【375】 武装錬金いいとも  (ケテル・ウィスパー 2005-08-16 06:31:30)


No.363→No.364の続きです。

2月某日 決戦の日まで、あと○日

「でや〜〜〜〜っ!!!!」
『キシャ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!』

 由乃さんが竹刀を大上段から振り下ろすと、その茶色の怪物はねっとりとしたゲル状の体躯にもかかわらず右手によけると由乃さんに向かって猛然と突進してくる。 間一髪よけた由乃さんは竹刀で胴を切りつけるように勢いよく薙ぐ。

「何であんなものが作れるのかしら? 今度じっくり教えてほしいわ」
「おかしいなぁ〜、志摩子さんが言ったとおりの材料買ってきて、いちいちチェックしてもらいながら作ったのに、なんでだろう?」

 ここは、学校の家庭科室。 実習したいと申し出たところあっさり許可が下りたので、昨日由乃さんと志摩子さんと私で買って来て置いた材料を持ち込んで練習していたのだけれど。 何であんな物ができたんだろう?
 戦っている由乃さんから少し離れた実習机を盾にしてあれこれ考える。
 材料は志摩子さんが選んだ物でサッカリンはおろか青色一号も入っていない。
 「基本は大事よ」と志摩子さんが言ったので、まず溶かして固めるだけのチョコを作ることにした、もちろん湯煎で作りました、直接火に掛けるなんてことは最初の一回だけほんのジョークでやったけど。
 ヘルメット代わりのつもりなんだろうか? 両手なべをかぶっている志摩子さんが”じ〜っ”と私の手元を見ている。

「ねえ祐巳さん。 私その本がすごく気になるのだけれど、確かチョコを湯煎しているときに開いていたわよね? その本ってなんなの?」
「これ? 図書館で由乃さんと見つけたんだけど、いろいろなおまじないとか呪文とかが載っててね、どうせ作るなら”恋の呪文とか唱えながら作ればいいのができるかな〜”って思ったの。 でも、この本恋の呪文が載ってないみたいだったから適当なのを唱えてみたの」
「…………その本、題名は?」
「え〜〜と……ね…ネクロ…ノ…ミコン?」

 志摩子さんのかぶっていたなべがカタッとななめになる、あ、ちょっとかわいいかも……。

「祐巳さん、それ違う本よ」
「へ? そうなの」
「きゃぁぁぁぁ〜〜〜〜!?」

 そういえば由乃さんは戦っていたんでした。 その由乃さん、とうとう怪物に捕まってしまいました。 なんかいつの間にか触手みたいなのが生えてますけど? その触手に絡め捕られて縛り上げられてしまっている由乃さん。

「いや〜〜〜! 離しなさいよ! あ〜〜ん、こんなんだったらこの前いい雰囲気になったとき断らなきゃよかった〜〜〜」

 どうやら祐麒といいとこまで行ったけど、断ったらしい。 祐麒、かわいそうに。
 ところが、由乃さんの体をまさぐっていた触手が、ピタッと動きを止めた。 一本だけそろそろと確かめるように由乃さんの胸の辺りを行ったり来たりなでまわした後、『こんなものいらない』っと言わんばかりに”ポイッ”っと投げ出した。 

「「由乃さん!!」」

 いつの間にか目まで出来ている怪物は何かをキョロキョロと探している、机の影に隠れながら投げ出された由乃さんのところへ駆けていくと案外元気そうだった。

「イッタ〜〜〜〜………」
「大丈夫? 由乃さん」
「うん、なんとか……それにしても何なのよ人の体撫で回しといてポイッってどういうことよ?!」
「あ、それはなんとなくわかっちゃったけど……」
「こちらを見ているわね」
「たぶん、おもに志摩子さんを……」
「そうみたいね……祐巳さん、その本を貸して」
「へっ? あ〜、うん」

 本を受け取ると何事か探し始める志摩子さん、怪物はじりじりと近づいてくる。

 『ぐるるるるるる………』

 私達も少しずつ移動していたがやがて壁際まで追い詰められてしまう。 目的のページを見つけたのか、志摩子さんはそのページを黙々と読んでいたがやがて本を閉じて、手近にあったフライパンとフライ返しを手に取ると一歩前に出る。

「志摩子さん?!」
「2人とも、もう少し離れていて」
「だって怪物の目的は……そのぉ〜……志摩子さんの胸だよきっと」
「はぁ? なにそれ?! じゃあ私のはお気にめさなかったってこと?! ひっど〜〜い」
「まあまあ由乃さん、そのおかげで助かったんだし……」
「どうせあんな怪物にポイされる程度の物しか持ち合わせていませんから私。 世の中巨乳好きばかりじゃないんだからね!!」
「いや、志摩子さんのも巨乳というほど大きくはないと思うけど? どっちかというと形も大きさも程よい美乳?」
「あ〜そうですか、どこもかしこもお美しくらして白薔薇さまってば」
「2人とも、後で聞きたいことがあるからじっとしていてね」

 にっこりと笑うけれどなんか怖いです。
 ジリジリ近づいていた怪物は、ついに触手で志摩子さんを絡め捕ろうと襲い掛かってきた。 志摩子さんはまるで日舞を舞うように鮮やかな足捌きと、フライパンとフライ返しで襲い来る触手をことごとく撥ね返しながら、何事か唱えている。 何かの呪文?
 やがて呪文が完成したのか怪物の方を指して。

「フロスト!!」

 と珍しく大きな声で叫ぶ、かぶっている両手なべとフライパンとフライ返しが雰囲気を台無しにしているが、怪物は志摩子さんが生み出した冷気に当てられて、凍りついてしまった。

 その後これまた珍しく志摩子さんにお説教された私達2人は、『調理中に妙な呪文は使わない』という誓いを立てさせられた。

 さてもう1つその後がある。 翌日、図書館が白薔薇姉妹の強制査察が行われ、数多くの魔道書が図書館の奥の倉庫に厳重に封印されたそうです。

「危ないところだったわ、祐巳さんたちが唱えただけでチョコレートがあんなものになってしまうのだから」
 


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