【3259】 涙を堪えて立ち上がれつないだ手は離さない晴れ時々笑顔  (ex 2010-08-25 20:39:37)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:これ】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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「るーもす」
杖も持っていない祐巳の指先に、灯りが浮かんでいた。



 魔法を使う、ということは、魔導式を構築し、演算し、展開することに他ならない。
 魔導式を構築しない限り、魔法は使えない。
 また、計算する能力がなければ魔法を使いこなした、とは言えない。
 光を生み出すにしても、光を生み出す魔導式を理解し、どれくらいの強さで、どこに生み出すのか計算を行わなければならない。
 すべてを理解したうえで魔法陣を展開し始めて魔法が生み出されるのだ。

 そして、通常は杖を使う。
 杖は、使用者の魔力を集中させ増幅する効果がある。
 もちろん高位の魔法使いになれば杖なしでも魔法を使うことは可能であるが力の低下は免れない。
 また、魔力はその使用したエネルギー反動が使用者に帰る。
 火を生み出せば、その反動で使用者も焼けてしまう。魔法を使うということはそれだけのリスクも伴うのだ。
 杖には、反動を吸収する力もある。

 使用者に返ってくる魔法の反動を抑える方法はいくつかある。
 魔法使いは通常は杖に本人の魔力を送り込み反動を抑える。
 そのほかに、身体強化をする、結界を張るなどの方法があり、使用者は得意な分野で自分の身を守っている。
 身体強化のほかに覇気を纏うものもある。気の力で反動をはじき返すのだ。結界は神通力に分類され使用者の周囲に存在する神魔や精霊の力を借りる。

「ルーモス」と祥子が唱えた時、祐巳は一見しただけでその魔導式を理解し、計算を行い魔法陣を生み出したのだ。
 それは本能なのか。たぐいまれなる才能なのか。
 しかも杖なしで。
「るーもす」と幼い祐巳が唱えた時、祐巳の周囲に存在していた精霊たちが自然に祐巳を守ったのだ。
 生まれながらの神通力の申し子。
 かつて、祐巳の母親、みきが展開していた結界を知っている清子は、祐巳を守った存在に気付く。
「祐巳ちゃんは、愛されてるのね」
 そうつぶやく清子に、祥子は不思議そうな顔を向ける。
「祐巳のことはみんな大好きよ?」
 祐巳を守った精霊たちの存在に気付かない祥子は、家族が祐巳を愛している、と勘違いしていた。



「ねえ、祐巳ちゃん」
 清子は、内心の動揺をおさえ、優しく祐巳に語り掛ける。
「今、杖を使わずに魔法を唱えたでしょ?」
「うん!」
 自分の作り出した「ルーモス」の光に見入っていた祐巳がうなづく。

「あのね、魔法を使うときは、杖を使わないといけないの」
 とたんに、悲しげな顔で祐巳がうつむく。
「だって・・・・ゆみ、つえをもっていないもの」
「そうね。・・・・わたしが昔使っていた杖をあげるわ。それならいいでしょう?」
「えっ!!」
 祐巳の顔が満開の花のように輝く。
「ほうとう?わ〜、さちこさま、ゆみもつえをもらえるって!」
「よかったわね、おかあさまの杖なら、わたしとおそろいになるわね」
 祥子も、嬉しそうにうなづく。
「でもね、祐巳ちゃん。魔法を使うのは本当は危ないの。だから、きちんとした格好で使わないといけないのよ」
 祐巳はいつも姿勢を正して魔法を使う祥子を見ていた。
「はい、わかりました!」
 元気に返事をする祐巳に清子は、
「じゃあ、魔法を使うときは、必ず・・・そうね、このリボンをつけてから行うこと」
清子が取り出したのは、真っ赤なベルベットのリボン。
「このリボンをこうして・・・はい、できました」
 祐巳の顔の横に小さなツインテールができあがった。
「まぁ、ゆみ、かわいいわ」
 祥子があまりの祐巳の可愛さに感心した声を上げ、祐巳は嬉しそうに笑った。
 そのリボンには、「マカンダ(魔法威力半減)」の魔法がかけられていた。
(・・・祐巳ちゃんの力はまだ未知数。安全のためにも最低限、これくらいはしておかなければ・・・)
 左右に二つのリボン。
 実質、祐巳の魔力は4分の1に抑えられたことになる。



 祐巳の小学部への入学式の次の日曜日。
 清子は、祥子と祐巳を連れて、みきたちの入院している病院を訪れた。

 物言わぬみきと祐一郎の姿を祐巳に見せることはつらかったが、祐巳の入学式の様子を両親に報告したかったのだ。
 みきと祐一郎は隣同士のベッドで眠っている。
 みきはやせ衰えていたが、往時の可憐な容姿をかろうじて保っていた。
 鼻と、二の腕にチューブが刺さり痛々しげな姿に思わず清子は目を背けたくなった。

「おかぁさん、おとぉさん」
 祐巳が、みきの手をとってベッドの横に立つ。
「ゆみね、おととい、小学生になったんだよ。さやこさまが、ランドセルを買ってくれたの」
 答えない母親に、幼い祐巳がうれしそうに報告を行う。

 清子はおもわず涙をこぼしそうになった。

「小学生になったから、ゆみ、もっとしっかりしなくちゃならないんだ。
それとね、さちこさまと『こんやく』したの。」

「えっ?」と清子は驚いた。

「さちこさまがね、ゆみも小学生になっかたら、スールになりましょうって」
(スールになるのを、『こんやく』と間違えたのね・・・)
 可愛い間違いを微笑ましく思っていると、隣の祥子が顔を真っ赤にしてそっぽをむいた。

「ほんとうは、『こうとうぶ』にはいってからスールになるんだけど、『こんやく』したから、これからさちこさまのことを、『おねえさま』ってよんでいいんだって」
 嬉しそうにみきと祐一郎に報告する祐巳。

「さちこさまを『おねえさま』ってよべるのよ。ゆみ、ちょっと泣いちゃった。うれしかったからだよ?」

 祥子も、祐巳の隣に立ち、しっかりと祐巳の両親に告げる。
「みきおばさま、祐一郎おじさま、ゆみとスールになります。見守ってください。」

「あらあら、本当に婚約したみたいね」
 清子は嬉しさで胸がいっぱいになった。
 祐巳が高等部に上がって祥子とスールになる。
 それは、祐巳を養子に、という願いはかなわないまでも、スールであればわが子も同然。
 祐巳を堂々と「祥子の妹」として呼べるのだ。

 微笑みあう祐巳と祥子をみて、清子はひとつ思いついた。

「ねぇ、祐巳ちゃん。これから「さやこさま」のことを、「おかあさま」って呼んでくれないかしら?」
「えっ?」きょとんとした顔で祐巳が清子を見上げた。
「だって、ゆみにはおかぁさんが・・・」
「ええ。みきさんは祐巳ちゃんの『おかぁさん』。
そして、祐巳ちゃんと祥子はスールになるのでしょう?
だったら祥子のおかあさまの『さやこさま』のことも、これからは、『おかあさま』って呼んでもいいのよ?
祐巳ちゃんには、『おかぁさん』と『おかあさま』ができるの。
祐巳ちゃんが『さやこさま』のことを『おかあさま』って呼んでくれたら、嬉しいわ」

 むちゃくちゃな理屈だが、さやこさまをおかあさまとよぶ、すると、さやこさまがよろこぶ、と祐巳は理解した。

「おかあさま」小さな声で清子を呼んでみる。
 とたんに、涙が祐巳の瞳から溢れ出した。
ずっと、「おかあさま」と呼ぶことに憧れていたのだろう。
「おかあさま・・・」
 一度声に出すと止まらなかった。
「おかあさま・・・おかあさま・・・おかあさまーーー!!」

 清子はその両腕で、祥子と祐巳を抱きしめた。
 三人とも涙をこぼしていたが、それはとても暖かな涙だった。



 祐巳が小学部へ上がり、小笠原家で幸せに暮らす。
 祥子とともに清子の魔法英才教育を受けることになったが、それをこころよく思わないもの達もいた。


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