白薔薇さま、藤堂志摩子。
何時からなのかは定かではないが、彼女は“ウサギ”に喩えられるようになっていた。
可愛らしいところはラビットでもあり、同時に色っぽいところはバニーでもあり、その比喩はさもありなん。
もっとも、ごく一部では“縁側でひなたぼっこしている老猫”と称されたこともあるが。
“タヌキ”の紅薔薇さま、“ネコ”の黄薔薇さま、そして“ウサギ”の白薔薇さま。
もちろんこれらは、彼女たちの外見や雰囲気から導き出されたイメージであり、尊称から来る語呂合わせによる部分もある。
所謂『タヌ・キネンシス』、『ウサ・ギガンティア』というヤツだ。
山百合会は動物園かよ、と突っ込まれそうではあるが、考えてみれば、ショボイ動物園ではある。
白薔薇さま、藤堂志摩子。
“西洋人形”とも称される学内屈指の美女であり、その落ち着いた雰囲気と穏やかな物腰は、二年生の時点で既に白薔薇さまとしての貫禄十分であり、上級生であった紅薔薇さま・黄薔薇さまと比較しても、まったく遜色がなかった程だ。
清楚で可憐、一見細身ではあるが実はグラマー。
ふわふわと揺れる巻き毛は春風を髣髴させ、潤んだ瞳は何時も遠くを見ているよう。
また、敬虔なクリスチャンでありながらも実家は寺であり、日舞の名取でもある彼女は、まさに和洋折衷、今風に言うならハイブリッドと言ったところ。
神秘的な雰囲気を身に纏い、何時も穏やかな微笑みを浮かべ、桜色の唇から紡ぎ出されるややハスキーな彼女の声、「ごきげんよう」の挨拶を聞く生徒たちは、一様に頬を赤らめ、一部はのぼせた様な表情となり、一部は照れて俯き加減となり、その中には気を失ってしまう生徒も出る始末。
恐らく志摩子は、高等部最強の生徒と言っても過言ではないだろう。
そんな彼女の微笑みは、まさに即死級のクリティカルヒット。
食らった少女達は、哀れなる骸をその場に晒すのみ。
故に志摩子は、ウサギはウサギでも、こう呼ばれる。
ボーパル・バニー──と。