【3075】 闇の中に息づく運命  (パレスチナ自治区 2009-10-04 23:57:24)


ごきげんよう。
前回に続いて主人公が人ではありません。題して『主人公が人ではないシリーズ』。
まんまですが…
今回は『乃梨子のPC』が主人公です。
PCは何を思うのか…
乃梨子がかなり変態です。御注意ください。

「は〜あ…あの日雪が降らなければな…」
ここは東京某所にあるマンションの二条菫子さん宅の一室。
この部屋は現在、乃梨子ちゃん、という高校一年生の可愛い女の子が使っています。
乃梨子ちゃんは20年に一度しか御開帳されない某寺の観音像を観に京都へ行って、そこで雪に降られて新幹線が止まり、受験に失敗したのです。
あ、これくらいの情報はみなさんの方が詳しいですよね…すみません。
え?私ですか?私はこの部屋の乃梨子ちゃんが使っている勉強机の上に置いてある、乃梨子ちゃんのPCですよ。
観音像とか仏像とかが好きなんて、うら若き乙女の趣味としては渋すぎですよね?
だって私の中のデータって仏像の写真とか、そんなのばっかりですよ。
インターネットのお気に入りページだって仏像に関するものばかりですし、もう少しファッションとか、スイーツとかそういうのに興味持ったっていいと思いませんか?
もちろん乃梨子ちゃんの趣味が悪いわけではないんです。むしろ尊いことですし。
だけど、「千手観音いい!いいよ!」なんて涎垂らしながら自分の前でニヤニヤしているなんて…耐えられないです…
趣味が悪いのではなく、乃梨子ちゃんの気味が悪いんです。
あんまりご主人様の悪口をいうものではありませんね。すみません。
まあ、早く故障して次のPCにバトンタッチしたいという気持ちがないわけではありませんがね。
「さてと今日も見ちゃおうかな〜」
あ、乃梨子ちゃんが私を起動して、インターネットを開きました。
お気に入りの欄をクリックして開いたのは『いかにして奈良の大仏は作られたのか?!』というページです。
乃梨子ちゃんはこのページが大のお気に入りです。
これまでに1856日続けてこのページに出入りしています。
毎日欠かさず継続することは素晴らしい事ですけど、いい加減飽きないのかな?
私はもう飽きました。せめて別の仏像ページを見つけてほしいです。
結局この日は3時間54分このページを眺め続けた乃梨子ちゃんでした。

乃梨子ちゃんがリリアンに入学して数日が経ちました。
ここのところずっと「頭が痛い」って嘆いています。
でもね、乃梨子ちゃん。リリアンに受かっていなかったら貴女は高校浪人だったんですよ?少しは菫子さんやリリアンに感謝しましょうよ。
3年ないし7年通っていればいい事がきっとある筈だよ?
私はただのPCだけど、乃梨子ちゃんが楽しい学園生活を送ることが出来るように心からお祈りしているからね。
「ただいま〜」
あ、乃梨子ちゃんが帰ってきました。
部屋に入って来た乃梨子ちゃんはなんだかご機嫌です。
「ふふふ…あの人、綺麗だったな…また会えるかな…」
おや?早速いい事があったみたいですよ?嬉しいですね。
「この制服、似合っていたし…」
仏像以外に興味を持つなんて、これは相当いい出会いだったみたいですね。
「不幸中の幸いってやつかな?」
この後、乃梨子ちゃんは嬉しそうに私服に着替えると、菫子さんが買ってきたケーキを食べに、部屋を出ていきました。

日曜日。乃梨子ちゃんは『幽快の弥勒像』を観に、『小寓寺』へと出かけていきました。
とても嬉しそうでしたね。

「志摩子さん、志摩子さん、志摩子さん…綺麗だったなぁ…ハア…あんな人がこの世にいるなんて…」
いつもに増して上機嫌の乃梨子ちゃん。
どうしたんでしょう?『幽快の弥勒』を観にいって来たんですよね?
「和服も似合うなんて…志摩子さん、柔らかかったなあ…でも、なんだか引っかかること言ってたな…心配だな」
……志摩子さんっていう人に出会ったのね。それでその人に夢中になっていると…
まあ、いいのではないでしょうか。
ちょっと変態っぽいのが気にかかるんですが…
この日の乃梨子ちゃんはあのページを開いている間も、心なしか思考がどこかに飛んでいるような気がしました。

マリア祭の日。
「志摩子さんと仏像を観に行けるのか…嬉しいな。それより、マリア像ってあんなにいいものなんだな…」
ふう…今度はマリア像ですか。
でも、いい傾向にありますね。リリアンってカトリックの学校ですし、これで少しずつクラスの人たちと仲良くなっていければ楽しい学校生活が送れますね。
願ったり叶ったりです。
志摩子さんに出会えたことが、乃梨子ちゃんにとって最大の幸運なんですね。

6月のある雨の日。
乃梨子ちゃんはずぶ濡れで帰ってきました。
でもなんだか上機嫌です。
そのままお風呂へ行きました。

十数分して戻ってきました。
相変わらず上機嫌です。
「これで志摩子さんと『姉妹』なのか…お姉さまって呼ぶんだよね…なんだか変だな」
大好きな志摩子さんと大切な関係を築いたんだね。よかったね乃梨子ちゃん。
「志摩子さんって呼んじゃいそう。それでちょっと顔をしかめた志摩子さんが『もう、乃梨子ったら、お姉さまでしょ』って…キャー、キャー!」
何やら妄想しながらベッドの上を転げ回っています。
ちょっと…なんでもないです…
「志摩子さん…ハア…あんな綺麗な人をこれから独り占め…リリアン最高!!それにもう姉妹なんだから…いいよね…」
乃梨子ちゃんは何やら企んでいるようです。
変なことしなきゃいいんですけど…

それから私の中は志摩子さんの画像で埋まっていきます。
普通にカメラに向かってほほ笑んでいる志摩子さん、乃梨子ちゃんとツーショット(乃梨子ちゃんが志摩子さんのほっぺにチューしていたりその逆だったり)。
他にもたくさんあるんですが…最初の内は健全な画像が多かったのですが…

夏休みのある日、乃梨子ちゃんは志摩子さんの実家、小寓寺の近くの小川へ遊びに行きました。
「志摩子さんの水着姿なんて、野郎共なんかには見せられないよね…ふふふ…」
たかが小川程度で志摩子さんに水着を着させたんだ…
私にその画像が入ってきます。
あ、想像していたより健全ですね。
「ふふ…志摩子さん、濡れ濡れだー…ふふふふ…へへへ…」
ちょっと如何わしくなってきた、乃梨子ちゃんの表情。
はっきり言ってヤバいです。
確かに水に濡れている志摩子さんは高校生とは思えないほど色っぽいです。
「次はこれ〜」
次に入って来た画像は…
キャー!!これは志摩子さんのお着替えしている最中ですよ!!
「これを撮った時の志摩子さん、可愛かった…ちょっと怒ってたけど、誰にも見せないなら良いよって。ふふふ…」
まだ仏像マニアだけの乃梨子ちゃんの方がましかも。
だって最近の乃梨子ちゃんは、水着の通販サイトを開いて何やら妄想しているんですから。まあ十中八九、水着着た志摩子さんでも妄想してるんでしょうけど…
はぁ…もうPCやめたいですよ…
ちなみに『いかにして奈良の大仏は作られたのか?!』への入室はぴったり1900日で途絶えています。
今の乃梨子ちゃんは志摩子さん一色です。

ある日の乃梨子ちゃん。
帰ってくるなり私を起動します。
ネットでもするのかなと思いきや、wordを開いて…
『志摩子さん志摩子さん志摩子さん志摩子さん…』と延々と打ち始めました。
開始一時間でトイレに行った後も、ひたすらに…
夕飯に呼んでも来ない乃梨子ちゃんを部屋まで呼びに来た菫子さんはそれを見てすごすごと退散していきました。
助けてくださいよ、菫子さん…まあ、気持ちはわかりますけどね…
これはリリアンに染まった、という訳ではありませんよね?
だって乃梨子ちゃんみたいな子ばかりだったら、リリアンは崩壊している筈です。
お願いだから目を覚ましてよ、乃梨子ちゃん!

正月も過ぎて珍しく雪が降った次の日。
「……。思わず写メしちゃったけど、誰にも見せないなら大丈夫だよね…」
かなり興奮した様子の乃梨子ちゃん。
どうしたんでしょう?
「早速取り込まないと…」
私の中にまたデータが入ってきます。
これは……!
アイスバーンした路面で転んで尻もちをついてしまった志摩子さんの画像でした。
「ふふふ…このちょっぴり生足が出ているのが………最っ高に色っぽい!!こないだの水着とためを張れるね!!ああ…マリア様、ありがとう…」
そんなこと感謝されても、マリア様はお困りだと思うけど…

この一年を振り返って思ったことは、リリアンという場所は恐ろしいところだということですかね。
乃梨子ちゃんは異常だったと思いますけど。
乃梨子ちゃんはこれからもリリアンでの学園生活を楽しんでいくことでしょう。
でも私はこういうことを望んだわけでは…トホホ…

どうしてあの日、雪なんて降ったのでしょう…
神様、教えてください!!

哀れなり 転げ堕ちゆく 乃梨子ちゃん 
                   by乃梨子ちゃんのPC

あとがき
予告通り乃梨子ちゃんが壊れすぎています。
これからもPCは乃梨子ちゃんの妄想に付き合っていくことになります。
哀れPC。君に幸あれ。
ここまで付き合ってくださってありがとうございました。


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