「それと、もう一つ未確認情報があるのよね」
夕食の席で、先代白薔薇さま佐藤聖の目撃情報をもたらした新聞部部長山口真美に続いて、写真部のエース武嶋蔦子から、更なる情報が提供された。
「お昼頃、サン・ピエトロ大聖堂に行ったでしょ。その時、見たらしいのよ」
「何を? 聖さま?」
紅薔薇のつぼみ福沢祐巳が、問い掛ける。
「まぁ確かに聖さまってのも驚きだけど、もっと驚く人物が居たそうな」
「だから誰なのよ? 蔦子さんも、結構もったいつけて話すんだから、あなたたちホントいい性格よね」
じれったい思いに駆られたのか、再び憎まれ口をたたく黄薔薇のつぼみ島津由乃。
真美と共に苦笑いで肩を竦めた後、蔦子が声のトーンを落として言った。
「多泉洋を見たんですって」
───と。
ピサを訪れ、定番の写真を撮り終えたところ、向こうに白薔薇さま藤堂志摩子の姿が見えた。
「志摩子さーん」
「まぁ、祐巳さん」
挨拶を交わし、祐巳が何気なく視線を落としたところ、側に腰を降ろしていた人物たちと目があった。
「あれ、この人たち誰だっけ?」なんて思うと同時に、向こうの方から声をかけられた。
『ごきげんよう』
『どないやろ軍団!』
祐巳を追いかけてきた三人が、祐巳より先にその名を呼んだ。
そう、この人たちこそ、誰であろう“旅のカリスマ”、ワンランク上の優雅な旅を提案する『水曜どないやろ』の、多泉洋、涼井貴之、藤村忠久、嬉野正道の黄金の四人組だった。
「多泉洋っ!? どうしてっ」
祐巳は芝生にしゃがみ込んで、思わず多泉のモジャモジャ頭をぽんぽんと叩いた。
夢じゃない、本物だ。
ヒゲがずいぶん伸びたけれど。
それを除けば、テレビで映っていたままの多泉洋がここにいる。
「撮影に決まってるだろ? ヨーロッパに」
まあ、彼がこの広場に住んでいようといまいと、ここで会ったのは偶然以外の何者でもないのだが。
どないやろ軍団『ヨーロッパ20ヶ国完全制覇─完結編─』の撮影スケジュールに、たまたま合ってしまったリリアンの修学旅行。
あの後、昼食を摂ってすぐに次の目的地エクス・アン・プロヴァンスに向かったどないやろ軍団。
イタリアからは出られないリリアン生は、勝手に追いかけない限り恐らく二度と彼らに会うことはないだろう。
祐巳たちは、どないやろ軍団に会ったことを、クラスメイトにちょっと自慢してみたのだが、残念ながらあまり信じて貰えなかった……と言うよりは、『水曜どないやろ』を知っている生徒が少なかったため、分かって貰えなかった。