【3543】 大好きだよ  (紅蒼碧 2011-09-05 21:19:56)


「お姉さまの意地悪!!」

そんな叫び声が、薔薇の館の二階から聞こえてきた。

(何事!?)

この日、図書室へ寄っていたため遅れてきたロサ・キネンシスこと福沢祐巳は、聞き覚え、身に覚えのある声がして驚いた。
ギギッっと音のなる階段を踏みしめながら、通称ビスケット扉の前まで来ると立ち止まり、様子を伺う。
過去、このような声がした際、姉の小笠原祥子が扉から飛び出してきたことがきっかけとなり、祐巳の人生が大きく変わった。

(人の動く気配は無い・・・)
(・・・話し声もしない?)
(まぁ〜取りあえず入ってみるか・・・)

祐巳が扉を開けようとノブを回した。

「ごきげんょぅ・・・」

その瞬間、内側からも同じように開いた。

「えっ?・・・ぎゃっ!?」
「きゃっ!!」

中から人が飛び出してきてぶつかった。
祐巳は何となく予感?していたこともあり、中から出てきた人物を受け止めることに成功した。

「だっ大丈夫・・・?」
「はっ!?申し訳御座いません!!」
「って奈々ちゃんだったんだ〜、誰かと思っちゃった」
「本当に申し訳御座いません・・・」
「大丈夫だよ。お互い怪我も無かったんだし」
「はい」

中から飛び出してきたのは、一年で高等部入学時からロサ・フェティダ・アン・ブゥトンという前代未聞の人物、有馬奈々だった。
奈々は、祐巳に体重を預けていたが、自分で立ち、祐巳に頭を下げた。

「お姉さま、大丈夫ですか!?」

中から慌てて出てきたのは、祐巳の妹にして、ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの松平瞳子。

「祐巳さん、奈々ちゃん大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」

続いて姿を見せたのが、ロサ・ギガンティアの藤堂志摩子と妹でロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの二条乃梨子。

「うん、大丈夫だよ」

と少しだけ得意げに無事を知らせた。

「皆様、ご心配をお掛けしました・・・」

奈々は、かなり落ち込み気味に頭を下げた。

「いったいどうしたの?」

祐巳は、奈々に・・・聞こうとして、集まってきた皆を見ながら聞いた。

「それが・・・」

っと口を開きながら志摩子が振り向き、それに合わせて奈々以外が振り向いた。
そこには、ただ一人この騒動に動じずテーブルに座り、窓の外をみながら優雅にお茶を飲んでいる人がいた。
彼女は、三色の薔薇様最後の一人にして、奈々の姉であるロサ・フェティダこと島津由乃であった。

「由乃さん?」

と何が何だか分からない祐巳はそうつぶやいた。

「何よ」

由乃は、目線だけこちらに向けて答えた。

「いつものことです、お姉さま」
「そうそう、いつものことです」
「「はぁ〜」」

そう答えた瞳子と乃梨子は、二人同時にため息を吐いた。
志摩子は、困ったような顔をし、苦笑している。

「???まぁ〜とにかく座ろうよ。話はそれから」

といって、皆を席に促す。
奈々が祐巳の分のお茶を用意しようとすると、

「私が用意するから座っていて」

と瞳子が言ったので、

「いえ、私が」

瞳子は微笑みながら奈々に言った。

「私がお姉様にお入れしたいだけだから」

ここまで言われては引き下がるしかない奈々は、
「ありがとう御座います」と言って自分の席に戻った。

少しして、

「どうぞ」

瞳子が祐巳に紅茶を出した。

「ありがとう」

と言ってから一口飲んで、

「おいしいよ」

祐巳は微笑みながら瞳子に言った。
瞳子もそんな姉の顔を見て満足したのか、やわらかい微笑を返した。
瞳子が席に座り、少し落ち着いたところで

「それで、何があったの?」

っと、当事者であろう由乃と奈々以外を見渡しながら、皆に聞いた。


・・・・・
・・・



この日、祐巳以外の全員が早くから薔薇の館に来ていた。
由乃は奈々と、乃梨子と瞳子が話しているのを微笑みながら、時には話に入ったりしている志摩子。
祐巳が来ないと会議は始められないため、紅茶を飲みながら話に花を咲かせていた。
そんな時だった、奈々が

「お姉さま。明日なのですが・・・」
「あぁ、明日ね、ごめん。明日行けなくなったから」
「えぇぇぇっ!!」

奈々の大声に、志摩子は驚いた表情で振り向いた。
しかし、乃梨子と瞳子は同時に「はぁ〜」とため息を吐き、『また始まったか』とスール喧嘩に呆れていた。

「奈々、大きな声出さないの。はしたないわよ」
「でも、お姉さま!!約束は!?」
「しょうがないでしょ?令ちゃ・・・、お姉さまがその日しか空いてないって言うし、付き合えって五月蝿いんだもの」
「それでも!!」
「無理なものは無理!!」

瞳子と乃梨子は由乃をジト目で見ながら、奈々には同情の眼差しを送っていた。
志摩子は唯々、苦笑するだけ。
そのとき、奈々は小さな声で何かをつぶやいた。
下を向いていたせいで、何を言ったのか聞き取れなかった。

「何?」
「お・・・ま・・・わ・」

また、小さな声でボソボソとつぶやいた。
しかし、はっきりと言わない奈々に苛々した由乃が言い放った。

「もう!!聞こえないでしょ!!はっきり言いなさい!!」

少しの間が空いた後、顔を素早く上げた奈々が

「お姉さまの意地悪!!!!!」

この小さな体の何処から出ているか不思議な位の大きな声で奈々が叫んだ。
その瞳には、涙をためて怒りに震えていた。
流石に驚いた由乃を含め、志摩子、瞳子、乃梨子は瞳を大きく開け、固まっている。
言い切った奈々は、ジッと由乃の顔を睨みつめる。
由乃はバツが悪いのか、キョロキョロと視線が定まらない。
その後、何も言わない由乃に対し、奈々は振り返ると扉の方へと駆け出した。

「あっ!?奈々ちゃん!?」

志摩子だろうか?瞳子だろうか?乃梨子だろうか?それとも3人同時に言ったのか。
しかし、それでも止まらない奈々は、勢いの付いたまま、扉を開け・・・ようとして向こう側から開いた扉に、体重をかけていたため踏ん張りきれず倒れていった。

「きゃっ!!」

目を瞑り、来るであろう衝撃に怯えていると。
ポフッっと何か柔らかいものにぶつかった感触と、「ぎゃっ!?」という声が耳に届いた。

(ぎゃっ??)

と奈々が聞こえてきた声に反応し、顔を上げてみると、そこには苦笑し奈々を見ている祐巳がいたのだった。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


一通りの話を聞いた祐巳は、一口紅茶を飲むとチラッと由乃を見た。
由乃は、祐巳の視線に気づいているようだが、何事も無かったかのように紅茶を飲んでいる。

「はぁ〜っ」

っと、ため息を吐いたのは、祐巳ではなく乃梨子と瞳子だった。
奈々は、俯いたまま黙って座っている。
しばらくの間、沈黙が続いていた。
聞こえる音は、部活をしている生徒の声と木の葉や木々が擦れる音だけ。
なにやら思案していた祐巳が、ティーカップを置いた。

「瞳子」

と呼びながら、瞳子の方を向く。

「何でしょうか?」

急に呼ばれて驚いたが、瞳子も祐巳の方を向いた。
しかし、一向に祐巳の口からは言葉が発せられなかった。
ただ、瞳子を見つめているだけ。
周りで様子を伺っていた皆は、何をやっているのかわからず顔を見合わせている。
しかし、瞳子は何かに気がついたようで、ハッとした表情を浮かべた後、少し思案してから祐巳に笑いかけた。
祐巳はというと、その瞳子の表情に対し、申し訳なさそうな表情をした後、奈々に向き直って一言。

「ねぇ奈々ちゃん、明日私とデートしない?もちろん予定が無かったらだけど?」
「・・・・・えっ?ロサ・キネンシス、今、何と??」
「んっ?明日私とデートに行かない?って誘っているのだけど?」
「・・・・・えっ!!!?」

もちろん驚いているのは奈々だけではない。
乃梨子も志摩子も、事の発端である由乃も口を開けて固まっている。
ただ一人驚いていないのは、苦笑を浮かべている瞳子だけだった。

「・・・えっ!?でもっ!?」
「奈々ちゃんは私とデートするの、嫌?」
「えっと、それは・・・」

奈々はバツが悪そうに、由乃を見た後、瞳子の顔も伺って思案する。

「いいじゃない、行ってきなさいよ」

ぶっきら棒に、不貞腐れたように由乃が言い放った。

「・・・えっ!?」

由乃の言った言葉に驚いた奈々だったが、顔が徐々に険しくなっていき、急に笑顔になったかと思うと祐巳に振り向いた。

「丁度良かったです。予定が空いたので何をしようか思案中だったので、喜んで御供させて頂きます!!」
「なっ!?」

奈々は、嫌味を由乃にぶつけながら言い放ち、由乃はそれに対して何も返せないでいた。
祐巳は少し驚いた顔をしたが笑顔で答えた。
しかし、了解はしたものの奈々は瞳子に振り返り

「あの〜瞳子様、よろしいのでしょうか?」

やはり、祐巳の妹である瞳子の許可なしにデートをするのは気が引けてしまう。

「気にしなくて良いのよ。お姉さまが誘ったのだし、いってらっしゃい」

と瞳子は笑顔で即答した。

「と言うことで、明日はよろしくね♪」
「はいっ!!よろしくお願いします!!」

と笑顔で答えた。
由乃はというと、自分が言った手前何も言えず、しかめっ面で紅茶を飲んでいる。

「じゃ〜明日のことは任せて♪、デートの待ち合わせ場所と時間は夜に電話すから♪」
「はいっ、分かりました」

ひと段落したと思われたが、ここで祐巳が志摩子の方を向いて

「ロサ・ギガンティア」

と、普段は名前で呼ぶのだが、何故か祐巳はそう呼んだ。
当然志摩子は

「何かしら?ロサキネンシス」

祐巳が継承で呼ぶからには何かあるのだろうと即座に判断して問い返す。

「今日の議題なのだけど、特に急ぐこともないし週明けで良いかな?」
「えっ!?・・・、そうねぇ。確かに急ぎではないけれど・・・」

と由乃を見る。
見られた由乃はというと

「別に良いんじゃない?私も今日はやる気でないし」
「・・・と言うことみたいだから、良いんじゃないかしら?」
「・・・そぅ、ありがとう!!じゃ〜私は帰るね、瞳子一緒に帰るわよ?」
「えっ!?あっ、はい!!」

急に祐巳が言った言葉に驚いたが、姉が帰るのなら特にやることも無いので、誘われていることもあり一緒に帰ることにした。
ティーカップを片付けようとすると乃梨子が「私がやっておくから」と笑顔で言い、瞳子はそれに甘えることにし、「ありがとう」と笑顔で返した。

「じゃ〜皆さんごきげんよ〜♪」
「ごきげんよう」

と二人は挨拶をし、出て行くところで、

「奈々ちゃんまた明日ね♪」

と言って、二人は出て行った。

「「「ごきげんよう」」」

由乃以外の三人がそう答える。
その由乃は

「それじゃ会議も無いことだし私も帰るわ、ごきげんよう」
「・・・・・」

由乃は奈々の方を見ることなく、挨拶だけして出て行った。

「奈々ちゃん気にしない方がいいよ」

乃梨子がそう言い、志摩子は困った顔をしている。

「大丈夫です。私も怒っていますから」
(それ、全然大丈夫じゃないよ)

乃梨子と志摩子は顔を見合わせると苦笑した。

「お姉さま、おかわりは如何ですか?」

そう乃梨子が問うと

「えぇ、頂くわ」
「あっ、私がっ!!」
「いいから座ってて」

奈々は、乃梨子の申し出を無下にはできず、立ち上がりかけた体を下し、再び座りなおす。

「紅茶でよろしいでしょうか?奈々ちゃんも」
「ええぇ」
「あっ、はい。ありがとう御座います」

乃梨子は注文を聞くと流しへと向かった。
乃梨子が紅茶を入れて戻ってくるまで、奈々は窓の外を見ながら、何かを考えている様子。
志摩子は特に何も言わず、奈々の様子を眺めている。

「お待たせしました」
「ありがとう」
「ありがとう御座います」

笑顔で二人に出すと自分の席に座った。
少しの間、沈黙が続いた後

「ロサ・キネンシスは、何故私を誘ったのでしょうか?」

デートに誘われてからずっと疑問だった。
余りにも可哀相にだったからだろうか・・・。
しばらく沈黙が続いた後

「多分だけれど、祐巳さんは可哀相や憐みだけで言ったのではないと思うの」
「そうでしょうか?」
「ええぇ、祐巳さんの中では必然なのでしょうね。思ったままに行動するということが必ず良い結果に結びつくと信じて疑わないから。それは、動かないことで後悔するよりも、動いたことでもたらされる結果なら受け入れられるということだと思うの。だから祐巳さんは、考えがあって動いたのよ。それが何かは私にも分からないのだけれど」

志摩子はそういうと可笑しそうに笑った。」

「それに今まで、祐巳さんが動いたことで悪い結果に結びついたことはないわ。それは、私にしてもそうだし、お姉様にしてもそう、それに祥子様や瞳子ちゃんも同じだと思う」

そう言った志摩子に、何か思うところがあるのか乃梨子も感慨深げに笑っていた。
祐巳が何を考えているかは、正直なところ奈々にも見当がつかないのが本音。
でも、今は自分の気持ちを落ち着かせるためにも、ありがたい申し出であったことには変わりない。

そこでふと、先ほどの瞳子の反応に対し、奈々は不思議に思うことがあった。
それは、祐巳が他人の妹とデートすることに対し、特に何かを言うでもなく許可したのだ。
確かに、薔薇の館の住人で知らない中でもないのだから良いのかもしれないが、私なら嫉妬してしまいそうだった。

「瞳子様は・・・」

途中で言葉を切った奈々に乃梨子が

「瞳子がどうかしたの?」

と先を促した。

奈々は、申し訳なさそうな顔になって乃梨子に問う。

「瞳子様は、ロサ・キネンシスと私がデートすることを怒っていないのでしょうか?」

その問いに乃梨子はポカンとした顔をしてから笑顔になり

「瞳子なら大丈夫だよ」

乃梨子は、自信満々に言い切った。

「何故、そう言い切れるのでしょうか?」

乃梨子は志摩子を見て、お互い苦笑すると奈々に向き直り答えた。

「瞳子は祐巳様が決して裏切らないと分かっているし、祐巳様の考えていることも何となく分かっていると思う」
「えっ!?」
「あの二人の絆は、そんなに柔じゃないよ?祐巳様と瞳子はいろんなことがあった、時期的にいうとまだスールになって間もないけど、長い時間をかけてお互いのことを理解し合いスールになった二人だから、お互いを本当に信じきっているのが良く分かる」

奈々は、乃梨子の話に驚きつつも続きを聞く。

「普通のスールでは、まず経験もしないようなことを二人はすでに経験しているし、瞳子に関して言えば、祐巳様のお姉さまである祥子様もそうだけど、祐巳様にかなり依存している」
「祐巳さんに関して言えば、瞳子ちゃんを守ることはあっても、絶対に手放すようなまねはしないわ。だから大丈夫よ」

乃梨子と志摩子は真摯に奈々を諭していく。

「それにね。実を言うと、祐巳様と瞳子は日曜日にデートする予定なんだって。だから問題なし!!」

最後に、止めの一言を言って、乃梨子は締めくくった。
それを聞いて奈々は沈痛な面持ちで

「そうですか、良かったです」

と言ったが、内心では

(・・・瞳子様が羨ましい。それだけロサ・キネンシスに思って頂けるのだから)

奈々の表情を見て、乃梨子が何かを言おうとしたが、志摩子がそれを止め首を横に振る。
しばらく、沈黙が続いていたが志摩子が

「今日はもう帰りましょうか?」

という一言で、帰ることになった。
奈々と乃梨子が分担して片づけをし、三人一緒に薔薇の館を後にする。
帰り道では、薔薇の館にあったような話ではなく、普段の何気ない話をしながら帰路についた。


・・・・・
・・・



その日の夜、奈々の自宅の電話が鳴った。
相手はもちろん、予告をしていた祐巳からだった。

「明日は少し早いけど、9時に駅前集合ね♪」
「はいっ、分かりました。因みに何処に行かれるのですか?」
「それはお楽しみだよ♪」
「そうですね。その方が面白そうです!!」
「じゃ、また明日ね♪お休み」
「はい、お休みなさい」

一通り話も終わり、電話を切った。

(ごきげんよう。では無くお休みか〜、何か新鮮だな)

そんなことを思いながら、遅れてはまずいので早く寝ることにした。
しかし、考えることは明日のことではなく、由乃とのことだった。

(これからお姉さまとどうなっていくのかな・・・)

布団に入ってからも、由乃の事を考えるとしばらく眠れなかったが、明日に響くので無理やり眠りにつくのだった。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


日曜日 デート当日

奈々は、昨晩眠るのが遅くなったせいで、起きるのが遅くなり、予定していた家を出る時間ギリギリになってしまった。
慌てて待ち合わせ場所の駅前に行くと、既に祐巳の姿があった。

「遅くなってすみません!!」
「大丈夫、まだ時間の3分前だよ」
「それでも、先輩を待たせるなんて・・・」
「気にしなくて良いよ、それに今日はせっかくのデートなんだから先輩後輩は無しね」
「・・・分かりました。ロサ・キネン」
「違う違う。ロサ・キネンシスじゃなくて、名前で呼んでね」
「・・・えっ!?」
「さぁ〜」

祐巳は意地の悪い顔をして聞く。

「ゅ、祐巳様?」
「あははぁっ、うん、じゃ〜行こっか?」
「はいっ!!」

祐巳と奈々は連れ立って、商店街の方に歩いていく。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


一方、二人の後ろを付いていく二つの影があった。
一人は、奈々の姉の由乃、もう一人は由乃の姉の支倉令だった。

「気になるなら、奈々ちゃんとの約束断らなければよかったのに・・・」

由乃が『キッ』と令を一睨みすると

「令ちゃんがこの日しか空いていないって言うからでしょ!?」
「はぁ〜」

令は思いっきりため息を吐いた。

「確かに言ったわよ。でも由乃に用事が無ければって言ったでしょう?どうして奈々ちゃんとの約束を反故にしたの?」
「うぅっ!?」
「しかも、奈々ちゃんだけじゃなく、祐巳ちゃんにまで迷惑かけて・・・」
「何よっ!?令ちゃんの馬鹿っ!!!!」
「あっ、ちょっと待ってよっ!?由乃っ!!」

二人は一通り言い合いが終わると、祐巳と奈々の後を追いかけて行く。


・・・・・
・・・



実は昨日の夜、奈々の家に電話をした後、祐巳は令に電話をしていたのだ。
そのとき、祐巳が令にお願いしたのは全部で2つ。

1つ、祐巳と奈々の待ち合わせ場所と時間に、その場に来て欲しい。
2つ、ワザと由乃を逆上させ、祐巳と奈々の後を追いかけさせること。

それを聞いた令はと言うと

「祐巳ちゃん、いつもごめんね。全部任せるよ」

とうな垂れていた。

1つ目は、元々行く場所だったとこなので問題なかった。
2つ目に関しては、由乃の性格上、気になるのは当然なので逆上させるまでもなく、うまくいく作戦であった。
何せ、令が新聞部主催で行われたバレンタインデーイベントでの副賞とし、その勝利者とデートを行った際、由乃は令を追いかけて行った位なのだから。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


祐巳と奈々はデパートへと入っていく。

「まずは、ウィンドウショッピングね♪」
「何か見たいものでも?」
「強いて言うなら、夏物の服かな?でもその前に・・・」

祐巳は、また意地の悪そうな顔で奈々を見る。

「なっ、何でしょう?」
「まずは、奈々ちゃんの服から見に行こう〜♪」
「えっ!?あっ、ちょっと待って・・!?」
「いいからいいから〜」

奈々の腕を掴むと、祐巳は用品売り場へと駆け出した。
奈々は、祐巳に掴まれた腕を、その祐巳の手を見て

(・・・お姉様。この手がお姉様だったら・・・)

そんなことを思っていたのだ。
チラッと奈々の表情をうかがっていた祐巳は、待ち合わせ場所で合ってから時々見せる奈々の沈んだ表情を知っていたが、あえて何も言わなかった。
それからは、午前中の間ずっと祐巳が奈々を引張りまわす形で過ごした。

「つっ、疲れました〜」
「そう?私はそうでもないけど・・・。でも・・・お腹空いたね〜」
「そうですね〜」
「じゃ〜さっ、天気も良いし、何か食べ物を買って、公園で食べよっか?」
「いいですね!!そうしましょう!!」

二人は、デパート地下街で食品を買った後、近くの公園に移動し、湖の近くの芝生で買った食品を広げ食べ始める。

「意外と色んなものがあってどれにしようか迷いましたが、それでも祐巳様買い過ぎでは…」
「良いの良いの♪、食べ切れなかったら持ち帰れば良いんだから♪」
「それもそうですね。それと奢って頂いてありがとう御座います」
「それも良いんだよ。こういう時はご馳走様ですっておいしく食べてくれればそれだけで♪」
「はいっ、ご馳走様です。頂きます!!」
「頂きます・・・・。んん〜〜、おいしいね♪」
「はい、とても!!」

二人は、日常のことや学校でのことを話ながら食べ進めていく。
お互い、由乃を介して以外は接点がほぼ無いため、意外と話が盛り上がった。
あらかた食べ終わり、お腹が満たされると先に買っておいた紅茶を飲みながら湖を眺める。
先程までとは異なり、穏やかで静かな時間が過ぎていく。

「祐巳様は、瞳子様のこと好きですか?」

何気ない一言だった。
何かを考えることなく、口から言葉が零れ落ちていた。
言って直ぐ、自分が話たことに気づいた。

「あっ!?すっ、すみません!!急に変なこと言って!!」

奈々は、慌てて謝罪する。
自分はいったい何を言っているのだろう?と、もしかしたら少し精神的に弱くなっているのかもしれない。

「好きだよ。大好き」

祐巳は問い掛けに対し、迷い無く答えた。
前を見つめ、奈々にとって見たことのない真剣な表情だった。

「えっ!?」

奈々は、余りにもきっぱりと言われたので聞き返してしまった。
祐巳は奈々の方を向いて苦笑する。

「そう聞くってことは、奈々ちゃんは由乃さんのこと嫌いなの?」

祐巳は冗談のつもりなのか、本気なのか分からない表情で言った。
奈々は祐巳にそう言われて、内心がドキッとした事に対し驚いていた。

「そっ!?そんなことありません!!」

奈々は、祐巳の言葉に強く否定した。
そんなことは無い。
そんなことあるはずが無いと言い聞かせながら。

「奈々ちゃんが今悩んでること、私には良く分かるんだ」

その言葉に、奈々は勢い良く祐巳の方に振り向く。
祐巳は、奈々の不安そうな表情に微笑みで返し、正面を向いた。

「でもね、それと同じくらい由乃さんの気持ちも分かるんだ」
「えっ!?」

奈々には祐巳が何を考えているのか良く分からなかった。
わがままで、一方的に約束を反故した由乃の気持ちに何かあるのか?
このとても苦しくて、ざわめきの収まらない自分の気持ちが本当に分かるのだろうか?

「由乃さんはね、初めてできた妹にどう接したら良いのか分からないんだよ」
「えっ!?あのキッパリ言いたい放題のお姉様さまが!?」

何か思うところがあるのだろう、祐巳は苦笑していた。

「確かにそうかもしれない。けれど由乃さんは、誰にでも自分を出すわけではないんだよ。それは親しい人にしか見せない姿」
「・・・」
「以前ね。由乃さんに言われたことがあるの。『自分に親しい人の数だけ、心に部屋を持っている』みたいなことをね」
「心の部屋?ですか??」
「そうだよ。奈々ちゃんは感じたこと無いかな?」
「・・・良く分かりません」
「そっか。でもね気づいていないだけで心にはいくつもの部屋があるんだよ。その中で今一番奈々ちゃんが占めているのは由乃さんの部屋」
「お姉さまの・・・部屋・・・」
「そう。心の部屋に住むようになってからはあまり間もない、だからちょっとしたことでも反応してしまうんだよ。それは奈々ちゃんだけではなくて由乃さんもそう」
「お姉さまも・・・?」
「うん。間もないからこそ心がどう接して良いのか分からない。特に由乃さんはそういったことには奥手だから。由乃さんは志摩子さんと違った意味で壁を作っちゃうから・・」
「・・・それは何故なのでしょう?」
「奈々ちゃんも少しは知っていると思うけど、由乃さんは幼いころからずっと病を患っていて、殆ど学校に来れなかったんだって」
「はい。その辺りのことは一通り聞いています」
「それでね、周りの人達はそんな由乃さんを触れると壊れてしまいそうなガラスを扱うように接していたらしいの、でも由乃さんはそんなこと望んではいなかった。ただ一個人として見て欲しかったのだと思う」
「そんな!?・・・あっ!!でも祐巳様は?あんなに仲の良い祐巳様はどのようにしてお姉さまと仲良くなったのですか?」
「実はね、幼稚舎からずっと由乃さんとは同じクラスになったことが無いんだよ」
「えぇっ!?本当ですか?」
「不思議でしょう?今でこそ親友と言える仲だけど、2年前までは存在すら知らなかったからね」

祐巳はひたすら可笑しそうに笑っていた。
それに対し奈々は唯々驚くだけだった。

「何でかな?由乃さんとは会ってそう時間もかからずに仲良くなることができたんだよね」
「・・・」

奈々は、常々感じていた祐巳の雰囲気から何故由乃が、由乃だけではなく自分も含めた祐巳と接する全ての人が仲良くなれるのではないかと感じていた。
祐巳と接したものは、その暖かさに身が和らいでいくのが良く分かる。
多分、山百合会にいた者は少なからず祐巳の影響を受けているのだろうと・・・。

「私は由乃さんのことが好き」
「・・・えっ?」

祐巳は湖を見ながらではあるが、はっきりと言い切った。

「あぁ〜、もちろん友達としてのね♪」
「・・・それは分かっていますよ」

少しだけ『本気なの!?』と思ってしまった奈々。

「由乃さんにも直接言ったことがあるの」
「えぇっ!?本当ですか?」

奈々は、この日何回同じ言葉を叫んだのであろう。
でもやっぱり驚きは隠せなかった。

「その時、お姉さまは何と!?」
「赤面して、照れてた。そんでもって「私のこと嫌い?」って聞いたら、由乃さんは真顔になって「嫌いな分けないじゃないって」って言ってくれたのだけれど、素直じゃないよね」

祐巳はそう言って心底可笑しそうに『あははっ』と笑っていた。
由乃の態度に関しては「まぁ、そんなとこか」と思っていた奈々だが、流石に祐巳の行動と言い切れる素直さ?かなり天然が入っているが羨ましいと思った。
姉にして妹ありの性格で、奈々自身「好き」などと言った言葉はそう易々と言えるものではなかった。
「妹に」っと望まれた時も素直になれなくて、恨みがましい視線をおくるだけで精一杯だったのだ。

「私は妹になってからずっと、お姉さまに対して何も言えずに過ごしていた時期があったの・・・」
「祐巳様がですか!?」
「うん、そうだよ。ただ傍にいられることが嬉しくて、名前を呼ばれることが嬉しくて、お役に立てることが嬉しくて・・・」
「・・・」
「それで満足だと思っていた。思い込んでいの・・・。これでいい、このままお傍にいられればって。でもそう上手くいかなかった」
「何故・・・ですか?」
「急にね、お姉さまのお心が分からなくなったんだ。何をお考えなのか、何で何も言ってくれないのかって、妹なのに・・・」

奈々はその気持ちがよく分かった。
まさに、今の奈々と同じような気持ちなのだからだ。

「でもね、やめたの」
「何をですか?」
「我慢することをね」
「我慢・・・」
「何も言わなければ伝わらないし、伝えられないんだ。どうしてもお姉さまのお心が分からないときは、たとえ嫌われてもいい、鬱陶しがられてもいいからぶつかろうって決めたの。何も言えずに後悔することはもうしたくないから」

祐巳は強い。
奈々はそう思った。
これが、今のロサ・キネンシスなんだって。
これが、薔薇としての貫録なんだって。
今にして奈々は思う。
奈々自身、全てのスールを見たわけではないので言い切ることはできないが、それでも「祥子と祐巳」・「祐巳と瞳子」は誰が見ても理想のスールと言えるだろう。
それは祐巳の思想でもある、スールとは「お互いに大好き」だと真剣に思うことができること。
ただそれだけであるのだが、そう簡単に言い切ることはできない。
自分が好きになった人に対し、「好き」と言えてしまう祐巳、他人の気持ちを代弁できてしまう祐巳。
そんな祐巳を奈々はすごいと思う。
奈々自身は、由乃から「好き」と言う言葉を聴いたことは無い。
しかし、以前祐巳が言っていた、由乃は剣道部の後輩からはスールを作らないと聞いたとき、何故「妹に」と望んだのかの答えを「好きになったから」と答えた。
素直に嬉しかった。嬉しかったのだが、では何故由乃自身は言ってくれないのだろう?
確かに恥ずかしいと思う。
奈々自身もそう簡単には言うことができないからだ。
そう思い至ったことで、奈々は自分が抱いていた心の違和感に気づいた。
自分を必要としてくれる言葉が欲しいのだと、安心して傍にいることのできる言葉が欲しいのだと。

「祐巳様、私分かった気がします。自分がどうしたいのか、どうして欲しいのか」

そう言って、祐巳の顔を見ると祐巳は微笑んでいた。
その顔は、祐巳がよく瞳子に見せる姉の顔だった。
その笑顔を見て、今の自分の考えが正解なんだって自信がもてた。

(お姉さまもこんな感じで笑ってくれるのかな?)

そう思っていると、祐巳は背伸びをし立ち上がった。
そして、不思議な一言を呟いた。

「そろそろ選手交代かな?」

っと。


・・・・・
・・・



「何話してるんだろ?遠くて聞こえない!!」
「そんなに気になるなら、出ていけばいいのに・・・」
「うるさいな!!静かにしてよ!!」
「まったく・・・」

やはりというか、機嫌が悪かった。
令から言わせてみれば、自業自得なのだが・・・。
それでも由乃は心のモヤモヤを鎮めることができなかった。

「ねぇ由乃、どうして奈々ちゃんとの約束を反故にしたの?」
「・・・」

令の質問に対し、由乃の雰囲気が少し変わった気がした。
きっと今の由乃には、周囲の音は聞こえていないのだろう。
静かな沈黙が続く。

「初めは、令ちゃんが大学に行ってなかなか外では会えなくなったから、久しぶりに一緒に出掛けようって言われてつい乗ってしまったんだ」
「・・・」
「それは確かに、嘘じゃ無いよ。でもそう思ったとき何故かホッとしたんだ」
「何で?」
「奈々とのデートは楽しみだった。でもどうしていいのか分からなかった。奈々とどうしたいのか、どうしていきたいのか・・・」

由乃は苦笑いをしながら地面を見つめていた。

「あんなに頑張って姉妹(スール)になれたのに、何を間違えたのかなって」
「・・・」

令はゆっくり紡ぐ由乃の言葉を黙って聞いていた。
自分と由乃にはなかったことだから。
だから由乃は分からない。
経験していないことだから不安に感じる。
心臓の疾患のせいで他人との繋がりが極端に少ない由乃だからこそ感じること。
こればっかりは本人が乗り越えるしかない。
私は由乃を信じるだけ。
きっといい答えが見つかると。

「でもね」

由乃のその言葉に令は由乃を見る。
由乃は祐巳と奈々を見つめていた。
真剣な顔で・・・。

「やっと分かったんだ。自分の気持ちに」
「えっ?」
「流石、親友。私のことをよく分かってる」

そう言った由乃に笑顔が戻った。

「私は奈々が好き。ただそれだけで良かったんだよね?何も難しく考える必要なんてなかったんだ。私って本当に馬鹿だな〜」

由乃の雰囲気が晴れやかなものに変わった。
令は思った。
もうこれで大丈夫だと。
これからも、由乃と奈々の間には色々なことが待ち受けているだろう。
しかし、お互いが好きだという気持ちさえ残っていればそれだけで大丈夫。

(祐巳ちゃんには感謝しないと・・・)

令もまた、眼前にいる由乃の親友を見つめるのだった。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


祐巳様が手を振ると、木の陰から二人が出てきた。
奈々は、その二人を見ると

「お、お姉さま!?な、何故こちらに!?それに令様も!?」

奈々は、まさか二人がいるとは思わず驚いた。
言ってからしまったと思った。
こんな言い方をすれば、『何!?悪いの!?』とか何とか言いそうなものだが、由乃から出た言葉は

「奈々、約束をやぶってごめんね」
「えっ!?」
「本当にごめんなさい」
「お姉さま・・・」

少しの間、奈々と由乃の間に沈黙が訪れる。
重苦しいわけではないが、余り気持ちいものではない雰囲気。
沈黙を破ったのは奈々の方だった。

「何故かって・・・、聞いてもいいですか?」

それは、約束を反故にされてからずっと思っていたこと。
『ごめんね』だけではダメだって、祐巳との会話で気づいた。
由乃の本音を聞いて決めよう。
納得ができたら、それでいい。
今の奈々はそう思っていた。

「急に怖くなったんだ・・・奈々と共に歩んで行く未来が・・・」
「!?」
「あっ!!誤解しないで!!奈々のことが嫌いとかそういうことではないの。ただ、誰かと歩んでいくって令ちゃ・・・。お姉さま以外とそういった関係になることに不安になったんだ」

祐巳様の言った通りだと、奈々はそう思った。
由乃は、誰かと親密な関係になっていくことを怖がっているのだと。

(やっぱり、直ぐに仲良くなれた祐巳様はすごい・・・)

何故か、この状況で余裕がでたのかは分からないが、奈々は心の中でそう思った。

「奈々とずっと一緒にいるって決めたのに、これから奈々と一緒に過ごしていこうって決めてたのに、ごめんね。こんな情けないお姉さまで・・・」

由乃はそう言って奈々を見つめた。
何を言われたとしても今回は自分が悪い、何を言われても受け入れようと。

「一つだけ聞かせて下さい」
「何?」

奈々は、少し溜めを作ってから聞いた。

「私のこと好きですか?」

っと。
由乃は目を大きく見開き、驚いている。
しかし、それも数秒。
直ぐに、表情を引き締め真剣な顔になった。
奈々は由乃の言葉を待った。
それはどれくらいだろう。
1秒か、1分か、それともそれ以上か・・・。

「好きよ。今までも、これからも、この先もずっとずーっと、ね」

『ドックン!!』
心臓が大きくはねた気がした。
顔が真っ赤になり、体温が上がった気がする。
それは、奈々だけでなく由乃も同じだった。
(うれしい・・・。すごっくうれしい!!)
そう思ったら、気持ちが勝手に言葉として出てきていた。

「お姉さま、私も好きです!!大好き!!」

奈々は興奮したまま由乃に抱き付いた。
由乃も奈々をしっかりと受け止めた。


・・・・・
・・・



(令様、行きましょうか?)
(そうだね、お邪魔虫みたいだし)

祐巳と令は、二人の邪魔にならないように小声で話している。
これで大丈夫。
二人は改めて本当の思いを伝え合ったのだ。
もう心配ない。
だから安心してこの場を離れよう。
祐巳と令は、二人を微笑み見ながらその場から立ち去った。
ある程度離れてから

「祐巳ちゃん、また迷惑かけたね。ありがとう。本当に祐巳ちゃんにはお世話になりっぱなしだ」

祐巳は、『そんなこと無いですよ』というように、首を横に振った。

「今回は、少しお互いを見失っていただけ。私はその背中を軽く押しただけにすぎません」
「でも、祐巳ちゃんにしかできないことだよ。私でも志摩子でもダメだったと思う。だってあんなに他人と距離を持っていた由乃が短期間で仲良くなれた祐巳ちゃんだから」
「令様にそういって頂けると嬉しいです」
「本当のことだもの」
「・・・私は、ただ見ていられなかったんです。だって二人は以前の私と祥子様を体現しているようでしたから」

そう言った祐巳に令は心から感謝した。
(やっぱり、祐巳ちゃんに託してよかった)っと。

「よしっ!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「祐巳ちゃんこの後何か用事とかある?」
「いえ、特にありませんけど」
「それじゃ、由乃の代わりって訳じゃないけど、令さんの買い物に付き合ってよ♪」

祐巳は少し『ポカンッ』とした顔になったが、笑顔に戻ると

「はいっ!!喜んで」

っと言って答えた。
二人は振り返ることなく、買い物へと繰り出すのだった。


☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆・・・★・・・☆


次の日、薔薇の館にて

今日は、由乃と奈々が二人そろって部活に出ているため、薔薇の館には祐巳・志摩子・乃梨子・瞳子の4人が出席していた。

「それで、上手く元のさやに納まったのですね?」

乃梨子がずっと気になっていたこと祐巳に聞いた。
昨日祐巳から事の顛末を聞いているであろう瞳子に聞いてもよかったのだけれど、やっぱり当事者の口から聞きたかったので、今まで我慢していたのだ。

「うん!!前よりイチャイチャしてたよ。今朝なんて本人はきちんとしているつもりみたいだったけど、傍からみてるとずっとニヤケ顔が納まっていなかったからね。蔦子さんや真美さんも少し顔が引きつっていたよ」
「それは・・・」
「でも本当に良かったわ。もう大丈夫ね」
「うん、もう心配ないよ。もしこれから何かあっても二人ならのきっと越えて行ける。そう信じてる」
「そうね。・・・でもごめんなさい祐巳さん。祐巳さんにばかりまかせてしまって」
「気にしないで、私がしたかっただけだし、私が動いた方がいいかなって何となく思ったんだ」
「ええぇ、そうね。ありがとう」
「お姉さま、お疲れ様でした」

皆がホッとしたように紅茶を飲む。
良かったと誰もが思いながら。

「そう言えば、瞳子とのデートはどうだったのですか?」
「私も聞きたいわ」
「すっごく楽しかったよ。瞳子なんてずっと離してくれなかったんだから」
「ちょ、お姉さま!?」
「だって本当のことだもの」
「それは、・・・奈々ちゃんのことが羨ましかったですから・・・」

瞳子が少し沈み気味に話すと

「もうっ、本当に可愛いんだから!!」
「きゃっ!?」

祐巳が瞳子に近づいて抱き付いた。
(大丈夫、私は瞳子とずっと一緒だよ)というように。

「ここにもイチャイチャしている人が・・・」
「乃梨子は羨ましくないの?」
「別に羨ましいとは・・・」
「あらそう?私は羨ましいのだけれど」

志摩子はそう言って乃梨子に近づくと手を取った。

「し、志摩子さん!?」
「私も少しだけ乃梨子とスキンシップしたくなったから」
「うん、そうだね」

志摩子の手を乃梨子はそっと握り返した。


・・・・・
・・・



薔薇の館の前にて

部活が終わった二人は、急いで薔薇の館に来た。
金曜日の謝罪と土曜日のお礼を言うために。

「皆に心配かけたから謝らないとね」
「はい、でも許してもらえるでしょうか?」
「きっと大丈夫よ。だって仲間なんだから。ちゃんと謝れば許してくれる」
「はいっ!!」

二人が薔薇の館に入り、二階に上がると、通称ビスケット扉の前に立った。

「大丈夫?心の準備はできている?」
「はいっ大丈夫です」

『それじゃ』と言うように扉をあけた。
すると

「何・・・これっ!?」
「えっ!?」

由乃はドアノブを握ったまま、奈々も由乃の隣で固まっていた。
由乃と奈々が見たものは、部屋一面が桃色空間になっていたからだ。
祐巳は瞳子に抱き付き、志摩子と乃梨子は手を重ねながら見つめあっている。

「「・・・・・」」

しばらく固まっていたが、気を取り直すと由乃は奈々とそのままゆっくり扉の外に戻り、そっと扉を閉じた。

「「・・・・・」」

しばらく沈黙が続いた後

「帰ろっか」
「そうですね」

二人はそういうと薔薇の館を出た。

「何だったのでしょうね?」
「考えたくもないわ・・・」
「確かに・・・」
「謝罪、どうしましょう?」
「流石にあれじゃあね。明日でも大丈夫でしょう」
「はい」
「じゃぁ、行こ!!」
「はい!!」

由乃が右手を差し出すと、奈々が素早くその手を取った。
二人の顔は少し赤く染まっている。
でも、手を放そうとは思わなかった。
だって姉妹(スール)なのだから。
今も、これからも、この先もずっとずっと。
二人は仲良く銀杏並木を手を繋ぎ、微笑み合いながら帰路につくのだった。


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