パラレル西遊記
【No:2860】発端編
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【これ】 三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回
私、二条乃梨子は三蔵法師として、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと天竺を目指して旅をしてるんだけど……この組み合わせはとてもつらい。
「あ、そろそろご飯の時間ね」
「まあ、もうそんな時間」
「この近くに食べるところなんかあったかな?」
「私、探してきますね」
リリアンに入った当初は「年功序列反対!」なんて叫んでいた私もすっかり馴染んで率先してお姉さま方のためにお茶をいれる生活が当たり前となり、今ではすっかりパシリ。
そう、私は本当はふんぞり返って食べ物を持ってきてもらってもいい三蔵法師なのに、危険だから3人についてきてもらっているのに、パシリ。
1人でトコトコと食べ物を探す三蔵法師。ああ、魑魅魍魎がいる世界なのに。
「ごきげんよう」
少し歩いたところにあった一軒家の前に綺麗な黒い髪の女性と会った。
「ごきげんよう。こんなところに1人でお住まいですか」
「ええ。そういうあなたは見たところ旅の法師さまといった感じですね」
「はい。私は三蔵法師と申します」
「まあ、あなたが有名な三蔵法師さまですか。私は静と申します。ところで、何故あなたのような有名な法師さまがこんなところに? 見たところお1人のようですが」
「いえ、お腹が減ったので、食べ物を売っている店か、食堂のようなところを探してまして──」
「なら、私が家で御馳走しますわ」
「あの、連れがあと3人いるんですが」
「まあ、いいから、いいから」
「いえ、そんなわけには──」
私はあっという間に静さんに捕まってしまった。
しまった、と思ったものの、相手は意外と力強く、家の中に連れ込まれ、柱に縛り付けられて絶体絶命。
(ああ、何が始まるんだ……)
静さんは大きな鍋を用意して歌を歌いながら料理を始めた。
♪マリア様のお〜ダシ それ〜は昆布
煮立つ前にあーげる それ〜が昆布
オペラのような素敵な歌声でなんという歌を……
静さんは昆布で出汁をとった。
♪マリア様のや〜さい それ〜は白菜
芯はしゃきしゃ〜き しろ〜い白菜
歌に合わせて小気味よく白菜を切ると静さんは鍋に白菜を入れる。
♪マリア様の味ーつけ それ〜は味噌味
コクと香りがいい 自慢の味噌味
更に味噌が入って……ああ、空腹なのもあるがいい香りだ。
♪マリア様のぐーざい 三蔵法師
食べると不老不死の 三蔵法師
……
静さんは包丁を持って私の前に立った。
「まさか」
静さんはにっこりと笑っている。
「私を食べるんですか!?」
「キムチ味の方がお好みかしら?」
「嫌です!」
「じゃあ、味噌味でいいのね?」
「食べられるのが嫌なんです!!」
「あら、鍋は嫌い? じゃあ、活造りにする?」
「食材として食べられるのは嫌だって言ってるじゃないですかっ!」
「あら、別の方の意味ならいいの?」
「いいわけないでしょっ!!」
いくら嫌だと言っても今の私は柱にくくりつけられた状態、向こうは包丁を持っているし、体力があるのも証明済み。味噌味で美味しくいただかれるのも時間の問題である。
「でも、ダメ。今日は三蔵法師鍋よ」
悪戯っぽく静さんは私に包丁をむけた。
今までの人生が走馬灯のようによみがえる。ああ、志摩子さんにもう一度会いたかった……
ドン!!
後ろで扉が開いたような音がした。
「あなた達は?」
静さんは包丁を突きつけたまま私の後ろを見ている。
「いいニオイがしたのでお邪魔しちゃいました」
この声は聖さま。ああ、やっぱり孫悟空なんだ。助けてくれるんだ。
「じゃあ、一緒に食べる? これ?」
静さんは私を指して尋ねる。
「いいねえ」
……はい?
「味噌味か。そこでキノコ採ってきたんだけど入れていい?」
「食べる気満々じゃないですかあっ!!」
ツッコミながら今までの人生が走馬灯のようによみがえる。ああ、志摩子さんにもう一度会いたかった……
「ちょっと、聖」
この声は江利子さま。やる時はやる沙悟浄だ。江利子さまなら救ってくれるはず。
「ネギ忘れてるわよ」
「ノリノリでネギを入れないでくださいっ!!」
「豆腐は後でいいわよね?」
「豆腐の事より三蔵法師の心配はっ!!」
ツッコミながら今までの人生が走馬灯のようによみがえる。ああ、志摩子さんにもう一度会いたかった……
その時、私の横を通って蓉子さまがキッチンに入った。
食欲の塊、猪八戒となった蓉子さまはその欲望のままに行動されているのだろう。
ああ、味噌味な最期だなんて……
私の所からは見えないが蓉子さまは何か作っているようだ。
鍋はキノコとネギが入ってますますいい香りだ。
後は私を入れれば完成だ。たぶんそうだ。今までの人生をよみがえらせる走馬灯がみたびめぐる。
「これ、よかったらどうぞ」
蓉子さまは静さんに何かを勧めた。ストローがささっているのが見える。
「ありがとうございます」
静さんはストローに口をつけるとそれを飲み始めた、と、思ったら勢いよく噴き出して転げ回った。
「ぐふぁ!!」
静さんは正体を現した。
それは静さんの姿を借りた蟹の妖怪だった。
「ふっ、自分の作った味噌汁で倒されるとは思わなかったでしょう」
「ストローで味噌汁を飲ませるなあっ!!」
蟹の妖怪は火傷をして思わず正体を現してしまったらしい。
「口のききかたには気をつけなさい。今のあなたは食材。そしてここにはメインの具材を待つ鍋が──」
♪マリア様のぐーざい それは毛蟹
カニみそがイケる それは毛蟹
蓉子さまは歌いながら蟹妖怪を鍋にぶち込んだ。
江利子さまが縄を解いてくれた。
「助かった……」
私は座り込んだ。
鍋はちょうどよく煮あがった。
お腹がすいていたのでみんなで食べた。
「美味しい!」
「妖怪なんか食べて平気なんでしょうか?」
「あら、ちゃんと火を通したから大丈夫よ。ふふ」
「うーん、こんなところで蟹鍋にありつけるとは。ははは」
「乃梨子ちゃん、早く食べないとなくなっちゃうわよ。ふふふ」
「い、いただきます……あ! 美味しい」
「これでビールがあれば最高なんだけどなー。はっはっは」
「未成年がアルコールはダメでしょう、ふっふっふ」
「なんか、楽しくなってきましたね。あはは」
「ふふふ」
「ははは」
そう、我々は蟹の妖怪との戦いで別に注意すべきところを忘れてしまったのだ。
言うまでもない、聖さまが採ってきた、あのキノコが原因であった。
数時間後、笑いながら私は人生の走馬灯のアンコール上映を行った。
こんなんで天竺にいけるのかなあ?
続く【No:2878】