【3421】 黒祐巳は牝豹のポーズでにゃあ  (ついーと 2010-12-29 22:12:00)


【 はじめに 】

※ 福沢祐巳 の一人称SSです。登場キャラは祐巳、祐麒です。
※ 設定時期は祐巳がリリアン高等部一年生の冬頃。原作の設定など細かい部分を無視してしまっています。
※ 祐巳の性格が原作よりも著しく壊れてしまってます。これはタイトルkeyの影響です。



「薔薇様を送る会」が差し迫った、とある日。
祐巳はベットの上に寝そべりながら、一人で物思いにふけっていた。
蛍光灯からふりそそぐ光に目を細めながらも、しかしその視線はもっとずっと先の方を見据えているかのようだ。
もっとも生来の可愛らしい顔立ちのおかげで、傍目から見れば眠気でまどろんでいるように見えるが、ここには祐巳以外は誰もいない。
机やベットや本棚に小物に、ごくごく普通の高校生らしい部屋ではあるが、そんな部屋に似つかわしくない物が1セット床に転がっていた。
てぬぐい、ザル、五円玉。
これは来るべき「薔薇様を送る会の日」に必要な決戦兵器である。



祐巳は思う。
本当にこれでいいのだろうか?
祥子さまと出会い、数奇な運命から山百合会の劇を手伝い、祥子さまの妹となり正式に山百合会幹部入りして数カ月。
その間に自分は祥子さまをはじめ、三人の薔薇様はもちろんのこと紅・白・黄のそれぞれの山百合会幹部達の心をぐっと掴んできたはずである。
自分で言うのは恥ずかしいが、蔦子さんたちからみて自分は山百合会のマスコット的な存在であるとか。
そんなプリティー祐巳が山百合会を、ゆくゆくはリリアンを支配するのは時間の問題のはず。
そんなキューットで偉大な自分が果たして「どじょうすくい」という笑いに走ってしまってもいいのだろうか?



確かに祐麒には「笑いを取りにいくんだ」なんて偉そうなことを言った。
これなら恐らくあのお嬢様女子高生軍団達から、いとも簡単に笑いを取れることだろう。
しかし本当に笑いを取って、それでお終いでいいのだろうか?
いやいや、白薔薇さまからは一芸を披露してもらうと言われただけなのだ。それに備えれば他に余計なことをしなくてもいいではないか。
いや、先輩が一つ用意しろと言ったら、二つ用意して万全の態勢で迎え撃つべきでははいか?
だがしかし笑い以外のウケが良い芸は、自分が何かしなくても綺麗どころの志摩子と由乃の二人が何かやるはずだ。
自分が余計なことをして他の二人と被ったら、祐巳と比べられてしまうかもしれない二人が可哀想だ。
ならいっそ一年生三人で何かもう一つやるか?



試案しつつ、何か参考になるものはないかとベットの下を探る。
そこから雑誌を数冊取り出し、ペラペラとページをめくりながら眺める。
水着、ナース、セーラー服、下着のように際どいものなど、薄い布地が作り出す柔らかなラインを強調するようなポーズをとる女性たちの姿を眺める。

 ( 芸がないわねぇ〜。似たようなのばっかりコレクションして )

二冊目の雑誌を放り出し、三冊目の雑誌に手をのばす。と、そこで三冊目の雑誌の表紙が目にとまる。

 ( ツインテールの女の子、か。確かツインテールのお姉さん系のはこれで七冊目ね。やれやれ )

ニヤリと笑いつつ祐巳はしばし表紙の女の子を眺める。

 ( なかなか可愛い子ね。まぁわたしの愛くるしさには敵わないけど )

じっくり堪能してから、当初の予定どおり何か参考になりそうなものはないかとページをめくる。
ツインテールも可愛いが、それでは普段の祐巳となんら代わり映えしない。お姉さん属性にいたっては、お披露目する相手がすでに年上なのでNGだ。
どうしたものかと試案しつつ、なおもページめくりながら雑誌が三冊目の半ばにさしかかったところで、ふと手をとめる。

 ( こ、これはっ!! )

ページには三人の少女がふわふわの毛皮でできた色の違う水着を着ていた。頭には猫ミミ、お尻には猫のシッポがご丁寧にもつけられている。
そして三者三様にポーズを決めながらも、まるで読者を挑発するような視線を投げかけてきている。

 (うん、いける。こらならイケルわっ!!)

これなら祐巳、志摩子、由乃の三人がそれぞれ個性を引き出せる。
おまけに笑いを提供した後のお色気攻撃というギャップがいい。艶めかしい格好の一年生三人娘に接待されれば薔薇様といえど一撃ノックアウトだろう。

 ( そうと決まれば、まずは志摩子さんと由乃さんに招集をかけて作戦会議ね。それから戦闘服の調達をしなくちゃ★ )

資金は後日お姉さまにでも請求すれば大丈夫だろう。
どうせお姉さまも薔薇様を送る会で私達のショーを楽しむんだから、それぐらいしたってバチは当たらないはずだ。
色々難癖つけてきたら、「じゃあお姉さまのところで働かせて下さい。この格好で」とか甘えて言えばイチコロだろう。その時、可愛く首を傾げてみせるのがポイントだ。
祐巳はお姉さまの性格を把握しているので、割と簡単に操縦できるのだ。



薔薇様を送る会に向けて色々とやることが出来た。
本格的なプランを練るために部屋を出る。と、そこへ祐麒が下の階からやってきた。

「あれ?祐巳。今、俺の部屋から出てこなかった?」
「は?何言ってんのアンタ。扉開けっぱなしだったから閉めてあげたんじゃない」
「え?でも・・・。気のせい?」
「ちゃんと閉めなさいよね、通りにくいんだから。わかった?」
「あ、ああ、悪い。気を付けるよ」
「よろしい。じゃ♪」

鼻歌まじりに階段を下りていく。志摩子と由乃に連絡して明日の朝早くに集まるよう伝えなければいけない。
もちろん祐麒は今まで自分の部屋で姉に秘密のコレクションを鑑賞されていたことに気付くことはなかったのだった。




< 数日後 >
薔薇の館で行われた「薔薇様を送る会」にて大量の出血者が出て、薔薇様を含む数名が救急車で搬送される事件が起こった。
これについて山百合会側は一切コメントを拒否しているが、「薔薇様を送る会」に三匹の獣が乱入したのではという噂が一般生徒のあいだに流れた。
なお噂の真偽は今も闇の中である。



おしまい



【 あとがき 】

読みづらいかもしれませんが読んで頂けたのなら嬉しいです。誤字脱字等ありましたらお許し下さい。
祐巳の行動については、リアル姉とはだいたいこんな感じだというとある方の証言に基づき書きました。祐麒には可哀想なことをしてしまった。
「薔薇様を送る会」が原作と同じ内容で進行されたかは分かりません。真相は闇の中です。
SSに出しませんでしたが「薔薇様を送る会」の噂の中で、三匹の獣は「ごろんた」「めりい」「らんち」という仮の名前をつけられている裏設定があったりします。
「ひとみ」「るい」「あい」と迷いましたが、結局とあるネコさんから頂きました。まぁどちらにしろ日の目を見ることはなかったんですが…。
それにしても、救急車に運ばれていったのは誰なんでしょうね?


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