まさか、2本続けて宣伝SSを書くとは思わなかったわ(笑)
蓉子、聖、江利子が薔薇の館で座っている。
「ごきげんよう」
三人、一斉に一礼する。
まず、聖が言う。
「いよいよ私たちが『お釈迦様もみてる』に登場することになりました。2010年7月1日『お釈迦様もみてる スクール フェスティバルズ』において、私たちの花寺出張が描かれます」
「同時に、柏木さんのリリアン出張も描かれます。これは無印、つまり、秋に公開予定の映画『マリア様がみてる』のBGN編でもあります。しかし、日頃『お釈迦様もみてる』をスルーしている方々もいらっしゃるかと思います。そこで、『お釈迦様もみてる』がどんな感じの物語なのかをなんとなく掴んでいただこうと思いまして、このSSを用意しました」
江利子が言う。
「題して……え、ちょっと待って、これ読むの? ……仕方ないわね。題して『いきなり男だらけのBL小説の中に投げ込むとショックが大きいから、徐々に慣らしていって薔薇さまに萌えてもらおう大作戦!』」
しぶしぶ蓉子が読み上げると聖、江利子が笑う。
「萌えってあるの?」
「知らないわよ」
「とにかく、ご覧ください」
三人揃って言う。
「スタート」
リリアン女学園体育館。
ここでまもなく山百合会の舞台劇『シンデレラ』が上映される。
瞳子は優お兄さまと祥子お姉さまの舞台を見に来ていた。
その前に上演していた演劇部の舞台を見て、来年は自分もあの舞台に立つ、と決意し、その後の蟹名静さまのアリアに酔い、いよいよメインイベントを迎えた。
間もなく、幕が開く。
「優さまーっ!」
隣で花寺の生徒らしい青年が叫んだ。
「あ、アンドレ先輩……」
すぐ後ろでその後輩と思われる生徒が頭を抱えている。
それはそうだろう。まだ、優お兄さまの登場はずっと後なのだ。
「黄薔薇さまーっ」
舞台に継母たちが登場し、シンデレラの祥子さまをいびり始める。
「祐巳っ!?」
不意に先程頭を抱えていた後輩が立ち上がって叫ぶ。
「静かにしろっ」
小声でさっき叫んでいた先輩に注意され、周りの生徒たちに抑えつけられるようにその生徒は着席すると。落ち着かない様子で舞台を見ている。
舞台はどんどん進んで、魔法使いが出てきて祥子お姉さまを見事なお姫様に変身させて、切り替わる。
王宮のセットが並び、多数の生徒が登場する。
「紅薔薇さまーっ」
「白薔薇さまーっ」
「優さまーっ!」
やはりさっきの生徒、優お兄さまに誰よりも大きな声援を送る。
リリアンの生徒はすぐに大人しくなるが、その後も「優さまーっ!」「優さまーっ!」と叫ぶのでやかましい。台詞は聞かなくていいのだろうか。
「きゃあーっ!!」
ため息と歓声とともに祥子お姉さまが登場し、王子さま役の優お兄さまがダンスを申し込む。音楽がかかり、群舞の中央で二人は踊り始める。
「俺たち、あんなのに駆り出されなくてよかったな」
「ああ」
「そう? 私は踊りたかったな」
「でも、一応男役になるだろう」
退屈なのか隣の男子たちはブツブツ言う。そんな中。
「こ、こらっ! シンデレラっ! そんなにくっつくなっ、あっ! 優さまもそんな女に手を回してっ! あっ、シンデレラ、今優さまのおみ足を踏まなかったかっ!?」
こういうシーンがあるというのは小学生でも理解しているのではないのか。
優雅な群舞のシーンも隣の一団のおかげで台無しである。
12時の鐘が鳴り、シンデレラは去っていく。
いよいよクライマックス。
靴を持った従者を従えた王子がシンデレラの家を訪ねてきた。
姉二人がチャレンジし、更に継母までもが靴を履こうとして失敗し、いよいよシンデレラが靴をはく。
「あなただったのですね。あの日僕の心を捕まえたお姫さまは」
王子がシンデレラの手を取っていう。
「王子」
「僕の妃になってくれませんか?」
「うーわーあーっ!! やーめーろーっ!!」
さっきからうるさいあの生徒、やっぱりな反応を見せた。
だから、お芝居だと言っているでしょうが。
「はい」
シンデレラが頷き、二人は舞台中央で抱き合い、幕が下りる。
「うわーっ!! なんでそんな女と結婚しちゃうんですか優さまっ!! 一生かけてお仕えしますっ! 料理・洗濯・掃除・育児・家事全般何でもやりますっ!! だからそんな女や〜め〜て〜く〜だ〜さ〜い〜っ!!」
泣きながら絶叫する彼は舞台にダッシュしようとしたが、近くにいた大柄な生徒二人に取り押さえられた。
「離せっ! 日光! 月光!」
「アンドレ、落ち着け。これは芝居なんだから」
ぼさぼさ頭の生徒がなだめる。
「そうですよ、先輩。あの二人、本当に結婚するわけじゃないでしょう?」
さっきの「祐巳」と叫んだ後輩にまで窘められる。
ブツブツ言っていたが、落ち着いてきたのか、彼は体育館を後にした。
優お兄さまと祥子お姉さまが本当に婚約していて将来結婚するらしいことは花寺の生徒の前では絶対に言わないでおこう。
瞳子はそう心に決めた。