【3490】 目線をそらしましたマリア様がみすてた赤くなった  (クゥ〜 2011-04-13 17:46:04)


 最近、娘の祐巳ちゃんの様子がおかしい。
 本人の話では、学園祭のクラスの出し物が大変らしいと言っているけれど、みきの経験から余程の出し物で無い限りここまで遅くはならないはず。
 ……祐巳ちゃんは部活はしていないし。
 でも、何か大変な事に成っているのなら教えてくれるでしょうし。
 ここはひとまず娘を信じる事にする。

 信じると言いながら、その考えはすぐに否定に変わる。

 「絶対ダメ!」
 「そんなぁ、祐巳ちゃ〜ん」
 お父さんが情けない声を出しながら娘を見ている。
 祐巳ちゃんが頑なに拒んでいるのは、みきたち両親と祐麒がリリアンの学園祭に来ることだった。
 学園祭にはチケットがないと入ることは出来ない。
 祐巳ちゃんはそのチケットを渡すことを拒んでいる。
 「お願いだから、お父さんもお母さんも来ないで!」
 どうしてここまで拒むのか?
 「……あっ!」
 ピンときた。
 ここまで祐巳ちゃんが拒む理由はもしかすると……。
 「ねっ、祐巳ちゃん。体育祭のチケットはくれたのにどうして学園祭はダメなの?」
 「どうしても!」
 祐巳ちゃんは理由を言わない。
 でも、お母さんはピンときたのだなこれが、フフフ。
 「なに、笑っているのお母さん」
 「いいえ、そこまで言うのなら仕方ないわ。お父さん諦めましょう」
 馬に蹴られたくはないものね。
 「お母さん?」
 お父さんの涙目を見ながら、祐巳ちゃんのお願いを承諾することにした。
 祐巳ちゃんはごめんねとすまなそうにお父さんに謝って部屋に戻ってしまう。
 何やら部屋でも何かをしているみたいで、時々変な音がする。
 本当に何をしているのか。
 ……そう言えば私にも覚えがあるわね。
 だから、なんとなく分かったのだけれど。
 「うふふふ」
 「お母さん、何を笑っているんだい?」
 「いえ、とても嬉しくって」
 リリアンのOGだからこそ、分かること。
 「これはお父さんには分からない嬉しさよ」
 そう言って、みきはまだ笑っていた。


 「ただいま〜」
 祐巳ちゃんの学園祭当日、なんだか疲れた顔をして夕方に祐麒ちゃんが帰ってきた。
 「どうかしたの?顔色が優れないわよ」
 「いや、まぁ、なんだ……何でもない」
 「?」
 そう言って祐麒ちゃんは部屋に戻っていった。
 今日は花寺のお友達と遊びに行っていたはずだけれど……喧嘩でもしたのかしら?
 男の子だ。
 いろいろあるのだろう。
 ……恋人でも出来たのかしら?
 みきはリリアンのOG、残念ながら学生時代に異性とのそんな経験は無い。
 でも……。
 「早く帰ってこないかしら」
 こちらはよく気持ちが分かる話。
 みきの考え通りなら、祐巳ちゃんにとってはきっと今日は大切な日に成るはずだ。
 ワクワクしながら、みきは祐巳の帰りを待つ。
 「祐巳ちゃんは、まだなのかい?」
 学園祭に行けなかった夫が、残念そうに娘の帰りを待っている。
 「祐巳ちゃん、きっと帰りは遅いわよ」
 「そう言っていたのかい?」
 「いいえ、これは母の勘よ。ふふふ」
 「なんだか嬉しそうだね」
 「私もリリアンOGですもの、ふふふ」
 みきは本当に楽しそうだった。


 「ただいま」
 夕食後、疲れた様子の祐麒ちゃんと違って祐巳ちゃんは楽しそうに帰ってきた。
 「お帰りなさい。祐巳ちゃん、学園祭はどうだった?」
 「うん、楽しかったよ」
 「良かったわ、それで夕食は?」
 「あっ、ごめん。皆で食べてきた」
 「そう」
 ここまでは予想通り。
 「で、祐巳ちゃん何か報告はない?」
 「えっ?」
 聞くまでも無いのだけれど、祐巳ちゃんの胸には今まで無かったロザリオが揺れている。
 「あっ!」
 祐巳ちゃんの顔が真っ赤に成った。
 「うふふ、報告聞かせて」
 「う、うん」
 祐巳ちゃんの為に、とびっきりの紅茶を用意する。
 「どうぞ」
 「あ、ありがとう」
 「祐巳ちゃん、何か報告することがあるでしょう」
 「ふぇ?!」
 祐巳ちゃんはモジモジしながら出された紅茶に口をつけ、ビックリしている。
 「うふふ」
 「……お母さん凄い、もしかして分かっていたの?」
 「お母さんもリリアンのOGだもの」
 祐巳ちゃんは真っ直ぐな目を向けてくる。
 「……で、報告は?」
 「……あ〜……本日、お姉さまが出来ました」
 その一言を聞いたとき、嬉しさが込み上げて来る。
 「おめでとう!」
 声も大きくなる。
 高等部に進学して半年、祐巳ちゃんに姉妹が出来ないことに不安を募らせていた。
 姉妹制度は言わば、リリアン高等部の要。
 姉妹を持たない主義の人なら仕方ないけれど、それでもみきは姉妹を持って欲しいと思う。
 それは姉妹を持つことで、高等部での生活が華やかなものに成るし。何より大事な繋がりが生まれるからだ。
 「それで、それで、お姉さまはどんな方なの?」
 「う、うん」
 祐巳ちゃんの顔は真っ赤。
 「お名前は小笠原祥子さま、二年生で長い黒髪がとても素敵な方」
 「うん、うん、それで」
 「それで、成績も優秀で本当のお嬢さまで」
 「うん、うん」
 「小笠原グループの会長のお孫さん」
 「うん、う?」
 「あと、紅薔薇の蕾」
 「う……えっ?」
 今、祐巳ちゃんは何て言った?
 「ゆ、祐巳ちゃん」
 「なに?」
 「今、紅薔薇の蕾って言わなかった?あと、小笠原グループのお孫さん?」
 「う、うん。祥子さまは小笠原グループの会長さんのお孫さんで、紅薔薇の蕾なの」
 「ゆゆゆゆゆゆ祐巳ちゃん!」
 「な、なに?!」
 祐巳ちゃんが驚いているが、そんなことは気にしている場合ではない。
 「ロ!ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンって?!小笠原グループって?!」
 まって、祐巳ちゃんのお姉さまが紅薔薇の蕾と言うことは……。
 「祐巳ちゃんはロサ・キネンシス・アン・ブゥトンのプティ・スール?」
 「うん、そう……なる」
 視界にみきの声に驚いてやって来た夫と祐麒ちゃんが見えたが気にしている余裕は無い。
 小笠原グループ。
 山百合会。
 薔薇の館。
 紅薔薇さま。
 黄薔薇さま。
 白薔薇さま。
 蕾。
 紅薔薇の蕾の妹。
 そんな文字が頭の中に渦巻いて。
 「わぁ!お母さん!」
 祐巳ちゃんの声が響く中、意識が飛んでいく。


 消えていく意識の中。
 何故か、懐かしい、さーこさまが微笑んでいたのだった。






 無印後の祐巳とみきさんの話。
 祐巳がみきさんに告白して、みきさんがオタオタする姿が書きたかった。
 ま〜さまこんなのですがどうでしょう? 

                               クゥ〜


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