「マホ☆ユミ」シリーズ 番外編 「薔薇十字に導かれて」
※ このお話は「マホ☆ユミ」シリーズの第1弾のアフター【No:3401】のアナザーストーリーです。
前回の投稿から時間がたっておりますので、継続読者の方もこのお話を読む前にちょっとだけ【No:3401】を読み返してくださいませ。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。(カレンダーとはリンクしません)
※ 設定は第1弾から継続しています。 お読みになっていない方は【No:3258】から書いていますのでご参照ください。
※ 番外編「黄薔薇十字捜索作戦」は【No:3431】から。 第2弾も【No:3404】から書いています。 こちらもよろしくお願いします。
※ 番外編「黄薔薇十字捜索作戦」や第2弾の前のお話になりますので読んでいなくても話は繋がります。
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〜 10月29日(日) 小笠原邸 〜
数台の黒塗りの車や、ゲストたちの乗ってきた車が並ぶ小笠原邸の駐車場は少々混雑していた。
何台ものタクシーが集まってきているからだ。
「小笠原さん、今日は御招きいただきありがとうございました」
「清子さま、お疲れさまでした」
「お姉さま、今日は本当にありがとうございました」
「祥子、また明日ね。 ごきげんよう」
小笠原家のパーティが終わり、ゲストとして招かれた人たちが次々に小笠原邸を辞してゆく。
薔薇十字所有者やその家族、魔法・魔術騎士団の幹部たちが次々に帰ってゆく中、佐藤聖は玄関を出たところで一人の少女が出てくるのを今か今か、と待っていた。
待ち人は藤堂志摩子。
小寓寺の住職夫妻の後ろで今日のホスト、小笠原融たちに一礼をした志摩子は聖の横を通り過ぎる時、
「ロサ・ギガンティア、ごきげんよう」
と、たおやかに挨拶をして立ち去ろうとする。
志摩子はこれから2週間ほど、実家である小寓寺に戻ることになっている。
「あぁ、志摩子。 ちょっと待って」 と、小さく声をかけた聖は志摩子の耳元に唇を寄せると、
「明日の朝、あの桜の木の下に来て」 と、さらに小さな声を志摩子に掛けると、何事もなかったかのように背を向ける。
春先・・・。 講堂の裏のたった一本だけ咲いた桜の木の下で出会った二人。
その思い出の場所に聖は志摩子を呼び出す。
初めて出会ったときから二人は惹かれあっていた。
だが、出逢うほんの数ヶ月前に心に大きな疵を抱えてしまった聖にとって、妹を持つ、と言う事はほとんどタブーに近いことだった。
一方志摩子も、お寺の娘であることを周囲に隠し、他人との係わりを極度に避けた中等部時代を過ごしたせいで、姉を持つ、と言う事は考えてもいないことだった。
さらに魔界のピラミッド事件でこの世界は大きく揺れた。
この中で聖は自分自身が純粋な意味での ”人間” ではないことを知った。
風の精霊と人間の間に生まれた混血。
その血を色濃く受け継いだ不思議な一族の末裔にして体内にシルフィードを宿す存在。
そして志摩子は、この世界の希望を託された祐巳の守護剣士。
最も大事な存在として祐巳を守り抜くことを誓い、すべてに最優先して祐巳を守護し続ける者。
たとえ惹かれあったところで、姉妹となるには遠すぎる関係の二人。
一瞬だけ志摩子の鼻腔を聖の香りがくすぐってゆく。
その残り香が消えていくまでの間、志摩子はその場で聖の背中を見送っていた。
☆★☆
〜 10月30日(月) リリアン女学園 早朝 〜
一月ぶりの登校。 佐藤聖は何時もの時間よりも早めに家を出てリリアンの中庭を歩いていた。
ただし、極力気配を殺し人目につかないように注意して。
これでもロサ・ギガンティアとして生徒たちの信頼と尊敬を集める身。
今日からは入院していた薔薇十字所有者が全員リリアンに登校する予定になっている。
自分たちの状況を考えれば、今日、リリアンは大騒動になるのは眼に見えている。
蓉子や江利子はいい。
良きにつけ悪しきにつけ、あの二人は背負ったオーラが違う。
一般の生徒であれば近づくことさえ恐れ多いほどの圧倒的なオーラ。
蓉子自身はそのことに悩み、一般生徒と山百合会の距離を縮めようと努力しているのだが、さすがの蓉子の能力をしてもそれは難しそうだ。
令と由乃の黄薔薇姉妹は学園まで徒歩10分と近いので始業時間ぎりぎりに来ることで混乱を回避するだろう。
祥子と祐巳の紅薔薇姉妹は祥子の家から車が出ることになっている。 祥子のことだ。 騒ぎにならないようきっちり時間を見計らって登校して来るだろう。
騒ぎに巻き込まれないように注意しなければならないのは自分自身と志摩子だろう、と聖は思っていた。
まぁ、自分も問題ない。
まだ登校してくる生徒の数も少ないし、なにより気配を殺し人の視線の外を移動する技は聖の最も得意とするところ。
3年生の教室に入ってからならさすがにいろいろ噂話をされることは多いだろうが、そんなのは何時ものことで気にもしていない。
志摩子もおっとりしているが、あれだけの美少女である上に周囲から一歩引いたような姿勢であれば口さがない子雀たちに取り囲まれて質問攻め、なんてことにはならないだろう。
ただ、問題は志摩子の登校時間をうっかり聞き漏らしたこと。
今日からしばらくの間、祐巳の家からではなく、実家の小寓寺から通学することになっている志摩子の到着する時間がわからなかった。
『あの桜の木の下に来て』 とは言ったものの、時間までは指定していなかったので、ひょっとしたら待たせることになるかもしれない。
呼び出した以上は声をかけたほうが先に到着しておくのが礼儀だろう。
さすがに、いつもはちゃらんぽらんな性格の聖でも最低限の礼儀だけは守りたかった。
それにこれは随分前から決めていたこと。
魔界のピラミッドに自分と祐巳と志摩子の3人で進入することを決めた夜から事件が解決したら自分の口から言おうと決心していたことだった。
☆
講堂の裏に一本だけ咲く桜の木。
いまは、大量に葉を茂らせるイチョウに埋もれたようにひっそりと立つ桜。
志摩子と最初に出会ったこの場所は聖にとってこの学園内で最も思い出深い場所でもあった。
志摩子はまだ来ていない。 とりあえずセーフだ。
聖は桜の木に背を預けぼんやりと空を見上げる。
葉の隙間から見える空は小さく、風に揺られて一時もじっとしていない。
(この揺れる空がわたしの心なのかな・・・)
別に今更、かっこうをつける気もない。
普通の人間ではない、と知ってしまってからの悩みも、だからこそ蓉子たちを助けることが出来たのだ、と思えば誇りにこそなれ卑下することも無い。
(こんな穏やかかな気分になれるのも、志摩子と祐巳ちゃんがいてくれたからこそ、なんだよなぁ)
聖の頬に思わず笑みが浮かぶ。
(お姉さま・・・。 随分と心配をかけましたがやっとわたしにも妹が出来ます。 お姉さまが在校中に報告できなくてすいませんでした)
半年前に卒業した姉の姿がまぶたに浮かぶ。
『いい? あなたはのめりこみやすいタイブだから、大切なものが出来たら自分から一歩引きなさい』 と心配してくれた姉。
甘えてばかりで何も返せなかったな、と聖は思う。
しかし、姉は自分には何も返さなくて良い、と言った。 返すのなら未来のあなたの妹へ、と。
ほんとうに、どうしてだろう。
一時はこんなにも憎んだマリアさまの庭、リリアン女学園がこんなに輝いて見えるのは。
(私は、しあわせものだ・・・。 こんな私を妹にしてくれたお姉さま。 おせっかいな蓉子に江利子。 なんでこんなにかなわない人間ばかりいるかなぁ)
空を見上げる聖の顔は ”抜き身の刀”、と言われた頃の凄惨さが嘘のように穏やかだった。
☆
しばらく桜の木の下に佇んでいた聖だが、志摩子はなかなか姿を現さない。
実は、志摩子が登校する時間は朝拝の10分ほど前。 実家から登校するときには、遠方のため志摩子はその時間の電車とバスしかない。
魔界の脅威が去り、急速に復興している東京だったが、まだ公共機関は本来のダイヤに戻ってはいない。
志摩子の家からは、どんなに上手く乗り継いでもその時間が最速なのだった。
(ちょっと、マリアさまの前まで様子を見に行ってみるか・・・)
そろそろ登校時間もピークを過ぎる頃。 さすがに心配になった聖は注意深くあたりを警戒しながらマリア像の前に向かう。
☆
講堂の裏手から姿を現した聖を水野蓉子と鳥居江利子が見ていた。
一ヶ月ぶりのリリアン。 校門を過ぎるときからマリア像前に至るまで、多くの生徒たちから
「ロサ・キネンシス! ごきげんよう」
「ごきげんよう、水野さん」
「ごきげんよう! ロサ・キネンシス」
と、何人もの生徒たちから憧憬のこもった挨拶を受け、まるで女帝のように堂々と進んできた蓉子。
その蓉子に気配も無く近づいてきた江利子は
「ごきげんよう。 蓉子、ほらあれを見て」
と、マリア像に向かって歩いてくる聖を目の動きだけで指し示す。
「ごきげんよう。 あぁ、聖らしいわね。 相手の都合も聞かないところなんて、ほんとに成長が無いんだから・・・」
可笑しそうに笑う蓉子。
「ふふふっ。 ちょっと隠れて様子を見てみる? 聖ったら心ここにあらず、で私たちのことも見てないようだし」
「そうね・・・。 ちょっと背中くらいは押してあげましょうか」
「おっと。 ちょうど祥子と祐巳ちゃんも到着したみたいよ。 あの二人もキャストに加えますか」
「復帰早々、聖の拗ねた顔と祐巳ちゃんの百面相が見れるのね・・・。 いいわ、協力しましょう」
悪戯っぽく笑いあった薔薇さま二人は音も立てずその場から姿を消し、マリア像の傍の銀杏の木に身を潜める。
☆
マリアさまの庭まで戻った聖は校門の方向を見つめ志摩子の姿を探す。
ちょうど校門前に小笠原家の黒塗りの車が止まり、祥子と祐巳が降りてきた。
さっそく1,2年生達が遠巻きに祥子と祐巳の二人を取り囲み噂話に興じ始めている。
「志摩子、まだなのかな?」 と、ぶつぶつと呟いていると、ふわっと花の香りがして左腕を掴まれた。
「なぁに? こんなとこで思いつめた顔をしちゃって」
くすくす笑いながら江利子が腕を取っていた。
「朝拝の10分前よ。 到着時間は。 ちゃんと仕事していればどの生徒が何時に来るかわかってそうなものだけれど」
今度は右腕を蓉子に掴まれていた。
「ちょ・・・っ! なんなのよ、あなたたち!」
さすがの聖も抵抗できないほどしっかり動きを拘束されてしまった。
「どうせ、あせって待ち合わせ時間も指定してなかったんでしょ?」
「そうそう。 何事も落ち着いて事に当たらなければ大きな魚を逃がしちゃうわよ」
「なっ、なにを言い出すのよ!」
「ほんとに、何時までたっても妹が出来ないって悲しいわねぇ」
「つぼみの二人にも、とうに先を越されちゃったからねぇ。 こんな人には発言権は無いわよね」
恐るべきロサ・キネンシス&ロサ・フェティダの連合軍。
この攻撃力はリリアン最強だ。
「わかってるわよっ!」
と、顔を真っ赤にして抗議する聖。
「でぇ? 何時報告してくれるのかしら?」
「決まってるじゃない。 いくらどんくさい聖でもお昼休みには間に合うわよねぇ?」
「なによ! 人をどんくさい、って! わかったわよ! お昼休みには言うから!」
「あ、祥子と祐巳ちゃんが来たわ。 ちょっと待ってなさい」
急に腕の拘束が解かれたかと思うと、風切音さえ残さず祥子と祐巳の二人に近づく蓉子と江利子。
あまりの鮮やかな陰形の技に聖もあっけに取られる。
「お姉さま!」 と驚く祥子の声。
その横でいかにも、びっくりした!という顔の祐巳。
「ちょうどそこで江利子と会ったのよ。 そしたらマリア様の前でぶつぶつ呟く不審人物を発見した、ってわけ」
聖は顔を赤くしてそっぽを向くが蓉子はただ楽しそうに笑う。
「そうそう。 そしたら祥子と祐巳ちゃんが近づいてくるのが見えたから、この不審人物も引っ張ってきたの」
江利子も、いかにもおもしろいものを発見した時のようにキラキラした目で聖を見ている。
あまりの恥ずかしさに
「なによ、人を不審人物って! たまたまちょっと考え事をしてただけじゃないの!」
と怒鳴ってみるが、蓉子と江利子が怯むはずも無い。
「へぇ〜。 聖が考え事、ねぇ」 ニヤニヤ笑う江利子。
「まぁ、原因はわかってるけどね。 昨日の祥子の家のパーティでもウロウロしてたしね」
江利子の言葉が聞こえたとき聖の視線の端に、慌てたように校門をくぐり講堂の裏手に急ぐ志摩子の姿が見えた。
「あ〜、もぅ、わかったわよ! 人を晒し者にして! ちゃんとお昼休みには言うから!」
こんなところで時間を取られては折角早起きしてリリアンに来た甲斐がない。
慌てて聖は4人にクルリと背を向け、超高速で去っていった。
☆★☆
(ふ〜。 間に合った・・・)
なんとか志摩子が約束の場所に来る前に聖は桜の木の下に到着した。
いくらなんでもここに至って志摩子より後にこの場所に到着、なんて恥ずかしすぎる。
ふっ、と一息吐くと、普段どおりの冷静さが戻ってきた。
安堵の思いで桜の木に手を添えた瞬間、後ろに志摩子の気配がした。
志摩子も、電車とバスがこの時間にしかないので急いでこの場所に来たのだ。
ふわり、と広がった志摩子のふわふわの髪が急いできたことを物語っていた。
「ごきげんよう、ロサ・ギガンティア」
地上に舞い降りた天使のような笑みを浮かべながら、志摩子が頭を下げる。
「ごきげんよう、志摩子。 時間が無いのに悪かったね」
内心の不安を抑えて冷静に挨拶を返す聖。
「すみません。 この時間でないと電車が無いんです」
志摩子はほんとうにばつが悪そうに謝る。
「いや、いいんだよ。 ちょっとこっちに来て」
と、桜の木の下に志摩子を誘う聖。
「期限付きだけど・・・。 わたしの妹になりなさい」
努めて自然に・・・。 ちょっとぶっきらぼうに志摩子に告げる聖。
「あっ・・・」 志摩子の顔がほんの少し驚きに変わる。
「わたしは、一般的にお得な姉とは言いがたいけど。 きっとあなたにはぴったりだと思う。 束縛しないし、あなたは好きなようにしていれば良い」
志摩子の心の枷を解き放つようにあっさりと告げる聖。
聖は知っている。
この世界の希望を託されたものが祐巳であるなら、その祐巳を支えていく存在は志摩子だけではないことを。
祐巳の姉である祥子。 さらに祥子の姉、最強の薔薇剣士、ロサ・キネンシス=水野蓉子。
祐巳の一番の親友、島津由乃。 そしてその姉、支倉令、ロサ・フェティダ=鳥居江利子。
すべての薔薇十字所有者がその力を結集してこそ、この世界の希望は守られるのだ、と。
だからこそ、志摩子を自らの妹として薔薇の館に迎え入れたい。
なにより、志摩子は自らの白薔薇を継承する薔薇十字、”ホーリー・ブレス” を授けられた存在。
「あの・・・。 わたしは・・・。」
聖さまを一番に思うことは出来ない、と告げそうになったが、そんなことは聖にはわかりきっているはず。
それを志摩子は知っている。
自分自身が最後まで守り通さなければならない存在が祐巳であること。
そして、その祐巳を守るためであれば自分自身はおろか家族でさえ犠牲にすることを厭わないことを。
そして聖だけが、自分と姉妹の契りを結んでも、祐巳と自分の命が共に危険にさらされた場合には、躊躇なく自分を切り捨て祐巳を救う決意があることを。
志摩子の居場所は祐巳の隣。 そしてそれは聖の隣でもある。
魔界のピラミッドで祐巳を守り続けた聖と志摩子だからこその強い信頼関係がそこにはあった。
どんなにあり得ない姉妹であったとしても、聖の妹は志摩子しか考えられない。
同様に、志摩子の姉も聖しか考えられないのだった。
お互いがお互いを求め合うのではなく、ただそこにいてくれればいいと思える存在。
そんな奇跡のような出会い。 そんな相手に二人は出会えた。
聖が志摩子に右手を差し伸べる。
「あなたの妹にしてください」
志摩子の右手が聖の右手に重なる。
「よろしくおねがいします」
その言葉ににっこりと微笑んだ聖は、いつものひょうきんな調子に戻る。
「あ、そうだ、ロザリオがいるんだっけ」
と、左手で右手首に巻いていたロザリオをはずし、志摩子の右手首に巻きつける。
「こっちのほうがお手軽だ・・・。 いつでもすぐはずせる」
それはとても軽い・・・ 言ってみれば軽薄を絵に書いたような言葉。
しかし、どんなに軽く言ったとしても、『いつでもすぐはずせる』 という言葉に聖の凄絶な決意がこもっていることを志摩子は知っている。
聖の覚悟の言葉を聞いた志摩子は、大事そうに聖のものだったロザリオに左手を重ねる。
嬉しさで舞い上がりそうになった志摩子だったが、手首に巻いたロザリオが熱いことに気付く。
それで隠していた聖の気持ちがわかってしまった。
でもここは出来た妹としてそれを口にすべきではないだろう。
「あのぉ」 と、すこし悪戯っぽく笑みを浮かべる志摩子。
「ん?」 と、不思議そうな顔の聖。
「急いで教室に行きませんか? 私たちのスピードなら朝拝に間に合います」
「志摩子! あんた、生真面目だねぇ」 あきれたように笑う聖。
「お姉さまは、不真面目ですね」 してやったり顔の志摩子。
もう、何年も 『お姉さま』 と呼びなれているかのように聖を姉と呼んで見る。
「しょうがない・・・。 じゃ、行くか!」
聖は左手で志摩子の右手を握ると、少し赤くなった顔を隠すように志摩子に背を向け、姉として最初の命令を志摩子に告げる。
「志摩子、ダッシュ!」
聖と志摩子を白い風が包み込み、風のように二人を運ぶ。
聖の得意技、超加速移動を可能にする ”風身”
(なんて・・・。 なんて心地いいんだろう。 この風。 風のシルフィードに包まれて・・・)
片手だけ繋がったそこに聖のぬくもりがある。 半年後には確実に別れの日が来る。
(でも、それまでは・・・決してこの手を離さない!)
二人の繋いだ手の間で、銀色のロザリオが揺れていた。