瞳子は校門の前に佇んでいた。ある決意を胸に。
(今日こそは伝えなければ・・・)
予想ではそろそろ彼女がここを通るはずだった。
(今日、祥子さまはお家の都合でいない。他の山百合会幹部も都合で先に帰った)
一人でここを通るはずの彼女を、瞳子はじっと待ち続けていた。
(だから、今日こそは伝えられるはず!私のこの思いを!)
我知らず、瞳子は手のひらが白くなるほどきつく両手を握り締めていた。
「あれ?瞳子ちゃんじゃない」
「・・・祐巳さま」
待ち人はついに現れた。
「どうしたの?こんな寒い所に一人で」
最近、擦れ違い気味だったと言うのに、祐巳は以前と変わらない笑顔を見せている。それが瞳子には嬉しくもあり、また、自分と会えなかった事など大した事ではないと言われているようで寂しくもあった。
(いえ、今はそんな事を気にしている場合ではないわ)
瞳子は秘めた決意を胸に、祐巳に向き直る。
「祐巳さま!」
「ん?」
まともに目が合った。それだけで瞳子は気が遠くなるほどの緊張に包まれ、白い手をさらに強く握って耐える。
「瞳子の・・・瞳子の首に掛けて下さい!あなたの・・・その・・・」
「・・・それ以上言わなくても良いよ、瞳子ちゃん」
何かを察した祐巳は瞳子の言葉をさえぎり、真っ直ぐに瞳子を見つめた。
(ああ祐巳さま!やはり瞳子の気持ちに気付いて!)
寒さにかじかんでいた瞳子の体に熱が広がる。
思わず涙が込み上げてきたが、瞳子はなけなしの意地を総動員して耐えた。
(泣いてはダメよ松平瞳子!ほら、祐巳さまに微笑んでみせなきゃ!)
気持ちの高ぶりに、複雑な表情をしている瞳子の前で、祐巳はマフラーを外す。
マフラーを外したコートの襟から、銀色の鎖の輝きが見える。
(やっと・・・やっとアレが私の首に・・・)
高鳴る鼓動に、瞳子はもはや自分が真っ直ぐ立っているかどうかも判らない。
祐巳は、外したマフラーを
(私もとうとうお姉さまと呼べるのね・・・)
瞳子の首に掛けた。
(祐巳さまの事を・・・って・・・え?)
そして祐巳はニッコリと微笑んだ。
(あれ?・・・マフラー掛けたらロザリオが掛けられな・・・)
「最近寒いからねぇ。瞳子ちゃんも風邪ひかないようにね?」
「あ、はい・・・・・・え?」
「それ、プレゼントするから。それじゃあごきげんよう瞳子ちゃん」
「あ・・・ごきげんよう・・・・・・って、え?あの・・・」
混乱する瞳子を置いて、祐巳は帰ってしまった。
(あれ?ロザリオは?・・・てゆーか私の気持ち伝わって無い?)
その後、真っ白に燃え尽きた瞳子を用務員さんが発見するまでの二時間、瞳子は呆然とそこに立ち尽くしていたという。
「乃梨子さん!!」
「うわ!びっくりしたぁ・・・ どうしたのよ急に?」
「手伝って下さい!!」
「・・・声でかいなぁ・・・・・・何を手伝うのよ?」
「祐巳さまとの間を取り持って下さい!!」
「少しボリュームさげなさいよ・・・あれ?でもあんた、手伝いはいらないって・・・」
「ええ!自分でどうにかするつもりでした!」
「じゃあ・・・」
「でもダメでした!」
「・・・え?」
「告白したのに気付かれませんでした!!」
「うわぁ・・・そこまで天然系だったとは」
「だからもう、手段は選びません!!という訳で、乃梨子さん手伝って下さい!!」
「やっと話がつながったね。でも正直、そこまでニブい人だとは・・・対策の立てようもないかも・・・」
「そんなはずはありません!!」
「だからボリューム落としなって。・・・なんでそう思うのよ?」
「白薔薇さまもかなりの天然系のはずだからです!!」
「失礼ね!・・・・・・まあ、あまり強くは否定できないけど」
「そんな天然系慣れしている乃梨子さんだからこそ、何か対策を立てられると思ったんです!!」
「天然系慣れって・・・なお失礼ね。まあ良いわ、元々私が言い出した事だし」
「ありがとう乃梨子さん!!一緒に祐巳さまに思い知らせてやりましょう!!私の気持ちを!!」
「とりあえず落ち着け」
こうして立ち上げられた「二条松平同盟」は、瞳子の気持ちが祐巳以外のリリアン生徒全員に伝わるというユカイな状況を作りつつ、目標に向けてばく進して行くのであった。