【2902】 受け入れる事も大事  (パレスチナ自治区 2009-03-21 00:53:04)


ごきげんよう。【No:2884】の続きです。
オリキャラメインです。【No:2831】【No:2833】を先に読んでいただけると2割増くらいお楽しみいただけるかもしれません。
久しぶりの出雲視点です。前回と同じ時間軸です。


<紅薔薇の蕾、妹を決定す!>
俺は風邪をひいてしまい一週間休んでしまった。
風邪もよくなり久し振りに登校したら、瓦版にこんな記事が載っていた。
以前『紅薔薇の蕾』に『姉妹の契り』を申し込まれた事があった。その時は彼女の目が少し怖かったので断ってしまっていた。
それから彼女からは何のアプローチも無かったが、こんなことになろうとは。
すっぱり俺を諦めているあたり、あの時の美華柚様は魔が差していたのだろう。
美華柚様が妹を作ったことにより新聞部のしつこい取材が無くなったのでちょっと安心した。
まあマスコミなんてこんなものだろう。
少しさみしい気もするが、元々目立つのが苦手な俺にとって周囲が静かになるのは好都合だ。

数日後、昼休み。
「出雲さん。さっきの数式、よくわからなかったのでよろしかったら…あの…教えていただけませんか?」
「はい。もちろんいいですよ」
「よかった…」
キセルさんと雑談しながら学食へ行こうとしていた時だった。
「出雲さんてど「出雲ちゃ〜〜ん!!」
キセルさんが何か言おうとしたら誰かがそれを遮り割り込んできた。
そして……

ぎゅむ

思いっきり抱きつかれた…
『うわ何?これわどういうぢょうきょうナノデスカ?すんゴイやはらかいんデスガ』
いきなり抱きつかれてパニックに陥る。
何とか脳を落ち着かせる。
抱きついてきた少女は俺とあまり身長は変わらないようだ。
顔に彼女のふわふわな髪の先端と吐息がかかってくすぐったい。
これからもう少し成長するであろう胸が俺の胸にあたってムニュッとつぶれている。
その感触はなんというか…嬉し恥ずかしという感じで…その柔らかさは白薔薇様に抱きしめられた時を思い出させる。
しかも…彼女はすごくいい匂いがする。

もう少しこうしていてもらいたいかも……

「あっ貴女いったい何のつもりですか?!いきなり出雲さんに抱きついて!!」
キセルさんの怒鳴り声で我に帰る。
「そっそうですよ、どうして抱きつくんですか?恥ずかしいですよ…」
「え〜〜いいじゃないちょっとくらい。軽いスキンシップじゃない」
「軽くありません!早く出雲さんから離れてください!だいたい初対面のくせにちゃん付けなんて馴れ馴れしいです!」
「別にちゃん付けでもいいじゃない。出雲ちゃんって貴女のものってわけじゃないんでしょ?」
「そうですけど…」
「それにね〜抱き合うくらいじゃ全然軽いと思うよ〜。これでも軽いくらいだし」
彼女はそう言うと…

ちゅっ

ほっぺにキスしてきた…
「貴女!やりすぎです!」
「…そうですよ…いきなりそんなこと……」
「ほっぺくらいで何怒ってるの?私なんてお姉さまに会うたびにお口とお口でチューしてるもん」
「そんなの知りません!そのお姉さまはずいぶん破廉恥なんですね!」
「そうかな〜。別に好き合っていたら全く問題無いと思うんだけど」
「ですけど女の子同士で…」
「それこそ関係無いよ。それにさ、貴女そんなこと言ってるけどさ…」
彼女は途中からキセルさんだけに聞こえるように言った。
「………!!!」
キセルさんは耳まで赤くなって俯いてしまった。

「そんなことよりさ、出雲ちゃんにお願いがあって来たんだ」
「お願いですか?」
「うん」
どんな事なのだろう…
「えっとねえ、やま「ごきげんよう、出雲ちゃん、檸奈ちゃんも」
また誰かが割り込んできた。
「ごきげんよ〜、小夜子様」
白薔薇様だった。
「ごっごきげんよう」
「ふふ、久し振りね出雲ちゃん。今日はね貴女にお願いがあって来たのよ」
「お願いですか?」
「え〜、小夜子様もですか?」
「檸奈ちゃんもなの?」
「はい、檸奈さんもお願い事があるみたいです」
「そうなの。じゃあ檸奈ちゃんから先にどうぞ」
「は〜い。あのね出雲ちゃん。もう少ししたら学園祭があるでしょ?それでね、今山百合会はね人が足りないの。だからお手伝いをしてほしいの」
「山百合会のお手伝い?」
「そうそう」
なんだか雲行きが怪しいような気がする……
助けを求めようとキセルさんの方を向いたが、キセルさんは機嫌を損ねてしまったらしく何も言ってくれない。
「あ、あの白薔薇様のお願い事は……?」
「私もその事をお願いしようと思って、出雲ちゃんに会いに来たの。ダメかしら?」
「ね〜ダメ〜?」
種類は若干違うが二人の美少女に見つめられて恥ずかしい…
しかも檸奈さんは少し目を潤ませて見つめてくる。
俺は外見こそ女の子だけど、中身は男の子なわけで…
「ね〜」
「あ、あの…えっと」
返事に困る。
「出雲ちゃん、考えておいてくれるかしら。返事はなるべく早くしてほしいけど、私でも檸奈ちゃんでもいいから」
「はい…」
「それじゃあね、出雲ちゃん」
「じゃあね出雲ちゃん!」
「ごきげんよう…」
その場は何とかやり過ごせた…
さっきの少女は『紅薔薇の蕾の妹』だった。

ちょっとぎこちなかったがキセルさんと数学を勉強した後帰路に就く。
なるべく目立たないようにしたいがどうしたものか…
リリアン出身のお母さんに聞いてみるのもいいかもしれない。

「ただいま〜」
「お帰りなさい出雲ちゃん。ご飯にする?お風呂にする?それともあ・た・し?や〜ん出雲ちゃんったら」
「もう!それ止めてって言ってるでしょ!何?それともあたしって?!自分の子供にそんなことする人なんていないよ!」
「いいじゃない出雲ちゃん。コミュニケーションじゃない。それにお母さん、出雲ちゃんの事、大好きなんだもん。しょうがないじゃない。それとも出雲ちゃんはお母さんのこと嫌い?」
「そんなことないけど…もう少し普通にしてよ、恥ずかしいの」
「え〜これがお母さんの普通なんだけど」
「普通にして!!」
「はいはい、怒らなくてもいいじゃない」
はあ…毎日このやり取りをしてお母さんは飽きたりしないんだろうか……

夕食後、お風呂に入る。
湯船にあひるさんを浮かべてまったりいい気分…しかし…
「出雲ちゃ〜ん、お母さんも入るわね〜」
「ええ?!だめだよ!何で?!!」
「いいじゃない、もう脱いじゃったわ」
「もう!」
はああ…どうして俺はこの人の子供なんだろう……

檸奈さんが言っていたように、ほっぺにチュウなんて本当に軽いスキンシップだと思う。
今俺は湯船の中でお母さんに後ろから抱きしめられている。
お母さんはまだまだ十分に若々しい人だ。
いくら自分の母親とはいえ、この状況は少し刺激的だと思う。
ていうか俺はお母さんにすっぽり収まってしまうほど小柄なのか……
「ねえお母さん、いくらなんでもこれは…」
「いいじゃない」
本日何度目の『いいじゃない』なんだろうか。
昨日は20回以上言っていたはずだ。
「やっと出雲ちゃんと一緒にお風呂に入れたんだもん。嬉しいわ〜」
「…そう」
「あのね、私は確かにスキンシップ過剰かもしれないけど何もないよりはいいと思わない?」
「そうだね…」
「だからいいの」
もうどうでもいいや…実を言うとこの状況は全然悪くない。むしろ安心する。
自分の居場所が確実に存在していることを再確認できる。
ちょっとというかだいぶスキンシップ過剰なお母さんだけど、本当は大好き。
今は恥ずかしくて言えないけど、いつかしっかりお母さんの目を見て伝えたいと思っている。

「お母さん」
「なあに?」
「今日ね、山百合会の人からお手伝いをしてくれって頼まれたの」
「ん〜、何を?」
「学園祭の準備」
「そう、それならお手伝いしてあげなさい」
「やっぱりそう言うよね」
「当たり前でしょ。嫌なの?」
「だって目立つかもしれないし…」
「出雲ちゃん…」
そう言うとお母さんは抱きしめる力を少し強くした。
「出雲ちゃんはね、とってもいい子だしお母さんの自慢なのよ。いつもみんなから羨ましがられるのよ。出雲ちゃんの事」
「そうなの?」
「ええ。素直で優しくていつもお母さんのお手伝いしてくれたり心配してくれていたり、お勉強も出来るし、何より可愛い…」
「…………」
「でもね、一つだけダメなところというか、直してほしいところがあるの。それがね引っ込み思案なところなの」
「それは…」
さらに腕の力を強めてくる。
「出雲ちゃんはどこの誰よりも努力してがんばってる。断言できるわ。それなのにそれを発揮しようとしないなんてお母さんさみしいわ」
「…うん」
「だからね、これをいい機会だと思って山百合会の人たちのお手伝いをしてみて少しずつでいいから前に行ってみなさい」
「…うん」
「出雲ちゃんは何処に出しても恥ずかしくないもの。それにね一生懸命やっていればちょっと失敗したって誰も責めてきたりしないわ」
「…うん」
「だからといって無理する必要なんて無いからね」
「わかった」

お母さんの優しい声は俺を凄く安心させてくれた。

翌日。
「ごきげんよう、檸奈さん」
「ごきげんよ〜、出雲ちゃん」
「昨日の話なんだけどね、受けることにするね」
「ほんと〜?」
「うん。せっかく私の事頼ってきてくれたんだから」
「ありがと〜!じゃあ今日の放課後一緒に薔薇の館に行こうね」
「はい」

放課後、檸奈さんと一緒に薔薇の館の会議室に入った。
部活でいない美華柚様を除いて全員そろっていた。
さすが、学園中の女の子たちを魅了してやまない人たちだ。全員美人過ぎる。
少し後悔しているがこれで後戻りしたらただ情けないだけだろう。
でもやっぱり緊張してしまい部屋の中をキョロキョロしてしまう。

「ごきげんよう、出雲ちゃん。来てくれてありがとう。歓迎するわ」
紅薔薇様に歓迎してもらって安堵する。

「ごきげんよう、みなさま。四季潟出雲です。お手伝いに呼んでいただけて嬉しいです。一生懸命がんばります」

がんばろう。
みんなのために。
そして何より自分を変えるために…


ぼそぼそ
先ほども書きましたように久しぶりの出雲視点です。
なんだかマザコンっぽくなってしまいましたが許してください。
出雲のお父さんはほとんどおうちに居ないので半母子家庭の状態なんです、四季潟家は。
タイトルもなんだか微妙です……
いろいろごめんなさいです。
キセルが檸奈に言われた事はみなさんのお好みで補っていただきたいです。
此処まで読んでくださった方、ありがとうございます。
またよろしくおねがいします。



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