですよ?」
ベイユ様が付け加える。
「まああんたは山百合会に目をつけられてるの。誰の妹になるのかしらね?」
「ははは……」
乾いた笑いしか出てこない。
「誰の妹になるのかはあんた次第だけど、ふふ、いいわ。あんたの事気に入ったわ。よろしくね!!」
そう言って由乃様が手を差し出して握手を求めてくる。
おずおずとその手を取ると凄くごつごつしていて、可憐な由乃様の手とは思えなかった。
ここまで剣を振れるようになるまで相当な努力をしてきているんだなと感慨深いものがあった。
「なによ!よろしくしたくないって感じね?」
「いいえ!そんなことありません」
「まあいいけど」

かつての薔薇様には初めて会ったけど、きっとみんな一筋縄ではいかない人たちなんだろうなと直感でそう思った。

「あんた私に弟子入りしない?」
「嫌です!!!!」


そんな出雲ちゃんを見て『ああ可哀そうに、きっとこれからも変な騒動に巻き込まれるのね』と思いました。
マリア様、どうか出雲ちゃんがうっかり死んじゃわないように見守っていてください。


言い訳
無駄に長くてごめんなさい。
由乃さんはこんな人じゃないという方にもごめんなさい。
今までいろんなSSを呼んできた結果、自治区には由乃さんのこのようなイメージが出来上がったのです。
ただ自治区としては由乃さんに円月殺法を使わせることができて満足しています。


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