クリスマスの傷は癒えてなかった。
学校では、お姉さまや蓉子が私のことを事あるごとにかまってくれた。休み時間は、ほとんど毎時間と言っていいほど蓉子が私のクラスに顔を出し、放課後はお姉さまから山百合会の引継ぎを受けていた。
つまりそれは、私にとって、他のことを考える余地を与えないほどの忙しさだったのだ。
だから、学校で栞を思い出すことはあまり無かった。
「とりあえず、今日はここまでにしましょうか」
お姉さまのその言葉に、私は心底ほっとする。
予算を組む際の注意事項や、生徒会役員の承認印の場所、今まで、つぼみとして覚えておくべきことを、全くしてこなかった私に、お姉さまはすべてを詰め込むように、本当に細かいことまで教えてくれた。
それは、私がどれだけつぼみとしての作業をさぼっていたか実感させられると同時に、お姉さまがもう少しで、卒業されると言うことも実感してしまう。
もっとも学校にいる間は、忙しさに紛れて、そんなことは一秒たりとも思っている暇ないのだけれど。
でも、駅でお姉さまや蓉子たちと別れ、一人になるとそういった想いが湧いてくる。
お姉さまも栞もいなくなったリリアンを、私は全く想像できなかった。
どれだけ、私が、お姉さまや栞に依存しているかわかる。
ため息をついて、ふと、空を見上げる。
そこには煌々と満月が照っていた。
その満月を見ながら私は夢想する。
あの時、栞が現れていたら。 私はここにいないのに。
たとえ栞と死を選んだとしても、私は幸せだったんじゃないか。――何度も繰り返した問い。
一度は閉ざされたはずのいばらの森に、栞と一緒に暮らすことが出来たら……。もし、栞が二人きりのいばらの森に誘ってくれたのなら、私は喜んでそこに行くのに。
そして、そこで誰にも邪魔されずに、二人きりで楽しく暮らすのだ。閉ざされた森の中で永遠に。
永遠――それは時が止まった世界。
その時が止まった世界で、わたしは栞と永遠に仲良く暮らす。その世界は物凄く居心地良く素敵な世界に思えた。
もし、そんな世界があるなら、すべてをかなぐり捨てても、そっちの世界に行ってもいいのにと想う。
例え、それが私の作り出した幻影の世界で、そこに住む栞が幻影の栞だとしても。
でも、そんな世界は存在しないのだ。永遠など存在しないのだから。
だから、それは、全て遠き理想郷。
私は深い溜め息をついて歩き出す。
「過去」に吸い込まれそうになる、栞の顔を必死に振り払いながら。
「現在」に引き留めてくれている、お姉さまの顔を思い浮かべながら。
「未来」へ共に歩んでくれている、二人のつぼみの顔を思い浮かべながら。