去年の暮れ、クリスマスイブの日に私は祐巳さまを拒絶した。
多分白地図の話なんかしてしまったからだ。一番同情してほしくない人に同情されたと思った。
悲しさと悔しさと怒りがないまぜになって、今でも思い出したくない酷い言葉を祐巳さまにぶつけてしまった。
祐巳さまはロザリオを持ったまま瞳を振るわせていた。私の言葉が祐巳さまをこんな表情にさせたのだ。
もうどうにでもなれって思った。これで祐巳さまは私の事を嫌いになる。いいきっかけだったじゃないか。
これでもう、近づかなくていい。これで未練を断ち切れる―。
それなのに。
あれから4ヶ月経った今。
「あっ、瞳子!このぬいぐるみ可愛い!」
あの人は私の隣にいる。一緒に街を歩いてる。
「キーホルダーもあるよ?見て瞳子、これランチに似てる!」
前からずっと見続けてきた、あのキラキラまぶしい笑顔で、私に話し掛けてくれる。
あんな事があったのに、祐巳さまは私を待っていてくれた。
あんな酷い事を言ったのに、祐巳さまは私から手を離さないでいてくれた。
「お姉さま、はしゃぎすぎです。もうちょっと静かに歩いて下さらないと恥ずかしいです」
ふうっ、と軽いため息をついてみる。
「だって、せっかくのデートなんだよ?じっとするなんて出来っこないよ」
何気ない会話が楽しい。こんなに幸せでいいんだろうかって思う。
「瞳子。今日のデートの記念に何か買ってあげる」
ニコニコしながらお姉さまが聞いてくる。
お姉さまのおこずかいの残りが少ないのは知っていたけど、断るなんて野暮な事はしない。遠慮なんてしたくない。
「じゃあ、このキーホルダーがいいです」
私は一番安いキーホルダーを指差した。さっきのランチのキーホルダー。
「うん」
お姉さまはそういうと、ランチのキーホルダーを2つ店員さんに差し出した。
「瞳子。ほら、お揃い。仲良し姉妹」
1個ずつキーホルダーを手に持って、ふたりでクスッと笑った。
近づけあったキーホルダーは、春の風に乗って優しく揺れた。
私もさっきのお返しをしたいと思った。でも何をしたらいいだろう。
そう考えてる内にひとつ頭に思い浮かんだ。
「お姉さま」
「何?瞳子」
街中で恥ずかしかったけど、ちょっと勇気を出してお姉さまの左手を握った。
お姉さまは優しい微笑みを返して、私の手を握り返してくれた。
いっぱいいっぱい、楽しい思い出を作っていきたい。
私達は、スールなんだから。