教室に入ると。
瞳子がイっちゃってた。
「あんた…… どうしたのよ……」
「あ、乃梨子さん! こちらへいらして!」
中庭へと連れ出された。
「何の用? そんなに時間ないよ」
朝礼まで10分少々。
「そうお手間は取らせません。 乃梨子さんに、ぜひご報告したいことが」
うれしはずかし、といった風だ。
「ふーん、なに?」
「これを戴いたのですっっ!!」
そう言って胸元から取り出した物は。 そう、『ロザリオ』に見えなくも無い。 かなり大きいが。
「今朝マリア様の像の前で祐巳さまに呼び止められて何の御用かしらと思いましたら瞳子ちゃんにあげるよと祐巳さまがこれを瞳子の右手に握らせてくださって――――」
ノンストップで語り続ける。 ホントに嬉しそうだ。
「――で首に掛けてくださらなかったのは残念でしたけれどって、聴いていらっしゃるの!? 乃梨子さんっ!!」
「聞いてるって。 それより瞳子」
「なんです?」
「この穴なに?」
『ロザリオ』の中心を指し示す。
「あ、詳しくは伺いませんでしたが、なんでもゼンマイ駆動という事だそうです。 オルゴールなのでしょうか」
言いながらポケットからハンドルを取り出し、おもむろに巻き始める。
「へえ……」
瞳子の顔は期待に満ち溢れて。 乃梨子の胸の内もワクワクしていた。
「これで良いですわね……」
巻き終わって瞳子がハンドルを外すと、『ロザリオ』から何か生えてきた。
プロペラ。
「「へ?」」
声を揃えるふたりを尻目に『ロザリオ』は飛び立ってゆく。 ネックレスの戒めからも解き放たれて。
見送るふたり。 『ロザリオ』はぐんぐん高度を上げて。
5メートルほど上がった所で。
「ポンッ」
はじけた。
呆然と見上げるふたりの元に、何かがフラフラと降りてくる。 小型の落下傘のようだ。
それは瞳子の手のなかにスッと舞い降りて。 メモが付いているのを覗き込むと。
『はずれ』
と書いてあった。
それから一週間、祐巳さまをお見かけする事はなかった。
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作者:水『狸の罠にかかったツンデレ【No:455】』に続く