【3483】 体重計の悪夢  (杏鴉 2011-03-26 20:40:19)


これは以前掲載したお話を別視点から描いたものです。
先にこちら↓をお読みいただかないと、理解しづらい迷惑な代物です。

『祐巳side』
【No:2557】→【No:2605】→【No:2616】→【No:2818】→【No:2947】→【No:2966】→【No:3130】→【No:3138】→【No:3149】→【No:3172】(了)

『祥子side』別名:濃い口Ver.
【No:3475】→これ。




「ねぇ、祥子さん。やっぱり痩せたんじゃない?」

母にそう言われてから、ようやく私は伝えるべき事を思い出した。
やはり朝は苦手だ……。

理由の分からない体重の減少。
私の説明を聞いた母は、当事者の私よりも動揺した。
母がすぐにお医者さまに連絡してしまったおかげで、今日は学校を休まなければならなくなった。
具合が悪いわけではないのだから、学校帰りでも構わなかったのに。
そんな気持ちがため息となって表に出てくる。
なんとも親不孝な娘だと自分でも思う。
でも……、

今日は祐巳に会えない。

その事実が私の不満を膨らませていた。
けれど母の判断は正しかった。
私はすぐにそれを思い知る事になる。……嫌というほどに。





私は服を着替えるために自室へと戻った。
制服を脱ぐ私の手が、ふと止まる。
ぴったりだったはずの制服が、微妙に大きくなっているように感じた。
着る時はどうだっただろう……?
完全に目が覚めていなかったせいか記憶が定かではない。
嫌な予感を振り払うように制服をはしたなく脱ぎ捨て、私は下着姿のまま体重計に乗った。
寒気を感じたのは服を着ていないから、ではないだろう。

――また減っている。

私の体重は昨夜よりもさらに減少していた。
時間帯によって体重が変動するのは知っている。
けれど、こんなにも減るものだろうか?
朝食だって食べたのに……。
無機質な表示が告げる現実に私はただ立ち尽くす事しかできなかった。





母は小笠原家と懇意にしている先生に往診を頼んだ。
べつに体調が優れないわけではないのだから病院に出向いてもよかったのだけれど、母なりに私を気遣ってくれたのだろうと思う。
けれど、そんな母の気持ちが報われることはなかった。
来てくださった先生は診断を下さず、私に精密検査を受けることを勧めた。

母はすぐに私を病院へ連れて行った。
検査をして分かったのは、体重だけではなく身長までも減少していたという事実。
長い時間をかけて分かったのは、たったそれだけだった。

いや、もう一つ。

私の身体がいたって健康体だという皮肉な結果もだ。
つまりそれは、今私の身に起こっている事態を説明できる理由が何もないということ。

……どうしようもない不安に襲われた時、人は気付くのだろう。
自分の心の拠りどころというものに。

この時、私の脳裏に浮かんでいたのは祐巳の愛らしい笑顔だけだった。





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