【3488】 嘘だ!が似合いそうな告白するときのセリフ  (ものくろめ 2011-04-01 06:10:04)


エイプリルフールネタで、祐巳×白黄紅薔薇のつぼみの3本です。


CASE:乃梨子

「祐巳さまってかわいいですよね」

「へ?」

「そういうふうに驚いた顔もかわいいですし、髪型もかわいいですし、声もかわいいですし、内面もかわいいですし、
 もう全部ひっくるめて可愛すぎです、大好きです、愛してます」

 薔薇の館に入ってきた祐巳さまに対して、ごきげんよう、とお互いに挨拶を交わした後、
「今日はいい天気ですね」とでも言うような感じで、私の祐巳さまに対する嘘偽りのない気持ちを伝えてみた。

「どどどど」

「どうしたの、ですか?」

「違う! あ、いや、うん……そう、それで合ってる」

 いつものように道路工事をしようとしている祐巳さまに代わって私が祐巳さまの言いたいことを言うと、混乱した祐巳さまは即座に否定した。
 せっかく祐巳さまが言おうとしてしていたことをきちんと察して助け舟をだしたのに。
 まあ、本当は面白半分で助け舟になるとはそれほど思っていなかったから別にいいのだけれど。
 ちゃんと最後に合ってると言ってくれたので、私が祐巳さまの思考を理解していることも証明されたことだし。

「それでどうしたの乃梨子ちゃん、急にそんなこと言い出すなんて?」

「今日はエイプリルフールなんですよ」

 私は話のネタをばらすように祐巳さまにいった。

「ああ、そういえば、そうだったね。
 ……あれ? それって、今のは嘘ってこと? 
 いや、確かに私は可愛くはないだろうけど、いくらなんでも面と向かって言うのはひどくない?」

 今日がエイプリルフールだという事を思い出した祐巳さまが、“エイプリルフール=嘘”というしごくまっとうな連想をして先程の私の発言を非難した。
 でもその答えは予想済みなので、私は祐巳さまの言葉に傷ついたといった感じで答える。

「ひどいだなんて……。
 祐巳さまがかわいいということと、今日がエイプリルフールだとしか、私は言ってないですよ」

 心の中ではその二つを続けて言った場合には、祐巳さま以外の人だって祐巳さまと同じことを考えるだろうなと思っているにも関わらず、私はしれっと言った。

「あ、そうか。ごめんね、早とちりしちゃって……。え、じゃあさっき言ったことは本当ってこと?」

「嘘じゃない、とも言ってないですけどね」

「えー、なにそれ? どっちなの!?」

 私にからかわれていると思ったのか、ちょっと怒った顔で私を非難するように祐巳さまは言った。
 私はその非難に気付かなかったふりをして、唐突に話題を変える。

「突然ですが、ここで祐巳さまにクイズです」

「え、クイズ?」

「はい、クイズです。
 ある人が言いました「私は嘘つきです」と。
 さて、この人の言ったことは嘘でしょうか? 本当でしょうか?」

 突然クイズと言い出したので、さすがに祐巳さまも疑問に思ったみたいだったが、押しに弱い祐巳さまならなんとかなるだろうと思って強引に進めてしまう。
 まだ私の最初の発言がどっちだったのかを言うわけにいかないのだ。

「えーと……、自分で嘘つきって言ってるんだから、それが本当だったら嘘つきで、嘘だったら嘘つきじゃないってことで……
 あれ? それだと嘘をついたのに嘘つきじゃなくなるから……、あれ?」

 さすがに祐巳さまもいきなりのクイズに納得はいってみないだけれど、なんとかのってもらえたみたいだった。
 ここらへんは日頃の私の行いが良いから上手くいったのに違いない。
 嘘つき村と正直村とかでよくある感じの問題ではあるのだけれど、祐巳さまは真面目に考えようとして堂々巡りを始めてしまった。
 まあ、本当は一つだけ質問をして正直村に行くにはどうすればいいのかとか、そんな感じだった気がするけど。
 正直村も嘘つき村も私の計画には関係がないので、割愛ということで。
 ここで変に答えを出されても困るので、さっさと正解を言ってしまおう。
 
「正解はですね、祐巳さま。この人の言っていることは“信用できない”です」

「はい?」

 祐巳さまはわけがわからないといった感じで、間の抜けた声で答えた。
 まあ、2択の問題だったのにそれ以外が答えだったのだから、そうなるのもしょうがないと思うけど。

「世の中には常に嘘をつく人なんていませんし、嘘をついたことのない人もまずいません。
 嘘つきの言うことは信用できませんが、だからといって言う事すべてが嘘だなんてことはありません。そして、その逆もまた然りです。
 だから大事なのは、それがその人が嘘つきなのか、そうでないのかではなく、その人の言ったことが信用できるか、その一点に限ります。
 というわけで、「私は嘘つきです」というのは、本当だろうと嘘だろうと信用できない。
 つまりそれが答えというわけです」

 まあ極端な例ですけどね、といたずらをした子供が言い訳をするように付け加える。
 本音を言ってしまうと、このクイズ自体がどちらかというと信用できないというか、本気で考えるようなことではないのだけれど。
 一応ここまでが布石のつもりなのでそれは言わないでおく。

「ああ、なるほど」

 そして祐巳さまが答えを理解してくれたのをみて私は勝負の一手を打つ。

「で、初めに戻るわけですが、私の言ったことは信用できますか? 信用できませんか?」

「え?」

 祐巳さまは狐につままれたような顔をした。

「二条乃梨子が「祐巳さまはかわいいです、好きです、愛してます」と言いました。
 さて、祐巳さまはこの発言を信じますか? 信じませんか?」

 要は祐巳さまが私の告白を本気にするのか、冗談だと思うのかということを問いたいのだ。
 もちろん、私と祐巳さまの関係は友達以上恋人未満……なんてことはなく、紅薔薇さまと白薔薇のつぼみ、山百合会の仲間という関係でしかない。
 だから、現時点では祐巳さまが私の告白を本気にとることはないだろう。

「えーと、乃梨子ちゃんのことは信用してるけど、さっきのが信じられるかと言われると……」

 少し考えた後、祐巳さまは口にしづらそうに言った。
 信用してると言われるのはうれしいけど、ここで否定的な答えを言われて終わってしまうのはまずいので、祐巳さまが最後まで答えるのを止めるために私は大きな声で叫んだ。

「祐巳さま!」

「はい!?」

 突然自分の名前を大きな声で呼ばれて、祐巳さまはとっさに返事をした。

「一年後。答えは一年後の同じ日にお願いします。それまでは、忘れ……られては困るのですが、答えないでいてください」

 さっきまでの軽い雰囲気を捨てて、強い意思を込めた声で私は言った。
 そして、「勝手なことを言うようですが、お願いします」と言って頭をさげる。
 
 こちらから一方的に質問をしたのに、答えは一年後にしてくださいなんて、自分勝手なのはわかってる。
 でも、こんなふざけたようなやりとりでも、私の告白に対して否定的な言葉を言われるのはつらいのだ。
 
 ならなぜこんなやりとりをしているのか?
 それはこの一年が祐巳さまと一緒に過ごせる最後の高校生活だから。
 今の関係のままだと、祐巳さまが卒業したらおそらく私とはほとんど会うことはなくなってしまうだろう。
 それを防ぐためには今以上の関係になるしかない。
 お互いに姉妹がいるので姉妹という関係は無理だし、なにより私の祐巳さまへの愛情は、友達や姉妹としての愛情ではなく、想い人への愛情なのだ。
 だから一年後までに、私の最初の発言を祐巳さまに信じてもらえるようにしなければいけない。
 そう、これはいわば背水の陣。
 自分を追い込むことによって、積極的に前へ攻めていくように自分を仕向ける作戦なのである。
 
 案の定祐巳さまは戸惑ったようで、お互いに無言のまま時間だけが過ぎていく。
 やがて納得がいったのか、祐巳さまは私に顔を上げるように言い、私の目を見ながらうなづいて言った。

「わかった、一年後の同じ日にね」

 私の無言の思いが伝わったのか、祐巳さまは微笑みながら私のお願いを聞いてくれた。
 それに対して、精一杯の感謝の気持ちを込めて私は言った。

「はい、お願いします」

 「それでは今お茶を入れますね」と言って私は流しに向かう。
 とりあえずは、いつもどおりに。
 でも今日から一年頑張ろうと思いながら。
 


 祐巳さまと私の分の紅茶をいれてテーブルに戻る。
 まだ他の人は来ていないみたいなので、ひとり座っている祐巳さまに紅茶を渡しながら言った。

「祐巳さま、私頑張りますから」

 これからの祐巳さまに対する自分の意思の表明、そして決意を込めて。 

 祐巳さまは少し考える素振りをした後、天使のように微笑みながらうなづいて言った。
 
「私からもがんばるね、乃梨子ちゃん」



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CASE:菜々

「菜々ちゃん、今日はエイプリルフールだよね?」

 なにかを思いついた……というよりは、なにかを企んでいるような顔をして祐巳さまは言った。
 それを菜々はなんとなく意外に思った。
 その時の感情で突っ走る自分の姉と違って、祐巳さまはもう少ししっかりしているというか真面目だと思っていたから。
 まあ、まだ祐巳さまとは付き合いも浅いので、祐巳さまの性格についてよく把握しているというわけではないのだけれど。

「まあ、そうですけど……」

 もしかしたら、祐巳さまはこれから嘘を言うつもりなのだろうか。
 だとしたら今日はエイプリルフールだなんて、言わなければよかったのに。
 相手が今日はエイプリルフールだということに気づいていないほうが騙しやすい。
 それに相手を騙した後に、「今日はエイプリルフールだから」といって嘘を許してもらうのがエイプリルフールなのだと思う。

「あのね、菜々ちゃん。実は由乃さんは……ああ、そうか。先にエイプリルフールだって、言っちゃだめなんだね」

「……はい、そうだと思います」

 菜々の予想通りなにか由乃さまのことで嘘をいうつもりだったらしいが、菜々の顔を見て祐巳さまは自分の失敗に気づいたらしく、途中で嘘をいうのをやめてしまった。
 由乃さまのことについてどんな嘘を言おうとしたのか気になるけど、それには触れないでおいた。
 由乃さまの事に関しては、妹である菜々よりも祐巳さまの方が付き合いが長いので、それが嘘だと断定はできないかもしれないから。
 ただ、祐巳さまの顔がなにか企んでいるような感じだったので、騙されたりはしなかったと思うけど。
  
「あ、菜々ちゃん、私には騙されないと思ってるでしょ?」

「え、そんなことは……」

 ありません、とは続けられなかった。
 だって、お姉さまと違って祐巳さまは嘘はあまりつかなさそうだし。
 それに祐巳さまは顔に出てしまうタイプだから、お世辞にも嘘が得意とは言えないと思う。
 ……さきほどから、祐巳さまに考えを読まれている菜々も祐巳さまのことをいえない気はするけど。

「あー、やっぱりそうなんだ。いいよーだ。覚えときなさい、いつか菜々ちゃんのこと、上手く騙してあげるから」

「だから今日は嘘は言わないから」、と祐巳さまは拗ねるように言った。
 そんな祐巳を見て、菜々はそういうところが嘘が上手くないと思う原因なんだろうなと思った。
 ついでにかわいいというか、愛らしいとも。

(いやいや、何を考えてるんだ私は)

「どうかした、菜々ちゃん? 急に黙りこんじゃって」

「いや、祐巳さまがかわいいなと思いまして」

「え?」

「え?」

 あれ? 今、自分は何を口にした?
 えーと、祐巳さまがかわいいと思って……それをそのまま口に出した?
 って、えーーーー!? 

「あ、いや、違います、違います。いや、祐巳さまがかわいいと思ったのは本当ですけど、その、なんというか……」

 菜々が否定したのを聞いて、暗くなってしまった祐巳さまをみて、慌てて訂正する。
 かわいいと言われた直後に違うと言われれば、傷つくのは当然だ。
 そんな慌てた菜々をみて、祐巳さまはくすくすと笑いだした。

「菜々ちゃんって、もっとしっかりしてるイメージがあったけど、意外と慌てることもあるんだね」

「いえ、今のはなんというか、その……」

 上手く言葉が見つけられず、なんとなく頭の中が熱くなってきた気がした。
 いや、頭が熱くなってきたから、上手く言葉が見つからないのか?
 自分の顔が赤くなっていくのがわかり、それを見られる恥ずかしさでさらに頭の中が熱くなっていく。
 
「そういう赤くなった顔も、初々しくてかわいいよ、菜々ちゃん」

「な!?」

 祐巳さまの口から、思ってもみないことを言われてしまい、菜々の心臓はドキドキと大きく鼓動した。
 きっと顔はトマトのように真っ赤になって、頭の中はもう沸騰しているに違いない。

「菜々ちゃんとは、一年間しか一緒に過ごせないけど、今みたいに知らない面をもっと知れたらなって私は思うよ」

「え?」

 祐巳さまの言葉を聞いて、急に頭の中の熱が下がった。

「どうかした、菜々ちゃん?」

「いえ、あ……そうですよね、祐巳さまは3年生ですから、一年後には卒業なさってるんですよね」

 そう、祐巳さまは3年生。
 今年で卒業してしまうから、来年はここにはいない。
 そして、それは祐巳さまと会う機会がなくなるということ。
 そう考えると、なぜだか気持ちが落ち込んでいく。
 
「気にするにはちょっと早過ぎると思うけどね。とりあえず一年間は一緒にここで過ごすわけだし」

 不安そうな顔をしていたのか、子供をなだめるように祐巳さまは言った。
 その言語を聞いただけで、気持ちが晴れていく。
 そうだ、まだ始まったばかりじゃないか。
 そう考えると、さっきから菜々の気持ちを振り回している祐巳さまに、ちょっとした仕返しをしたくなった。

「祐巳さま。今日はエイプリルフールですけど、さっきのことは嘘じゃなくて本当ですよ」

 祐巳さまも私のように慌てるかな、と思って言った。
 本当ならさっきのように、「祐巳さまがかわいい」と口にしたかったけど、そこまでの勇気はなかったので仕方ない。
 祐巳さまはちょっと驚いた顔をしたが、慌てることもなく微笑んで言った。

「私も菜々ちゃんがかわいいと思ってるのは本当だよ」

 そうして、二人で微笑みあう。
  
 今度は祐巳さまにかわいいと言われても、頭の中が熱くなったりはしなかった。
 でも、胸はさっきと同じようにドキドキしてる。

 そう、何もいますぐ答えを出す必要なんかない。
 これから一年間は一緒にここで過ごせるのだ。
 それからのことはこれから考えればいい。

(まずは、祐巳さまにかわいいときちんと言えるようになろう)

 新しい高校生活の目標が一つできたかな、と菜々は思った。



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CASE:瞳子

「そうだ! せっかくのエイプリルフールなんだから、二人でゲームをしようか」

 時々お姉さまはこういう風に、突飛なことを言い出す。
 今日は四月一日。俗にいうエイプリル・フールで、悪質でない嘘ならおそらくマリア様もお許しになってくれるであろう日だ。
 間違ってもゲームをする日ではないはずだ。
 まあ、お姉さまが私を騙そうとするのは、お姉さまの百面相を考えれば難しいし、だからこそゲームをしようということなのかもしれない。
 なにがせっかくなのかは分からないけど。

「まあ、今日は特に用事があるわけでもないのでいいですけど、ゲームといってもどういったことをするんですの?」

「そうだね、今日一日相手に嘘をついたら罰ゲームってのはどうかな?」

 嘘をついたら罰ゲームとは、また子どもっぽい。
 まあ、お姉さまらしいといえば、お姉さまらしいのかもしれないけど。
 しかし、エイプリルフールなのだから、相手をうまく騙したら勝ち、などにするのが普通なのではないだろうか。

「エイプリルフールですのに、嘘をついたら罰ゲームなんですの?」

「うん、そう。やっぱりマリア様の手前、嘘をついた方が罰を受けるほうがいいかなと思って」

「それなら、そもそもそんなゲームをしなければいいと思うのですが」

「まあ、それは言わないお約束ってことで。罰ゲームはそうだね……嘘をついた方が相手に抱きしめられるってのはどうかな?」

 お姉さまは少し考えるそぶりをした後、悪ふざけを思いついたように笑いながら言った。

「それは――」

 罰ゲームになるんですの?

 そう言おうとして、瞳子は口にするのをやめた。
 途中でお姉さまの考えがわかったと思ったから。
 なんてことはない。このやりとり自体がお姉さまの考えたゲームなのだ。
 罰ゲームをするというのは、お姉さまの嘘。
 だから、ここで瞳子が「それが嘘ですよね」と言えば、お姉さまは「うん、嘘だよ」とでも言うに違いない。
 エイプリルフールのちょっとした姉妹の戯れとすれば悪くない。

(まったくお姉さまときたら、紅薔薇さまになっても子供っぽいのだから)

 心の中で苦笑しながら、期待してるような顔でこちらに笑っているお姉さまに向かって答えようとしたとき、ふと頭の中で違う答えを閃いた。
 もしこのまま話を続けたら、お姉さまはどうするおつもりなのだろうか?
 そう思うと、お姉さまの表情も腑に落ちない気がする。
 期待してるような顔をしているけど、何を期待しているというのだろうか。

 瞳子がこの嘘を見破ってくれること?
 罰ゲームがそれでいいと答えること? 
 それとも……もしかして、もうゲームは始まっている?

 そう考えると、お姉さまの表情にも納得がいく気がする。
 もし、すでにゲームが始まっているとしたら、お姉さまが嘘をついたわけだから、お姉さまに罰ゲームをするということになる。
 そして罰ゲームは嘘をついた方が嘘をつかれた方に抱きしめられることだから、瞳子がお姉さまを抱きしめるということになる。
 ということは、お姉さまは瞳子に抱きしめられることを期待している?

「どうしたの瞳子? なにか言いかけたみたいだけど」

「ええとですね、その……」

 お姉さまは急かすように言ってくるけど、瞳子はなかなか答えることができない。
 だって瞳子の考えが正しければ、これを嘘だと言うのはこれからお姉さまを抱きしめますと宣言するのと同じなのだ。
 そう考えてしまうと感嘆に答えることができなかった。

「ああ、それと罰ゲームは嘘をついた回数分、日にちを分けてやるから」

「……え? それは、どういうことなのでしょうか?」

 ここで瞳子がお姉さまの嘘を見破って、お姉さまに抱きしめて終わり……ではないのだろうか?

「一回なら今日だけ、二回なら今日と明日の二日に分けてってこと」

「はい?」

「十回なら今日から十日間、毎日抱きしめることになるわね」

 一日に全部やってしまうなんて勿体無いでしょう? と楽しそうにお姉さまは言った。

(え、えぇーーーー!?)

 ここにきてようやくお姉さまが本当に企んでいることが理解できた。

 ここでゲームを終わらせた場合は、瞳子がお姉さまに抱きつく。
 そして、ゲームを実行した場合、今日一日お互いに相手に抱きしめて欲しい回数だけ嘘を言うのだ。

 いや、違う。
 お姉さまは瞳子に抱きしめられるよりも、瞳子を抱きしめたいと思うはずだ。
 お姉さまの期待している顔を見ればわかる。
 あれは、間接的にでも瞳子が抱きついて欲しいと言うのを期待しているのだ。

 そして、気づいた。
 
 このやりとりは、きっとお姉さまが以前から考えていたことに違いない。
 少し前からお姉さまは暇をみつけては、私に抱きつくようになった。
 もちろん、なにも用事がなくて周りに人がいない二人だけの時に限っていたので、回数は数えるほどだが。 
 姉妹なのだから周りに人がいたって姉が妹を抱きしめても問題はない。
 瞳子だってお姉さまに抱きしめてもらって、嬉しくないわけなんてない。

 でもそれが毎日続いてだったら? 
 瞳子はきっとお姉さまに文句を言うだろう。
 薔薇様としてそれはどうかと思うし、周りの目は恥ずかしいし、なにより瞳子のプライドがそれを許さない。
 理由もないのに毎日抱きつくなんて! とお姉さまに怒鳴ってしまう自分が容易に想像できてしまう。

 そう……理由がなければ。
 たとえ建前に過ぎないとしても。どんなに馬鹿らしくても。理由さえあればしょうがないと瞳子のプライドも許してくれる。
 だからエイプリルフールにかこつけて、こんなゲームを提案してきたのだろう。
 そう。ゲームは初めから始まっていたのだ。瞳子に話しかけた時から。

 こういう時、お姉さまの百面相が少し嫌になる。
 何を瞳子に期待しているのかがまるわかりだ。
 しかも、お姉さま自身それが分かってやっているのだからなおさらにたちが悪い。
 今だって少し意地の悪い顔をして、さあ、瞳子はどちらを選ぶのかな? なんて考えている。

 答えなんて分かりきっているのに。
 私だってお姉さまを一度抱きしめるよりも、お姉さまに毎日抱きしめてもらう方がうれしいに決まっている。
 それに、おそらくはお姉さまも嘘をいくつかは言うに違いない。
 そう考えれば答えなんて分かりきっている。

(嘘をつくごとにお姉さまから罰ゲーム……というか、ご褒美が貰える)

 そう考えると悔しさが収まった。
 我ながらなんて単純なんだろうとは思うけど、嬉しいものは嬉しいのだから仕方がない。
 もう瞳子の頭の中にはゲームをやるという選択肢しかなかった。

「わかりました。せっかくお姉さまが誘ってくれたわけですから、やらせていただきますわ」

「うん、じゃあ今からスタートね」

 やっぱりね、とでもいうように少し笑って、お姉さまがゲームのスタートを告げた。
 あとはできるだけたくさん嘘をつけばいいだけだ。
 そんなにたくさん何の嘘をつけばいいのだろう、と思ったけど、それはそんなに問題ではないことにすぐに気づく。
 だって、お互いに嘘だとわかる嘘しか言わないのだから。

「で、では、私からいきますわね。えーと、そう、実は紅薔薇は――」


 この日瞳子が祐巳についた嘘の数は、これまで瞳子がついた嘘の数よりも多かった。


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