【3351】 ありえねえ忍な福沢家  (弥生 2010-10-30 14:08:11)


ごきげんよう、お姉さま方
×××
突然ですが、私こと福沢祐巳は「くの一」なんです。ナイショだよ♪

回想シーンだよ

「いい、祐巳、祐麒、あなた達も高校生はなったからには、任務をこなしつつ学業に励んでもらいます。いいこと?くれぐれも忍であることを知られてはなりませんよ」
と師でもある母が言った。
「お師匠様、任務とはいったい何をするのですか?」
と祐巳が聞いた。母は、
「うーん…」
〜五分後〜
「追々伝えるとするわ。まず始めに〇×スーパーの牛乳を買って来て頂戴」
「それはおつかいです。お師匠様」
とすかさず祐麒
「おつかいも出来ない子が任務など出来るはずありません!」
((何も考えてなかったな))
と、心の中でツッコミを入れつつ、晩飯抜きを回避する2人



「祐巳、今日からリリアンの高等部だろ?忘れ物はないか?」
「ないわよ。そっちこそどうなのよ?」
「あるわけない、祐巳じゃあるまいし」
「ケンカなら9割引で買ってやるわよ?」
「リリアンに通っているお嬢様ががさつとは、マリア様もさぞかし嘆かれていることだろうよ」
「よし、今死ね」
「そんなのろまな攻撃当たるわけ無いだろ」
と、祐麒が避けたとき戸が開いた。
「祐巳ちゃ…」
ゲシッ!
母の顔面モロ直撃
「…」
「…」
「…」
長い沈黙の中、2人が動き出す。
「「逃げろ!」」
素早い動きで逃げ出したが、
「あらあら、うふふ♪鬼ごっこなら負けないわよ〜♪さぁ、お逃げなさい♪蛆虫共がぁ!!」
笑顔かと思ったら突然豹変し襲い来る母。
「捕まったら殺される!」
「あらいやだ、殺すだなんて♪可愛い子を殺したりなんかしないわ♪拷問するだけだから安心して捕まりなさい♪」
「「尚更質が悪いわ!」」

〜5分後〜
「「ごめんなさいもうしません」」
簀巻きで逆さ吊りにされた2人が母に謝っていた。
「2人共オイタはダメよ?」
と言ってロープを切る母。
「ぐぇっ!」
「ぎゃう!」
頭から落ちる2人。
「何時までも遊んでないで早く学校に行きなさい。与えた任務を遂行するのよ」
「「は〜い」」
と、何処かへ消える母
「は〜、朝から非道い目にあった」
「祐麒のせいよ。帰ったら覚えてなさい」
「忘れた。それよりも又捕まらない内にさっさと学校に行くか」
「そうね。遅刻したら又どんな目にあわされるかわかったもんじゃないわね」
「ああ」


〜リリアン―半年後〜
(うーん、今更だけど忍者がカトリックの学校ってどうなのだろう?)
本当に今更である。
(さて、任務任務。学園長室はっと)
「ご、ごきげんよう」
廊下で美人の上級生とすれ違うが、シカトされた。というより寝ながら歩いていた
(祥子さまって朝はいつも眠そうにしてるけど、シカトはないんじゃない?まあいいけど)
何度となく生徒や教師とすれ違うが、なるべく目立たないように心掛ける祐巳。
(ここが学園長室ね。今は居るみたいね。又出直すとしますか)

(ここが写真部ね。さて、幸いなことにだれも居ない。お目当ての物はっと…あったあった、ん〜まだ大した物でも無いわね。まだ泳がしていても大丈夫…かな?ん?)
祐巳が写真を漁っていると、誰かが戻って来たようである。

祐巳は素早く姿を隠す。

「は〜、なかなかいい薔薇さまの写真が撮れないわね〜」
(あれは蔦子さん…だったよね…盗撮マニアの…それに薔薇さま…ああ、確かそんなのも居たわね…任務に関係ないから気にしてなかったけど)
普段は人一倍薔薇さまに憧れてますって態度の祐巳だが、正体がばれては不味いのだ。
「それにしても、志摩子さんが祥子さまのロザリオを断るとは…」
(へー、SMコンビで合っていると思ったんだけどねぇ)
「まあ、聖様の所に落ち着いたとは、意外と言えば意外かな」
(日本人離れしてる同士が惹かれた形になった…という所かな?)
「新しいネガも補充したし、次なる写真でも撮るとしますか」
蔦子退席。
「誰か来ない内にさっさとおさらば♪」


今日の収穫は特に無し…明日に期待しますか…


次の日…
朝マリア像の前でお祈りし、立ち去る時にそれはおこった…

「お待ちなさい」
(この声は確か祥子さま)
「えっ…はい」と言いながら振り返る祐巳
「私…ですか?」
「声を掛けたのは私で、声を掛けられたのはあなた。まちがいなくってよ」
(朝から何の用ですか、祥子さま。しかもそこの茂みに蔦子さん居るし)
「持って」
「は、はい」
「タイが曲がっていてよ。身嗜みはきちんとね。マリア様が見てるわよ」
(タイ位別にどうだっていいじゃない。誰に迷惑かけてる訳じゃないし)
「は、はい、ありがとうございました」
(写真撮るなよ〜、後が面倒臭いじゃんか〜)
祥子に直されたタイを見ながら、蔦子をどうするか考えていた。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
(面倒臭いことにならない内にさっさと教室に行こうっと)


教室にて
「祐巳さん、ちょっといい?」
「何?蔦子さん?」
(やっぱり来たか)
「これ、見て欲しいんだけど」
「何?ええっ!私と祥子さま!?」
「よく撮れてるでしょう?」
「う、うん…」
(逃げられなかったからね…そりゃ撮れてるでしょうよ…)
「これは学園祭のパネルとして、展示したいんだけどどうかな?」
「ええっ!」
(目立ちたがりの忍なんているわけないじゃない!何考えてんのこの人!?)
「タイトルは『躾』なんだけど」
「躾…ねぇ…」
(その前にこっちが盗撮マニアのお前を躾てやりたいわ!)
「後は、祥子さまの許可も取りたいんだけど、一緒に薔薇の館に行かない?」
「まだ許可出して無いんですけど?」
「祐巳さん、祥子さまファンでしょ?」
「うう…それを言われると…きつい…」
(普段自分を偽るための演技が徒になった!?)
「写真、今ならプレゼントするわよ?欲しくない?」
「うう…欲しいんだけど…欲しいんだけど…欲しくない…」
「じゃ、決まりね」
「…わかった…」
(毒食わば皿まで…か…後で対人地雷を埋めてやる)


「薔薇の館に来たはいいんだけど、どうするの?蔦子さん?」
「流石の蔦子さんでも薔薇の館は怖い。祐巳さんから入ってよ」
「さらっと言ったよ!?この人!?」
(ん?誰か来た!この気配は志摩子さん。しめた!)
「つ、蔦子さんから入ってよ…」
「祐巳さんからどうぞ」
「薔薇の館に何か御用かしら?」
「「し、志摩子さん!」」
「?」
「ちょうど良かった、志摩子さん。祐巳さんが祥子さまに用があるんだって」
「蔦子さん!?」
(この女シバく!)
「祥子さまなら今は会議室に居ると思うわ」
「と、所で志摩子さんは何故薔薇の館に?」
「志摩子さんは薔薇の館の住人だからに決まってるじゃない」
「そうでした…」
(確かに昨日聞いたんだった…)

キィ…志摩子は薔薇の館の扉を開けて言った。

「どうぞ」
「開けてすぐ誰かが居るわけじゃないんだ」
「一階は倉庫、会議室は二階よ」
「そうなんだ…」
(任務外の事は興味なかったからなぁ)
階段を上がって会議室の前に来ると、
「横暴ですわ!お姉さま方!」と、祥子の声が聞こえた。
「い…今の声は…?」
「何時もの事よ」
「い、何時も…って」
(何なんだ?コイツ等?)
「どうぞ」
志摩子が扉を開けると…
中から何かが飛び出してくる。
(祥子さま!?よけないと…いや、ここで避けたら運動音痴の一般人で売り出している私の正体が…むしろ避けるわけには…いかない!)
この間、僅か0.1秒。祐巳は覚悟を決めた。勿論、受け身を取れませんでした風に上手く受け身を取ることも忘れない。

祥子は祐巳を抱きつき、巻き込む様に倒れた。
ドサッと大きな音を立てることも忘れない。

祥子は巻き込んだ目の前の少女に戸惑いつつも、小声で聞いた。
「貴女、お姉さまは居て?」
祐巳は戸惑った。普通なら戸惑うだろう。
(人を潰しといて「お姉さまは居て?」は無いだろう、普通)
「い、いいえ…」
祐巳がそう答えると、
「よろしい」と言いながら祐巳を立たせると、会議室の中に祐巳を連れて入った。
「紹介致しますわ。私の妹です」
(!?何言ってんの!?この人!?)
「さっ、自己紹介しなさい」
(何で!?)
「ふ、福沢祐巳です」
「福沢祐巳さんね。何て字を書くの?」
「福沢諭吉の福沢、しめすヘんに右、巳年の巳です。」
「ふーん、おめでたそうなお名前ね」
(何この失礼な人!ほっとけ!)
「祥子、この娘が、貴女の妹?」
「そうですわ、お姉さま」
「その割には、名前も知らないみたいだったようだけれど?」
「祐巳に自己紹介させたかっただけですわ」
「まあいいわ。姉妹、と言うことなら勿論、ロザリオの享受は済ませたんでしょうね?」
「未だですが、お望みであればこの場で行います」
「そうね。やって貰えるかしら?」
(!?何このツッコミどころ満載のやりとりは?私の意見は無視?何?)
「祐巳」
「は、はい」
祥子は首からロザリオをはずす。
後ずさろうとする祐巳。
(冗談じゃない!あんな首輪架けられてたまるもんですか!)
「祐巳、動かない」
「は、はい…」
(皆が見てる…逃げ出したい…万事休すか…)
祐巳が諦めかけたその時、救いの手が入った。

「お待ち下さい」

「何?志摩子」
「皆さん大切な事をお忘れです」
「それは?」
「祐巳さんの、お気持ちです」
(ありがとう〜、よく言った!志摩子さん!今日から「綿飴」なんて呼ぶの止めるね)
「それもそうね。今日初めて会った祐巳ちゃんは祥子の事、どう思う?」
「わ、私は…」
「祐巳さんは、祥子さまと会うのは初めてではないようです。今日祥子さまを訪ねて、薔薇の館に来たのですから」
「あっ、その事なんですが…こんな物がございまして」
(余計な事言わなくていいよ!2人共!)

蔦子が「例の写真」を取り出す。

「確かに祥子と祐巳ちゃんね…」
「そうね…」
「うん…間違いない…」
三薔薇さまが写真を確認する。

「悪かったわ、祥子。で、祐巳ちゃんは祥子の事、どう思う?」
(…どうしても聞くつもりか…)
「祐巳さんなら大丈夫だと思います。祥子さまファンなので」
(…蔦子さん…余計な事言わなくていいよ…)
「へー、それは本当?祐巳ちゃん」
「はい…でも…お受け出来ません」
「…何故って聞く権利くらいあると思うのだけど」


「…祥子さまファンだからって…必ずしも妹に成りたいかと言うとそうではなくて、何というか、神聖な物の様な…」
(ふー、これで回避出来る筈…)
「又、振られたわね、祥子」
悲しむ祥子に慰める薔薇さま方。

流石にバツの悪い祐巳は、会議室に入る前の事を聞く事にした。

「あの〜」
祐巳が話し掛けると、祥子は心底興味なさそうな目で祐巳を見る。
「未だ居たの?貴女。用が無いのであればさっさと帰ったら?」
(手のひら返すの早っ!)
「先ほどは何を言い争って居たのですか?」
「貴女には関係ない事よ」
すると、外人っぽい薔薇さまが、
「祥子が山百合会の劇のシンデレラを降板したいと言って、蓉子が『妹を作れないブゥトゥンには発言権は無い』って言ったからケンカになったの」
と、説明してくれた。
「ロサギガンティア!」
(ロサギガンティア?ああ、確か志摩子さんのお姉さまね)
「事実を分かり易く説明しただけだよ。」
睨む祥子に涼しげな聖。
「そうだったのですか。でも祥子さまは何か理由があって降板したいと、言ったと思うのですが、理由位聞いてからでもいいと思うのですが」
「…それもそうね…」
「祥子、何か理由があって?」
祥子は小声で
「…言えません…」
「何て言ったの?」
蓉子は追撃の手を緩めない
祥子は蓉子の真剣な眼差しを見て、諦めたかのように言った
「…言えません…今は未だこれしか言えません…」
言った後、祥子は負けじと蓉子を睨み返した

蓉子は祐巳達を一瞬見た後、
「いいわ。今日はお客様も居ることだし、追求は次にするとしましょう」
と、溜め息混じりで言った。

一方、祐巳は、
(どうでもいいから早く帰してくれないかな〜)
と、余計な事聞くんじゃなかったと後悔していた。

志摩子の姉である聖ことロサギガンティアは、隣に居る先ほどから眩しくて顔の見えない女性に何かを囁きあった後、こんな事を言い出した。

「それでは一つ、賭けをしましょう。一つ、祐巳ちゃんには山百合会の劇を手伝って貰う。二つ、その上で祥子が祐巳ちゃんを妹にする事が出来れば、祥子はシンデレラを降板していい。もちろんシンデレラは祐巳ちゃんになるけど。2人にとってそう悪くないと思うけどどうかな?」

すかさずピカリンは
「賛成。令達も賛成よね?(人手不足解消のチャンスよ!)」
と妹達にアイコンタクトした。
令と由乃もお互いアイコンタクトで意志疎通して答えた。
「私達もお姉さまに賛成です」
「これで賛成四票ね。蓉子は?(祥子の妹が務まるかどうかはともかく、既成事実さえ作ってしまえばこっちのもんよ!)」
と、アイコンタクトを送る。
蓉子も
「(合点承知!)私も賛成。これで多数決で決まりね」
と、どや顔で言った。
「ま、未だ志摩子がいます、志摩子はどっち派?」
「私はお姉さまについていきます」
「クッ、わかりましたわ、祐巳を妹にし、見事シンデレラを降板してご覧にいれますわ」
「その意気よ!祥子!」
(何なんだ?この茶番は…)
「あの〜私の意見は…」
「ああ、祐巳ちゃんは大丈夫。祥子のロザリオを受けなければ良いだけだから」
「やっぱり…そう…ですか…」
(面倒臭いじゃんか…ん?何か引っ掛かる所があるような…)

そう、祐巳はこの時祥子のロザリオを受けたく無いだけに「劇の手伝い」を頭からすっかりさっぱり綺麗に忘れてしまったのである。忍としてはあるまじき失態
、人の話を聞いてなさ過ぎである。だから何時まで経っても半人前なのである。もちろん、三薔薇さま方も蔦子にアイコンタクトを送るのを忘れない。同時に蔦子の眼鏡も怪しく光る。


「私は祥子さまから逃げ切ります。それでこの話はなかった事に…」
「ちょっと待った祐巳ちゃん」
「何ですか?ロサギガンティア?」
「一つ、忘れてやしないかい?『劇の手伝い』はしてもらうよ?証人も居ることだし」
「証人?はっ!?蔦子さん?」
「私は祐巳さんが『そうですか』と言ったのを聞いたわよ」
「し、志摩子さん…」
「私も祐巳さんが了解したと理解したわ」
(…ハメられた…)

ハメられたと言うよりも話を聞いてなさ過ぎるのが悪い。

「わかりました…『劇の手伝い』はします。その上で、祥子さまから逃げ切ります。これで宜しいですか?」
「良いわよ。貴女の挑戦受けて立つわ!私から逃げ切れるとは思わない事ね」
「…私も逃げ切れるように努力します…」

ここで蓉子が、
「交渉成立と言うことで、今日は解散」
と、満面の笑みで言った。
皆もそれに納得し、解散となった。
(後で全員の弱味を握って逆らえないようにしてくれる)
祐巳はそう心に誓った。


次の日、教室にて

「ねぇねぇ、聞いたわよ。祐巳さん」
「何?桂さん」
「祥子さまの妹になったんですって?」

この桂の言葉に教室が騒然となった

「か、桂さん、そんな根も葉もない噂…どこで聞いたのかな?」
「えっ!?噂なの!?てもこのリリアン瓦版に載ってるわよ?」

桂は祐巳に瓦版を見せた。
瓦版には、昨日の出来事を写真付きで面白おかしく書かれていた。もちろん山百合会に都合の悪い事など載っていない。

(三薔薇さま方が蔦子さんに送っていたアイコンタクトって…この事だったのか…)

退路を断たれた祐巳は蔦子を捜す事に…

「ねぇ、祐巳さん、この記事本当なの?」
「祐巳さん、今の心境は?」
「祐巳さん」
「祐巳さん」
矢継ぎ早に質問するクラスメートたち。

逃げようにも弁解しようにもクラスメートたちに囲まれ、困る祐巳。
救いの手を差し伸べたのは、意外にも志摩子だった。

「祐巳さんが、山百合会の劇を手伝うのは本当。でも、祐巳さんは未だ祥子さまの妹にはなっていないわ」
「それは本当?志摩子さん」
クラスメートを代表して桂が志摩子に聞いた。
「本当よ。蔦子さんも居たはずだけど」
「蔦子さん?」
「本当よ。私は写真を見せてくれと言われただけ。瓦版には関与してないわ(志摩子が祐巳さんの擁護に回るとはね…)」

この2人が証人となり、祐巳はひとまず解放された。


放課後、掃除の時間になり、担当場所の音楽室で掃除をするが、どこか上の空。
(…任務…どうしよう…未だ学園長の件も終わってないのに…)

「祐巳さん、掃除日誌、置いておきますね?」
とクラスメートに言われて始めて掃除が終わったのを気づいた。
「お願いします」としか言えず、一人残ることにした。

ハァと一つ溜め息をし、祐巳はピアノに向かった。高等部の入学の式典で祥子さまがピアノを引いていたのを思い出す。

ピアノを引きながら、祐巳は今朝の出来事を思い出す。

「スールになるのは構いません。利用出来るものは最大限利用なさい。だけど、任務が失敗するような事があれば、落伍者として里に送ります。それが、何を意味するかは、もちろん、わかってますね?」
口調こそ穏やかだが、そこには有無を言わさない威圧感があった。

過去に里に送られて無事でいた者など、祐巳の知る限り存在しない。むしろどうなったかすら知らないのである。これは祐麒も同じであった。

祐巳は己の背後に忍び寄る影にも気付くことなく、ピアノを引いていた。それが、己の運命を決める事とはつゆ知らず。

祐巳がたどたどしい手つきで引いていると、突然、手が乱入して来た。

「わあぁやあぁっ!」
「キャッ」

祐巳は危うく乱入者を攻撃する所だったが、悲鳴が聞こえたので平静を取り戻す事が出来た。
(悲鳴!?敵ではない?誰?)
「ビックリしたわ。これではまるで私が襲っているように聞こえるわ」
「も、申し訳ありません!祥子さま。と、突然、手が見えたのでお化けかと思ってしまったので」
「まあ、お化けだなんて失礼しちゃうわ。まあ、こんな美人のお化けもいないでしょうけど」
「…祥子さま…(自分で言うかな?普通)」
「そんな事より祐巳」
「何ですか?祥子さま」
「貴女のピアノはまるでなってない。そう、心に響くものが無いわ。そんなことではこの私の妹は務まらないわ!」
「ウグッ!ですが、私にとっては幸いなことです、祥子さま。祥子さまの妹が務まらない私は、ロザリオをお受けする資格が無いのです。これで私の日常生活は、平和に送る事が出来るでしょう」

多少皮肉った感じで祥子に返す。

「それなら、尚更私のロザリオをお受けなさい。私の妹になった暁には、立派な薔薇さまとなれるよう、ビシバシとごうも…ゲフンゲフン…鍛え上げてあげるわ!」
「…今、拷問って言いましたね?」
「私のログには何も無いわ…」
「…(逃げよう)」

祐巳は逃げ出した。

「お待ちなさい!」
「何ですか?祥子さま」
「掃除日誌を忘れているわよ?」
「…アリガトウゴサイマス…」

祐巳は日誌を持って行って貰えば良かったと後悔した。

「せっかくだから一緒に提出しに行きましょう」
「(余計な真似を…)いえいえ、お忙しい祥子さまの手を煩わせる迄もありません。これは私が責任を持って提出致しますので」
「提出するのは、ついでだわ。貴女、忘れてないかしら?山百合会の劇の手伝いの件を」

祐巳は手伝いの件をすっかり失念していたのである。

(しまった…忘れてた…ていうか、探しに来るなよ…面倒臭い…)

祐巳は観念して一緒に行く事にした。

途中で先生に会ったが、祥子さまが「ご想像にお任せします」と言ってその場は収まった。

(ご想像にお任せします、だなんて尾ひれ背びれ胸びれどころか、胸毛迄着くじゃないか…)

胸毛はないだろう、胸毛は。

ともあれ、劇の練習をしている体育館に着いた。

「皆さん、遅くなって申し訳ありません。稽古を再開しましょう」
「祥子、予定通り祐巳ちゃんを連れて来れたのね」
「はい、お姉さま」
「それでは再開するわ。各自所定の位置へ」

蓉子が皆に指示をすると、音楽を鳴らした。

一糸乱れぬとは、正にこの事であろう。流石生粋のお嬢様方は違うようである。忍の世界しか知らない祐巳は、この時始めて社交ダンスというものを見たのである。

未だ半人前の祐巳は映画も見る事など、当然の事ながら無く、そのような所への任務も経験した事も無い。

いつしか祐巳は祥子に見とれていたのである。

祐巳を見ていた蓉子は、祐巳を呼び寄せた。

「祐巳ちゃん」
「は、はい」
「祥子の事、どう思う?」
「はい、素敵だと思います」
「そう」
蓉子は一言だけ言った。

「ねぇ、江梨子」
「何?聖?」
「ダンスって、二年生になってからだったかな?」
「ん〜、確か、そうだったと思ったけど?」
「そっか、はーい、注目!この祐巳ちゃんとペアになってくれる人、誰かいない?」

聖が祐巳をとっつかまえて尋ねるも、誰一人名乗り出なかった。当然と言えば当然の事であろう。いきなりのぽっと出の馬の骨とも知れないのが、祥子の妹候補です、と言われて納得する者など居るわけが無い。祐巳に敵意の眼差しを向ける者もいるが、任務でたまに見る目なので、余り気にはならなかったが、皆の手前、萎縮してみせた。

「仕方ないなぁ、私がレッスンしてあげよう」
「うわぁ」
言うが速いが、聖は祐巳の手を取り、レッスンを始めてしまった。
「ワルツは三拍子だからね。はい、ワンツースリー、ワンツースリー」
「えっ!?うわっ」

始めて社交ダンスを踊る人間にいきなり踊れ、というのは無理だと思うが、祐巳は本来、運動神経は悪く無い。むしろ良い方である。が、運動音痴として認識させている手前、いきなり踊れるというのは不自然である。だが、本当に始めてである為、難しい様子。聖の足を踏んだりしている。

「ああ、すいません」
「別にいいよ。でも祐巳ちゃん、見た目よりも重いんだね〜。お姉さん驚いた」
「(ギクッ…まさか…バレてない…よね…)え、ええ…、着痩せするタイプなもので…」
「ふ〜ん、そうなんだ。重そうに見えないけどね〜」

今日は体育の授業が無かった為に、鎖帷子を着用したままなので重い筈である。

むしろ相手の足を怪我させないか、冷や汗ものだった。

ダンスのレッスンを始めてしばらくして、皆の視線に気づいた聖が当然祐巳を解放した。

小声で「やりすぎたかな?」と言いつつ、祐巳の向きを変えさせて言った。

「今日から新しく練習することになった、福沢祐巳ちゃんです。みんな仲良くしてね〜。後、誰か祐巳ちゃんのペアになってくれる人、いないかな〜?」
「じゃあ、私が」と、令が名乗り出た。

「令さま、祥子さまは宜しいのですか?」
「祥子なら大丈夫。正真正銘のお嬢様だから、社交ダンスなんてお手の物。一人でも問題は無し」
「そうなんですか?」
「ほら、祥子を見てごらん」
と言われ、振り向く祐巳
そこには一人で優雅に踊る祥子の姿があった。
「ほら、大丈夫でしょう?さ、練習練習」
「は、はい」

こうして最初の劇の稽古は問題無く?無事に?終了した…でいいのかな?



あとがきと言う名の言い訳

始めてPCサイトビューアーなるものを使って作成して見ました。普通、携帯からだと文字数制限?により千文字ですが、PCサイトビューアーからだと文字数は一万文字になりました。

初挑戦ですが、ここまでの所要時間は二週間…まさかこんなにかかるとは…

皆様の才能がうらやましいです


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