気分で書いたので珍しいカップリングです。
苦手な方は避けてお通り下さい。
あと19日ルールで短編祭(ry…なんでもありません!
徹夜なんて全然ウェルカムなんかじゃない。
というよりむしろ大嫌いだ。
「はい、もうこの問題は大丈夫だね」
肌は荒れるし十分な睡眠は取れないし、いいことなんて全くといっていいほどない。
「祐巳ちゃん?」
「あ、はい。OKです令さま」
「ちっ……じゃあ次はこの問題ね。出来る?」
「え?…た、多分いけます」
今『ちっ』っていったような…
にしても、なぜに私は休日にこんなことしているのだろう…
「わからない所があったら聞いてね」
「ありがとうございます」
そうだ、薔薇の館で数学がやばいとつぶやいた一言がまずかったのだ。
そしてその言葉をお姉さまに聞かれたのが更にまずかった。
その後、お姉さまが令さまに相談。
で、現在に至る。
なんとなく横目で私念のこもった目を隣の椅子に座っている令さまに向ける。
しかし、令さまも令さまだ。断ることも出来ただろうに…
「ん?わからない?」
「いえ!大丈夫です!」
すぐさま視線を目の前の難問に変える。
これはなかなか一見様な感じの式だ。
sin…どこかで見たことがある単語だとは思う。記憶にはあるが正確には思い出せない。つまり覚えていない。
「あー、休憩しません?」
「だーめ、さっき休んだばっかりじゃない」
「いえ、人間の集中力は30分も持たないと言いますし…」
「10分前に休んだんだけどなー」
口の前に手をやって私をジトーっと見ながら令さまは言う。
今手で隠されているがきっとその口は弧を描いているのだろう。
むむむ、どうしてそこまで私に勉強を強いるのか。
まさかお姉さまに弱みを握られているとか?そうか!そうでもなければ休日に泊まりこみで勉強合宿なんて開くはずがない!そうなってくると私に厳しくするのは八つ当たり?!
「ほらほらー、sin(サイン)だよー?さっき私教えたよー?」
ムムム!
「それぐらい覚えています!ただどういう意味だったのか定かじゃないだけです!」
「それって忘れたっていうんだよー?」
ム、ムキーッ!!
こうなったらヤケッパチだ!
ぶ、分数だったのはなんとなく覚えている。そしてその分数は横の三角形の辺の長さを利用するのもわかっている。
ならあとは確率論!選択する辺の数は3つ!そして選択する回数は分子と分母の2回!つまり総数は3×2の6。よって当たる確率は6分の1!
「駄目だ…当たる気がしない…」
「あ、ごめん。ちょっといじめすぎたかな」
「全くです!」
「お、怒ってる?」
覗き込んでくる顔は本当に申し訳なさそうな顔になっていた。
さっきまでの顔とは全然別人みたい…
「知りません」
「ご、ごめんよー。つい意地はってる祐巳ちゃん見てたら苛めたくなっちゃって」
突拍子も無いことを言われ、顔に血液が集まるのを感じる。
「な、なんですかその理由!冗談はちゃんと選んでから言って下さい!」
「えー?冗談じゃないんだけどなー」
令さまは両手を椅子において私に身を乗り出し、頬をふくらませる。
その…なんというか近い。
「えっと、そんなことよりこの問題教えてください」
なんとなく気まずくなって再び体を机に向け、先程わからなかった問題に話題を変える。
「いやだよ」
「へ?」
あの意地悪な顔は今ではすがるような顔になっている。
「祐巳ちゃんは私の事嫌い?」
ポカン、となにも考えられないくらいその言葉が私の頭の中で爆発した。
なにも考えられないのは言葉だけじゃなく令さまがいつの間にか私の両肩を掴んでいるからっていうのもあるのかも…と漸く思考が回りだした所で…この状況ではとても冷静にはなれなく…
「嫌いじゃ、ありません」
肩を掴んでいる手を外そうと動かした手が今度はその手に掴まれる。
「ならOKってことだね?!」
すがるような顔だった彼女はすっかり上機嫌な王子様。
ころころ転がる表情に完全にペースは乱されっぱなしで…ていうか演技だったんですね?!
「いや、OKってなにがですか?」
「好きってことでしょう?」
「いやいや、なんでそんなことになってるんですか!」
「いい?数学で言うと今マイナスって選択肢が消された今、もうプラスしか残されてないんだよ!」
なにその極論。
「でも0があるかもしれないですよ?」
「え、それはちょっと想定外というか…そうなの?」
あー、なんとなくさっきまでの令さまの気持ちがわかったようなわからないような…
こう、不安そうな顔で下から覗かれると"くる"ものがある…
「さぁ、どうでしょう?」
「さっきの怒ってるの?許してー!」
これはこれで…楽しい。
なんというか心の底がむずむずする感じ。はまりかねない…。
「じゃあ、この問題を丁寧に教えてくれたら許してあげましょう」
「はは〜!お代官様ァってあれ?何かごまかされているような…」
「説明まだですかー?」
「あーごめんね!どこだっけ!」
徹夜は嫌いだ。
まあ、一人の徹夜は…だけども。
「来週も来てくれますか?」
「ほほぅ、つまり好感度は0より上ってことだね?」
顎を親指でさわりながらキラーンという効果音が聞こえてきそうなぐらいの流し目で私を見る令さま。
「ただ単に令さまと勉強がしたいってことです」
「なーんだただ単に、って…え?」
「さあ、じゃんじゃん解いていきましょう」
あなたとなら…
…徹夜だってウェルカムです。
―――了―――