【短編祭り参加作品】
「月がきれいだね」
祐巳さまと二人。手を繋ぎながらバス停までの短い距離を一緒に歩いていると、唐突に祐巳さまが足を止めて呟いた。
それにつられて顔を上に向ける。薄暗い空の中、確かに月が綺麗に浮かんでいた。
「ねえ、わかった?」
祐巳さまが悪戯っぽい顔をして、こちらに顔を向ける。
さっきから心がドキドキとうるさく音を立てる。顔はおそらく赤く染まってる。
祐巳さまとの距離は半歩くらい。心の音も赤い顔もその理由も、きっと祐巳さまにはわかってる。
「千円札の人に悪いけど、私はそのまま訳してくれたほうが好きかな」
今は違いますけどね、と心の中で呟く。それに明治時代には直訳でもそうはならなかったでしょうけどねとも。
まあ、私も祐巳さまと同意見なのだけれども。
半歩下がって、自分の顔を祐巳さまの顔に近づける。
そのまま口づけしたい気持ちを抑えて、唇を祐巳さまの耳元に。
「愛してます」