薔薇の館で乃梨子と二人でお茶を飲んでいた。
もう少し、と言って祐巳さんたちには先に帰ってもらって二人で残った。
会話はなかった。
別に喧嘩をしてるわけでもなく、言いたい事が言えないのではない。必要ない。今はいろいろな問題も考えたくない。
ただ二人で薔薇の館という場所で隣り合ってお茶を飲むというだけのことが今の私たちにとって必要なことで、たぶん私は何年たってもこの瞬間を思い出すのだろう。
「お茶のお代わりは?」
「ありがとう」
乃梨子が席を立つ。
流しでお茶を入れている背中を見ていてあと何回こうやって過ごすことが出来るのだろうと思うと急に心に涼しさを感じた。
気づくと席を立って後ろから抱きしめていた。
「ど、どうしたの?」
驚いて乃梨子が尋ねる。
「ごめんなさい、なんだかこうしたくなって」
「おかしな志摩子さん」
笑いながら乃梨子は私の手に自分の手を重ねた。
乃梨子に妹が出来ても、私が卒業しても変わらないでいたい。いつまでも。