ねぇ、何か面白い話はない?
誰かが言った。
「そうですねぇ……では、少し怖い話なんかどうです」
そう呟いたのは祐巳だった。
淹れたての紅茶を配りながら、そっと呟いた。
「怖い話?」
そう聞き返してきたのは、白薔薇さまこと佐藤聖さま。
「えぇ」
「へぇ〜、祐巳ちゃんの怖い話ね」
「怖くないかもしれませんが?」
祐巳は微笑む。
少し冷めた微笑で……。
では……。
……その少女は、ある日突然に幸運を手に入れました。
少女にとって、憧れだった一人の先輩ととてもお近づきに成れたのです。
その日から少女の日々は光に包まれることになりました。
少女と憧れの先輩との日々。
それは決して光ばかりでは無かったですが、それでもその日々はやはり夢のような時間だったのです。
光に包まれた少女の周囲には更に多くの光が集まり。
そんな日々がいつまでも続くと少女は思っていました。
ですが、そんな日々はいつかは終わるもの。
それでも少女は、その終わりさえも笑顔で迎えることを望んでいたのです。
……その終わりの日。
少女は、望んだ通りに笑顔でした。
でも、その笑顔は曇ってしまったのです。
少女が、終わりの日に目覚めた時。
それは……。
あの憧れの先輩とお近づきに成った日でした。
光の日々は、終わらなかったのです。
あまりの事に少女は戸惑いながら、その運命のときを迎えました。
そこから繰り返される同じ日々。
やはり光に溢れていましたが、それでも同じことの繰り返し。
少女が、この謎の光の日々の繰り返しを続けても、その謎は解けないまま。また、望んだ終わりの日がやってきました。
少女は、謎は残りますが終わりの日が楽しみでした。
でも、やはり終わりの日は来ませんでした。
代わりに来たのは、再び光の日々の繰り返し。
少女は、脅えながらも再度、同じ日々を繰り返します。
何度も。
何度も。
始まりの日から終わりの日までの光の日々を繰り返します。
何度も。
何度も。
そんな時、少女はフッと思いました。
この憧れの先輩ははたして自分が愛した先輩なのかと?
その思いに気がついたとき。
少女の中で、何かが変わりました。
脅えながらも楽しんでいた光の日々が、それは恐ろしい時間に思え始めたのです。
出会う人。
出会う人。
それは自分が知っていた人たちと同じなのか?
楽しい日々。
辛い時。
それは同じなのか?
少女は、これは残酷な日々だと思うように成っていきました。
経験したことのある出来事は、答えを知っているパズルのようなもの。
少女は、知っている限りの答えを使い。
パズルを解いていきました。
それでも同じ光の日々は繰り返します。
少女は何時しか狂気に飲まれていきました。
この残酷な日々から抜け出したいと。
繰り返される残酷な日々を破壊したいと。
少女は、知っている答えを元に間違いを起こすことをはじめました。
憧れの先輩を裏切り。
仲の好い友人たちを振り切り。
慕う後輩を泣かし。
自分自身さえも傷つけながら。
少女は、残酷な日々から逃れようとします。
それでも何処かで再び、あの残酷な日々が戻ってくるのです。
憧れの先輩は優しい微笑で。
仲の好い友人は、楽しそうに。
慕ってくる後輩は何時ものままに。
少女は、全てに恐怖します。
誰か助けて。
それが少女の祈りになります。
この残酷な日々の繰り返しの本当の終わりを望むのです。
でも、決して終わりません。
少女は、その心を血にまで染めてまで……。
終わりを望みますが、当然、終わらないのです。
そして……今も少女はその残酷な日々の中に入るといいます。
「と、こんな話なのですけれど?いかがでした」
祐巳は冷めた紅茶を流し込んだ。
「ふ〜ん、まあまあ?」
「祐巳ちゃんにしては……三十点」
「終わり方が少しね。祐巳ちゃんの話ってことで期待しすぎたかしら」
薔薇様たちの評価は厳しい。
「さて、お茶も冷めてしまったし、今日はこの辺にしておきましょう」
紅薔薇さまの言葉に、山百合会のメンバーは帰り支度を始め。
ビスケット扉から出て行く。
「祐巳さん」
「なに?志摩子さん」
祐巳が出て行こうとした時。声をかけてきたのは、同じクラスで白薔薇の蕾の称号を持つ藤堂志摩子さんだった。
「いえ」
「どうしたのよ?」
祐巳が問うと、志摩子さんは少し息を整え。
「今の話なのだけれど、以前、一緒に食事をしたときに祐巳さんの言った。私の望みはこの地獄から助けてくれることと何か関係があるの?」
「ふ〜ん……そんなこと言った?」
「えぇ」
志摩子さんは頷く。
一緒に食事とは、祥子さまとの賭けの時のことだろう。
「覚えが無いかな」
「そう」
志摩子さんは俯いてしまう。
「祐巳、何しているの早く来なさい」
「はい!」
先に外に出た祐巳のお姉さまである小笠原祥子さまの声が響く。
「ごめんね、お姉さまが呼んでいるから」
「えぇ、こちらこそごめんなさい」
二人はゆっくりとサロンを出る。
「そうだ!」
祐巳はゆっくりと志摩子に振り返る。
「……志摩子さん」
「どうかした?」
「さっきの話ね」
祐巳は、志摩子さんを見つめる。
「……えぇ」
「事実だったらどうかしてくれるの?」
祐巳は小さく笑っていた。
お久しぶりのクゥ〜です。