今週のリリアン女学園かわら版は寝耳に水の内容だった。
「第10位・バレンタインで大ハッスル」
由乃さんがにやにや笑いながら記事を読み上げる。
「第9位・一年生二名を交えた妹騒動」
確かに真美さんから「今度のかわら版で祐巳さんのこと書いていい?」と確認はされたけれど。
でも、いくらなんでもこんな記事だとは思わなかった。
「第8位・学園祭でふりふり衣装の一年生を連れまわす。写真付きね、これは」
『紅薔薇のつぼみ騒動ベスト10』と題されたそれは、祐巳が紅薔薇のつぼみの妹になってからの一年ちょっとを、衝撃度の高い順に並べて振り返る、という記事だった。
祐巳は掲示板でそのタイトルを見つけた瞬間から、記事の内容を目に入れないようにしていたのだけど。
「第7位・あの小笠原祥子さまの妹が、平凡な一生徒。これが7位ってのも凄いわよね」
こんな面白い事件を、祐巳の一番の親友が見逃すはずなかったのだ。
「第6位・ミルクホールで一年生と激突! 第5位・雨の中、祥子さまと仲たがい? 結構いたのね、目撃者」
うんうん頷いている由乃さんは凄く楽しそうだ。
ちょっと友情って単語を、辞書で引きたくなってきた。
「第4位・ついに松平瞳子さんを妹に! おお、ついに来ましたって感じよね!」
「あああぁぁぁ……」
声が弾む由乃さんに対して、祐巳は頭を抱えてテーブルに突っ伏していた。
「そこまで苦悩するなら、なんでこんな記事OK出したかなぁ?」
「まさかこんな記事だとは思わなかったのよ〜」
「甘い甘い。常に記事の内容までチェックしなきゃ。私はやってるわよ、いくら真美さんでも、新聞部は信用してないもの、私」
ちっちっと指を振る由乃さんに、祐巳は恨めしげな目を向けた。
さすが、前部長の三奈子さまに散々迷惑をかけられた黄薔薇一家だけある。
「そんな目で見られてもね。書いたのは私じゃないし」
「うー……」
思わず唸る祐巳を無視して、由乃さんは楽しそうなテンションのまま「それではトップ3でーす!」と拍手をしながら宣言する。
「第3位・人前でイチャついて空気ピンク色騒動、写真付き。第2位・衝撃の中庭抱擁事件、やっぱりこれも写真付き! うわー、蔦子さんってばいい仕事してるわねー」
「あー……」
感心する由乃さんに対して、もはや祐巳は頭を抱えたまま顔を上げることも出来ない有様だった。
「うぅ……怒る。瞳子ちゃん、絶対怒る。なんでこんな記事にOK出したんですか、って」
「うん。私でも怒るね、これは」
由乃さんがあっさり頷いてくれちゃったところで。
祐巳の耳は「バタン!」と階下で勢い良く扉が開かれる音を聞いた。
「瞳子、落ち着いて!」
「これが落ち着いていられますかっ!」
ダダダ、と階段を上がる足音と共に、乃梨子ちゃんと瞳子ちゃんの声が迫ってくる。
「おーおー、来た来た」
由乃さんが楽しげに言って、再びリリアンかわら版を手に取る。
そして、残った最後のベスト1を読み上げた。
「第1位・きっとこれから起こるであろう、妹との一騒動」
手を合わせて「南無〜」と呟く由乃さん。せめてそこは、リリアンらしく十字を切ってアーメンじゃなかろうか。
そんなツッコミすら入れる暇もなく、ビスケット扉が荒々しく押し開かれて。
「お姉さまっ! この記事はどういうことですかっ!」
顔を真っ赤にして激怒している、瞳子ちゃんが飛び込んできた。
さすが真美さん、大正解。
今回の瞳子ちゃんを宥めるのは大変そうだな〜と思いつつ、祐巳は友人の洞察力にちょっと感心するのだった。