【3341】 最終的に両方血まみれ戦慄のフィナーレ  (ex 2010-10-26 19:19:40)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:これ】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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〜 10月2日(月) 朝8時 暗黒ピラミッド内 〜

 4番目の魔王・オセの居た部屋で令と由乃はオセの2刀を手に入れる。

「薔薇十字剣じゃないけど・・・。 これはこれでいい刀が手に入ったね。 由乃も一本持ってた方がいい。
 護身用にはなるから。」

 令は、ブンッと刀を一振りして鞘に納める。

「じゃ、先に進もう」
 令は魔王・オセとの戦いの後だと言うのに疲れも見せず先を急ごうとする。

「ねぇ。 令ちゃん。 何時の間にそんなに強くなったの? いくら令ちゃんが強い、っていっても簡単に魔王を倒しすぎだよ。
 なんか おかしいよ。 それにどんどん空気が悪くなるし・・・。 なんで平気なの?」

「空気が悪い・・・か。 そりゃ急がないといけないね。 最下層まで行ったら楽になる方法があるから。 
 わたしにとっては、ここ、居心地がいいけどね。 慣れたから、かな?」

「それに、さっきから最下層、最下層って! 最下層にはソロモン王が居るんじゃないの?!
 もう、わけがわかんないよ! 蓉子様たちはどうしたのよ! ソロモン王と戦ったの?!」

「煩いよ、由乃。 とにかく行けばわかるから! それに私が由乃のためにならないことなんてするはずないでしょ?」
 令はわずらわしそうな顔で由乃を見る。

「なんで・・・。 なんで令ちゃんそんな顔するのよ! 令ちゃんのそんな顔なんて見たくないっ!」
 由乃はプイッとそっぽを向く。

 やれやれ、といった顔で令は由乃を見る。
「とにかく、わたしは由乃と一緒にいたいの。 由乃が無事であればいいんだ。
 そのためだったら私は何でもするよ? 信じてくれないかなぁ」

 由乃は令の顔をそっと見る。 令の顔は返り血を浴び凄惨な状態だった。
 由乃は思わずポケットからハンカチを出し令の顔を拭う。

「うん・・・。 令ちゃん、こんなに汚れても私のために戦ってくれてるんだよね・・・。
 ごめんね、令ちゃん。 ちょっと言い過ぎた。 わたしも令ちゃんが無事ならそれでいいもの・・・」

「よかった・・・。 じゃ、ついてきてくれるかな?」
「うん。 でもちゃんと説明してよね」

「わかってるよ。 でもね、また魔王の気配がする・・・。 気をつけて、由乃!」
「わかった! さっきよりも大きな ”気” を感じる!」

 令と由乃の前に、恐るべき魔王の一人が現れようとしていた。



〜 10月2日(月) 朝10時 暗黒ピラミッド内部 〜

「比較的安全な場所は通り過ぎたみたいだよ。 志摩子さん気付かない? 空気の違いに」
 先頭を歩きながら7呪文同時詠唱を行っていた祐巳が歩みを止め、志摩子を振り返る。

 祐巳たちの視線の先には開け放たれた扉。
 またしても、魔王の居室である小部屋が見て取れた。

 そして、聖も志摩子も気付く。 自分たちを取り巻く空気の変化に。
「この先の部屋・・・。 一体どころじゃない。 魔王の巣になってるみたいだ」
 聖が苦々しげに呻く。

「こりゃ、きつい戦いになりそうだ。 二人とも、気をつけて!」

「志摩子さん、ミサンガははずしてる?」
「ええ、はずしてるわ。 祐巳さんは?」
「うん、さっきはずした。 じゃ全力で行こう! 薔薇十字の初陣だよ!」

「行くよ、祐巳ちゃん! 志摩子! GO!」

 聖の合図で部屋に飛び込む3人。

 部屋の中には、何体もの魔王が待ち構えていた。



 一番手前の魔王の姿を認めた瞬間に、志摩子は軽くその場を飛びのいて腰の鞘から 『理力の剣』 を引き抜いた。

「志摩子さん、行くよ! 『ジオンガ』っ!」
 銀の煌きを持つその刀身は、 『フォーチュン』 の魔力を受けて、青白い細かな文字が浮かびだす。

 祐巳と志摩子は 『フォーチュン』 による魔力で 『理力の剣』 を魔法剣にすることが出来るようになっていた。

(一、二、三・・・)
 背中を祐巳たちに向け、自分は外周から迫り来る敵たち・・・三体の魔王に注意を向ける。
 背中を預けた二人も既に動き出していたが、聖と祐巳、信頼できる二人に背を預けて戦えることが志摩子に安心感をもたらす。
 常に仲間の中心に位置し、周囲に向かって戦うこと。それが、祐巳から教わった術だった。

 軽く首を巡らせて、自分たちに迫り来る脅威を確認する。 魔王が計六体。

 志摩子は剣を腰に添える独特の構えをとりながら、自分に歩み寄る一体の魔王を注視していた。
 見たところ、六体のうち四体が祐巳に、残りの二体がそれぞれ聖と自分に向かっているようだ。

 魔王たちは一番小柄な祐巳に狙いを絞っているらしい。

(ばかね・・・。 祐巳さんが一番強いってのに・・・)
 そんなことを考えていると、いつのまにか目の前に来ていた魔王が腕を振り上げていた。

 志摩子は一瞬、躊躇する。剣で受け止めるべきかそれとも跳んで回避すべきか・・・。
 結論を刹那の間に導いて、志摩子はその場を横に飛んだ。

 攻撃対象を失った魔王の節くれだった凶悪な腕は床をはじき、カーンッ、と乾いた音を立てる。
 攻撃をはずしたというのに何事もなかったかのように志摩子に顔をめぐらせる魔王。
 その口がすぼまったかと思うと、超高速で毒液が吹き付けられる。

 その攻撃をすんでのところで交わした志摩子は、恐怖から来る戦慄を感じていた。
 志摩子とて前回フラロウスと対戦した経験がある。 しかし実戦経験はその一回きりなのだ。

(実戦経験が少なすぎる・・・。 落ち着かないと・・・)

 息を吐き、気付かぬうちに入っていた肩の力を抜く。あくまで自然体。
 無意味に力で押すよりも、スピードと柔軟性を生かした攻撃をすること。
 それが山梨で行った祐巳との修行で編み出した志摩子の戦い方だったはずだ。

 志摩子は体を揺らしながら一歩一歩間合いに近づく魔王の姿を見据える。

 一歩踏み込み、腰の捻りを開放し、剣を振るったときにその刀身の腹より少し先が相手の身体を捉える間隔、それが志摩子の持つ必殺の間合いだ。

 魔王の体がぶれる。 志摩子の動体視力はそれを見逃さない。

(ここだ! いける!)
 志摩子は迷うことなく必殺の剣を振るう。 「『絶・螺旋撃』っ!」

 志摩子の必殺の回転を加えた螺旋の刃が魔王の腹に叩き込まれる・・・、と思った瞬間、その斬撃は皮一枚を掠めただけで魔王の横を通り過ぎる。
(は・・・早すぎた!)

 志摩子の顔に焦りが浮かぶ。
 押さえ込んでいた恐怖心がわずかに顔を出し、理性で図っていた必殺の間合いを狂わせたのだ。

 志摩子は、その技が外れた瞬間、必死で真横に跳ぶ。
 左、右、恐ろしく早いフェイント。 
 そうしていなければいつ魔王の凶悪な攻撃が伸びてくるかもしれない。

「『利剣乱舞』っ!」
 志摩子は無我夢中で必死に剣技を振るう。
 しかし、恐怖を一瞬でも感じてしまった攻撃に本来の威力はない。

 ガチーン、ガチーン・・・。 
 志摩子の剣撃はことごとく魔王の腕により防がれる。

(この感覚・・・。 まずい!)

 そう、この感覚は祐巳と相対し、そのすべてを防がれた上で背後を取られる感覚に似ていた。

 祐巳であれば手加減もしてくれたであろうが、魔王にそれを期待することは無理というものだ。

(やられるっ!) 
 志摩子は泣きそうになった。 なんのためにここまで祐巳と修行してきたんだ。
 自分は、祐巳の 『守護剣士』 なのに・・・。 焦りがすべてを狂わせた。

 と・・・。

「う〜ん。 もうちょっとだけどな〜」
 不意にのんびりした声が聞こえる。

 一瞬なんだかわからず、そして怒りさえもわいてきた。 人が死に掛けているって言うのにその能天気な声は何だというのか、と。

 床に、志摩子と魔王の他に、もう一つの影が加わる。

 細長い昆を携えた祐巳は一息にその棒で魔王の頭部を横から殴り、それを砕いた。
 志摩子の目の前を完全に潰された魔王であったものの頭部が転がっていく。

 志摩子が顔を上げた瞬間、祐巳と目が会う。

「実戦不足だからかなぁ・・・。 この程度、落ち着いてれば志摩子さんなら楽勝レベルだよ?」
 祐巳はそういいながら、ただ立ち尽くすだけの頭部のなくなった魔王の体を志摩子の横から脇に押しやった。

 他の戦闘は、いつのまにか終わっていたらしい。

 聖と祐巳はそれぞれ自分たちに向かっていた魔王をすべて叩き伏せていた。

「志摩子さん、返り血がついてる」
 祐巳が心配そうに志摩子にハンカチを差し出して顔を拭く。

「せっかくの美人が台無しだね〜。 シャワー浴びたほうがいいかなぁ」

 志摩子は祐巳の軽口に答える気力もなくその場に座り込んでしまった。
 『理力の剣』 を支えにしてなんとか倒れこむことだけは避けたが、実戦の恐怖がまだ体から抜けないでいたのだ。

「ロサ・ギガンティア、ちょっと志摩子さんも疲れたみたいだし、ここらで休憩しませんか?」
 祐巳がそう聖に提案する。

 聖もさすがに一気に六体もの魔物と戦闘した疲れを感じていた。

「そうね・・・。 じゃちょっとここらで軽くお茶でもしようかな。 気分も落ちつけないとね」
 聖は志摩子を労わるように笑顔を向け、その場に座り込む。

(聖さま・・・。 わたしだけ戦力外だ・・・。 この差は何なのよ・・・)
 志摩子は自分自身が情けなくなった。 悔恨・・・。 しかしそれにかまけている暇はない。

「あせらないでいこう。 ね、志摩子さん?」
 祐巳の明るい笑顔・・・。 それに少し苦笑しながら志摩子はわずかに頷いた。



〜 10月2日(月) 朝8時すぎ 暗黒ピラミッド内 〜

 ゾロリ・・・ゾロリ・・・。
 なにか長いものが床をするような音。
 その不気味な音が令と由乃に迫ってくる。

 魔王・オセを倒したその部屋にまた一体の魔王が迫ってきていた。

 バタンッ! 大きな音がして巨大な扉が開く。

 扉を開けたのは巨大な口を大きく開いた地獄の蛇。 いや、その凶悪な姿は竜なのか。
 そしてその竜の背にまたがるもの。

 黒装束に身を包み右腕に毒蛇を模した槍を構え、滴るような血で唇を濡らしている。
 「恐怖公」、「地獄の大公」などの異名を冠するその悪魔・・・。

 ソロモン王の三大魔王の一人、”ベルゼブブ”、”ベリアル”と並び恐れられる最強の魔王の一人、”アスタロト”の姿。

「ふん・・・。 三大魔王も落ちたもんだね」
 令はその強大な魔王を前にして薄ら笑いを浮かべる。

「由乃、見てご覧よ。 アスタロトの姿・・・。 もうボロボロじゃない?」

 そう、由乃の目でも良くわかる。 アスタロトの体にはいくつもの矢で射られた跡。
 それに、幾筋もの切り傷。 焼け爛れた腕。

「どうやらここに来る前にお姉さまたちと一戦したようだねぇ。 で、這々の体で逃げ出してきた、ってとこかな。
 でも、お生憎様。 お前はここで終わりだよ」

 令は、体を沈みこませて構えると、魔王・オセから奪った刀を手に得意の瞬駆に移る。
「『一文字斬っ』!」 令の高速の踏み込みによる必殺の一撃。

 しかし、さすがに手負いとはいえ三大魔王・アスタロト。
 右手一本に握った槍で令の斬撃をはじく。

「へぇ。 さすがだね」 
 令もさすがにこの程度ではアスタロトを討ち取れるとは思っていなかった。

「じゃ、スピード上げていくよ!」
 令はますますスピードを上げながらアスタロトに斬撃を浴びせていく。

 しかし、そのすべての攻撃を弾き飛ばすアスタロト。
 令の攻撃は一直線であるがゆえに、その高速に反応できる魔王には分が悪い。
 2人、3人の連携攻撃が可能であればいとも簡単に倒せるであろうがここは1体1の戦いである。

(できれば、気を逸らすなりできればいいのだが・・・。)

 次第に令にも焦りが生まれる。 負ける気はないが膠着状態が続くのはあまり歓迎できない。

 令の単純な攻撃に慣れてきたアスタロトに次第に余裕が生まれる。
 そしてアスタロトはニヤリ、と笑うと毒々しい緑色のガスを口から吐き出す。

「まずいっ! 毒ガスブレスだ! 由乃っ! 下がれ!」
 令が大声で後ろで見ている由乃に指示を出す。

 しかし、由乃はこの戦い、令に不利になることを見て取っていた。
 由乃とて、ただ令に守られるためだけにこれまで鍛えてきたのではない。

 何をしにここに来たのだ。 令と再会してからずっとそればかり考えてきた。

(わたしが囮になってアスタロトの気を逸らす。 その隙に令ちゃんが決めればいい!)
 由乃の覇気が巨大化する。

「うぁぁぁぁ! 『瞬駆』っ!」
 オセから奪った剣を振りかざし、由乃は高速の斬撃を叩き込むためアスタロトに挑む。
 
 しかし、由乃の体はアスタロトの放つ毒ガスの中を突っ切ることになる。

「由乃ー!!」
 令は叫びながら、由乃を追って毒ガスの中に突っ込んでいく。

「ガハッ!」 
 由乃の体をアスタロトの残忍な左手が弾き飛ばす。 
 いくら修行を積み、高速で動けるようになったからといって令のスピードに慣れたアスタロトにとって、由乃の動きは亀のように見えたことだろう。

 なすすべなく飛ばされた体を必死で追いすがり空中で受け止める令。

「うっ・・・。 ば・・・ばか・・・・れいちゃん・・・。 い・・・ちゃんす・・じゃない・・」
 由乃が悔しそうな顔で令を見る。 しかしその唇からは大量の血が流れ出す。

「由乃! 死ぬな! 死ぬんじゃないぞ! きっと助けるから!」

 令は、大声で由乃を励ましながらアスタロトを見据える。
 その瞳からは真っ赤な血が流れる。 まなじりが怒りに裂けたのだ。

「うおぉぉぉぉ! 『幻朧』っ!」 令の体が一瞬のうちにアスタロトの背後を取る。

「消えうせろ! 『八相発破』っ!!」
 令の斬撃が至近距離からアスタロトを切り刻んでゆく。 
 アスタロトも背後を取られながらも右手に持つ槍で令の体を何度も貫く。

 相打ち覚悟の令の最終攻撃。 

「グワァァァァァァ!!」
 アスタロトの断末魔の悲鳴が部屋の中でこだまする。

 体中を令の斬撃で切り刻まれたアスタロトは、ついに地獄の竜の背からくず折れ地に伏した。

「よ・・・、由乃・・・」
 アスタロトの槍で何箇所もの傷を負わされた令がフラフラになりながら由乃に近づく。
 いや、禁術奥義 『幻朧』 を2回も使った影響が大きいのかもしれない。

 由乃はその可憐な唇から大量の血を流しピクリとも動かない。

「ハァ・・・ハァ・・・。 由乃・・・。 お前だけは絶対に死なせはしない・・・」
 令は由乃の体を抱え上げ、そばでじっとこちらを見ているアスタロトの竜を見る。

「おい、お前・・・。 私たちを乗せて・・・。 連れて行けっ!!」
 令の裂帛の気合。 地獄の竜はその気合を受けると静かに体を横たえる。

「よし、いい子だ・・・。 これからは私がお前の主人だ。 いいな」
 令は由乃を竜の背に乗せると、自分も竜に跨る。

「よし! 行けっ!」
 地獄の竜は新しい主人、令の命ずるまま地下へと続く道を下っていった。



〜 10月2日(月) 朝10時すぎ 暗黒ピラミッド内部 〜

 聖のリュックサックのなかから簡単なお茶セットを取り出す祐巳。
 休息を挟みながら進むことで、実戦に不慣れな志摩子を落ち着かせよう、と持ってきていたお茶セットが役に立った。

 すこしぬる目のお茶を飲みながら志摩子は二人に気付かれないほどの小さなため息をつく。

 ミサンガをはずした祐巳の実力は驚異的だった。
 その動きはすでに志摩子の動態視力で追えるスピードをはるかに凌駕している。

 聖もさすがとしか言いようのない動きを見せていた。

 多分、聖が倒した魔王も一体であったはず。
 しかし、倒した数が問題ではない。
 聖のいまの余裕に充ちたその態度が志摩子との戦闘能力のほどを雄弁に語っている。

 志摩子もミサンガさえはずせば、聖と同様、あるいは超える動きが出来るのではないか、と思っていた。
 すでに、聖と自分との間にはそれほど大差ないまでに実力が拮抗している、と信じていた。

 しかし、聖と志摩子との間にある絶対的な差。
 ほんの小さな階段の一段程度しかないであろうその差・・・。

 しかし、今の志摩子にはその小さな階段がとても越せるとは思えなかった。

(戦力にならないのはわたし一人だ・・・)
 その事実を改めて突きつけられ、志摩子は奥歯を噛締めた。

 聖は、自信を失った志摩子をじっと見つめる。
 無理もない。
 ほとんど実戦経験のない志摩子が、たとえ自分と祐巳がそばに居たとはいえ、六体もの魔王と同じ部屋に放り込まれたのだ。

 普通の人間なら発狂していてもおかしくない恐怖を味わっただろう。
 聖は志摩子にかけるべき言葉を模索しながらなにも口に出せないで居た。

「ねぇ、志摩子さん」
 不意に祐巳が志摩子に声をかける。

「さっきさぁ、聖さまがね、 『白薔薇の後継者は志摩子さん』って言ったじゃない?
 でも、まだスールになってないって・・・。 あれ、どういうことなのかなぁ?」

「ちょ、ちょっと祐巳さん!」
 急に思いもしていないところからの話を振られ、志摩子があせった声を出す。

「あっちゃ〜。 参ったな。 祐巳ちゃん、それ今言いますか・・・」
 聖が苦笑しながら祐巳を見る。

「あなたにはほんとにかなわない。 でもね〜」
 と、ちょっと恨みがましい目で祐巳を見る聖。

「もうちょっと、ムードのあるとこでその話はしたかったなぁ」

「あうぅ〜。 ごめんなさい〜」
 おもわず平謝りする祐巳。

「「ぷっ!」」
 聖と志摩子は顔を合わせて笑いあう。

「「ほんとに祐巳ちゃん(さん)にはかなわない!」」

 聖も志摩子も不思議に肩の力が抜けるのを感じていた。



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