【No:2867】⇒【本作】⇒【No:2872】⇒【No:2877】⇒【No:2879】
『紅薔薇VS白薔薇』
予想もしない展開になってしまった。乃梨子ちゃんを転がすつもりが、お姉さまと志摩子さんのバトルに発展。ありえないよ。
「志摩子、そもそも祐巳を侮辱したのは乃梨子ちゃんでしょ。乃梨子ちゃんは何を言われても仕方ないわ。」
「フッ・・・祥子さま、お言葉ですが、乃梨子は言葉を滑らせはしましたが、そこまで言われるようなことはしていませんわ。」
「志摩子、フッって何?鼻で笑ったわよね。今鼻で笑ったわよね。あなた、わたくしを馬鹿にするの?」
「いえ、そんなつもりは・・・」
「前々から思っていたのだけれど、あなたわたくしの事を振ったって言ってるらしいわね。えっ何?男子中学生が『いや、俺が振ったから!振られたわけじゃないから』的な、『いや、告ったんじゃなくて、告られたから』的なあれ?」
「いえ、そんなつもり全くないです。」
「あれは容子さまに言われただけで、わたくしが妹にしたいと思ったのは、後にも先にも祐巳ただ一人よ。勘違いしないで。イライラするわ。」
止めなきゃって思うのだけど、なぜか嬉しくて動けない。
志摩子さんの冷静さにかけるしかない。
あの伝家の宝刀、“○○さんのそういうところ好き”を出して。お願い志摩子さん。
でも、志摩子さんの次の言葉は、耳を疑うような・・・
「ああ、怖い怖い祥子のヒステリー」
しーーーーーーまーーーーーーーーーこーーーーーーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
何を言ってるの?それは、『いとしき歳月』で容子さまの“遺言”を聞いて、遅れてきた私をお姉さまがお咎めなさったときに、令さまがおっしゃった伝説のセリフじゃない。
空気が凍った。確かに、乃梨子ちゃんが部屋の換気のためと言って、窓を開けているから寒いのは当然なんだけど、これは全く桁違い。
その時、聞いたこともないような音がした・・・
「ビリビリビリ!」
音のするほうを見ると、祥子さまがハンカチを破っていた。
鬼のような眼をするお姉さま。これはダメ!!
「お姉さま、落ち着いてください。今のは絶対何かの間違いです。」
「何ですって!?間違い?祐巳、あなた姉のわたしではなく、志摩子の味方をするの?」
お姉さまは激昂する。
「いえ、そんなつもりでは・・・ごめんなさい。」
火に油を注ぐ形になってしまった。
「志摩子さんも志摩子さんよ。なぜ急に令さまの真似なんてしたの?今日の志摩子さん何かおかしいよ。」
「あら、祐巳さん、今度は私を責めるの?祥子さまの方が私よりも大切なの?」
志摩子さんまで・・・もうわからないよ。。。
私はパニックに陥って・・・
「お姉さまも、志摩子さんも誤解しないで。私にとっては二人とも同じくらい大切よ。私のお姉さまは祥子さま以外考えられないし、もうお姉さまなしでは生きていけない。それくらい大切なんです。言葉では言い表せないくらいに。
それに志摩子さん、私は志摩子さんが1番の親友だと思っている。志摩子さんと由乃さんがいるから、薔薇の館にでの時間も、修学旅行もただの休み時間さえ至福の時のように思えるの。大好きだよ、志摩子さん。」
私はマシンガンのように、自分の気持ちをさらけだした。顔が真っ赤になっているのが自分でわかる。
「そ、それで祐巳は結局どちらが好きな・・・」
祥子さんの言葉が終わる前に、志摩子さんが少し興奮しているような様子で、
「信じられないわ。祐巳さんったら由乃さんとばかり仲良くしてるじゃない?確かにクラスが違うこともあるし、私には乃梨子がいるわ。でも、祐巳さんと由乃さんは、修学旅行の時、空港まで一緒に来て、部屋も一緒だった。その他にもいろいろ・・・私だって、私だってもっと祐巳さんと。。。あっ!」
志摩子さんは急にしまったという顔をして、頬を赤く染めている。
なぜか、お姉さま、瞳子、乃梨子ちゃんもハッとした顔。
「そ、それで、結局、祐巳さんはどちらを選ぶの?」
志摩子さんが、気を取り直した様子で、問い詰めてくる。今のはなんだったのだろう?
そんなことより、どうして、こんなことになってしまったの?最初は乃梨子ちゃんを困らせちゃおうぐらいのことだったのに・・・もうダメ。私はお姉さまも志摩子さんも好き。形は違うかもしれないけど、同じくらい大好きなのに。もう泣いちゃいそう・・・
その時、ビスケット扉が開いた。
「はい!カットー!!」
令さまがプラカードのようなものを持って、部屋に入ってきた。
その後ろには、由乃さんと、由乃さんの妹候補No.1の菜々ちゃんがニヤニヤした顔をして立っている。
えっ!?どういうこと?頭の中が真っ白になる。
「祐巳ちゃんごめんね。私は反対したんだけど・・・」
令さまが申し訳なさそうにウインクをしながら、プラカードを引っくり返す。そこには・・・
“菜々プレゼンツ ドッキリシリーズ第一弾 紅薔薇のつぼみを困らせて可愛い顔をみせてもらおう 大成功”
最後の方は文字が小さくなっていって、少し読みにくいが、なんとか読めた。
ドッキリ??それってテレビとかでやっている、あれ?
どういうこと?これは芝居だったってこと?
「何がなんだかわからないって顔をしてるわね?祐巳さんってば。」
由乃さんが楽しそうに聞いてくる。私ったらまた百面相を・・・
「これは正真正銘のドッキリ。全部ウソよ。」
周りを見ると、祥子さまはお腹を押さえて必死に笑いをこらえている。
志摩子さんも申し訳なさそうではあるが、目が笑っている。
瞳子は心配そうな顔をしながらも、少し怒っているように見える。私が二人を好きって言ったからかな。
乃梨子ちゃんは声を出して笑っている。
「えええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!?????」
私はようやく事態が飲み込めて、少しムカっとしたが、それ以上にホッとしたような、なにか奇妙な気持ちになった。
そこで令さまが事情を説明してくれた。
令さまの話によれば、
由乃さんは、菜々ちゃんの姉になるためにポイントを稼ごうと、菜々ちゃんを家に呼び出して何がしたいか、聞いていた。そこでいろいろ話し合った結果、菜々ちゃんがテレビで見たドッキリをしたいという話になり、由乃さんが私なら絶対に引っかかると薦めたということらしい。
そして、菜々ちゃんが企画立案、脚本は菜々ちゃんが基本的に練りつつ、薔薇の館のメンバーの性格を知っている由乃さんがセリフに修正を入れる。令さまは監督に落ち着いた。
「そうそう、演技指導はもちろん瞳子ちゃんにしてもらったんだよ。」
令さまが最後にそう付け加えた。
すると菜々ちゃんが、楽しそうな、申し訳なさそうな、複雑な表情をして、
「紅薔薇のつぼみ、本当にすみませんでした。年下で、数回しかお会いしたこともないし、しかもまだ高等部に入学してもいない私が、こんなことをするなんて失礼すぎるとは思ったんですけど。」
すると由乃さんが、いきり立って話に入ってきた。
「いいえ、菜々は悪くないわ。菜々は絶対にそれはダメだって言ったの。でも私もおもしろいと思って強引にやろうって言ったの。だから祐巳さん、菜々のこと嫌いにならないで!!私ただ・・・菜々と何かを一緒にしたくて・・・怒っている?祐巳さん。」
菜々ちゃんは隣で少し照れたような顔をしてうつむいている。この子すごくしっかりしているように見えたけど、こういうかわいい部分もあるんだ。由乃さんはそんな菜々ちゃんの顔を見て、声がだんだん小さくなっていく。菜々ちゃんのこと好きなんだね。由乃さん。
私も瞳子がいるから。私には瞳子がいるから。よくわかるよ、その気持ち。
「怒ってないよ。始め聞かされた時は、少しムカっとしたけど、なんかそういう気持ちもなくなっちゃった。それに、今考えると、お姉さまと志摩子さんに取り合いされてるみたいで幸せだったかも。エヘッ!」
最後は、自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
「祐巳さんならそう言ってくれると思ったわ!」
(立ち直り早っ!?)
由乃さんは安心して、いつもの由乃さんに戻っている。
よく考えたら、今日はおかしかった。
志摩子さんが乃梨子ちゃんを困らせようと誘ってきたり、令さまの真似をしたり、
祥子さまが、妙に過去の話とかを持ち出したり、
瞳子の尾ひれ、
乃梨子ちゃんは、いつも強気に発言するのに、今回は何を言われても、全然言い返さなかった。
「でも本当にうまくいったね。瞳子ちゃんはさすがだし、乃梨子ちゃんは迫真の演技だった。祥子は祐巳ちゃんに、大切って言われたところで、ちょっと噛んじゃったけど、十分合格点。だけど・・・一人だけセリフを間違えたっていうか、付け足した人がいたんだよね。」
令さまが笑いながら、おっしゃった。
私以外のみんなはニヤニヤしながら、一斉に志摩子さんを見る。すると由乃さんが台本を取り出して、私に見せてくれた。
「最後のこの部分、そうそうここよ、祥子さまが、結局どちらが好きかって聞いて、次の志摩子さんのセリフ。」
そこには、
“結局、祐巳さんはどちらを選ぶの?”と書いてある。というかそれしか書いてない。
「じゃあ志摩子さんの、私と由乃さんがどうこうっていうのは?」
「さぁ?それは本人に聞いてみないとわからないわ。私は嫉妬してる女の子のように見えたけど。」
由乃さんはニヤニヤしながらそう言った。
「私にもわからないなー。あれはとっさに本音が出ちゃったって感じだったような気がするけど。」
令さまも笑っている。
「わたくしにも・・・わからないわ。志摩子どうなの?あれは何?」
最後に、祥子さまが楽しそうにダメ押し!!
志摩子さんは頬をピンクに染めて、顔をうつむかせる。
しばらくの沈黙の後、聞き取れないほどの小さな声で志摩子さんが、
「・・・・・・・・・だって、祐巳さんがあんなこと言うから・・・」
鈍い鈍い私にも、みんなのヒントと今のセリフでわかった。
私は、目の前にいる子ウサギのような志摩子さんが、すごくすごく愛おしく感じて、
「志摩子さん、私たちはずっと親友だよ。大好き!!」
そう言いながら志摩子さんを抱きしめた。
すると、少しの沈黙の後、志摩子さんはうつむいたまま、ギュッと私を抱きしめ返してくれた。
次回→『舞台裏』
目の肥えている皆様からしたら、とんだ駄文だと思いますが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。脈絡がない、こうした方がいいというところは多々あると思いますが、適当に書いてるSSなので、そこらへんは目をつぶって下さい。
初めてのSSってことで、好きな主要キャラは全部出したいと思っています。
次は、ドッキリの稽古のシーンです。