中等部。
進路指導の時間。
「将来のことを具体的に想像しながら進路を決めたり人生設計することは悪いことではありません。皆さん配ったプリントに書き込んでみてください」
プリントには「今」から年刻みの数字が入っている。
「とりあえず16歳はリリアンの高等部よね」
江利子は書き込むが、さて、それからどうしようと周囲を見回す。
「蓉子はいいなあ、決まってるんでしょう」
「なんとなくは」
「大学進学するも変な男に絆されて、19で中退してシングルマザー、23で親の借金発覚、38で結婚も旦那の会社が倒産して75まで借金返済とか?」
「どんな人生よ! 絶対にそんな人生だけは送らないわ」
水野蓉子、19歳時点で交際している男性、なし。
「江利子こそ、仕事が忙しくて一生独身じゃないの」
「失礼ね、私はその気になればリリアンに通っている間にだって相手を見つけられるんだから!」
鳥居江利子、リリアン女学園高等部在学中に人生最初のプロポーズ決行。
「聖は何か考えついた?」
「見せなさいよ」
二人がかりで奪い取ったプリントにはこう書かれていた。
『素敵なお嫁さんが欲しい』
「なりたい、と欲しい、と間違えてるよ」
「しっかりしてよ。本当に女同士で結婚するつもり?」
佐藤聖、高二で後輩女子と駆け落ちを企てるも未遂に終わる。
「将来なんてわかんないわよね」
「そうね」
未来、それは知らないからこそ輝いているもの。