【2894】 確認してからさっぱりリフレッシュ変人と変態って  (bqex 2009-03-15 22:01:22)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【これ】
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回



 私、二条乃梨子は孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと天竺目指して旅を続けている。
 仏像鑑賞をしつつ、天竺まで一気に行きたいのだが、化け物がトンデモナイ勘違いをしているので無駄にヒドイ目に遭ってばかり……ああ、京都で大雪が降って新幹線が動くのを待っている時よりも最低な気分だ。

「時に、素敵なお嬢さま方」

 歩いていると不意に声をかけられた。
 振り返ると私達の事を呼びとめるパラソルをさした老婦人がいた。

「こんなところでお1人ですか?」

 聖さまが進み出て聞く。

「いいえ。私はこの辺りに入院しているという女性に会いにきたの。ところで、素敵な法師さまね。お近づきのしるしに、本当はお見舞いに持っていくはずだったメープルパーラーのケーキでもいかがかしら?」

「ちょっと待って」

 蓉子さまが割って入った。

「私達が今、そのケーキを貰ってしまったら、お見舞いに行くのに困るんじゃありませんか?」

「あの方はもう、食べる事も出来ないの。だから、食べて」

「気持の問題です……って、そこ、勝手にフォークを突き刺さない!」

 見ると、聖さまは勝手に包みを開けて、ケーキにフォークを突き刺して食べていた。

「いいじゃん。折角なんだし」

 いや、折角じゃなくて、私とお近づきになりたいと言って渡してくるのだから、これは罠だろう。何か入っててもおかしくない。

「賞味期限は5年前の11月……」

 江利子さまがビリビリに破かれた包装紙に貼ってあったシールの日付を読み上げた。

「ほら、罠じゃない」

 老婦人は逃げて行った。
 聖さまは渋い顔になったが、気にしないで旅を続けよう。
 一刻も早く帰りたい。

「あの、そこの御一行さん」

 歩いていると不意に声をかけられた。
 振り返ると私達の事を呼びとめる黒縁眼鏡の素敵な女性がいた。

「こんなところでお1人ですか?」

 聖さまが聞く。

「いいえ。私はルーズな友達と待ち合わせをしていたところです。あら、可愛い法師さま。ひどい雨が降りそうでな天気になりましたね。雨宿りにちょっと私の下宿に寄って行きませんか?」

「ちょっと待って」

 蓉子さまが割って入った。

「私達が今、あなたの下宿に寄ったら、あなたと待ち合わせしているルーズな友達が困るんじゃありませんか?」

「あれは少しヒドイ目に遭わせないとダメよ。ああ、ちらついてきたわ」

「それでも……って、そこ、荷物持って、『ご一緒しましょうか?』って態度にならない!」

 見ると、聖さまは彼女の鞄を持ってあげていた。

「いいじゃん。折角なんだし」

 いや、折角じゃなくて、私とお近づきになりたいと言って誘ってくるんだし、さっきの事もあるんだから……

「……」

 江利子さまが無言で聖さまの持っていた鞄を奪って遠くに投げると大爆発が起こった。

「ほら、罠じゃない」

 女性は逃げて行った。
 聖さまは冷や汗をかいていたが、どんどん旅を続けよう。
 これ危険だ。

 雨が降ってきた。

 不幸な事に私達は雨具を持っていなかった。

「あ、カッパは雨具じゃありません」

「ダジャレはいいから!」

「あ、あそこに祠が!」

「よし、ちょっとの間お世話になりましょう」

 私達は小さな古い祠に入った。

 中には先客がいた。白骨だった。

「あら、化ける前にここに入ってくるとわね」

 白骨が喋った。どうやら化け物らしい。

「化ける? じゃあ、今までのはあなたが化けていたのね」

 蓉子さまが言う。
 聖さまは青い顔をしていた。

「で、一応聞くけど、今度は何をする気?」

 白骨はカチカチと歯を鳴らした。

「孫悟空を落とす」

 聖さまが冷や汗をかいている。

「落ちないわよ」

 冷やかに蓉子さまが答えた。

「これでも?」

 白骨はみるみる美少女に変化した。黒く長い髪でどことなく志摩子さんに雰囲気が似ていた。

「いいところつくわね」

 江利子さまがつぶやいた。
 聖さまは涙目になってうつむいた。

「聖?」

 蓉子さまが聖さまの異変に気づいて顔を覗き込むと、聖さまは口元に手を当ててそのまま祠を飛び出して行った。

「聖!」

 蓉子さまも追って行った。

「孫悟空が落ちた。猪八戒も落ちた。1対1なら負けはしない」

 嬉しそうに白骨は言った。

「なるほど。あなたは人の心や記憶みたいなものを読んだりする事が出来るようね」

 江利子さまがうなずきながら言った。

「ご名答。あなたの愛しい人に化けてあげましょうか?」

「結構よ。どんなに外面を取り繕っても所詮は白骨じゃない」

 そっけなく江利子さまは答えた。

「失礼な。私は中身もそっくりに化ける事が出来る。今からあなたの言う人に化けてそれを証明したって構わない」

 白骨は不敵に笑った。

「無理よ。仮にそっくりになれるとして、あなたは中身まで蓉子に化けられるとでもいうの?」

「この通り」

 白骨は蓉子さまそっくりに化けた。

「ふーん。確かに見た目は似てるわ。でも、中身はどうかしら? あなたが蓉子だというのなら、チョコレートフォンデュに納豆入れて食べてみてくれる?」

「え?」

 え?

「あれは中3のクリスマスよ。聖の誕生日で聖の家に行って、チョコレートフォンデュ食べてたのよ。初めはフルーツとか、マシュマロとかで食べてたんだけど、『他に何が合うんだろう』って話になって、聖が冷蔵庫の物を引っ張り出してきたのよ。面白がって梅干しとか納豆とか。そしたら蓉子ってば真っ先に納豆を取って、『これはどうなるかまったく想像がつかないから試すべきよ』って──」

「食べたのぉ!?」

 白骨もびっくりしてる。

「蓉子なら言うわ『別に命にかかわる問題じゃないんだし』って。さ、あなたが蓉子だと言い張るならやって」

「……西遊記の世界にチョコレートはないので、他のにしてください」

 いや、この「パラレル西遊記」の世界にはチョコレートも納豆もあるんじゃないだろうか? だって、コイツ見事に反応してたし。

「ないの? じゃあ、仕方ないわね」

 江利子さまはつまらなさそうにため息をついた。

「じゃあ、あなたが蓉子だと言うなら、トーストくわえて『遅刻遅刻〜』って言いながら300m全力疾走してみて」

「はあっ?」

 蓉子さまは遅刻しないタイプだと思うが……

「あれは高1の夏休みよ。薔薇の館に行ったら、蓉子ってばパジャマとパンを持ってきててね、漫画なんかで見るトーストくわえて『遅刻遅刻〜』っていうのと、普通に大急ぎで身支度するのとどっちが早いのか気になって仕方がなくなったから、ここから昇降口までの往復で試してみるって言いだして、私にストップウォッチを渡してきて──」

「走ったのぉ!?」

 白骨、声裏返りすぎ。

「蓉子なら言うわ『生きるの死ぬのって事じゃないんだし』って。さ、あなたが蓉子だと言い張るならやって」

 うーむ、化ける相手を間違えたというか、騙そうとしている相手を間違えたというか。

「……いや、ストップウォッチもありませんし、雨も降ってますし」

 いやいや、じゃあ、さっきの反応おかしいだろ? 意味わかってないと出来ない反応だし。

「ないの? じゃあ、仕方ないわね」

 江利子さまはつまらなさそうにため息をついた。

「じゃあ、あなたが蓉子だと言うなら、雨でシャンプーは可能かどうか試してみて」

「いくらなんでも、そんな奴いないでしょう!?」

 白骨、ついに逆ギレしちゃったよ。気持はわかるけど。

「ほら、あなたは外見は蓉子そっくりだけど、中身はしょせん白骨なのよ。全然そっくりじゃないわ」

「私は……私は……」

 白骨は膝をついて崩れ落ちた。

 その時祠の扉が開いた。

「いや〜。まいったまいった。さっきのケーキ、相当ヤバかったらしくて胃に来ちゃって。でも、もう全部出したから大丈夫」

 聖さまが復活した。

「ちゃんと確認してから食べなさいよ」

 蓉子さまも戻ってきた。

「あれ、そこにいるの、誰?」

「ノリリンを狙う白骨」

「サクっとシメとく?」

「そうね」

 聖さま、蓉子さま、江利子さまの活躍で白骨は二度と立ち直れない姿になった。



 雨が上がり、私達は旅を再開させた。
 久しぶりに大きな町にやってきた。寺院もあり、きっと素晴らしい仏像もありそうだ。

「あら、寺院の前に屋台が出てるわね」

「お祭りなのかしら?」

「さあさあ、坦々麺と月餅はいりませんか?」

 パラレル西遊記の世界は適当に中華料理が食べられていいな。なんて思っていたら蓉子さまが言った。

「ねえ、坦々麺に月餅を入れたらどんな感じかしらね?」

「え?」

 江利子さまはぱああっと笑顔とデコを輝かせた。

「ほら、お雑煮に餡餅入れるっていうの、この前テレビでやってたのよ」

「蓉子、またそんな事試すの?」

 聖さまがいかにも気持ち悪いって表情できいた。

「あら、別に命にかかわるような事じゃないわよ」

 蓉子さま!?

続く【No:2910】


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