「ロサ・カニーナの誕生だね」
「ありがとうございます、祐巳さま」
「まさか可南子と一緒に薔薇さまをやるなんて思わなかったな〜」
「力仕事はお任せしますわ」
「こら、瞳子」
「ごめんね可南子ちゃん、迷惑かけちゃって」
「可南子さまおめでとうございます、薔薇さまの重責を押し付けるような形になってしまい申し訳ありません、来年は咲けるように今年一年精進してまいりますのでどうかお付き合いください」
すべては私の我儘から始まった
一年生の冬、私は生徒会役員選挙に立候補しなかった
剣道に集中したかったのもあったが、それ以上に自信がなかった
私は逃げてしまったのだ、ロサ・フェティダの重責を懼れて
お姉さまは何もいわなかったし瞳子さまも乃梨子さまも何もいわなかった
でも、普通の生徒たちはそうではなかった
私に立候補するように説得に来る人、なぜ由乃さまの妹になったと非難する人、代わりに誰に立候補してほしいかを訊きに来る人
あのリリアンかわら版が事態の収拾に乗り出すほどにまで混乱は広がっていた
ロザリオを返そうと思ったことも何度もあった、でも返せなかった、お姉さまのことが好きだから
私は弱かったのだ、黄薔薇革命前の令さまよりも
とりあえず瞳子さまと乃梨子さまの信任投票を行い、黄薔薇さまは欠員として早期に選出するということに決まった
もちろんお二人は信任され、晴れて薔薇さまとなった
私は自責の念に駆られ、薔薇の館には行かなくなっていた
お姉さまも私に付き合って薔薇の館には行かなくなっていた
ちさとさまは私たち姉妹が活動しやすいように計らってくださった
可南子さまが立候補を表明したのは卒業式目前のある日だった
薔薇の館や古い温室、ときにはバスケ部の活動が終わるのを待って、祐巳さまと志摩子さまが説得してくださったそうだ
可南子さまがかつて薔薇の館に出入りしていたこと、薔薇さまは新旧全員賛成だということ、ロサ・カニーナという新しい称号が用意されたこと
これらによって可南子さまの薔薇さま就任は確実となった
瞳子さまにも乃梨子さまにも妹がいなかったため、この年の薔薇の館での三年生を送る会は非常にさびしいものになったという
そして卒業式も
可南子さまへの信任投票は卒業式の翌日に行われ、即日開票の結果、可南子さまが正式にロサ・カニーナに就任した
祐巳さまも志摩子さまも、そしてお姉さまもお祝いに駆けつけてくださった
私は剣道部のエースとなり、リリアンは交流試合で優勝を果たした
冬、私は薔薇の館に戻ってきた、忘れ物を取りに、約束を果たしに
薔薇の館の住人は私を快く迎え入れてくれた
しかしロサ・キネンシス、ロサ・ギガンティア、ロサ・フェティダの三つの薔薇が薔薇の館に咲き揃うことは二度と無かった
可南子さまには本当に感謝している
未熟な私に代わって薔薇さまを務めて下さった
今のリリアン剣道部の強さは可南子さまなくしてはありえなかった
だから私はリリアンで剣道を教え続けているのだ
少しでも恩返しできるように