【3256】 クリスマスの思い出  (ケテル 2010-08-21 02:03:07)


クゥ〜様SS
(ご注意:これは『マリア様がみてる』と『AQUA』『ARIA』のクロスです)
【No:1328】→【No:1342】→【No:1346】→【No:1373】→【No:1424】→【No:1473】→【No:1670】→【No:2044】→【No:2190】→【No:2374】

まつのめ様SS
(ご注意2:これはクゥ〜さまのARIAクロスSSのパラレルワールド的な話になると思います)
【No:1912】→【No:1959】→【No:1980】→【No:1990】→【No:2013】→【No:2033】→【No:2036】→【No:2046】→【No:2079】

ケテル版SS
(まつのめ様のSSをベースに、クゥ〜様のSSと連結させたもの。 乃梨子視点進行のつもりのSS)
【No:3091】>【No:3101】>【No:3111】>【No:3126】



 由乃視点の姫屋編

【No:3156】>【No:3192】>【No:3256】>【No:3559】




  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *



「あっ…、晃さん…今いいですか?」
「藍華? おまえ、明日に備えてもう実家の方に行ったのかと思ってたが。 なにか問題でもあったか?」
「あ〜…いえ、んん〜ちょっと……」
「まあ、取り合えず中に入れ」
「………失礼します…」

  … ・ … ・ …

     … ・

    ・ …

  … ・ … ・ … ・ …


「冬にか……いいんじゃないか、私に異存は無いぞ、と言うかおまえの判断だろ。 明日か? それは無いか…」
「さすがに明日は…、ARIAカンパニーでのお泊りに備えて乃梨子ちゃんと買い出しだそうです」
「あの三人はいわば家族だからな。 ふ〜〜ん、いいクリスマスになりそうじゃないか」




  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *



 今回のお話は、期せずして未来世界へと飛ばされてしまった祐巳さん、私、乃梨子ちゃんの三人で過ごすことになったクリスマスの風景を淡々と記述するだけのお話がメインになります。

 過度な期待はしないでください。

 今回は会話多めになってます。

 あ〜、あと、液晶であってもモニターからは50cmは離れて見やがって下さい。



  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *





  《その、サプライズなクリスマスプレゼントは…》



 24月、今年は比較的雪が少ないんだそうだ。

 もっとも、曇り時々晴れって感じで気温はかなり低い、その寒空の中うろうろしてる物好きな観光客もいない訳じゃないんだけど。 まあ、同じようにその寒空の中、寒風吹きまくってる運河へ練習に漕ぎ出してた私が言うこっちゃないわね。
 つき合わされた祐巳さんと乃梨子ちゃんは可愛そうだったかもしれないけど、文句言ってこなかったからいいことにしよう。
 早く追い着かなくっちゃ……いや、やっぱ悔しいじゃない、先に始めていたとはいえ祐巳さんに先行されまくってるのも。

 追い着け追い越せ! こういう時こその青信号! ……まあ、クリスマスくらい休んだっていいでしょ。


 『クリスマスは家族と静かに。 新年は皆でにぎやかに』

 っで、こっちの世界に家族がいない私達3人、ARIAカンパニー社屋の2階を借りてクリスマスを過ごそうって事になった。

『まるで三姉妹だね。 祐巳ちゃんが長女で、由乃ちゃんが次女、乃梨子ちゃんが三女で』

 灯里さんがそんなこと言ってたっけなぁ〜。 でも、ちょっと待って”三姉妹”って、長女は優秀、三女はクール、そして次女はちょっと残念な子…ってイメージがある…。 私は残念な子か!! いや、灯里さんに悪気が無いのは分かってる、分かってるんだけど、納得できないところが多々あるわ!

 その灯里さんだけど、地球行きの船のチケット取り損ねて地球(マンホーム)のご実家に帰郷できなかったので、私達のパーティーに参加することになっている。
 まあ、なんか用事があるとかで途中から参加することになってるんだけど……男かしらね?



 時を経てもクリスマスの飾り付けって言うのは変わらないらしい。 リアルト橋近くにあるお店や屋台なんかは、それっぽく飾り付けられていてかなり華やかなんだけど、基本的に教会や信者会(スクオーラ)、博物館や美術館、地球(マンホーム)から移築した歴史的建物が多いネオ・ヴェネツィア全体で見れば、”控えめ”で”落ち着いた”雰囲気のクリスマスといえるんだろう。

 今日の目的は……。
 魚市場(ペスケリア)の桟橋にゴンドラを係留して、今夜のお泊まり会用に食べ物なんかを買い出して来ること。
 買った物は片っ端からゴンドラに積み込んでいこうと言う作戦なわけ。 近場に桟橋があるとこういう時便利だわ、見張って無くても大丈夫なのはすでに確認済みだしね、おおらかなもんだわ。

「由乃先輩、チキンは祐巳先輩が焼く事になってませんでしたか?」
「乃梨子ちゃん、あの祐巳さんよ? 確かにこっちに来てから料理の腕前は上がったかもしれないけど、チキンって難しいのよ? しかも丸焼きでしょ、失敗しないわけ無いでしょ」
「……失敗前提なんですか? だったら、ケーキとかも買った方がいいんじゃないですかね? 祐巳先輩が焼く事になってましたよね、結構張り切ってましたけど」
「そうね、チキンとケーキ、この二つが有ると無いとじゃ盛り上がりに関わるからね。 実は藍華さんにお奨めのケーキ聞いて来てるのよ、買って行きましょう。 チキンと言えば……そうだ乃梨子ちゃん、こっち来てから”ケ○タッキー”って見たことある?」
「”ケンタッ○ー”どころか”マク○ナルド”すら見たことありませんよ」
「そうよね〜。 300年の間に倒産でもしたのかしらね?」
「単にネオ・ヴェネツィアに存在してないだけかもしれませんよ。 でも私、”○なまるうどん”のネオ・ヴェネツィア店見つけましたよ」
「え〜〜?! どこどこ?」
「サン・バルナバ教会の向かいです。 麺が少し柔らかい感じでしたけど、久しぶりにカマ玉うどん食べましたよ」
「あ〜いいな〜、基本イタリアンだからね。 あの辺か、今度行ってみるわ」
「でも、鶏の丸焼きにケーキ……野菜か果物欲しくないですか?」
「冬野菜ねぇ〜、白菜、春菊、葱、大根、水菜? ………鍋ね…」
「クリスマスにですか? でも、そのあたりの野菜は見当たらないようですけど?」
「別にいいんじゃない鍋? でもそうか、日本野菜って事は日本村まで買い付けに行かないと無いのかしらね?」
「あ、もやしがある」
「もやしの上にバラ肉乗っけての蒸し料理……タジン鍋だっけ? 無いかな? ARIAカンパニーの台所になら有りそうな気もするわね」
「なんかなんでもありですね、あそこの台所は」
「こと料理に関してはね、アリア社長の方針でしょ。 充実のキッチングッズ。 確かな腕前のスタッフ。 もちもちポンポン。 完璧ね」
「勝手にアリア社長の方針決めない方がいいのでは? 当ってそうですけど……。 ”確かな腕前のスタッフ”に祐巳先輩が入っているなら、チキンもケーキも買わなくていいのではないですか? ズッキーニありますね、買っときます?」
「あっ、そうね買っとこうか。 半人前(シングル)は”確かな腕前のスタッフ”に入らないわ。 あ! あのチキンがいい感じじゃない? おじさ〜ん、そのチキンいくら?」
「見習い(ペア)が半人前(シングル)の事そんなん言っていいんですかね…って、由乃さま、そんな大きいの買わなくっても!」

 乃梨子ちゃんが気が付いて、私に声を掛けた時には値段交渉とお会計も済んでいた。 どうよこの早業? 自慢じゃないけどこの6か月でずいぶん磨けたと思うわ。 さ、買い物は始まったばかり、ゴンドラいっぱいにして、行くわよ! ARIAカンパニーへ!



  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *



 暖炉に火が入っていて、ARIAカンパニー2階のリビングは心地いい暖かさだ。

「ふ〜〜ん……信用されてなかったんだ……」
「ご、ごめん……」

 腕を組んでキッチンの入り口の扉に寄りかかっている祐巳さんが、軽〜く部屋に冷気を放ってる、顔は笑顔だけど眉が片方上がってるのがいい味出してるわ。

 …っで、テーブルの上には……。

 大成功していた祐巳さんのチキンと、私達の買ってきた大きいチキン。
 大成功していた祐巳さんのケーキと、私達が買ってきた藍華さんお奨めのフルーツの砂糖漬けがたくさん入っている大き目のクグロフ。 祐巳さんのもクグロフだったのね。

 意外とやるわね祐巳さん……。

 そして、私と乃梨子ちゃんの二人で買い込んだ大量の野菜や果物、大量のお菓子。 やっぱり大量のお茶とか。 フルーツ系や野菜系のジュースとか。 なんかトロッとした、たぶん牛乳系の飲み物とか。
 蛍光色が二、三色混ざりきらずにビンの中を漂っている、良くわからない飲むのにちょっと勇気がいるケミカル系とか……、ちなみにこれ、振ってもしばらく置くとまた分離する。
 なんかクリオネみたいな生き物が二、三匹入ってるのとか……この生き物が冷やしているとかで、このドリンク部屋に置いておいてもこの生物が生きている限り冷たいままなんだそうだ、そして、この生き物ごと飲むんだそうだけど…、勢いって怖いわね……。

「はぁ〜、まあね〜、アリシアさんと灯里さんにも手伝ってもらったから成功したんだけど。 ……でも、この量って…どうするのよ?」
「ほ、ほら〜”ぱぁ〜りぃ〜なあぃとぅ”じゃない? 勢いとその場の乗りで、結構食べられ……ないかな?」
「……うん…この量はちょっと厳しいと思うよ…」
「そう言いつつも、祐巳先輩はサラダを作ってるんですね」
「いや〜、ほら、なんかバランス悪いじゃない?」

 買ってきたゴンドラ一艘分の食材の山から…まあ、実際そこまでの量は無いわよ、そんなに手持ちもあるわけじゃないんだし。 それでも2週間分くらいの量買い込んだと自負してるわ! トマトとレタスと豆腐とかその他もろもろを抜き出してキッチンへ入った祐巳さんは大量に超適当サラダを作りだした。
 ちなみにドレッシングじゃなくて、乃梨子ちゃんが輸入雑貨店で見つけた柚ポン酢で代用するつもりらしい、この時代にも売ってたのね柚ポン酢って。

「…え〜〜と、さて。 残りはどうしようかしらね?」
「外のデッキに置きませんか? だいぶ冷えてきてますし。 あっ、何かで覆って置いた方がいいですね、確か天気予報で今夜は雪が降るって言ってました」
「そうね〜、…ナスと…パプリカと〜…ズッキーニ……、夏野菜じゃなかったっけ? 高くなかった?」
「まあ、高かったけど。 とりあえず見てわかる野菜買ってきたんだけど、ぜんぜん判んないの買って来るよりはましでしょ?」
「それはそうか。 由乃さん達は、この辺の勉強も必要ね…」
「そうかもだけど、自室のキッチンは狭いのよ。 食堂に行けば取りあえず食事の心配は無いし」
「私の所はキッチン無いですから。 お湯くらいなら沸かせますけれど、下手すると同室のナミさんに迷惑もかかりますから」
「でもその狭いキッチンで、藍華さんは”藍華チャーハン”作ってくれたわよ? そうねぇ〜、乃梨子ちゃんの所は確かに無理っぽいわね。 そう言えば初めて聞いたわね乃梨子ちゃんの同室の人の名前。 ナミさん?」
「あれ? そうでしたっけ? ナミ・ファランドールさん、半人前(シングル)の方です。 観光案内の座学に付き合ってもらったりしてます。 そうそう、前にトラゲットで祐巳先輩とご一緒したそうですよ」
「あ〜〜あの人ね、ロングストレートの黒髪が綺麗な人ね。 額にビンディーしてなかった?」
「ビンディーってヒンズー教の?」
「そそ。 あ、これテーブルに並べて〜」
「はいはい……って、いつのまに野菜のフリッターなんか…腕を上げたわね祐巳さん……」
「はいはい、それなりにやってますから私」
「してますね、そんなに熱心な信者じゃないって言ってましたけど」
「なんか苦労性っぽい人だったわね…。 ね〜、そろそろ始めない? 料理足りなくなったらまた作るわよ」
「灯里さんは?」
「え〜と…まだね、1時間位だって言ってたし。 じゃあ由乃さんと乃梨子ちゃんテーブル周りお願い。 私キッチンの方やるから」
「了解。 乃梨子ちゃん、それお願いね」
「はい。 あ、祐巳先輩、荷物を覆っておくシートはありませんか?」
「あ〜、一階の倉庫分かる? 左奥の一番下の段にゴンドラに掛けるシートが何枚かあったはずよ」
「はい分かりました」
「…………ところで祐巳さん」
「ん? なに由乃さん?」
「……タジン鍋ってある?」
「…あるけど……なにか作るの?」



  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *



「「「 乾〜杯〜〜!! 」」」

 スパークリングワイン(アルコール度数5%未満)を注いだグラスを掲げてパーティーが始まる。 用意した料理がテーブルの上に並べられている……まあ、チキンとケーキが完全に被ってて、怪しげなドリンク類がテンコ盛りだけど。

「まあ、形には成ったわね」
「祐巳先輩のおかげですね」
「そんなこと無いわよ〜」
「そうそう、そんなこと無いわよ〜……あ、おいしいわね祐巳さんのチキン、意外にも…」
「ね〜え〜〜、そろそろ気を悪くしてもいいかしら?」
「あははは、ごめんごめん」
「…さすがの由乃さまも、祐巳さまに気を悪くされるのはいやなわけですね……ホントに、大成功ですね祐巳さま」
「乃梨子ちゃん、”さま”に戻ってる」
「使い分けです」
「……基準は? 何を基準に使い分けてるのよ?」
「…その場の…乗り?」
「…すばらしい基準ね」

 まあ、そんなわけ無いんだろうけど。 乃梨子ちゃんだしね。

「でも、そうか〜もう半年経っちゃったのか……早かったな〜…」
「…ですね、あっという間でしたね」
「由乃さんは、藍華さんを手伝って支店長業務の補佐とかもしてるでしょ。 乃梨子ちゃんは、養成所が当初聞いてたのより時間長く掛かったりで大変そうだし…。 二人ともいろいろとやってるんだもの、早く感じて当然だわ」
「前々から思ってたんですけど、”支店長業務”って由乃先輩”確か”見習い(ペア)でしたよね?、私と同じで…」
「そのはずなんだけど。 変よねぇ、最近は”副支店長”って言ってくる人もいるのよ」
「……それはさすがに…」
「うん、冗談だよね?」
「…………ぃゃ……ホント…」
「「………姫屋って…」」
「……大らかでいいじゃん」
「ちょっと違うんじゃ…」
「ぅぅ……。 そ、そうだ! オレンジ・ぷらねっとの”ごきげんよう”ブームどうなったのよ?」
「無理やりですね。 絶賛続行中です」
「前にね、リリアンの修学旅行生に行き会ったのよ、その時に”ごきげんよう”って声を掛けてみたの。 キャアキャア喜んでたな、今も制服変わらないし奇跡的に校舎も薔薇の館も…… ? ど、どうしたの?二人とも」
「……どうしたてって…ねぇ…」
「……はい…」

 祐巳さん、会話の選択ミスだわ。
 2年近くここにいる祐巳さん。 元居た時代の事、リリアンの事や、家族、お姉さまの祥子さまの事、…記憶が薄れてるの? そんなわけないよね? 忘れてしまえるわけないよね? ……瞳子ちゃんなんか…。
 …私達にとってはまだ半年前の事、そして、忘れられる訳がない。 ただ…。

「ただいま〜、寒い〜〜。 あ、もう始めてる……んだよね?」

 ちょっと重い雰囲気になっていたところへ、灯里さんが外出から帰ってきた。 よし、この雰囲気の打破は灯里さんにやってもらおう、うん、そうしよう。

「お帰りなさい、灯里さん」
「お帰りなさい」
「お帰りなさい。 プレゼント配りご苦労様です。 あは、もらっても来たんですね」
「うん、暁さんに貰ったの…」
「げ、ポニ男の?」
「え? ”げ”って?」
「い、いえいえ、なんでもないですから! ちょっと由乃さん…」
「…あ〜男なんだ…やっぱり…」
「へぇ〜…ちょっと意外です」
「え〜〜、違うよ〜〜。 別に暁さんとお付き合いしている訳じゃないよ〜」

 うれしそうに赤くなっている灯里さん。 可愛いなぁ〜。

       ・  ・
       ・  ・

 あまり可愛かったから、私と乃梨子ちゃんで少〜し弄ったら……灯里さん拗ねちゃった。 で、どうなったかというと……。

「歌…ですか?」
「そう、三人の元居た時代の歌を聞かせて欲しいな。 あ、”マリア様の心”は禁止ね。 祐巳ちゃん歌って言うと、それしか歌ってくれないんだもの」
「祐巳さん、”ワンパターン”って言葉知ってる?」
「うう、だって〜、急に言われるとそれしか頭に浮かばなくって…つい…」
「いえ、それにしたって。 そんな事ないと思いますけど、”マリア様の心”みたいな系列の歌しかないと思われてしまう可能性もあるのではないですか?」
「あ、やっぱり違う歌もあるのね」
「本気で言ってます灯里さん?」
「え〜〜と〜……。 どうしよう、誰から歌う?」
「何歌ったらいいんだろ? 迷うわね」
「何でもいいのよ、私にとってははじめて聞く曲になるんだし」
「じゃあ、私からいかせていただきます」
「ん? 乃梨子ちゃんいく? 前みたいに”Dragon Ash”?」
「いえ、あの手は曲と一緒じゃないと乗りが悪いですし、だいいちマヌケに聞こえます。 んん! では……こんな感じで…」

 乃梨子ちゃんは一つ咳払いをすると、指先で軽く机を叩いてリズムを取り出す。 お行儀がいいとはいえないけど、楽器が無いんだからしかたない。 そのリズムは覚えがある、ちょっと懐かしい番組のオープニングだ。


 * 乃梨子
『地上の星』( +プロジェクトXの名言集) 中島みゆき

 http://www.youtube.com/watch?v=rnpDZvopQyE&feature=related

「…渋い所ついてくるわね…」
「うちのお父さん、オープニングのこの曲聞いただけでちょっと涙ぐんでたわ」
「あは、うちもうちも」
「え〜、どんな番組だったの?」

 ( …… 説明中 …… 説明中 …… )

「へえ〜、そんな感動的で素敵ングな番組があったのね、そんな番組の歌が聴けるなんて、今夜のARIAカンパニーのリビングはネオ・ヴェネツィア一番の特等席だね」
「え〜〜……。 じゃ、じゃあ次、私でいいわね? え〜と…」

 何かを期待するように、祐巳さんと乃梨子ちゃんが私の方を見てたけど。 え? あによ?


 * 由乃
『ASAHI 〜SHINE & GROOVE〜』(アテネ五輪女子ホッケー日本代表チームオフィシャルサポートソング) 大黒摩季&Sixteen female fighters on the field

 http://www.youtube.com/watch?v=gbWt3XCHQRU

「前カラオケ行った時にも歌った曲ですよね。 まあ、由乃先輩らしい曲ですけど」
「らしいって言えばらしいけど。 あの時は大変だったのよね…」
「ん? 何かあったの?」
「え〜〜と…、実はですね…(コショコショコショ)…」
「そこ〜! 言うな!! せっかく令ちゃんや菜々以上に考えないようにしてたのに〜〜〜」
「あ〜、祐麒のこと忘れてた訳じゃなかったのね…」
「へぇ〜 彼氏さん?」

 ううっ、そりゃ付き合い始めて間がないけどさ……、あぁぁぁ、なんか気になっちゃうじゃない!

「あ、じゃあ私、こんな曲でいいのかな?」


 * 祐巳
『Cagayake! GIRLS』(けいおん! 一期OP)放課後ティータイム(ここでは実存のバンドとして扱います)

 http://www.youtube.com/watch?v=ks6q3DT4pTo

「わぁ〜あ、祐巳ちゃんが”マリア様の心”以外の曲歌ってる。 ねえねえ、この歌って人気有るの?」
「結構人気有ります…よね?」
「疑問型なの?」
「あんまり新しいところのは詳しくないので…このバンドの曲は知ってますけど…。 じゃあ同じバンドのこんなのを…」


 * 乃梨子……途中から祐巳加入。
『ふわふわ時間』 (けいおん! 挿入歌 唯&澪ツインボーカルVer.) 放課後ティータイム

 http://www.youtube.com/watch?v=LL9wbhma5Kg&NR=1

「わぁ〜、可愛い曲〜。 二人にぴったりの歌ね」
「えええ〜〜、そうですか〜〜」
「な、なんか恥ずかしいです…歌い始めたの私ですけど…」
「まあ、元歌歌ってるのも女子高生五人のバンドですから、二人にぴったりってのも分かりますよ」
「んふふ、由乃ちゃんもこんなの歌ってよ」
「私には無理です。 でも、こんなのなら得意です!」


 * 由乃
『熱くなれ』(【MAD】バンブーブレード×熱くなれ/大黒摩季【修正版】NHK アトランタオリンピック放送テーマソング) 大黒摩季

 http://www.youtube.com/watch?v=eVL_pZDOdv0

「この曲って、ちょっと前のだけど…盛り上がるよねぇ〜!」
「うん! すごく元気が出る曲だね! ねね、こんなの他にも無いのかな?」
「ええ〜? 他にこんな〜…こんな〜…。 な、なんかあったっけ?」
「え〜〜と、え〜〜と……な、なにかないかな乃梨子ちゃん?!」
「わ、私は次は『ヘッドライト・テールライト』でもいこうかと思ってたんですが」
「そ〜だ、これだったら祐巳さんもいっしょに歌えるでしょ……」


 たまに思い出したように料理を食べ、お茶やジュースを飲み、歌って、おしゃべりに花を咲かせ。 ”静か”とは程遠いような気もするけど、これも私達流のクリスマス。


    いいじゃん、それで!


       ・  ・
       ・  ・


「”夕凪の時代”と、その後の”人の夜”って言う50年位の間、人間はすごく衰退したの、その時に細かい記録が散逸してしまってて、今3人が歌ってくれたような歌殆んど伝わっていないの…」

 5,6曲歌ったところで灯里さんは、何で歌が聞きたいなんて言い出したのか話してくれた。

 世界的に起こった少子化と天変地異、海面上昇などで人口が激減してしまった時代があったんだそうだ。 公官庁などの公文書や学術的な記録は優先的に残された、金銭的に余裕がある大企業や財閥などは独自に記録保持をした所もあったようだが、殆どの細かい民間の記録は散逸している……。 ちょっと……ショックかも……。
 でも、そんな中でもリリアン女学園は、薔薇の館は、往時の姿を残すことが出来た……人々の努力と、マリア様の奇跡……か。

「だから、本当なら知ることもかなわないような歌を聞くいい機会かなって思ったの。 思いの他いい歌もいっぱい聞けたし、こんな素敵な出会いをくれた奇跡に感謝だね」

 私達は、その”素敵”な出会いをくれた”奇跡”のおかげで大変な思いをしているんで素直に喜べないんですが…。 あれ? また、私の方を期待の眼差しで見る祐巳さんと乃梨子ちゃん。 なに?
 乃梨子ちゃんが何かを思い出したように”あっ”っと声を上げて…。

「由乃先輩、ARIAカンパニー社員のボケに突っ込みを入れるのは姫屋の通常業務だってアリスさんが言ってましたよ」
「やな、通常業務ね…」
「”ARIAカンパニー社員のボケ”?」
「ああ〜、そうか! あれね。 私がやっていいの? 灯里さん、恥ずかしいセリフ禁止です!」
「え〜〜〜?! そんな、時間差で?」

 なるほど、さっきもこれを待ってたわけね。 通常業務ね〜、こりゃ楽しいけど”恥ずかしい”の基準が難しいとこね。

「そうだ、祐巳ちゃんが来た時から、言おう言おうと思ってた事があったの」
「ずいぶんのんびりですね、2年近くたっているのに」
「えへへ、なんか機会を逸しちゃってて……。 でも三人そろっててちょうどいいし、その〜、もしかしたら…帰るヒントになるかな〜…って」

 帰るヒントか…。 意図せずここへと私達を連れて来てしまったゴロンタ=ケットシーから”帰れない”って聞かされてしまっているんだけど。 期待…していいのかな?

 ネオ・ヴェネツィアの外れに、アクア(火星)への入植が始まった当時に作られた古い橋があるんだそうだ。 たまに研究者や、当時その近くの入植村に住んでいた人達の子孫が墓参りに訪れる程度で、訪れる人は少ない。 灯里さんはそこを訪れて、入植間も無い過去の入植村へとタイムスリップして、また戻ってきたんだそうだ。

 でも……なんか、灯里さんの本音は別の所にあるように見える話し方と表情…。

 そして……、私は………。



    『 帰りたい?  帰りたく…… 』



  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *



『 たのも〜!! た〜の〜も〜〜〜!! 』


「んえ…?」
「…んん? ……なに?」
「ふぁぁぁ〜……ぇ?」


『 たぁぁ〜〜のぉ〜もぉぉ〜〜〜〜!! 』


「あ? 藍華さん?!」

 ベットサイドの時計を見ると、朝の7時30分ちょっと回ったところ。 例によってなぜかくっつけられている2つのセミダブルベットの上から、私と祐巳さんと乃梨子ちゃんの3人でモソモソと丸窓から外を見ると、1階のテラスに腰に手をあてて胸をそらせ、なぜか不敵な笑みを浮かべた藍華さんが立っていた。

「由乃〜、すぐ準備して出てきなさい! 雪見に出かけるわよ!」
「はあ〜ぁ?! ちょ! なんですか、そのいきなりなイベントは?! 聞いてませんよ!」
「そりゃそうよ、あんたに言ってなかっただけだし。 いや違うわね、決めたの昨日だし」
「寒いから拒否したいんですが」
「却下! いいから出かけるわよ」
「まあまあ、藍華ちゃん」

 あ、2階で朝食を作っていたらしいエプロンを着けた灯里さんが、藍華さんの所へと出て行き何か話している。 中止になるように説得してもらえればラッキー……かな? あ、ダメだったみたい…。 何かに納得したようにうなづいてるわ。

「とりあえず3人とも降りて来て。 朝ごはんにしましょ」
「は〜い」「わかりました」「…は〜〜い……」

  ・
  ・
  ・

「何もこんな寒い日にやらなくたっていいと思うんだけどなぁ」
「さすがに今日はかなり冷えますね。 クリスマスでのんびりできるのかと思ってたんですけど」

 制服に着替えて階下に降りると、藍華さんは灯里さんからクロワッサンを受け取ってパクついてた。 朝食食べてこなかったの? 

「あ、乃梨子ちゃんはここでのんびりしててもいいわよ。 今日は姫屋のイベントってことで、由乃に漕がせるから」
「………風邪ひいたんで、休んでいいですか?」
「そう、なら雪見の後、部屋でじっくりマッタリ看病してあげるわ。 とにかく行くわよ準備しなさい」
「いや藍華ちゃん、朝はしっかり食べなきゃ。 ほら3人とも座って座って」
「そう言えばそうね。 さあ、さっさと食べましょう」

 なぜか藍華さんの号令で朝食となった、スクランブルエッグとミネストローネおいしいわ。
 暖かいうちに食べた方がいいんだろうけど、この後のイベントと言う名の仕打ちを考えるとペースとテンションは落ちる、なんで今日よ? のんびりすりゃあいいじゃない。




  * *   ――   * *   ――   * *   ――   * *




 夜のうちに降った雪が、暖かげな日差しにキラキラ光っている。 でも寒いものは寒いわよ。


 保温容器にお弁当、キャンプで使うコンロまでARIAカンパニーから借り出して、毛糸の帽子とストールでおしゃれした姫社長を抱いた藍華さんを乗せてカナル・グランデへと漕ぎ出したのが朝の9時くらい。

 そして……目の前には……。

「どうよ、この景色は。 ネオ・ヴェネツィアが一望できるでしょ」
「…すごい……」
「”風車の丘”って言ってね、ここも観光地として有名な所だから、覚えときなさいね」
「ああ、それでですね、この寒い中何艘かゴンドラと会いましたっけね」

 観光客の乗った大きなゴンドラや、ヴァポレットが時折対面で行きかう細い水路の先、水上エレベーターを二つほど登った所に、たくさんの白い風車が回るその丘が今日の目的地だったらしい。

「観光シーズンはこんなもんじゃないわよ、あれの3,4倍は来ると思いなさいね」

 おや? あからさまに不満げに言ってやったのに流された。

「ここまで良くがんばったわ。 流れに逆らって、この細い陸橋水路をトラブルも無く漕ぎきってくれたし。 まあ、最近のあんたの操船からすると心配はしてなかったんだけど……なんか、あたしよりアリシアさんっぽいし……いや、それはいいか…。 支店長業務も忙しくてあんまり細かい指導できてたとも思えないけど、そっちも良く手伝ってもくれたわね……」

 なんだか”終わり”の挨拶をしてるみたいな藍華さん。 でも澄んだ空気の中、遠くに見えるネオ・ヴェネツィアを見るその表情は、とってもうれしそうだ。

「暖かくなってから〜〜…って思ったんだけど、約一年も見習い(ペア)のまんまでノホホンとさせとくには勿体無いくらいの実力つけたしね。 ……ここにはね、もう1つ名前があるのよ……」
「もう1つの名前? ですか…」
「……水先案内人(ウンディーネ)の間ではね。 ”希望の丘”って言われてるのよ…」
「”希望の丘”?」

 藍華さんは私の方に向き直ると、晃さんそっくりに”ニカッ”っと笑ってみせると私の右手を取った。

「私からのクリスマスプレゼントよ」




        
          〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 4話へ つづく 〜・〜・〜・〜





 ―  *  ――  *  ――  *  ――  *  ――  *  ――



  飲食店の種類

 ……を分類して説明もつけようと思ったんですが……、日本でもたくさんあってそれを書き出せといわれたら躊躇するでしょ?

 取りあえず、『地球○歩き方〜A11 ミラノ ヴェネツィアと湖水地方編‘08〜‘09』に載っていたの書き出してみると……。

 リストランテ * トラットリア * オステリア * ターヴォラ・カルダ * ロスティチェリア * セルフサービス * ピッツェリア * アル・ターリョ * ルースティカ * バール * カフェ * サラ・ダ・テ * ジェラテリア * エノテカ * ビッレリア

 あとは、各自ググルなりウィきるして調べましょう。


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