【3719】 私を呼ぶ声風に揺れ時折重なる過去も現在も未来も  (紅蒼碧 2013-02-11 02:16:52)


(ここ・・・は?)

そこは、辺り一面真っ白な世界だった。
見渡す限り一面の白。

(そこにいるのは、誰?)

急に声をかけられた。
声がした方を見るとそこには光が飛んでいた。
大きさにして5cm程の光の球体が蛍のように揺蕩っている。

(その声は・・・乃梨子さん?)
(あっ瞳子!?瞳子なんだね?)
(えぇ・・・そうよ、・・・それにしてもここは何処なの?)
(瞳子も一面真っ白な世界に?)
(えぇ、乃梨子さんは白い球体に見えるわ)
(私から見た瞳子もそうだよ)

夢でも見ているのだろうか?
でも二人は意思疎通ができている。
夢にしてははっきりと・・・。

(誰かいるの?)

声とともに、瞳子の周りにはさらに2つの光の球体が現れた。

(その声は・・・由乃さま?)
(その声は乃梨子なの?)
(お姉さま!?)
(もぅっ!!一体どうなっているのよ!!)

それはこちらのセリフである。
訳も分からずこの白い世界に、私一人と揺蕩う3つの光だけが存在している。

(今ここにいるのは私、由乃さん、乃梨子、瞳子ちゃん・・・ねっ・・・。他には?)

暫くの静寂が続いたのち

(私と令もいるわ・・・)
(皆もこの世界にいるんだね?)

声の方向を見渡すと、さらに2つの光の球体が増えていた。

(祥子さま、令さmっ(令ちゃんいるの!?)・・・)
(えぇ・・・いるわよ。って皆もいるんだね)
(ちょっとどうなっているのよ!!)
(ちょっと由乃、当り散らさないでよ・・・)

(どういうことでしょうか?この白い世界には現山百合会幹部と瞳子ちゃんがいます。・・・それに夢にしては意思もはっきりしています)
(祥子はどう思う?今志摩子が言ったように、私自身も意識がはっきりしてると言えるわ)
(分からないわ・・・。・・・皆はどんな状況でここに?)
(私は自分の部屋で寝ていただけです?)
(私もです)
((私も・・・))

志摩子、由乃と答え、同じ答えを乃梨子と瞳子も返した。

(私も部屋で休んでいたわ。気付いたらこの白い世界にいて、直ぐに令と会ったわ)
(私もそんな感じだよ)

どうやらこの世界に来るに至った状況は皆同じようである。
しかし、いったい誰が何のために?
分からない、っと誰もが口を閉ざした時だった。

それは、まるで皆が静かになるのを見計らったように・・・。

《・・・あなたたちをこの世界に呼んだのは・・・私です》
(((((!?)))))

その声とともに世界が波紋し、一際大きな光の球体が舞い降りた。
その光は、皆のような揺蕩うだけの光ではなく、とても神々しく感じられる光であった。

《私は過去と未来を知るもの、そして分岐した世界をも知る存在》

何が起きたか判らず、誰もが口を閉ざした。
その中にあって、唯一人祥子だけが口を開いた。

(・・・・・・・・どういうこと?何故私たちがこんなところに?)

《貴方達に起こった梅雨の日の出来事、そして訪れた事故(やめて!!)・・・》
(祥子・・・((祥子さま・・・)))
(あなたは何の権利があってそんなことをわざわざ言いに!?)

あの事故は、祥子にとってのトラウマだった。
あの子を失うことになった、あの日。
その原因を作ってしまったことが祥子の心の大きな傷となって残っている。

《・・・それは、あの子の可能性を貴方達に伝えなければならないからです。そして、貴方達は選択をしなければなりません》
(どういうこと?)
《この世界は、一つの選択により多くの人の心が、もう救われることのない世界となってしまいました。だから、今から私が可能性の話を致します。その話を聞き選択して下さい。貴方達は何を掴むのかを・・・》

その説明も皆は静かに聞き入っていた。
しかし、突然のことで誰もついていくことができなかった。

(まずは話を聞いてみませんか?)
(そうだね)
(今の状況じゃ何も分からないし・・・)
(私、聞きたい。あの子に係ることなら私には聞く義務がある!!)
(そうだね・・・。祥子はどうする?無理はしなくていいのよ?)
(・・・ありがとう、令。・・・私は大丈夫。聞くわ)

皆が大きな光の球体の方に振り向いた。
彼女たちの意思を確認した光は、

《・・・それでは話しましょう。可能性の世界を・・・。そして、救われた人の数々を・・・》


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《人生には数多の分岐があり、数多の可能性に満ちています。
しかし分岐と言っても極端に変わることは、そう多くありません。

ご飯を先に食べるのか、味噌汁を先に飲むのか、おかずを先に食べるのか。

十字路で直進するのか、右に曲がるのか、左に曲がるのか、引き返すのか。

ここで個々の目的が入ると選択肢は限られてきます。
日常の簡単な選択では、未来が大きく変化することは殆ど無く、極々微小なものとなるのです。
人の人生には、行く末をも左右するターニングポイントがあります。
しかし、人生を左右する程のターニングポイントの数は、一生に片手程もありません。
そのターニングポイントで選択することにより大きく未来が変化してしまいます。
このターニングポイントは、貴方達全ての人間に存在します。
もちろんあの子にもターニングポイントが存在していました。
そして、今この状況に大きく起因しているターニングポイントがあります》

一区切りだと言わんばかりに、球体から発せられ言葉が収まった。
タイミングを見計らった後。

(それがあの事故だと?)
《・・・。そうですね、厳密に言うと違いますが・・・》
(・・・どういうこと?)

令から疑問の声が上がった。
他の人も同じ様に思っているようだ。

《簡単なことです。事故がターニングポイントではなく、事故に至った原因に分岐点があり、その分岐こそがターニングポイントなのです》
(事故に至った原因?)
《それはあの日、走り去るあの子が佐藤 聖に会えなかったことです)
(((((!?)))))
(何故聖さまが!?)
(何故お姉さまが!?)

皆、予想外だった。
まさかここで、ここにいない方の名前がでてくるなんて・・・。
しかも、あの子にとっても重要な人物である。

《佐藤 聖と会うことで、あの子が事故にあわないことが確定します》
(どういうこと?)
《佐藤 聖が、絶望に打ち拉がれるあの子に救いの手を差し出してくれるからです》
(・・・聖さま・・・が・・・)
(あの人は、あの子のことになると嗅覚が凄いですよね、何か負けた気になるのが癪ですが・・・)
(お姉さまにとってのあの子は、第2の人生そのものだと思います)

毎回、あの子の危機に颯爽と現れ救っていくヒーローのような存在。
あの子の信頼を勝ち取った人物でもある。

《そして事故に至る分岐点は、あの日玄関であの子と会った小笠原 祥子が、あの子に何も言葉を発さないまま、松平 瞳子が現れてしまったことです》
(その何が問題なのです?)
《ターニングポイントは、小笠原 祥子が何も言わないことであの子への疑心が深まり、佐藤 聖を見つけるだけの視野が無くなってしまうのです。その結果、あの子は佐藤 聖を見つけることができず素通りしてしまい、車が来ていたにも拘らず横断歩道に飛び出してしまう結果となりました》
((((・・・・・・))))
(・・・私が、・・・私が何か言っていれば変わっていたというの!?あの子は死なずに済んだというの!?)
《・・・その通りです。貴方が何かを言うことで会話がうまれ、あの子の心に少しでも【裏切られていない】と言う気持ちが芽生え、視野が少しうまれることで最悪の事態を避けることができました》
(・・・そっ、そんな・・・、そんなことって!?)
《視野が少しでもあることで、佐藤 聖と会うことができます。佐藤 聖と会うことで新しい出会いがうまれ、その出会いがまた新たな出会いを生み、あの子を救うことに繋がります》

たったそれだけのことであの子は救われた。
祥子も由乃も志摩子も、憤りを隠せなかった。

《そして、その出会いには小笠原 祥子、貴方の祖母の小笠原 彩子の心をも救うことに繋がるのです》
(そんな!?おばあさまが・・・おばあさま心が救われる!?)

これも予想外だった。
おばあさまは、譫言でいつも呟いていらした。
最後に仲直りがしたかった。
会って謝りたかったと・・・。
祥子にはもちろん何のことか分からなかった。
しかし、それがあの子と係わりがあり、ましてやおばあさまをも救う結果に繋がるなんて夢にも思わなかったのだ。

《・・・今のは唯の一例に過ぎません。他にも・・・松平 瞳子、貴方もあの子に救われ、幸福な未来を送れるようになります》
(・・・私が・・・救われる?意味が分からないのですが・・・)

急に話を振られ驚いてしまった。
まさか、私があの方に救われる?
あの頼りなく、甘えてばかりのお方に?
今の瞳子では信じられることではなかった。

《こう言えばどうですか?{あなたの家庭問題、特に貴方のご両親は養子として貴方を迎えていること}について》
(!?・・・なっ、どうして!?)
((((???))))
《今の言葉は他の人には聞こえないよう、直接脳内に話しかけました。・・・分かって頂けたでしょうか?》

ここにいる中では自分以外に知る者はいない。
だからこそ信じるしかなかった。

《あの子は、この問題について真剣に、表裏一切なしに松平 瞳子と接します。その結果、貴方の決して剥がれることのない仮面と凍った心を解き放つことができるのです。そして貴方達は誰もがうらやむ姉妹(スール)となるのです》
(あの子が瞳子ちゃんと!?そんなこと絶対にない、っていうか反対!!)
(私も少し信じられませんが、でもあの子なら親身になるのは頷けます。由乃さんもそう思わない?)
(・・・・・・)

今までの、薔薇の館での出来事を見る限り、由乃にはとても信じることができなかった。
それは、祥子も同じなのであろう。

《島津 由乃、藤堂 志摩子、貴方達も例外ではありません》
(なっ!?どう言うことよ!!)
《お二人とも、少なからずあの子に救われる存在だと言うことです》
((・・・・・))

二人は黙った。
ショックだったからでも驚いた訳でもなかった。
それは、自分自身に思い当たる節があったからだ。

(・・・その話、興味があります。是非教えて頂けないでしょうか?)
(お姉さま・・・)
(・・・)

由乃は相変わらず黙ってはいるが、志摩子は興味津々だった。
想像では分かっていても、知って理解することとは別であるからだ。

《まず島津 由乃、あの子は貴方にとって唯一無二の親友となり、その友情を生涯かけて育みます。藤堂 志摩子とも親友となり、友情を育みますがあの子と比べれば、その度合は天と地ほどあるでしょう・・・。そう言った友はそう簡単にできるものではありません。そしてそれは貴方にとって今後、あの子以上・・・いえ、心を許せるだけの友すらできることはありません》
(・・・、私もそう思うよ。こんなわがままな私に真剣に付き合ってくれるなんて・・・今まで・・・あの子しかいなかった・・・。そっか今後もあの子のような人はいないんだね・・・ははっ、そっか・・・)

由乃は自傷的に笑った。
自分でも分かっているのだ。
わがままで人なれしなくて臆病なことくらい。

《もう一つ、あの子がいることで貴方に妹ができます》
(えっ!?)
(それ本当!?)

これには由乃だけでなく、令も驚いた。
由乃に妹ができるなんて考えても想像ができなかったからだ。

《と言っても、あの子が与える影響は、島津 由乃に妹を作るきっかけの場に協力することで、お互いに妹を作るという意識が高まることにあります。このまま行くと、初動の話はありますが貴方はそれに対し真面目に取り組むことができません。妹はできますが、唯の薔薇の後継者としてだけの望んだ妹を作れないまま卒業してしまうでしょう》
(・・・・・、私の妹ってどんな子?)

自分の妹に興味があるのか、由乃は思ったままを無意識に口にしていた。
令も興味があるのか、凄く聞き入っている。

《名前など、詳しい話はできませんがそれでも?》
(ええぇ、聞きたい)

短い沈黙の後。

《あの子がいる世界での貴方の妹は、貴方以上のアクティヴィティの持ち主で、アドベンチャーや面白そうなことにはとことん突っ走ってしまう子です。そして、頭の回転も速くとても気の利く子です。この世界において、松平 瞳子、二条 乃梨子、貴方の妹の三人は今までにも類を見ない三薔薇となります》
(そんな凄い子が由乃の妹に!?・・・何か信じられない・・・)
(ちょっとどういうことよ!!私だってそれくらいの人物を妹にするわよ!!)

由乃は満更でもなく嬉しそうである。

《先程も言った通り、これは可能性の話です。この世界においての貴方の妹は、薔薇の系譜を受け継ぐために妹にします。貴方は卒業後、その子と私的に会うことはありません。そんな関係です》
(・・・)

それは、思っていたよりもシビアな話だった。
系譜を繋げるだけの姉妹(スール)?
それは本当に姉妹(スール)なのだろうか?

《さて、次に藤堂 志摩子、貴方に関してですが、貴方はあの子から直接何か?という訳ではありません。・・・1年の秋、教室であの子が貴方に言った言葉を覚えていますか?》
(・・・えぇ、もちろんです。忘れることなんてできません)
(・・・・・何?それ?)

由乃以外も分からないようで、皆?を浮かべている。

(・・・いなくならないで、一緒に山百合会を背負っていこうと言われたわ)
(なっ!?そんな私も言われたことないよ!?志摩子さんずるい!!)

志摩子は目を瞑った。
それだけで、あの時の光景が目に浮かぶようであった。

(・・・あの言葉で、あの時の私がどれ程救われたか計り知れません。・・・嬉しかった、・・・本当に・・・)
《あの言葉が貴方にとっての大きなターニングポイントです。あれがなければ二条 乃梨子に出会うことはなく、生涯親友と呼べる存在もできません》
(そうですか・・・何となくですが、そんな気がしていました・・・)
(お姉さまと出会えなかったなんて・・・)

志摩子は、やはりっと言った感じだった。
あの言葉の前と後での志摩子の気持ちには雲泥の差があったからだ。
荷が軽くなったような、心が軽くなったようなそんな気がしていたのだ。

《藤堂 志摩子、貴方にとってもあの子は唯一無二の親友です。その気持ちは島津 由乃と比べ、天と地程の差があるでしょう》
(???って言うことは何?、私と志摩子さんは仲が悪いってこと?)
(・・・)

当然の疑問だった。
なんせ、あの子が来るまでは、病気のことを除いて、お互い殆ど話した記憶がないからである

《島津 由乃、藤堂 志摩子はあの子のおかげで繋がることができるのです。あの子が間に立ち、緩衝材となることで静と動が上手く交わり、理想へと導かれるのです》
(由乃が油で志摩子は水なんだね、それであの子が界面活性剤か〜、何か納得だよ)
(令ちゃんのバカ!!何で私が油なの!?私はそんなドロドロしてないわよ!!)
(えぇ!?そこなの!?)

令が納得といった感じで笑い、由乃が騒いでいる。
志摩子は、少し微笑んだ。

そこでふと、志摩子は思い出したことがあった。
それは・・・。

(・・・そう言えば以前、バレンタインイベントで静さまとバスに乗って移動していた時に言われたことがあるのです。あの子は誰と姉妹(スール)になってもそれなりの幸せを得ることができるが、祥子さまがあの子と姉妹(スール)になるのとならないのでは、学園生活での潤いが全く違うと・・・)
(・・・。静さんがそんなことを・・・)

まさかあの頃に、そんなことを考えていた人がいるなんて、祥子は思ってもいなかった。

《蟹名 静の言う通りです。各々が持つターニングポイント、貴方達にとって人生が変わる程の分岐の一点をあの子が握っています。あの子と出会う、出会わないで人生の潤い方が全く異なるのです。そして蟹名 静もあの子救われた一人・・・》
(((((!?)))))
《驚いて見えるようですが、心当たりのある方が殆どではないでしょうか?・・・松平 瞳子がそれを感じるのはもう少しだけ後のこととなりますが・・・》
(((((・・・)))))

もう少し後、という発言について瞳子は何も言わなかった。
何となく、近い将来起こるだろうと言うことだけは感じることができたのだ。

(あの子は一体どれだけの人を救えたというの!?)
《リリアン女学園だけではありません、あの子と係った全ての人があの子によって救われたといっても過言ではありません》
(なっ!?)
(そんなっ!?)

その言葉には、大きな衝撃が走った。
人一人にそんな力があるなんて・・・。
しかも、一人に対してだけではなく、複数に対して影響力を持っているなんて・・・。

《参考までに、貴方達の未来をも変化させるターニングポイントをお伝えしましょう。
それを聞けば、貴方達も理解するはずです。あの子の影響力を・・・。》
(((((・・・・・)))))

確かに聞いてみたいことだった。
普通、自分のターニングポイントなど聞けるはずもなく、ましてやあの子が係っていることだからである。

《まずは小笠原 祥子、貴方のターニングポイントですが、あの子と出会った日いつもより遅く学園へ登校したことです。
あの日、あの子に会えていなかった場合、貴方は人形のような喜怒哀楽をほぼ感じない人生を送っていきます》
(なっ!?そんなバカことあり得ないわ!?)
《言葉では否定しているようですが、貴方の心の内は違うでしょ?》
(っ!?)

図星だと思う心が確かにあるのだ。
あの子と出会ってまだ少しだったが、少しずつ変わっている自分が分かるのだ。

《次に支倉 令、そして島津 由乃、貴方達のターニングポイントは同じです》
(えっ?)
(どういうこと?)

二人とも疑問に思った。
そんな同時にあるのか?と・・・。

《それは、あの子が小笠原 祥子の妹となったことです》
(・・・成程ね)
(・・・うん、私も何か納得かも・・・)

言われるまで自覚はしていなかったのだろう。
そんなこと当然だと思っていたからだ。

《次に藤堂 志摩子、二条 乃梨子、貴方達のターニングポイントも同じです、そしてそれは先述述べた通り、一年の時教室であの言葉を聞いたことです》
(聞いた時からそうだと思っていました)
(私も同じなんだね・・・)

こちらも、想像がついていたのかあっさりしたものだった。
それにしてもと・・・。
今、大きな光の球体が言ったように、その言葉を信じるのであればあの子は全てにおいて関わり合いを持つということになる。
そんな人間、存在するのだろうか?
あの子は、それ程の可能性を秘めていたというのか?

《最後に、山百合会についてです。このまま進んだ場合、何の変化もなく無難に終わり唯時が過ぎ去るのみとなってしまいます》
(・・・それが、あの子によってどう変わると?)
《小笠原 祥子、貴方の姉にあたる水野 蓉子が山百合会について何か思っていたことはありませんでしたか?》

また、ここにはいない方の名前がでてきたのである。
佐藤 聖に並び、当時の三薔薇の中心となった人物である。

(・・・今の山百合会は神格化されている、それを改善したいと・・・。それと何か関係が・・・?)
《あの子は、このリリアン女学園で誰も成し得ることのできなかった【山百合会と生徒の間にある壁を壊す】ことができる唯一の存在です。未来を含めて唯一人・・・》
(そんな力が・・・あの子にあるというの?)
《島津 由乃、藤堂 志摩子という親友、松平 瞳子という妹の支え、二条 乃梨子、島津 由乃の真の妹という力があってこそですが、あの子は棘のない大輪の薔薇を咲かせるのです。棘が無いからこそ相手を気づ付けることなく、人と人を繋げることができる。そんな力を・・・》

皆押し黙っている。
今までの話を総括すれば、多少なりとも受け入れなければならないからである。

《そして、島津 由乃、藤堂 志摩子、あの子の3人は、伝説の薔薇としてその功績を後世にまで語り継がれることとなります》
(私たちが・・・)
(・・・そんな大役を?)
《はい》

そう言った後、大きな光の球体は静かになった。
一通り話は終わったのだろう。
誰もが今起こった話を整理していた。
突拍子もない話だが、納得できることが多いのも確かだからである。


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《さて、では貴方達に選んで頂きます。・・・貴方達の未来を・・・》
(・・・具体的にはどうするの?)
《簡単です。今から言う問いに対し、全員が心から望めばそれは実現します。しかし、誰か一人でも心に迷いや不信、疑念を持った場合は現状と何も変わりません》
(・・・いいわ、それで?)

祥子が代表して聞いた。
皆大体は良そうで来ているのであろう。
表情は硬く、真剣そのものである。

《それでは問いましょう。あの子が事故にあった日に戻りたいです(そんなのっ!!)か?》

待ちきれず、そんなの当たり前だと言わんばかり由乃は噛みついたが、それ以上に、

《まだ、終わっていません》
(((((!?)))))

大きな光の球体の声に並々ならない強制力を持った声が広がった。

《もし、全員が同じ答えだとしましょう。しかし、今この世界で話した記憶を持ち出すことはできません。・・・そう、戻ったとしてもまた同じことを繰り返す可能性があります。・・・それでも戻りますか?また繰り返しになったとしても?》

その言葉に静寂が訪れた。
そう、記憶がないのであれば繰り返してしますかもしれないのだ、またあの悲劇を・・・。
しかし、

(ふふふふふっ)
(・・・どうしたの由乃?)
(由乃さまが壊れた・・・)
(何でよ!?壊れてないわよ!!・・・不敵な笑みと言いなさい!!)

とてもそのようには見えないのである。

(愚問ね!!あの子が生きる可能性があるのなら何も迷う必要はないわ!!聞くだけ無駄よ!!)
《・・・貴方はそうかもしれません。小笠原 祥子も支倉 令も 藤堂 志摩子も・・・。しかし、二条 乃梨子はどうでしょう?あの子とはほぼ話したことなどないのでは?・・・それに松平 瞳子、余り快く思っていない貴方は心から願うことができるのでしょうか?)
(((((!?)))))
(なっ!?・・・ちょっとどうなのよ!!乃梨子ちゃん!!瞳子ちゃん!!)
(乃梨子・・・)
(お姉さま・・・)
(瞳子ちゃん・・・)
(わた・・・私は・・・)

大きな光の球体の言う通りだった。
乃梨子は、志摩子の妹にこそなったが、まだ他の皆とは殆ど会話らしい会話をしたことがなく、心からの願い何て思えるかどうか分からなかった。
それは、瞳子も同じ・・・。
いや、あの子と衝突していた分、もっと願うことなど無理であろう。

《それでは、願って下さい。貴方達が望む未来を・・・》
(待って!!考える時間を頂戴!!)
《もうそれはできません・・・。さぁ!!願うのです!!》
(くっ!?)

皆が一斉に思う。
あの子のことを・・・。
しかし、

{{私には無理!!・・・どうすればいいの?}}

乃梨子と瞳子は、頭では分かっているのだが、思念が邪魔をして上手く願えなかった。
どうしよう、どうすればいいの?と。

(乃梨子大丈夫よ?・・・難しく考えないで・・・。瞳子ちゃんも)
(そうだよ、二人とも)
(令さま?)
(確かに二人はあの子のことが分からないかもしれない。けど今までの話を聞いてどう思ったの?どう感じたの?・・・自分たちを幸せにできるのはあの子かもしれない。自分を幸せにする。他を幸せにできる子なんだって分かったと思う。それを素直に信じて欲しい)
(私はあの子に会って、今度こそ本当の親友になるんだ!!・・・悩みや辛いこと、悲しいこと、嬉しいこと・・・。何でも一緒に共有できる親友に!!だからお願い!!あの子のこと願って!!)
(二人とも、私はあの子に会って謝らなければならない、そしてもう一度やり直したい。その機会を私に頂戴!!そしてあの子がいる世界で皆幸せに成りましょう!!)
(由乃さま、祥子さま・・・)

皆の願いが伝わってくる。
温かな願いが・・・。

(瞳子、私願うよ。私もどうせなら楽しく幸せな未来の方がいいから!!)
(・・・、そう・・・ね、・・・私も、もしあの方が本当に私を幸せにして下さるなら・・・、そんな素晴らしい未来があるのなら・・・願いたい!!あの方と一緒の未来を!!)
((((・・・))))

皆が笑顔で笑っている。
幸福な未来があるなら、今度こそ叶えるんだと!!


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《・・・未来が確定しました。皆さん、頑張って下さい。・・・貴方達の未来のために・・・》

そして、皆の意識が少しずつ薄らいでいく。
その中にあって、祥子は大きな光の球体に問うた。

(あなたは一体誰なの?こんなことをして貴方に何の得が?)

それは、至極もっともな意見である。
その問いに対し、大きな光の球体はこう答えた。

《・・・私はあの子を欲する者、結果的には叶いませんでしたが・・・》
(そ・・・れは・・・どう・・・言・・・う・・・・・こ・・・・・・・と?)

しかし、その答えを聞けないまま、祥子は意識を手放した。


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白い世界には、二人の姿があった。
片方は、先程まで大きな光の球体として話していた者だ。

《どうだった?話しを聞いてみて・・・》
《そうですね・・・。まだ、私も捨てたものじゃないって分かっちゃいました》
《カケは・・・私の負けね。・・・残念だわ》
《・・・その、・・・本当にお世話になりました・・・》
《・・・そうね〜。本音を言うと残って欲しいところだけど?》
《・・・申し訳御座いません・・・》
《ごめんなさい。困らせるつもりは無かったのよ?》
《はい・・・》
《・・・それじゃ名残惜しいけど、心と体には十分気を付けてね?》
《はい、・・・それではごきげんよう》
《ええぇ、ごきげんよう・・・。そして、またいつの日か・・・》

会話を終えた一人は、光の粒子となってこの世界から去って行った。
もう一人はというと、光の粒子がなくなるまで見送っていた。
そして、光の粒子が無くなると、その場から何もなかったかのように消え去った。


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《そして生まれ変わった世界にて》

「あなたが好きなの」
「私も、お姉さまのこと大好きです」

《ふふっ良かったわね、ふたりとも。いつまでも、お幸せに・・・》


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