【299】 山百合会にたてついた並薔薇三連星  (まつのめ 2005-08-04 13:06:04)


 そもそも事の発端は、夏休みが終わって少しして、そろそろ学園祭に向けて学校があわただしくなり始めるころ、一人の生徒が薔薇の館を訪れた。そしてその生徒がその日を境に登校してこなくなったのが事の始まりだった。
 真相は今だに判っていないのだが、そのとき薔薇の館で悲鳴が上がるのを聞いたとか、泣きながら飛び出して来て走り去る生徒を目撃した等々、いくつかの証言とともに山百合会の幹部がその生徒になにか酷いことをしたという噂がたった。
 そして一週間その生徒は学校を休み続け、噂のほうは山百合会が不祥事を隠蔽するために学校側に手を回してその生徒を停学処分にさせたのだというとんでもないものにまで発展していた。
 なにが悪かったかって、山百合会が『事件』から今までこの件に関して沈黙しつづけているってことだ。
 そんな折、これから学園祭の準備に向けて、出展する部活の代表を集めた説明会が開かれた。
 噂の件もあり、出席率が異常に高かったのだが、噂の件については一切触れず説明会は終わった。
 始終異様な雰囲気だった説明会の直後、集まっていた部長たちは、先ほど出てきた『くせっ毛』にこの件の意見の取りまとめと山百合会への提出を委ねたのだ。文化部の部長を複数兼任している『短いポニテ』も当然そこにいた。





 嘆願書を持ってきた三人が帰った後の薔薇の館のサロン。
「ふふっ、面白くなってきたわね」
「ちょっと、面白がってどうするのよ」
「まあ、この件は仕方がないわよね。私は蓉子のやり方に賛成したから」
「感謝してるわ。聖。江利子も」
「私は感謝されるようなことはしてないわよ。ただ傍観してるだけ」
「口出ししないで居てくれることはありがたいわ」
「でもわざわざ人数を合わせてくるあたり狙ってるって思わない?」
「メッセンジャー役でしょ? そう言ってたじゃない」
「でも、あのメンバーってのがね」
「なに? あの人たちだとなにか問題あるの?」
「聖は知らないのね。あの三人ある意味有名人よ」
 知らないなーと首をかしげる聖に江利子でなく蓉子が答えた。
「真中に居たのが那須野彩(なすのあや)さん、一年生のころからあらゆる運動部の助っ人をやってて運動部で知らない人は居ないっていうくらいの人よ」
「スポーツ万能? そんなすごい人なんだ?」
「いいえ、マネージャ代理とか人数合わせ要員とかよ」
「なにそれ」
「本人の話だと成り行きで一回そういう手伝いをしたら、そのつてでいろいろ声がかかるようになって、いつのまにかそうなってたとか。きっと一切断らなかったのね」
「ということは本人は無所属?」
「そうよ。でも彼女、殆どの運動部に貸しがあるのよね」
「つまり人脈力?」
 江利子がしたり顔で答える。
「そう。潜在的だけど敵に回れば脅威になるわ」


「次が葉統絵美子(はすべえみこ)さん、彼女はわかりやすいわ。人数の少ないマイナー文化部複数に掛け持ちで所属しててそのうち部長職を5つ、副部長を7つ兼任してる」
「文化部のヌシ?」
「そんなところね」
「演劇部とか合唱部とか有名どころには属してないけど彼女も結構有名人よね」
「知らなかった」
「部活やってなきゃ知る機会ないわよ」
「で、最後が斎藤柚葉(さいとうゆずは)さん。パソコン同好会所属」
「知らないわ」
「学園で初めてノートPCの携帯許可を取った生徒よ」
「ついでにいうと実姉妹で姉妹(スール)ってことで一度かわら版に乗ったことがあるわ。斎藤姉妹って聞いたことない?」
「さあ?」
「無理よ、聖はそういうの興味なかったから」
「たしか弁論かなんかで賞とってるわね彼女」

「で、彩さんはなんとなくわかるんだけど、その3人が集まるとなにか問題があるわけ?」
「判らない? 運動部の彩さん」
「文化部の絵美子さん」
「あ……」
「この二人でリリアン高等部の部活の実数3分の2は把握するわ」
「でも彩さんはともかく絵美子さんはべつに味方が多いわけじゃないんでしょ?」
「甘いわ。弱小部とはいえ部長5つ兼任なんてなかなか出来ることじゃないのよ。彼女は部長連絡会では一目置かれてる存在なのよ」
「なるほど。で、柚葉さんは?」
「彼女は情報参謀ってところかしらね。彼女の持ってるデータベースはなかなか興味深かったわ」
「つまり、あんまり考えたくないけど、彼女ら3人がそういう方向で動き出したら現生徒会を揺るがす存在になりうるって江利子は言いたいのよね?」
「そうなのよ!」
 目を輝かす江利子は、それはもう最上の面白いことを見つけたって表情だった。


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