【2926】 パラレル西遊記大掃除した  (bqex 2009-04-21 23:06:43)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【これ】
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【No:2945】二条一族編
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回


 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をしている。

 私達はある国に着いた。
 お釈迦様の加護を受けたこの国では、今日も菩薩のような笑顔で、国境をくぐり抜けてきた人々を歓迎する。
 汚れを知らない心身を包むのは、修行僧の衣。僧衣の裾は乱さないように、袈裟は翻らさないようにゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
 そんな国なので、あっさり通行証に署名を貰えると思ったのに……

「旅の法師さまですか……国王と対面してください」

 私達は王宮に連れて行かれた。
 国王はカマキリっぽい普通のおじさんだ。

「旅の法師さま、お呼び出ししたのはお願いがあるからです。この国には国宝の仏像がある有名なお寺があるのですが、ある時から妖怪に汚されてしまいました。法師さまのお力で清めていただきたいのです」

 国王はそう切り出した。

「掃除をしろと言うのですか?」

 聞くと横の文官らしい人が答えた。

「平たく言ってしまえばそんなところです」

「断ると?」

 聖さまが聞くと文官は国王の方をちらりと見て答えた。

「……通行証に署名はしません」

「自分たちのものは自分たちで綺麗にするべきではありませんか?」

 蓉子さまが言う。

「出来ないから頼んでいるのです」

 出来ないのかい、偉そうに。
 旅を続けないと志摩子さんのいる元の世界に帰る事は出来ない。

「仕方がない。やるか」

 聖さまが答えると文官が言った。

「あ、寺にはまだ妖怪が住んでますので、気をつけてくださいね」

「先に言えよ! そういう大事なところ!」

 文官にツッコミを入れて、掃除道具を受け取ると私達は寺に向かった。

 寺は街の真ん中にあった。
 この寺は塔になっており、それは13階にもなる高い塔だった。

 これは萎える。

 こんな高い塔を4人で掃除するなんて萎える。

「手伝いが欲しいわね」

 全員がうんざりした気分になっていた。

「……聖、あなたキント雲使えたわよね?」

 蓉子さまが何か思いついたように言った。

「一応孫悟空だから使えるけど?」

 蓉子さまが聖さまに何か耳打ちをした。聖さまはびっくりした表情をしていたが、にやりと笑うとキント雲を呼び出した。

「じゃあ、行ってくるわ」

 聖さまはどこかに飛んで行った。

「ああ、人手が必要な時に──」

「必要だから呼びに行ったのよ。少し待ちましょう」

 蓉子さまはにやりと笑った。

 1時間ほどして帰ってきた聖さまが連れてきたのは、金角祐巳さま、銀角瞳子、羅刹女祥子さま、紅孩児可南子さん、そして、令さまだった。
 それを追いかけるようにギンナン牛魔王とタヌキの精祐麒さんも来た。

「黄薔薇さま?」

「……二郎真君、です」

 ちょっと困ったように二郎真君令さまは答えた。

「どうしてあなたが?」

 聞くと二郎真君は答えた。

「たまたま通りかかった時に声をかけたら、強引に……」

 聖さま、誘拐してきたわけじゃないでしょうね?

「ところで、これは?」

 蓉子さまが牛魔王とタヌキの精を指して聞く。

「勝手についてきたんだよ」

 聖さまがため息をつく。

「君が羅刹女と紅孩児を連れて行くからさ」

 前回の攻撃で仕留めきれなかったのが悔やまれるが、今は人手不足、我慢しよう。

「乃梨子ちゃん、志摩子も呼んで」

「はい」

 蓉子さまの指示で志摩子さんを呼ぶことにした。


 志摩子さん、志摩子さん、助けてください。


 目の前が光って志摩子さんが現れた。

「はーい、皆さん注目」

 聖さまが大きな声で言った。

「皆さんにはこれから大掃除を手伝ってもらいます。掃除の区域はあの塔です」

 連れてこられた一同は13階建ての塔を見て露骨に嫌な顔をした。

「何で私がそんな事をしなくてはいけないのですか!?」

 羅刹女祥子さまはやっぱり怒った。
 そっと歩み寄った蓉子さまが羅刹女に耳打ちする。
 羅刹女が見る見るうちに青ざめる。

「横暴ですわ! 猪八戒さまの意地悪!」

 ヒステリーを起こす羅刹女祥子さまを見て紅孩児可南子さんがオロオロしている。
 何を言ったんだろう。

「なんでこんな事に……」

 一方、金角祐巳さまがしょんぼりしている。

「お姉さまが孫悟空に抱きつかれてうっとりしてたのが敗因ですわっ!」

「うっとりなんかしてないよお!」

 何があったか知らないがかなり機嫌の悪い銀角瞳子に金角祐巳さまがこれまたオロオロしている。

「ユキチ、掃除だ」

 牛魔王はヤル気らしい。

「何故、そんな事を?」

「嫌な事の一つや二つとっとと乗り越えておけ。なあに、僕が自分に出来ない事をユキチにやらせるとでも?」

「牛魔王、俺にやらせてください!」

 何故かノリノリの牛魔王とタヌキの精。

「乃梨子、今回はお掃除要員として呼び出したの?」

 志摩子さんが聞いてくる。

「志摩子、ここは環境整備委員の志摩子の力が必要なんだ。ぜひ、そのスキルをいかんなく発揮して欲しい」

 割って入った聖さまが志摩子さんの手を取って言った。

「わかりました、お姉さま。私でよかったらお手伝いしますわ」

 ああっ! 志摩子さんが嬉しそうに返事を!
 なんか釈然としないよう。

「じゃあ、これね」

 江利子さまが手際よく一同に掃除道具を渡している。

「ええっ!? 拒否権はないんですか?」

 二郎真君が江利子さまに聞く。

「え?」

 にっこりと笑う江利子さまに二郎真君の令さまは黙った。
 ここでもそういう力関係らしい。

 かくして、総勢12名のお掃除部隊は三角巾、エプロン、ゴム手袋の装備に身を包み、その使命を果たすべく突入した。

 作戦内容はこうである。

 通常ならば上の階から掃除していくのが効率のよい掃除方法であるが、通常の汚れではなく妖気の塊であるため、掃除されていないところに踏み込んでいくのは危険と判断し、1階から1つの階を1つづつを片づけていく。

 また、妖怪に遭遇した場合、大勢でいる方が安全であるとの配慮から全員で掃除を行い、実際に遭遇した場合は1つ下の階におびき寄せ、妖気の影響を最小限に抑える。
 これはお手伝いのほとんどは妖怪なので、意味がないようにも思えるが……

 そんなわけでお掃除開始。


 階層1

 広さはあったが対して何もない場所なので、すぐに終わった。


 階層2

 天井の汚れをとり、すすを払う。
 塵灰のような黒い埃が降ってくる。
 それでも人数がいるのであっという間に終わる。


 階層3

 先ほどよりホコリっぽい。更に、妙なシミがある。
 地味に掃除をするが、シミに手間取る。

「ええい面倒な、ここはダ○キンを呼べばよいのですわ!」

 銀角瞳子がなぜか勝ち誇る。
 ダ○キンもあるのか。パラレル西遊記の世界、凄すぎる。でも……

「電話あるの?」

 銀角瞳子はしまったというような渋い顔をした。
 地味にシミ抜きを終えて終了。


 階層4

 ここの曲者は床に敷かれたじゅうたんである。

「ここはこのヒョウタンで埃と言えば吸い込めるんじゃない?」

 金角祐巳さまがヒョウタンを取り出した。

「埃!」

 埃はびくともしなかった。
 金角祐巳さまはがっくりと落ち込んだ。

「安心なさい、芭蕉扇でみんな吹き飛ばせばいいのよ」

 羅刹女祥子さまが芭蕉扇を動かし始める。

 しかし、吹き飛んだのは紅孩児可南子さんだけだった。
 羅刹女祥子さまは信じられないというようにハンカチをビリビリに破いた。

 紅孩児可南子さん離脱。
 じゅうたんを綺麗にして、ハンカチの残骸を片付けて終了。


 階層5

 ここは机などの家具が多い。
 一つ一つ机を拭いていく。

「あら、あなた。スカーフが曲がっていてよ。どんな時でも身だしなみはきちんとね」

 掃除に飽きてきたのか羅刹女祥子さまが、金角祐巳さまにちょっかいを出し始めた。

「あ、ありがとうございます」

 顔を赤らめる金角祐巳さま。
 む、このまま二人に展開があるのか?

「何、お姉さまにちょっかい出してるんですのおぉー!!」

 銀角瞳子がドリルで攻撃を開始した。

 ドリルが発射!

 命中!

 江利子さまに……

「きゃあぁ!!」

 江利子さまが倒れた。うわ言を言っている。

「ドリル嫌い……歯医者嫌い……」

「しっかりしなさい! あなたのお兄さんも歯医者でしょう!?」

 蓉子さまが江利子さまを抱き起こす。

「ら、ららら……川が見える……お花畑が見える……」

「江利子おぉ!!」

 江利子さま、脱落。
 二郎真君、令さまが付き添う事になった。
 このあと瞳子は蓉子さまに物凄く説教された。
 なんとか終了。


 階層6

 汚れがきつくなってきた。
 異臭が辺りに立ち込め、何やら褐色色のよくわからないものがあちこちにこびりついている。
 こびりついているものは水と洗剤で浮かせるか、こそげるかすれば落ちるので、またまた地味な作業が続く。

「あ、そろそろ時間だわ」

 志摩子さんが呟いた。

「ふっ、君はシンデレラだったんだね。じゃあ、カボチャの馬車の御者の僕が送って行ってあげよう」

 ギンナン牛魔王が気易く志摩子さんのお体に触りやがった!

「ぐふああぁ!!」

 私の雷より早く、聖さまの如意棒が牛魔王を直撃した。

「(死ぬほどわざとらしく)ごめ〜ん、手が滑っちゃった」

 聖さま、グッジョブです!
 私は思わず親指を立てて聖さまを讃えた。

 志摩子さん、タイムオーバーのため離脱。
 やっと終了。


 階層7

 異臭漂うトイレが姿を現した。

「げえっ!!」

 そこは《これ以上の描写は公共の掲示板にはふさわしくないため規制させていただきます──二条乃梨子》

 これはキツイ!!

「せ、戦略的撤退!」

 蓉子さまの声に一同揃って階層6に戻る。
 とりあえず、マスクとゴーグルという新装備が配られるが、一同怖じ気づき、誰も階層7に移動しようとしない。
 その時、意外な人物が動いた。

「……僕が行こう」

 ギンナン牛魔王がスコップを持って階層7に特攻!
 アレを掘り出そうというのか!?
 なんという勇者!
 漢の中の漢だ!

「お供します!」

 無駄な男気を見せるタヌキの精もそれに続く。

 リリアンの乙女たる我々はそこへ踏み込む気力はない。
 羅刹女祥子さま、金角祐巳さま、銀角瞳子もただ階層7へと続く階段を見つめている。

 復活した江利子さまと付き添っていた令さまが合流した。
 しかし、まだ誰も動こうとはしない。

 しばらく経って戻ってきた牛魔王は見るも無残な姿となって倒れた。

「……モノは始末した。後は任せた……」

 タヌキの精も力尽きて倒れている。
 おかげで、やっと掃除できるくらいの汚さになっていた。

 ありがとう、あなた達の雄姿は忘れないよ。

 と、言いながら、掃除したところが汚れるのは嫌なので、窓から牛魔王とタヌキの精を脱出させた。
 決して奴らを用済みだからって放り投げたわけじゃない。

 ギンナン牛魔王、タヌキの精祐麒さん脱落。
 何はともあれ終了。


 階層8

 ここは恐怖の階層だった。
 いわゆるキッチンである。
 お約束のような油汚れ、かつては食材だったらしい汚物、うごめく何者か、阿鼻叫喚の地獄絵図……

「さ、さっきの見たら、マシよね……」

 誰かがつぶやいた言葉に頷くものはいなかった。

「こんなところにキッチンを作るだなんて……なんという間取り」

「元々はキッチンじゃなかったんじゃないかな? 換気扇とかないし」

 令さまが答える。

「なんてだらしない妖怪」

「さあ、口だけじゃなく、手を動かして!」

 蓉子さまの号令に我々は手始めにその辺りにあるものをゴミとして片っぱしから袋に入れていく。

「きゃああぁ!!」

 羅刹女祥子さまの悲鳴が上がる。

「何!?」

 蓉子さまが駆け寄る。

「妖怪が!」

 あんたも妖怪じゃないか!
 見ると、黒っぽくてキッチンによくいる奴が──

「それは妖怪じゃなくて、ゴキ!」

 蓉子さまはツッコミを入れて仙術を使った!
 泡が出てきて奴をつつんでいく。

 解説しよう、猪八戒は水の中が得意な妖怪なので、水っぽい術を使えるのだ。

 奴は泡につつまれてその生涯を終えたようだ。

「その泡で油汚れも浮かせてよ」

 聖さまが蓉子さまに言う。

「あなたも仙術使いなさいよ!」

「こんなところで切り札を使うの? あと5階層あるのよ」

 聖さまは受け流す。

「ああ、まだコンロも手をつけていないのに……」

 ここで日没。
 危険なので、我々は撤退を余儀なくされた。
 階層6をベースキャンプとし、一夜を過ごした。


 翌日、再び階層7

「何でまた汚れてるのよ!?」

 昨日程ではないが、汚れている。
 妖怪が「使用」したらしい。

「わざとやっているとしか思えないわね」

 キレる寸前の蓉子さま。それでも手を動かし続け、掃除するのは流石です。
 昨日より早く終了。


 階層8

「あ〜、やっぱり汚れてる」

 昨日撤退前にはほとんどのゴミを片付けたはずなのに、見事にゴミだらけになっている。

「一体何匹の妖怪が居座ってるのかしら?」

「昨日1匹見たから、30匹は……」

 いや、奴らが可愛く見える何かがいる。

 ここで二郎真君令さまが真の力を発揮し始めた。

「こういう所はね、使ってすぐに拭けばなんて事はないのだけど、うっかり忘れちゃう事もあるでしょう? そんな時はかんきつ類の皮でこするとこの通り」

 見る見る汚れが落ちていく。

「お、おお……」

「こういうところの埃は、出がらしになったお茶っぱを利用して……あ、そこはお酢で拭くといいですよ」

 元の世界の令さま同様、いい主婦になれそうな二郎真君。
 ゴミを片付け、コンロやら油汚れやらと格闘し1日が終わる。
 危険だが、撤退すると永遠に階層7と階層8の掃除をしなくてはならないのでここに留まり一夜を過ごす事にした。

 夜──

 ごそごそごそごそ……

 怪しげな音がして目が覚めた。

「な、何!?」

 目を開けると銀角瞳子のドリルにあの忌まわしい黒い奴らがたかっている。

「ぎゃああぁ!!」

 銀角瞳子の悲鳴で一同が飛び起きる。

「ぎ、銀角!?」

 果敢に金角祐巳さまが黒い奴らを振り払おうとすると、黒い奴らが飛んでくる!

「ひゃあぁ!!」

 祐巳さまの顔にぺったりと奴らがはりついた!
 泡を吹いて祐巳さまは倒れた。

「うわあぁ!」

「いやあぁ!!」

「来ないでえぇ!!」

 夜を徹しての格闘が始まり、気づくと朝になった。

 金角祐巳さま、銀角瞳子はここでリタイアする事になった。


 翌日、階層9

 一面にゴミが落ちている。
 お約束のうごめく者達の気配を感じる。

 我々の疲労はピークに達していた。

 全員が無口になり、黙黙とゴミを拾い、うごめく者を始末する。
 手際が良くなってきた。
 意外とあっさり終了。


 階層10

 ここは本がたくさん積み重ねられており、今にも崩れて──

「きゃあぁ!!」

 言っているそばからなだれ落ちる!
 祥子さまが下敷きになった。
 犠牲者が出るが、掃除は全然終わっていない。

「あ……これ、元々お寺にあった本なんじゃありませんか?」

 開いているページを見て言った。
 本は仏様についていろいろと書かれていた。

「じゃあ、捨てられないわね」

 蓉子さまがため息をついた。

「ここは切り札を使う!」

 聖さまが仙術を使った。

 ちび聖さまがたくさん出てきて本を1冊ずつ抱えて、下の部屋に運んで行く。
 本が半分くらいになり、ようやく我々の出番になる。

 残りの半分の本を積みなおし、崩れないように片づけながら祥子さまを救出するが、完全に力尽きていた。
 埃を掃き出し終了。

 羅刹女祥子さま脱落。


 階層11

「うわあぁ……」

 思わず声をあげてしまった。
 そこには仏像が乱雑に積み上げられている。
 なんて勿体ない事をするのだ。
 磨き上げて安置したい。

「国宝級の仏像って、これかしら?」

 江利子さまが見回して言う。

「さっさと片づけましょう」

 蓉子さまの号令で仏像を磨きながら、埃を掃き出す。

 この手にガンダーラ美術の仏像が……ハァハァ
 オリエントの息吹が……ハァハァ

 至福。

「あら、乃梨子ちゃん早いわね」

 楽しいひと時は一瞬で過ぎ去り、終了。


 階層12

 そこにあったのは御本尊と思われる涅槃像だった。
 汚れは簡単に落ち、本来の姿を現す。

「……」

 何故だかわからないが、涙があふれてきた。
 これほどの感動を覚える仏像は久々である。

 これはさぞ実力のある仏師が作ったものなのだろう。
 もっと見ていたい。
 でも、あと1つ階層が残っているのだ。
 そして、そこには確実に我々を苦しめた妖怪が居座っている。

 全員で最後の階段を上った。


 階層13

 そう、そこにいた妖怪は思ってもみない奴だった。

「……乃梨子ちゃんが2人!?」

 奴は私と瓜二つの姿形だったのだ!

「乃梨子ちゃん……部屋は綺麗にしないとダメよ」

 蓉子さまが言う。

「私の部屋は綺麗です!」

 私は反論する。

「あら、ごめんなさい。向こうの乃梨子ちゃんに言ったつもりだったんだけどね」

 いいや、これは絶対に楽しんでる。
 目が笑ってます、蓉子さま。

「どおりで仏像だらけなわけね」

 ボソっと江利子さまが呟く。

「私の生活が100%仏像で出来ているわけではありません!」

「向こうの乃梨子ちゃんに言ったんだけど?」

 私が反論すればするほどドツボにはまっていく。いかん。

「(ボソッ)仏教オタク」

「仏教オタクじゃありません! 仏像マニアと言ってください!」

 ああっ! 聖さまに禁句を口走られ、つい、反応してしまった。
 くっ……
 これというのも、偽物乃梨子のせいだ!

「アンタ、絶対に許さない!」

「何怒ってるの?」

 偽物乃梨子は小首をかしげて聞いてくる。
 ちっ、似てるじゃないか。
 私、そっくりじゃないか。

「どうもこうも! なんなのよ、あの非常識なまでに汚い部屋は? 掃除ぐらいしなさいよ! アンタのせいで私の部屋まで汚いと思われるじゃないかあぁ!!」

「……ああ、あれ」

 冷静に偽物乃梨子はうなずく。
 うわぁ、ムカつく。

「あれは、お姉さまがやったんだよね。いやあ、一人じゃ掃除が追い付かなくって」

「……お姉さまだとう?」

 笑いながら答える偽物乃梨子の言葉に反応してしまった。
 まさか、偽物志摩子さんじゃないだろうな?
 もし、偽物乃梨子のお姉さまが偽物志摩子さんならば、ここにいる全員が「志摩子さんの部屋が汚い」というとんでもない誤解を植え付けてしまうじゃないか!
 そんな事になるまえに、偽物乃梨子を始末すべきなんじゃないだろうか?

 私は雷を呼ぶお経を唱え始めた。

「ね? お姉さま」

 偽物乃梨子は聖さまに向かって微笑みかけた。

 ええぇ!!

 やめろおぉ!!!

 やめてくれえぇ!!!!

 このバタ臭い顔のロクデナシをお姉さまと呼ぶのだけはやめてくれええぇ!!!!!

 私は両手両膝を地面について落ち込んだ。
 私のお姉さまは藤堂志摩子さんただ一人。それ以外はいかなる人も絶対に認めない。
 なのに、なんで、なんでこっちの世界では……よりによって……

「なーる」

「やっぱりね」

 蓉子さまと江利子さまはひそひそ言いあいながら聖さまの顔を見ている。

「ちょ、ちょ、ちょっと待った。私の部屋だって汚くない!」

 聖さまが反論を始める。

「お弁当箱ひと月放置して、卒業式の時に悲惨な状態で持って帰った人が?」

「上履き持って帰る率50%だったっけ?」

 聖さまの上にガーンという文字が見えた気がした。
 聖さまは両手両膝を地面について、物凄く小さな声で、部屋、汚くないもん、と言いながら落ち込んでいる。

「あら、お客様が来てるの?」

 後ろから声がして振り向くと志摩子さん……にそっくりな偽物志摩子さんが立っていた。

「私のお客さんじゃないけどね」

 偽物乃梨子が答える。

「……その人、誰?」

 ふと偽物乃梨子に尋ねる。

「この人は、私の嫁」

 答えた瞬間に聖さまの如意棒と私の雷が偽物乃梨子に直撃した!

「厚かましい事言ってるんじゃない!!」

 聖さまとハモってしまった。

 妖怪を倒した我々はとっととこんな国から立ち去る事にした。
 悪夢のパラレルワールドから絶対に脱出してやる!
 そして、志摩子さんが呆れるくらいにお姉さまと呼ぶのだ!



 ところで……

「しくしく」

 離脱し損ねた二郎真君令さまは、ゴミを出したり、聖さまが連れて来たままの妖怪達をその住処に送って行ったり、と我々の後始末を一手になさったらしい。

続く【No:2931】


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