【3060】 なんでそーなるの○○桂  (bqex 2009-09-12 06:31:18)


もしも桂さんが勇者だったら
->【No:3054】の続きから

【ここまでのあらすじ】
 桂は山村先生に勇者として見出され、蔦子、真美、ちさととともにリリアンを救う事になった。

 名前:桂
 レベル:1
 クラス:シーフ
 HP:25
 MP:15
 スキル:ポイズン
 装備:なし

 名前:蔦子
 レベル:1
 クラス:メイジ
 HP:15
 MP:25
 スキル:ウィンドスラッシュ
 装備:なし

 名前:真美
 レベル:1
 クラス:プリースト
 HP:20
 MP:20
 スキル:ヒール
 装備:なし

 名前:ちさと
 レベル:1
 クラス:スレイヤー
 HP:30
 MP:10
 スキル:スマッシュ
 装備:なし

 所持金:100円
 アイテム:なし



「……と、いう感じだったわね」

「所持金100円って、お財布の中にはもっと入ってるわよ」

 桂はむっとした。そりゃあ小笠原祥子さまのような大財閥の娘に比べたら慎ましいであろうが、桂だってリリアンに通うほどにはお嬢さまなのだ。

「この100円は我々のパーティー資金で、新聞部のバレンタインイベントの副賞のデート資金同様、私財を投入するのはなし、よ」

 真美が説明する。

「真美さん、そんなに詳しいならあなたが勇者をやればいいじゃない」

 桂が言うと真美が首を振って言う。

「桂さん、選ばれたのはあなたよ。あなたが勇者じゃない」

「でも、100円で何をしろと──」

「まずは、両替でしょう」

「両替?」

 桂は首をかしげる。ここは日本で円が通貨としてまかり通っているから、修学旅行の時のようにユーロに換金する必要はないし、100円を細かくするとかえって使いづらい。

「とりあえず、職員室の香取先生のところに行きましょう」

 と、言って三人は桂の背後に一直線に並んだ。Choo Choo TRAINな感じである。

「え? 何?」

「勇者の仲間は勇者の背後を背後霊のごとくくっついて歩くものよ」

 蔦子が代表して答える。

「気持ち悪いよ! 普通に歩いてよ」

「普通にって、これが標準なんだけど」

 桂は振り返って蔦子に抗議しようとしたが、振り返ると素早く3人は桂の後ろに回り込んでしまう。
 ぐるぐるぐるぐる、自分の尻尾を追いかけるバカ犬のごとく、桂は回る。

「止まってよ!」

「桂さんが動くからでしょう?」

「標準じゃないのはないの?」

「いくつかあるけど、前衛は桂さんとちさとさん、後衛が私たちっていうのは?」

 と、言いながら、前に二人、後ろに二人の2×2に並ぶ。

「これなら、違和感はないわね」

 桂は回るのをやめ、一息つく。

「じゃあ、職員室に行きましょう」

「ええ……って、あれえっ?」

 桂は奇妙なフォーメーションに突っ込むのに一生懸命になりすぎて、その先にあるものを忘れていた。



 職員室。
 デスクワークに励んでいた香取先生は桂を見てにっこりと微笑んだ。

「来たわね。勇者さま」

「山村先生といい、香取先生といい、先生が勇者ごっこに明け暮れていていいんですか?」

 桂は不安になって聞いた。

「ごっこ? これはそんな遊びなんかじゃないわ。あなたは選ばれし勇者さま。卒業式の送辞に福沢さん、島津さん、藤堂さんが選ばれたように──いいえ、本当はそれ以上に大切な事なのだけれど──とにかく、最後は山村先生にお任せしたとはいえ、高等部の先生たちが総意であなたを選んだのよ」

 と、香取先生は真面目な顔で桂の肩に手を置いてそう言った。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。リリアンを救うのに生徒に任せきりの先生って、それはどうなんですか? こういう時こそ教師が身体を張ってくださいよ。金八先生みたいに」

「それは駄目。高等部を巣立ってあなたたちが大人になった時、いろいろな困難や危機が待ち受けていると思うけど、それを乗り切るのは自分の力。世間は先生とか親がいつまでもかばってくれるような甘いところではないの。リリアン女学園高等部はその前段階として、生徒の自主性を尊重して、基本的に自分たちの力で何とかさせているのよ」

「じゃあ、どうして先生たちが勇者を決めるんですか? 生徒の投票とか何とかで決めればいいじゃないですか」

 桂は食い下がる。桂の人生の中で先生にこんなにも抵抗したのはこれが初めてだった。

「そのあたりの事情は今は知るべきではないわ。さて、こんな事を聞きに来たのではないでしょう?」

 香取先生が後ろの三人を見て言う。
 蔦子が素早く桂のポケットから山村先生がくれた100円を取りだして、言った。

「これを、お願いします」

「確かに」

 100円を受け取り、香取先生は机の引き出しを開けると、ゲームセンターのコインのようなものを取りだした。

「今のレートは1G=2円だから、50Gね。はい」

 香取先生はコインを50枚くれたが、かさばってしょうがない。こんなものいらないから100円を返してほしいくらいだった。

「ところで、保科先生の所へは行ったかしら?」

「まだです」

 代わりにちさとが答える。

「保科先生は保健室にいるはずよ。会って話をするといいわ」

 香取先生はその後は「忙しい」と言って取り合ってくれなかった。

「で、次は保健室ね。でも、その前に職員室の中を調べてからにしましょうか」

 蔦子の言葉に真美とちさとが頷く。
 桂だけが置いてきぼりである。
 職員室を調べる? 何をどう?
 と、思っていたら。

「ちょ、ちょっと! 何をしてるのよ?」

 蔦子、真美、ちさとが職員室の机の引き出しや、キャビネットの扉やらを勝手に開けだしたのだ。
 桂は慌てる。

「何?」

 真美が聞き返す。

「あら、桂さん。これは勇者に許された権利なのよ」

 蔦子がさも当然というように言う。

「何が権利よ! 勝手にそんなところ開けちゃ駄目でしょう!?」

「あ、300G発見」

 ちさとが渥美先生の机から先程香取先生がくれたのと同じコインを大量に取り出して、ポケットの中に詰め込みだした。

「ちさとさん! それって渥美先生のでしょう!? なんでポケットの中に入れちゃってるのよ! 犯罪じゃない!!」

 桂はちさとの手を掴んで止める。

「桂さん、勇者はこういうの貰っちゃっていいんだってば」

 不思議そうにちさとが言い返す。

「パン発見。あ、コーヒー牛乳もある」

 真美が四谷先生の机の上のパンとコーヒー牛乳を取る。

「真美さん! それだって四谷先生のパンとコーヒー牛乳じゃないのっ! 人のもの勝手に取っちゃ駄目だってば!!」

 桂は真美の方に飛んで行き、パンとコーヒー牛乳を奪い返して机の上に戻す。

「何言ってるの? 桂さんはシーフでしょう? シーフがそんなんじゃ、パーティーの資金が足りなくなるわよ」

 不満そうに真美が言う。

「何言ってるの? そもそも、シーフって、何?」

「あっちゃ〜、シーフがシーフを知らないでシーフをやってたとは……」

 真美が頭を抱えた。ちさとも渋い顔をしている。

「シーフっていうのはね、こういう調べ物の時に活躍するクラスで、隠密行動のスキルとか、情報収集のスキルとか、鍵開け、トラップ解除、その他アイテムを探してる時にゲットする確率が上がったり、レアアイテムを手に入れやすくなるスキルなんかもあったりするクラスよ。元の言葉の意味としては盗人って感じかしら」

「盗人!? ちょ、ちょっと。私は人様から何か奪うような人生送ってないわよっ! なんで私がシーフなのよっ!」

 真美の説明に桂は憤慨した。

「知らないわよ。そんなの」

 あっさりと真美は否定する。

「だいたい、あなたたち三人の方がシーフに向いてるじゃない。蔦子さんは隠れて写真を撮る名手だし、真美さんはリリアンかわら版編集長で情報収集の達人だし、ちさとさんはヴァレンタインのカード探しチャンピオンだし」

 桂は主張するが、誰も聞いていない。

「ねえ、桂さん。手伝ってくれる?」

 蔦子が呼ぶので振り向くと、蔦子は教頭先生の机の横にある金庫の前にしゃがんでいた。
 もの凄く嫌な予感しかしない。

「シーフらしく、鍵開けお願い。私の勘ではこの中にパーティーの初期装備一式が入っていると見た」

 蔦子のメガネがキラーンと輝く。

「馬鹿な事言わないでよっ! これは学校の重要な書類とかなんとか、とにかく、生徒が扱っちゃヤバイものが入ってるものでしょう!? 退学になるわよっ! 退学に」

 桂は全力で否定して、その場を立ち去ろうとしたが、真美とちさとにがっしりと捕まえられて、金庫の前に引っ張り出された。さあ、と蔦子が促す。

「か、鍵開けって、何をさせる気よ?」

 桂が聞く。

「それはスキルで……やだ、桂さん。シーフなのに鍵開けスキルも、トラップ解除スキルも、情報収集スキルもないじゃない。初期でポイズンって……」

「確かにレベル1だけどさあ、せめて隠密行動スキルとか、危険回避スキルとか、そっち取ればいいのに」

 真美とちさとも桂のステータスをじろじろと見て言う。
 桂はカバンの中をのぞきこまれたような不愉快な気持ちになった。

「何なのよ? スキルなんて乃梨子ちゃんに教えてもらうまで概念すらなかったわよっ!」

「あー、つまりね」

 蔦子が割って入るように説明する。

「勇者は初期設定の段階で名前と、能力値の振り分けと、初期で習得可能なスキルのうちのいくつかから1つを選んでどういう路線で行くかを決めるわけよ。ところが、桂さんは初期設定を怠ったんじゃない? 振り分け出来るボーナスポイントが余ってるし、スキルはランダムで決定されてる感じだし」

「ポイズンを初期で取るって通だなって思ってたんだけど、知らないで取ったわけ?」

「シーフの出来でパーティーの運命が変わるぐらいシーフは重要なポジションなのに。シーフがこれじゃあ……」

 真美の言葉にちさとが追い打ちをかけるように桂を非難する。

「ああっ!! もう、みんな訳の分かんない単語を並べて私を責め立てないでっ!」

 桂は大声を出した。
 三人は黙った。

「でも、桂さん。名前ぐらいはちゃんと決めるべきだったかも。苗字が○○になっちゃってるわよ」

 横から担任の先生が言った。

「へ? 何言ってるんですか? 私にはちゃんと──」

 言いかけて、言い淀んだ。苗字が思い出せないのだ。
 慌てて桂は生徒手帳を取り出して自分の苗字を確認する。

 「三年藤組 ○○桂」

「ぎゃあぁーっ!!」

 桂は悲鳴をあげた。
 なんという事か。苗字が消えてしまったようになくなっていた。

「私の、私の苗字が……」

 桂はがっくりと落ち込んだ。

「○○って苗字は五十音順のどこに入れたらいいのかしら?」

 担任の先生がため息をつく。

「……なんか、卑猥な言葉に伏字をかけてるみたいね」

 ボソッとちさとが言う。

「なんか、元からそういう苗字だった気がしてきたわ」

 蔦子が言う。

「○○桂。せめて☆☆桂とか、@@桂とか遊び心でつけておけば記事になったのに」

 残念ね、と真美が呟く。

「す、好き勝手言わないでよっ!」

 だが、桂は自分自身が一番情けなかった。もうすぐ人生18年になるはずなのに、全くちっとも全然苗字が思い出せないのだ。それも17年以上慣れ親しんだ自らの苗字を、だ。
 どんよりとしゃがみ込んだまま桂は床にのの字を書いた。

「おや、そこにいるのは桂さん」

 通りかかったのは学園長だった。

「学園長……学園長なら、このふざけた事態を何とかしてくれますよね!」

 桂は立ち上がって学園長に直訴した。

「ふふ。私も若い頃だったら勇者さまと一緒に学園の危機に立ち向かったものを……」

 うっとりと憧れのアイドルを見つめるような目で学園長は桂を見る。
 この今時小学校低学年の男子でもやらかさない茶番劇は学園長公認だったのか、と桂は衝撃を受けた。

「そうだ。勇者さまに『勇者のしるし』を差し上げましょう」

 と、言って学園長は桂の手に何かを握らせた。
 それは、牛乳瓶のふた(紙で出来たあれ)に平仮名で『ゆうしゃ』と下手くそな字で書かれていた。

「……なんですか、これ?」

「それは『勇者のしるし』です。これを見せれば皆、勇者と認めてくれますよ」

 穏やかな笑顔で微笑む学園長。
 根本的にリリアンの先生方はこの問題に関しては駄目だ。と、桂は悟った。

「ああ、職員室にあるもので使えそうなものは持っていって構いませんからね」

 はーい、と桂以外の三人は元気よく返事をし、職員室漁りを続けた。
 桂だけは、がっくりと肩を落とした。

《職員室探索後の変更点》

 ちさと
 装備品:50cm定規(攻撃力+2)

 所持金:350G
 アイテム:焼きそばパン(HP30回復)×1、コーヒー牛乳(MP30回復)×1、黄色の鍵

 それ以外の変更点なし



 職員室を出て、保健室に向かうと向こうから下級生らしい生徒が現れた。

「勇者さま、お覚悟!」

 テテテテーン! と効果音が鳴り響く。
 桂は事情が飲み込めないで茫然としている。

「バトルよ!」

 蔦子の声に緊張した表情でちさとが定規を構え、真美が身構える。

「な、何? どうすればいいの?」

 例によって置いてきぼりになってしまった桂が聞く。

「戦うのよ」

 蔦子が答える。

「何と、何が?」

「私たちと、彼女が」

「ふーん、そう……って! ええええっ!!」

「なに、その中途半端なノリ突っ込みは?」

 真美がたまらず突っ込む。

「勇者さまは、レベル1。申し訳ありませんが白薔薇さまのため、今のうちに倒させていただきます」

 下級生らしい生徒が言う。

「敵は井川亜実さん、白薔薇さまの信奉者でヴァレンタインイベントで白のカードをゲットした。レベル3。これは倒したら一気にレベル2になるわね」

「レベル3? 私達のレベルって1よね。確か、大きくなるほど強いんでしょう?」

「大丈夫。敵の総レベルが全員のレベル+2ぐらいまでなら頑張れば何とかなるはず。つまり、1+1+1+1+2=6までは対応できるわ」

 桂への解説が終わるのを待つようにしていた亜実さんは、大きな木の箸を取り出すと桂に襲いかかってきた。
 桂は素早くよける。

「な、なんて物持ってるのよっ!?」

「桂さん、とりあえず指示の通りに動いて! 詳しい説明は後でするから、とりあえず攻撃よ。攻撃してみて」

 桂の攻撃!
 亜実さんは4Pのダメージ!

「ご、ごめんなさい! わ、私、殴るつもりじゃなくって……」

 拳が当たり桂は動揺する。

「桂さん、バトルは剣道とか柔道の試合みたいなものだから、いちいち罪悪感感じないで!」

 ちさとは桂に喝を入れる。
 ちさとは剣道部だからいいが、桂はテニス部。1対1、時に2対2もあるが、とにかく殴って試合を進める感覚はないし、好きになれそうにはなかった。

 真美の攻撃!
 亜実さんは攻撃をかわした!

「じゃあ、私の番。風よ吹きつけろ! ウィンドスラッシュ!」

 蔦子の足元から風が巻き起こり、亜実さんに向かって暴風が吹き荒れる。

「きゃあーっ!」

 埃を巻き上げ、亜実さんは飛ばされた。
 亜実さんは12Pのダメージ!

「次は私ね。敵を引き裂け! スマッシュ!」

 ちさとは振りかぶった姿勢から、大きく勢いをつけて定規を振りおろした。
 亜実さんは6Pのダメージ!

「あれ? 意外と防御力が高いのかしら。今のは自信あったのに」

 首をかしげながらちさとが呟く。

「……ところで、『P』って何!?」

 桂が聞くと真美が答える。

「HPの事よ。この場合は攻撃で減らしたHPね」

 たしか、0になったら死ぬとか言ってたような……死ぬ?

「ね、ねえ。HPが0Pになったら死んじゃうの」

「うん」

 他の全員が、亜実さんまでもが思い切り力強く頷いた。
 これはどえらい事になった。

「な、何てことを!」

「死なないように攻撃が来たら回避すればいいのよ。そしてこっちはどんどん攻撃をあてて敵を倒す事。そうしないとこっちがやられるんだから」

「えーと……『ポイズン』って使えるのよね?」

 蔦子に確認して桂はポイズンを使った。

 亜実さんは毒に侵された!

「ん? あれ、まさか……」

 蔦子がブツブツと呟く。

「『銘刀・ギンナン拾いVer.1』の力を解放! 攻撃力30上昇! そして攻撃!」

 亜実さんの声に合わせて箸が光ったと思ったら、桂めがけて振りおろされた!

「うわーっ! 桂さん、HP25しかないんだから、避けないと死ぬ!」

「ひ、ひいっ!」

 桂は攻撃をかわした!

「さすが勇者!」

「死ぬって言われたら必死になるわよっ!」

 その後、真美の攻撃が外れ、蔦子はこう宣言した。

「エネミー識別」

《エネミー識別の結果》(ストーリーと関係ないパラメータは省略)

名前:井川亜実
レベル:3
HP:25
スキル:とりかえばや(極秘に江守千保と入れ替わり、代理に戦わせる。ただし、江守千保が敗れると敗北になる)

名前:江守千保
レベル:3
HP:30
備考:井川亜実のスキル『とりかえばや』で召喚される。『銘刀・ギンナン拾いVer.1』の使い手。



「な、何なの? いきなり」

 桂は戸惑う。

「敵を調べたのよ。始めは桂さんより早く攻撃してきたけど、2回目は桂さんより後に攻撃してきたから、何だろうと思って」

「は?」

「つまり、私たちは二人の敵と戦っていたわけ。始めは亜実さん。で、今は亜実さんのスキルで入れ替わった千保さん。たぶん、ウィンドスラッシュのダメージが以外と伸びてHPが半分を切ったから直後に入れ替わったんじゃないかしら?」

 亜実さんだった千保さんが苦笑いして頷く。

「しかし、気付いたところで『銘刀・ギンナン拾いVer.1』の効果はまだ続くんです。勝ち目はありません」

「あら、私の攻撃がまだだって事を忘れてないかしら?」

 ちさとが前に進み出る。

「並薔薇ポイント2消費! 敵を引き裂け! スマッシュ!」

 クリティカル!
 千保さんは23Pのダメージ!

「惜しかったですね。1P残りましたよ」

 肩で息をしながら千保さんが言う。

「惜しかったのはあなたよ。ポイズンの効果を忘れているわ」

「し、しまった!!」

 毒により千保さんは3Pのダメージ!
 江守千保さんを倒した!

「よしっ! レベル3を二人倒した計算になるから……私たちは一気にレベル3に到達ね」

「その前に、ドロップ品を頂きましょう」

 わからない単語の連発と初めてのバトルに放心する桂を無視して三人はとんでもない行動に出た。

「あなた達ぃ!! なんで倒れてる下級生のスカートめくってるのよっ! この、変態トリオォッ!!」

 三人は倒れている千保さんのスカートをめくったのだ。太ももが見える。
 桂は真っ赤になって叫んだ。

「いや、だからこれも勇者の権利なんだってば」

 蔦子が真顔で言い返す。

「敵を倒したら、敵の持ち物とか、コインとか、『ドロップ品』っていうんだけど、言ってみればご褒美がもらえるわけよ」

 真美が解説する。

「それがどうしてスカートめくりにつながるって言うのよっ!!」

「隠し持ってるドロップ品の方が高額でレアなものが多いのよ」

 ちさとが平然と答える。

「せめてセーラーカラーめくるぐらいにしてよおぉっ!!」

 桂の言葉に蔦子がセーラーカラーをめくる。

「おおっ! さすがシーフ。あったわ。白薔薇のシール(5枚)」

「ポイズンも役に立ったしね」

「この調子でサクサク行きましょう」

「行きたくないわあーっ!!」

 桂の絶叫が高等部の校舎の廊下にこだました。

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