【3300】 私は貴女の盾となる  (ex 2010-09-26 21:42:47)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:これ】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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☆★☆ 5月14日(土曜日)のその後 【祐巳とその周囲 その3】 ☆★☆

〜5月21日(土) 山梨県 祝部家〜

「それで、具体的にはなにをすればいいの? おばばさま」

「まず、志摩子さんの修行じゃの。 志摩子さん、そなた 『理力の剣』 を授かったようじゃな」
「はい、不思議なんですけど、この剣にひきつけられました。 まるで私を待っていたかのようでした」

「その剣は修行を積めば積むほど持ち主に答えてくれる剣じゃ。 大事にしなされ。
 ”ことわり”の力を具現化する剣、それが 『理力の剣』 じゃ。 不思議な力を持った剣なのじゃよ」

「はい。 それでおばばさま、”ことわり”の力とはなんでしょうか?」

「神通力にも法力にも、魔力にも、その力の源には ”ことわり” があるのじゃ。 
 その剣に掘り込まれた文字、紋様は様々な力の ”ことわり” を理解しすることができる。
 たとえば、法力で張られた結界も、その ”ことわり” を力とするその剣なら切って進むことが出来る」

「そんなことが・・・!」

「だが、その力を引き出すだけの力が持ち主に備わってなければならぬ。 励みなされ」

「はい! わかりました!」

「志摩子さんは祐巳が行ってきた修行をさらに厳しく行わねばならぬ。
 時間が無いのじゃよ。 多分、3〜4ヵ月後には魔界と繋がる。
 それまでに、ソロモン王と対抗できるまでにならなければならん。
 不可能を可能とするほどの修練が必要じゃ」

「あの・・・そのことですが、おばばさま。 わたしにも祐巳さんと同じミサンガを頂けませんでしょうか?
 もっともっと強くなって、祐巳さんを守りたいんです!」

「志摩子さん! あれ、死ぬほど苦しいんだよ・・・。無理しないで・・・」
「祐巳さんは出来たわ。 わたしに出来ないことはないはずよ」
「わかった・・・。おばばさま、わたしももう一回ミサンガをする」

「二人とも・・・。仕方ないのう・・・。 じゃがかなり有効な手段ではある・・・。ふむ、そうするか。
 それにしても志摩子さん」
「はい」
「そなた・・・。見た目と違って強情じゃな」
 おばばは嬉しそうに笑った。
「そなたは、祐巳の唯一の 『守護剣士』 じゃ。 よろしくお願いいたします」



「それと、次に祐巳」
「はい」
「お前は、まだ『フォーチュン』の力を出し切っておらぬ。 それをこれから3ヶ月で身につけなければならん」

「この杖に隠された力があるの?」
「別に隠しておるわけではない。 お前が知らんだけじゃ」
「え?」
「『フォーチュン』のサーモンピンクの色は、紅色、黄色、白色の3色が混ざった色。
 まず、真紅にその宝石が輝くとき、膨大な魔力がはじけすさまじい攻撃魔法が生まれる。
 すでにこれは経験しているのではないか?」
「あ・・・。最後に魔法を・・・『マハラギオン』を使ったとき、真紅の輝きが見えました」

「うむ、そうじゃろう・・・。
 次に、黄金に輝くとき、その杖で切れぬものはないほどの鋭利な刃となる」

「はい、魔物を簡単に切ることができました。 でも、色が変わったのは気がつかなかったなぁ」

「最後に、純白に輝くとき、この杖は『癒しの光』を放つことが出来る。
 癒しの光だけではなく、自身や仲間の強化の魔法も使うことができるようになる。
 これから先、無傷での戦いばかりではないであろう。 自分自身が傷つくこともあれば、仲間が傷つくこともある。
 そのとき、この杖の純白の光がみなを癒してくれるじゃろう」

「そんな! そんなすごいことができるの!?」

「あぁ。 この杖の力を引き出す修行をせねばならん。
 この3つの力を自在に操ることが出来なければ、この世に『幸運』をもたらすことは出来んのじゃ。
 辛い修行じゃが・・・。しっかり励んでおくれ」

「はい! おばばさま! よろしくお願いします!」



「それで、聖さん」
「はい」

「二人の修行のことは、ほかの皆さんには秘密にしておってくれんじゃろうか?
 もちろん、祐巳の手足が動くことは秘密に・・・。 毎週祥子さんたちにはウソの報告をしてもらうことになるがの」

「え・・・。それはどうしてですか?」

「それこそ、”老婆心” なのじゃが・・・。 年寄りの勘じゃ。 何も聞かず、お願いいたします」
「・・・・・・。わかりました。 でも、あまり嬉しくはないお願いですね・・・」
「そなたには、辛いことばかりお願いすることになるかもしれません。 ですが・・・そなたにしか頼めないことなのですよ。
 お願いいたします」

「おばばさま・・・・。おばばさまからそこまで言われては断れないですね。
 うん! わかりました! 大船に乗った気持ちで、ど〜んとお任せください!」

 意を決した聖は、最後にニカッと格好良く笑った。



☆★☆ 5月14日(土曜日)のその後 【祐巳とその周囲 その4】 ☆★☆

 5月末から、山梨の地元の高校に編入した祐巳と志摩子。

 祐巳は学校に行っている間、左手と右足を封じ、車椅子ですごすことになった。
 毎日、志摩子が祐巳の車椅子を押して登校する姿が見られるようになった。

 ふたりの手首にはおそろいのミサンガ。

 志摩子はかつて祐巳が味わった地獄のような苦しみの中に居た。

「ゆ・・・祐巳・・・さん。 ふぅ・・・ふぅ・・・。なに・・・これ・・・」
「志摩子さん、最初はあまりしゃべらないほうがいいよ?
 軽く走るだけで死にそうになるから。 車椅子を押してこの坂を上りながらしゃべるとか、自殺行為だよ?」

「う・・・・。ふぅ・・・・」
 思わず、立ちくらみ倒れそうになる志摩子。

(こんな・・・こんなことくらいでくじけられない!! 祐巳さんはもっと小さな頃からこれをしたんだ!)

 気を取り直し、必死で車椅子を押し続ける志摩子。

 その間、祐巳は目を閉じ、恐ろしく複雑な演算を頭の中でこなしていた。
 普通の魔法使いであれば生涯かけて計算しうる量の演算を通学時間の間だけで処理しながら、志摩子を気遣う言葉をかける祐巳。

 祐巳はおばばに与えられた新しい魔法の魔導式を構築し、演算している。

 攻撃魔法など・・・。あの妖精の純粋なる高度な魔法『マハラギオン』でさえ・・・
 祐巳の今行っている演算の数分の一もない。

 『フォーチュン』 から、純白の癒しの光を導き出す魔法を身につけようと、静かに修行に励む祐巳であった。



 祐巳と志摩子が転入した山梨の高校では、祐巳と志摩子を一目見ようと、休み時間になると窓から鈴なりの視線が。

 かたや、車椅子にのった薄幸の美少女。 そしてその美少女にかしずくように仕える麗しい少女。

「東京のリリアン女学園からの転校生よ・・・」
「え〜。あの、超々お嬢様学校の?」
「うわ〜。美しいね〜。 さすがお嬢様は違うわ」
「それにしても、体力無さそう〜。 色も真っ白でちょっと病的?」
「深窓の令嬢、って、みんなあんなのかなぁ・・・」

 いろいろと誤解も多いようであるが、志摩子にはそれを正す気力もなかった。
 なにせ、学校に居る間、祐巳は志摩子と話す時間以外、ずっと目を閉じて魔導式の構築・演算をしているのだ。

 そして自分自身は、祐巳の世話をし、なるべく教室内の雑用を引き受け、すこしでも体を動かすことに勤めた。
 ランダマイザを纏った体は動くだけで悲鳴を上げそうになるほどきつい。
 しかし、動くこと、それだけで修行になるのだと思えば、雑用なんてなんていうことはない、と志摩子は思っていた。

 教室内で、そして高校全体で志摩子の人気は上がってゆく。

 絶世の美少女であり、リリアンのお嬢様。
 華奢な外見であるのに、率先して雑用をこなし積極的にボランティアに参加する。
 人当たりも良く、その所作は美しい。
 体育の授業では、見た目の華奢な印象どおり、すこし運動が苦手に見える。
 支えてあげたくなるような少女。 しかし瞳に強そうな意志の光を見せる少女。
 人気が出ないわけがなかった。

 その一方で、志摩子以外と口を利かず、一から十まで志摩子に世話をさせる祐巳の人気はあまりよろしくはない。
 左手と右足が動かない、という噂。
 一日中瞳を閉じて、車椅子でじっとしているその姿。
 不気味、としかいいようのない生活スタイルであるが、見た目は本当に美しい。
 志摩子ほどの美少女が仕えているのだ。 只者ではない。
 しかも、志摩子と話すときだけ明るい笑顔を浮かべるのを見たクラスメイトは、「マリアさまみたいな微笑・・・」と言ったとか。



 6月に入ってすぐ、この高校では中間テストが行われる日程になっていた。

「祐巳さん、テストだいじょうぶ?」 と志摩子が祐巳に心配そうに聞く。
「ん?どうして?」 こちらはその問いを不思議そうな顔で見上げる。

「いや・・・。祐巳さんって学校の勉強をしているところ、見たことないから」
「あ〜。 そっちか〜。 一応、教科書を買ったとき全部読んだから。 大丈夫じゃないかなぁ?」
「でも、発展問題もあるでしょう?」
「えっと、先生の教室での言葉は全部覚えてるし・・・。ダメかな?」

 なにげに恐ろしいことを言う祐巳。
 何もしていないようで居て、教科書の全暗記、教師の言葉の全暗記をしている、と言うのだ。

「祐巳さん、授業中もめちゃくちゃ複雑な魔導式の演算を行っている、って言ってたわよね」
「うん、そうだよ。 どうかしたの?」
「そんな演算しながら、先生の話は全部聞いてたの?」
「だって、考えてるのは頭の中だけで、耳は先生の話を聞いている。 別に同時にしていたって変じゃないと思うけど?」

「そんなこと出来るなんて、祐巳さんくらいなものよ!」

 驚いた顔をしている志摩子に、祐巳はちょっと気の毒そうに、
「志摩子さんも、そのうちこれ、おばばさまに仕込まれるから・・・。体よりこっちのほうがきついかも・・」

 げっ・・・。なんだそれは・・・。 祐巳の言葉に背筋が寒くなる志摩子だった。

 結局、この中間テストを全教科満点で終え、学年トップになった祐巳。
 しかしまったく喜びはなく、ただ、「おばばさまのお仕置きがなくてよかった・・・」とほっと安堵の息をついただけであった。

「志摩子さん、あのね。 今回は初めての中間テストだから『お仕置き』は免除かもしれないけど、
 期末テストは覚悟しておいたほうがいいよ・・・。 おばばさまの 『お仕置き』 半端ないから」

 心配そうに志摩子を見つめる目は、冗談の欠片も浮かんでいなかった。



 夕方、祝部神社の裏山では何時ものように祐巳と志摩子が修行に励んでいる。

「志摩子さん、きつくない? 大丈夫?」
 裏山まで車椅子を押して上った志摩子は息も絶え絶えだ。
「へ・・・平気よ、これくらい・・・。今日こそ・・・一撃入れるんだから!」

 祐巳は金剛杖を構え、志摩子はクレイモア 『理力の剣』 を構える。
 互いに真剣。 あたれば大怪我は間違いない。 いや、当たり所が悪ければ即死するかもしれない。

「行くわよ!」
 志摩子は祐巳に声をかけると同時に、地を蹴り真横に飛んだかと思うと、垂直に木の幹を駆け上がる。 
 5mもの距離を一気に駆け上り、さらに木の枝を蹴って真下の祐巳に切りかかる。

(わたしの攻撃が祐巳さんに当たるとは思えないけど・・・)

 志摩子は、当たらないことを覚悟で突っ込み、空を切った剣でさらに横に薙ぐ。
 地面に志摩子の回転による窪みができ、そこを中心に小さな竜巻が生じる。

 『旋回速漸!』

 志摩子の必殺の回転切り。
 クレイモアは、切るよりも叩き潰す、という印象が強い剣である。
 当然、真上からの切り落としが一番有効な技である。
 しかし、真上からの切り落としは攻撃範囲が極端に狭く、一撃をはずせば生まれる隙が大きい。

 志摩子の『旋回速漸』は、切り落としの長所、弱点を知り尽くした上でその弱点を逆手に取った必殺技である。

 しかし、さすがに祐巳はこの必殺の一撃にも動揺の色も見せない。
 すっと体重を後ろにかけてそらし、かわしきれないと見るや、後方に2回宙返りして立つ。

「志摩子さん、すごい! 前とあまり変わらないスピードでてるよ!」
 しかし、志摩子には、その言葉に答える気もなかった。
 なんとか一撃・・・。

 再度剣を構えなおし、いったん右に、そして次に左に飛ぶ。緩急をつけ祐巳の周りを縦横無尽に駆ける。

 持っている両手剣を右手だけに移し、上段から切り落とす。 しかもその勢いで落ちてきた剣を左手に持ち替え、片手で逆に切り上げる。
 目にもとまらぬ剣の舞。

 『利剣乱舞!』

 祐巳の体の全周囲から、志摩子の剣戟が、突きが襲い掛かる。
 両手剣を片手で振り回す腕力、切り落としに突きまで絡めるその多彩な攻撃。
 この技を切り抜けるのは至難の業であろう。

 しかし、祐巳はその攻撃すべてをかわし、最後に突きが見えた瞬間、その場から消え、志摩子の後ろに立っていた。

 「がーーーっ・・・ はーーーっ・・・ふぅ・・・」
 息を止め、必死に動き、剣を振り続けた志摩子の体力が切れ、思わず膝を突く。

「癒しの光」
 祐巳が『フォーチュン』を取り出し、志摩子に杖を向け呪文を唱える。

 暖かな白い光が『フォーチュン』からあふれ出し、志摩子の体を包む。
 志摩子の体力が回復し、力が満ちてくる。

「祐巳さん・・・。もう 『癒しの光』 を使えるようになったの?」
 志摩子が驚きの顔で聞く。
 自分はまだ満足な動きも出来ていないのに・・・
 祐巳はすぐに自分をおいて先に行ってしまう。
 ・・・これでは 「守護剣士」 失格ではないか・・・。

「ううん・・・。まだ全然ダメ。 これで使えるようになった、とか言ったらおばばさまに怒られちゃうよ。
 だって、前に使った 『ソーマの雫』 くらいの感じしかないでしょ?」
「あ・・・。そういえば、あのときの感覚に似てるわ」
「そういうこと。 この程度ならアイテムで十分なの。 なかなか本当の力は出せないなぁ」

「・・・あんまり、私を置いていかないでよね・・・」
 志摩子は安心したような、残念なような顔で言う。
(祐巳さんに、早く追いつかないと・・・)

「行きます!」 志摩子は再度剣を構えた。



☆★☆ 5月14日(土曜日)のその後 【I公園】 ☆★☆

 I公園では、毎日のように異空間ゲートが現れ、魔法・魔術騎士団、リリアンの薔薇たち、各国の魔法使いたちが懸命に防衛線を死守している。
 小笠原研究所での祥子と研究員の成果による『物反鏡』の開発により、防衛線を守ることはかなり楽にはなってきている。
 しかし、それでも魔物の出現が相次ぎ、戦傷者の数は多い。

 リリアンの薔薇達の存在感はここでは圧倒的だった。

 蓉子が魔物に相対した瞬間、魔物は蓉子の手の中で踊らされるかのように倒れる。
 魔物の攻撃は蓉子がほんの半歩体をずらすだけで空を切り、それほど力を入れていない刃が振るわれたとき、それは魔物の急所を切りつける。
 まったく無駄のない動き。
 まるでまな板の上で魚を捌くかのごとく戦闘を終わらせていく蓉子。
 自ら魔物に近づくわけでもないのに、魔物を引き寄せ、そのすべてをカウンターで切り刻む。
 まるで蟻地獄のように魔物を吸い寄せては倒してゆく。

 「刹那五月雨撃!」
 江利子の弓から無数の矢が放たれる。
 刹那の間に五月雨のごとく魔物に襲いかかる江利子の矢。
 通常の攻撃など面倒、とでも言うように、江利子は自身最大の技をこれでもか、とばかり魔物に浴びせる。
 江利子が戦場に立つとき、そこは魔物の生息を一切許さない絶対領域が広がっている。

 「ブラッド・スパーク!」
 聖は魔物の周囲を駆けると、予測も出来ない動きで翻弄する。
 短剣での攻撃かと思えば下段蹴り、蹴りかと思えば短剣の突き。
 「クレセント・ヒール!」
 なすすべなく急所、関節を切られ、折られ、その場にくずおれる魔物たち。
 聖の駆け抜けた後は、誰も立っていない一本の線が出来ている。

 「マハラギダイン!」
 祥子の超々高温魔法。
 熱に強い魔物でさえその身をどろどろにまで溶かしきる凶悪とさえいえる炎熱魔法。
 生物の存在を許さない劫火の照り返しを受け凛と立つ祥子。
 その姿は、まさに『爆炎の淑女』であった。

 キラリ、と令の超長刀がきらめく。
 瞬駆により魔物の横を駆け抜けたとき、胴を両断され、切られたことにすら気付かずその場に立ったまま絶命する魔物。
 令の攻撃は単純明快。
 目にもとまらぬスピードで戦場を駆け、超長刀で魔物を両断していく。
 一振り一振りがすべて必殺の剣。すべての技が最高の破壊力を持つ決め技である。
 返り血さえ浴びず魔物を倒していくその姿は、悪夢のような戦場にあって一幅の絵のように美しい。

 戦場に美しく咲く 『リリアンの戦女神』 たち。 その姿は、騎士団のみならず世界に希望を与えるものであった。



 異空間ゲートが出現していないときには、I公園が薔薇様たちの会議場となる。

「山梨のおばばさまの言っていた『3ヶ月から6ヵ月後に魔界と現世が繋がる』ってことなんだけど」
「うん、瘴気を防ぎ、その元を断たなければならない、でしょ」
「元を断つ、っていうことは、『ソロモン王を倒せ』ってことだよねぇ」
「考えたくないけど、A級の魔物を倒さないとならない、ってことだよ」
「で、その前に 『72柱の魔王たちを倒せ』、と」
「どうすんのよ、そんなにとんでもない魔王たちの数!」
「やるしかないんでしょうねぇ・・・」
「ま、わたしたちも日々強くはなってるでしょうし? 祐巳ちゃんもそろそろ帰ってくるかもしれないし・・・
 そこはなんとかなる、っていうか、なんとかするしかないでしょ」

 3人の薔薇様たちは少しうんざりしながらも腹はくくっているようだ。
 祥子と令も、姉の言葉に反論もない。

 令からすれば、この絶対的な力を持つ姉たちを見れば、72柱の魔王も、A級魔物のソロモン王でさえ裸足で逃げ出すのではないか、とさえ思うのだ。
 もちろん、直接フラロウスの力を目の当たりにした祥子は、B級魔物のすごさを実感しているだけに、先行きに明るさを見出せないでいたが。

「で、問題は、魔界と繋がったときに漏れ出るって言う瘴気をどうやって防ぐかって事よ」
「魔力障壁とか、結界とかはるんじゃないの?」
「ビニール袋で包み込むんじゃないんだから・・・。 そんなに簡単だとは思えないわ」
「神通力や法力での結界かぁ。 あまり私たちの出番はなさそうね」
「結界を作る人たちを魔物が襲ってくるのは確実ね」
「その人たちを守ることも必要なんだねぇ」
「人がいくらいても足りない・・・かなぁ」
「時間が掛かればかかるほど結界は壊れやすくなる、つまり、魔界と現世がつながったら、すぐにソロモン王を倒しに出発しなければならない。 そういうことよ」
「うわ・・・。蓉子、あなた何気にきついこと簡単に言うねぇ」
「しょうがないわ、事実だもの」

「で、だれがソロモン王を倒しに行くの?」
「まぁ、最初は斥候がでるでしょう。 どんな形で繋がるかわからないけど。
 どんな形の戦闘になるかで派遣される人が変わると思うわ」
「私たちが出るしかない、かなぁ」
「その可能性はあるわね。 でもそうじゃないかもしれない。 おばばさまでさえ、どんな形で繋がるかわからない、と言うくらいだから」
「そこだけ、出たとこ勝負、なんだね」
「しかたないわよ」



 時間は過ぎてゆく。
 それぞれの人たちに等しく過ぎてゆく時間の中で、最悪のときが迫ろうとしていた。

 夏が終わる頃、ついに『その時』が来る。



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