【2872】 かわいいっ  (笑いの神に 2009-03-08 23:04:35)


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『舞台裏』



「やっぱり祐巳ちゃんがかわいそうだよ。」
令ちゃんは、今さらなんてことを言うんだろう。
「私もそう思います。私はやってみたいとは言いましたけど、それは空を飛びたいなーぐらいのテンションで言っただけで、現実にやろうなんて・・・しかも紅薔薇のつぼみに。」
菜々までこんなことを。
土曜の午後、昼までの授業を終え、三人で薔薇の館に集まっていた。祥子さまと令さまは、卒業や大学への入学準備で忙しいから、今日は、最初で最後の稽古の日。私たち三人は今回のドッキリの主催だから、みんなより早めに来て最後の詰めをしていた。


「菜々、らしくないわね。えらく消極的じゃない?」
「何言ってるのよ、由乃。菜々ちゃんは、礼儀とか常識とかを知っているしっかりしてる子だから、遠慮してるんだよ。」
「何よ、令ちゃん!私は常識知らずってこと!?」
よくわからないけど、イラッとした。令ちゃんと菜々は、年明けの剣道の互角稽古以来、特に言葉を交わしてもいないのに、どこかでわかりあっているような空気がある。
「そ、そんなことないよ。ゴメン、誤解を与える言い方だったかも。」
もう令ちゃんったら、また落ち込む。
「令さま、なんで謝るんですか?今のは、明らかに由乃さまの言いがかりに聞こえましたけど。」
「菜々、何?その口のきき方は?」
「私は、おかしいことをおかしいと言ったまでです。」
何?この言い合い・・・なぜか懐かしい気持ちが・・・
「これからは、そんな態度許さないわ!!」
私は机をたたきながら立ち上がる。


「由乃、許さないって、由乃に何の権利があるの?菜々ちゃんは妹でもないのに・・・」
令ちゃんったらKYなんだから、なんて爆弾発言するのよ!?
「そ、それは、まだ違うけど!・・・・・あっ!」
やってしまった。“まだ”なんて言ったら、将来は妹にするつもりって言ってるようなものじゃないか。
正面の菜々はというと、さっきの勢いはどこへやら、
ほんのりと顔を赤くして斜め下を見ている。なんて可愛いんだろう。普段は無表情で、あまり抑揚のない話し方をするから、感情を読み取るのが難しいから、こういうのは嬉しいな。
やっぱり、私はこの子じゃないと嫌!


「まぁ、それはともかく、稽古は今日なのよ。二人が消極的だったら、みんなはついてこないよ。」
そもそもこのドッキリには、来年私の妹になる(予定の)菜々が1年にして黄薔薇のつぼみになることを考えて、なるべく早く薔薇の館に慣れてもらおうという裏の目的がある。
「それもそうだね。もうみんなにもセリフを覚えてもらっているし、わたしたちがこれじゃあ駄目だよね。」
YESマン令が言った。(いやいや、なんでそこでナレーション口調なの私!!)
そもそもマンはMAN=男じゃない。いくら“ミスター”リリアンでもかわいそう。
「確かに、今さらやめるって言う方が迷惑かもしれませんね。それに・・・」
菜々は何か急に思い出したような顔をする。
「それに・・・何?」
私はすぐさま聞き返す。
「紅薔薇のつぼみって“アドベンチャー”なんですよね?由乃さま。」
そうか。菜々はアドベンチャーが好きだった。菜々はこういうときはワクワクしたような表情になる。
「そうよ、菜々!日本語的にはおかしいかもしれないけど、祐巳さんは存在自体がアドベンチャーよ!!」
「はいっ!由乃さま!」
菜々のテンションが上がっていくのがわかる。“はいっ!由乃さま!”って今の返しとしてはおかしくないか?!“そうなのですか?”とか“本当ですか?”とかあっただろうに・・・まぁ、そんなことはどうでもいいわ。これでモチベーションもバッチリ!さぁ、稽古の時間よ。





薔薇の館には、祥子さまをはじめ、瞳子ちゃん、志摩子さん、乃梨子ちゃん、私たち黄薔薇3人(菜々はまだ黄薔薇じゃないけど)の祐巳さん以外の薔薇の館のメンバー(菜々はまだ薔薇の館のメンバーじゃないけど)がいる。っていうか、菜々はまだ妹じゃないけど、みたいなのがめんどうだわ。もう以後は省略することにしよ。みんなはわかってると思うし、各々が補完してくれると思うから。あれっ!?私何言ってるんだろ?


それに、どこから聞きつけたのか、新聞部の真美さんと、その妹の日出実ちゃん、写真部の蔦子さんとその妹の・・・いやいや妹じゃない笙子ちゃんが来ている。(早く妹にしてやれよ!)
「ちょっと真美さん、蔦子さんなんで今日の集まりのこと知ってるのよ?」
「何を言ってるのよ、由乃さん。由乃さんが先日私たちに言いに来たんじゃない?!」
蔦子さんが苦笑いをしながら、そう言った。
確かに言ったかも・・・
すると、真美さんが、私のモノマネをするように、
「“聞いてよ!!聞いて!!真美さん、蔦子さん。あのね、あのね、今度菜々とドッキリをすることになったの!ターゲットは祐巳さんよ。祐巳さん以外の薔薇の館のメンバー全員が仕掛け人なのよ。わ、私は、別にそういうことしたいとかはなかったんけど、菜々がどうしてもっていうから、仕方なくね。へへっ!」
ヤバい、思い出した。菜々と最初の計画を練った次の日、嬉しくて話してしまったのだ。突発的な行動だったから、完全に忘れていたわ。
顔を上げられない。薔薇の館のメンバーは全員、私が押し切ったことを知っている。
それに真美さんと蔦子さんは、1年からの友達だ。学校の中でも祐巳さんと志摩子さんの次に仲の良い友達、どう考えても私が嘘をついていることをわかっている。


「真美さま、蔦子さま、本当に申し訳ありません。由乃さまに私が無理を言ってしまって、こんなわがまま普通は許されないと思います。本当にわざわざご足労いただいてありがとうございます。」
菜々・・・
菜々は、真美さんと蔦子さんが本当に事情を知らないと思っている。それで、必死に私を立ててくれようしている。
「そうだったの?私たちはてっきり・・・」
真美さんが私をニヤニヤ見ながら話してる。
「まぁ、でも菜々ちゃんが、そう言うんなら、そうなんだろうね。」
蔦子さんも、ニヤニヤしながら私を見て、そう言った。


「とりあえず台本は読んだわ。記事を書く上で、現場にいたいとは思っていたんだけど、ここは隠れるようなところがないし、段ボールに入って見るっていう手もあるけど、リスクが大きいでしょ。だから、仕掛け人とターゲットのドッキリ後の感想を書くことにしたの。一応、趣旨とか概要とか書くけどね。ドッキリシリーズって言ってたから、毎月スペースを空けておくから、連載っていう形でどう?新聞のコラムみたいに。もちろん、チェックはいれてもらってけっこうよ。」
真美さんは、さっきのニヤニヤ顔から、急に新聞部部長の顔になって、一気に考えをまくしたてた。リリアンかわら版には載せる前提で話が進んでる。真美さんは、あの三奈子さまの妹、止められないわ。


「私たちも段ボールに穴を開けて、そこから写真を撮ろうと思ったのだけど、真美さんと同じ理由であきらめたわ。いろいろ考えた結果、乃梨子ちゃんに空気の入れ替えっていう名目で、窓を開けてもらって、校舎の二階ぐらいから撮ろうと思うの。」
次は蔦子さんか。でも祐巳さんがドッキリってわかった時の顔は、撮る価値ありね。
「でも、そんな遠くから撮れるの?」
私は単純な質問をぶつけた。
「あら、由乃さんったら。私を誰だと思って?」
あ〜そうだった、写真部のエース武嶋蔦子さんね。
私がそう言おうとした、次の瞬間、

「写真部のエース武嶋蔦子さまです!!」

「笙子ちゃん、あなたに聞いたのではないのよ。」
蔦子さんが苦笑しながら言った。
「すみません、つい・・・」
笙子ちゃんは顔を真っ赤にして、一歩二歩と下がる。
可愛いなぁー笙子ちゃんは。フランス人形のようないでたちは、志摩子さんに似ている。その彼女がメガネっ子蔦子に夢中だなんて、ちょっと信じられない。まぁ、蔦子さんは素敵だからね。惚れてしまうのも無理はないか。
でも外見だけでいえば、志摩子さんと笙子ちゃん、蔦子さんと乃梨子ちゃんの方がお似合いだと思うなぁ。


あれ?何だろう?誰かに見られてる気がする・・・
サッと振り返ると、乃梨子ちゃんが私を睨んでる。えっ!?私声出してないよね。うん!絶対出してない。言葉に出したらヤバいと思って、注意してたし。
まさか・・・乃梨子ちゃん、志摩子さんのことになったら人の心も読めるようになったの?いや、でも乃梨子ちゃんならありえる。どうしよう。呪われちゃうよ。五寸釘と藁人形だよ。どうしよう。謝った方がいいかな。怖い・・・怖いよ・・・


「乃梨子、どうしたの?目を細めて。」
「いや、ゴミが目に入って・・・ちょっと痛くて」
(取り越し苦労かい!!)
“ペチン!”
「由乃さま、なぜ私の肩をお叩きなったのですか?」
嘘?!私、無意識に菜々にツッコミ入れていたんだ。
「いや、ごめん叩いたっていうか、当たっちゃたの。ごめんね。」
「フフッ。変な由乃さま。」





新聞部と写真部が帰って、お稽古が始まった。
菜々は、やると決めたら、徹底してやる子だ。
形式的には令ちゃんが監督だけど、実質的には菜々が監督のようなものだ。
いくらなんでも、菜々が指示を出すのはやりすぎだと思って、一応監督は令ちゃんにした。
しばらくは、菜々が令ちゃんに伝えて、令さまが全員にという形だったのだけれど・・・
「由乃ちゃん、この方法はイライラするのだけれど。煩わしいわ。」
KING OF 薔薇の館 紅薔薇さまの祥子さまが鋭く言い放った。
「菜々ちゃん、私たちに遠慮は要らないわ。やるのなら徹底的にやりなさい。」
「はい!紅薔薇さま。」


「白薔薇さま、少しわざとらしいですわ。もっと自然に演技してください。いつもお姉さまや由乃さまと話している時のように。」
瞳子ちゃんは厳しい。
「自然ね。自然。やっぱり学園祭の時ぐらいしか、芝居なんてしないからすごく難しいわ。」
志摩子さんは真面目にやっている。
「ダメです。白薔薇さま。そこは紅薔薇さまを鼻で笑うところなんです。」
菜々ちゃんは瞳子ちゃん並に厳しい。
「でも菜々ちゃん、私は人を鼻で笑うなんてできないわ・・・しかも祥子さま相手に・・・」
「えっ!?でも、由乃さまが白薔薇さまには、絶対そういう黒い部分があるから、大丈夫って。不自然じゃないって・・・・あっ!まさか私言っちゃいけないことを・・・」
菜々のバカ!なんて馬鹿正直なのよ!
菜々の方をギラッと睨むと、なんと菜々は笑っている。
声は出してないが笑っている。まさかわざと・・・
「一回休憩にしましょ。由乃さん、ちょっといらして。」
志摩子さんが満面の笑みで、ビスケット扉を出ていく。
私は、それについていくことしかできなかった。


白薔薇さまと帰ってきた由乃さまは、まだ冬なのにもかかわらず、なぜか汗だくになっている。顔色も少し悪くなったようだ。白薔薇さまの方はというと、出て行った時と同じ天使のような笑顔だ。触れぬが神か。

やっと白薔薇さまの演技指導が一通り終わり、現在、白薔薇様さまは、黄薔薇さまと「おお、怖い怖い祥子のヒステリー」のマンツーマンレッスン中。


次は、白薔薇のつぼみ。
「白薔薇のつぼみは、泣くっていうのが一番大変だと思います。瞳子さまはどうしたらいいと思いますか?」
瞳子さまの方を見ると、窓の外を見ている。
私の話を聞いていなかった。白薔薇さまのつぼみもよくわからないという顔をしている。
瞳子さまが黙り始めて、7秒も経っていないその時、瞳子さまの綺麗な肌の上を一滴の滴が流れ落ちた。
「ウソっ!?」
白薔薇のつぼみが思わず声を上げた。瞳子さますごい。
なぜか今日は機嫌が悪いようだけど、さすがです。
それを見て白薔薇のつぼみは、壁際で必死に涙を出そうとしている。


「菜々ちゃん、乃梨子を泣かせるのは簡単ですわ。」
そういうと瞳子さまは、白薔薇さまを呼びに行った。
何か話しているようだけど、白薔薇さまが頑なに拒否しているようだ。
おっと、瞳子さまが紅薔薇さまを連れてきた。
白薔薇さまはしぶしぶうけいれてくれたようだ。先輩の命令は絶対、か・・・
「の、乃梨子、わ、私、か、下級生にあなたよりも妹になってほしい人ができたの。だ、だ、だからもうあなたとは・・・・」
白薔薇さまはかみまくりながらも、頑張って言っていたが、急に止まった。
なぜかって?
白薔薇のつぼみの瞳に涙が溢れて、決壊寸前だったから。
「もう無理だわ!!」
白薔薇さまは自分の妹の肩を抱いて、床に座り込んだ。


これで白はOKと。白薔薇のつぼみは、今のを思い出したら必ず泣ける。
次は、紅薔薇さまね。威圧感がありすぎるわ。意見しにくい。
「祥子さまのセリフは、いつもの祥子さまとは少しかけ離れている印象なので、相当の演技力、勢いが必要だと思います。」
瞳子さまの一通りの演技指導が終わり、
「じゃあ、最後のハンカチを破るっていうのが、最難関ですね。これはどうしましょう?切り目をいれておきましょうか。」
菜々は何げなく言ったつもりだったのだが・・・
薔薇の館のメンバーは全員こっちを向いて笑っている。
そして、一斉に声を合わせていった。


「「「「「「それは、デフォルトで良くってよ!!!!!!」」」」」」
“ビリビリビリ”


最後は、瞳子さま。正直何も言うところはない。
セリフさえ教えておけば完ぺきにやってくれる。
でも、どことなく不機嫌な様子に、少し疑問を感じていた。
これはやっぱり、瞳子さまの親友に聞くべきかな。


「白薔薇のつぼみ、瞳子さまのことなんですけど・・・」
私は、率直に質問をぶつけてみた。
「あぁ、今回のターゲットは瞳子のお姉さまでしょ?心配なのよ。瞳子は祐巳さまにゾッコンだからぁ。」
白薔薇のつぼみは、最後の1フレーズを瞳子さまに聞こえるように、わざと大きい声で仰った。
そのせいで、みんながこの二人に注目する。
「乃梨子、何か言ったかしら?お姉さまがどうとか。」
「別に!祐巳さまがドッキリのターゲットになっていて、瞳子が心配して機嫌が悪いって話をしていただけよ。」
「な、何をおっしゃっているのか意味がわからないんですけど。私はむしろ、お姉さまは子供っぽいところがおありになるので、もっと成長していただきたいから、こういう経験も、た、大切だと思っていますわ。べ、べ、べ、別に心配なんてしていません。」


わかりやすい・・・
それを聞いて、由乃さまが話に入ってきた。
「菜々、私思ったんだけど、やっぱりこの脚本甘すぎない?もっと厳しく、辛辣に祐巳さんにあたるべきじゃない?」
そう言って由乃さまは、私にウインクする。
ドキッ!(>_<)なんで私ドキドキしてるの?
それより、これは由乃さまからのサインに違いない!!
「私もそう思っていたところです。これでは困った顔が見れませんよね。私からは言い出しにくくて・・・」
「確かに、そうかもしれませんね。祐巳さまにはかわいそうですけど、中途半端はダメですよね!」
白薔薇のつぼみも、流れを汲んでくれた。


来る!
「ちょっと待ってください!!これはたかがゲームなんですよね。なぜそこまで厳しくする必要があるんですか!?」
キター!!!


瞳子さまが興奮して、まくし立てた。
「逆だよ、瞳子ちゃん。ゲームだからこそ厳しく、辛辣にいくのよ。現実では絶対できないわ!」
「由乃さま、お言葉ですがお姉さまは、あの通り、超がつくほど素直で繊細な方なんですよ。それは由乃さまも十分ご存知のはずですわ。ゲームなんてわからずに本当に傷つくことになります。」
瞳子さまの目は真剣だ。素直で繊細は瞳子さまのような気がするけど。
「瞳子は祐巳さまが傷つくのが心配なんだ?なんで?」
「な、なぜって、そ、そ、それはお姉さまだからです。」
「ふーん、心配なのは認めるんだ。さっき心配してないって言ってたのに。」
「そ、そ、それは・・・・・」
ダメだ。年下の私が言うのもおかしいけど、瞳子さまは可愛すぎる。
頬が真っ赤に染まっている。
私たち3人はお稽古そっちのけで、全力で楽しんでいる。
3人ともニヤニヤがとまらない。
薔薇さま方は、マリア様のような温かいまなざしで私たちを見ている。


「じゃあ瞳子、教えてよ。なぜお姉さまだから、心配なの?もっと具体的に教えてくれない?」
「私も将来のために聞かせていただきたいです。」
私は白薔薇のつぼみの追い込みに、乗っかった。
「だから、それわぁぁ・・・・・」
瞳子さんはグズグズして、なかなか言わない。
その時、ずっと黙っていた紅薔薇さまが立ちあがった。
「私は祐巳を信頼しているから、大丈夫だと信じているわ。でもね、実は私も少しは心配もしているの。なぜ心配するのか?それは祐巳が私の妹だから。それをもっと、具体的に言えばいいのね?瞳子ちゃんが言わないなら私が言うわ。私は恥ずかしがらずに、堂々と言えるわ!どこでも、誰にでも、いつでもね!!」
由乃さまに聞いたことがある。縦に姉妹が3人揃うと、スールによっては、真ん中(2年)の取り合いになることがあるって。取り合いとまでいかなくても、ライバルだって。
だから今の状況は、紅薔薇さまがけしかけてる形。
これで瞳子さまが先に言っても、紅薔薇さまが負けってことにはならないんだろうけど、後から会話に入ってきた祥子さまが先に言うことになったら、瞳子さまの負けってことになるんだろう。
瞳子さんの表情が何か焦っているように見えるもの。


しばらく沈黙が続いて、紅薔薇さまがくちを開いた。
「瞳子ちゃんが言わないなら、私が言うわ。なぜ心配か、具体的に言うわ。それは、私が祐巳のことを・・・」





「わっ、私がお姉さまのことが大好きだからです!!!!!!!!!!」
瞳子さまは、紅薔薇さまの声をかき消すくらいの大きな声で、顔を真っ赤にして、叫んでいた。


乃梨子さまは、すごく楽しそうに、嬉しそうに声をあげて笑っている。
由乃さまは、ニヤニヤしっぱなし。
令さまは、笑いを必死にこらえている。
祥子さまは、世話がやけるというふうに、呆れて笑っている。
志摩子さまは、天使のような優しい微笑みを浮かべている。

こうして、最初で最後の稽古は、全員が全員幸せな気持ちで終わっていった。


菜々が帰ったあと、私たちは戸締りをして帰る準備をしていた。
そのとき、志摩子さんが急に大きい声を出した。
「菜々ちゃんって中等部だったわ。」
「志摩子さん、何を今さら言っているの?」
「でも、今日ね、私まったくそんなこと気にならなかったの。本当に自然にご一緒できたわ。」
さすが親友!嬉しいことを言ってくれるぜ。
「私も思いました。菜々ちゃんが由乃さまの妹になってくれたら、一緒につぼみとして仲良くできそうです。瞳子をからかう会、な〜んてね。」
「乃梨子、なんてこと言うの?私は反対です。私からかわれたくありません。」
「あらっ?!菜々は瞳子ちゃんのこと好きだって言ってたわよ。可愛くて、素直で、繊細で、それでいてしっかりしているって、尊敬しているらしいわ。」
「べ、別に、絶対に反対というわけではありませんけど・・・」
よし!これでOK!現役世代は皆認めてくれたね。菜々はこれでいつでも来れる。
「でもね、由乃ちゃん、あの稽古の時の菜々ちゃんの目、見た?」
祥子さまがそういうと、志摩子さんと令ちゃんもうなづいた。

祥子さま:「あれは隔世遺伝だわ」
令ちゃん:「隔世遺伝だね」
志摩子さん:「隔世遺伝ですね」

志摩子さんが続ける。
「二代飛ばしての隔世遺伝ですね。あの目はおもしろいものを見つけた、おもしろいことをやっている時の江利子さまそっくりだったわ。容姿だけでなく、性格も似ているなんて。由乃さん、江利子さまと何かあったら衝突していたのに、やっぱり江利子さまのこと好きだったのね。ふふっ。」


私は菜々が好きだ。菜々は江利子さまに似ている。私は江利子さまが好きだ。
私は菜々が好きだ。今日で、それが確固たるものになった。卒業式、私は愛を伝える。





次回→『外の世界』(最終回)

今回はあたしが暴走しすぎちゃって、長くなりすぎました。多分、誤字脱字の嵐です。あまり神経質な方は読まないほうがいいかも知れないです。イライラするかも・・・ってあとがきに書いても意味ないやぁ〜ん!?先頭に書いてよー

次回は、先代三薔薇さま、蔦・笙、真・日の当日の様子。


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