【短編祭り遅刻作品】(オリキャラ? オンリーデス!)
「英国から来ましたカレン・金剛デース! 可憐な金剛さんと呼んでくれると嬉しいデース!」
一目惚れだった。
……あ、変な意味ではなくて、キャラ的に? つかみはOK? みたいな。それ程のインパクトがあったということですよ。
それが、当時は紅薔薇のつぼみにして現紅薔薇さまの、彼女に対する第一印象だったという。
今やその転校生は黄薔薇さまとしてこの薔薇の館の中でも紅薔薇さまの傍らにあるのだからわからないものだ。
「それはそれとして紅薔薇さま、紅茶を入れるまでクッキー食べるの待っていられませんか?」
「だってお腹すいたんだもの」
「おあずけできないとか犬以下ですか」
「ひ、酷いよ? いすずちゃん。黄薔薇さまも一緒に食べてるのに」
ちなみにこの紅薔薇さま、苗字が赤城なので紅薔薇ファミリーにスカウトされたという噂があったりするが、食いしん坊キャラとしても学園内で有名である。
「そうだよ、いすずさん。おあずけできない犬の方がむしろ多数派だし。そのクッキーあたしが持ってきたヤツだし、いいでしょ」
「マヤちゃーん。フォローになってないわよ」
「アハハハハ、マヤヤの言うとーりデス」
「マヤですよぅ。お姉さま」
一応ツッコミだけは入れつつもさして気にした風でもないマヤは黄薔薇のつぼみであり、既に黄薔薇さまは餌付け済みとの噂もある。
「ごきげんよう。にぎやかね」
ビスケット扉を開けて入ってきたのは、長身ではあるが華奢で儚げな印象のある少女である。光の加減だろうか、その長い髪が銀糸のように見えて、紅薔薇さまは眩しさに目を細めた。
「ごきげんよう。みなさま」
もう一人、かなり小柄な少女が続く。
「ごきげんよう、白薔薇さま。ひびきちゃん」
「Hey ショーカク」
「……その呼び方はちょっと」
そう言いながら苦笑する白薔薇さま。名を鶴見翔子という。
なんとなくわかったと思った人もいるだろうが、まずは聞いて欲しい。
第一印象の後、紅薔薇さまが転校生に対してさらに続けて思ったことは、「金剛………金……黄…薔薇?」だったというから大概だが、後にその話を聞いた白薔薇さまとの会話。
「金というか、金剛石ってダイヤモンドのことよ。どちらにせよ、輝いている感じだけど」
「Oh!」
その言葉に、それこそ目を輝かせて黄薔薇さまは食い付いてきた。
「ショーコの名前はどういう意味デスカ?」
結果。
「天翔る鶴……『ショーカク』デスネ」
「えー」
微妙に嫌そうな顔をした白薔薇さまだったが、以降黄薔薇さまの中ではこの呼び方が定着したらしい。勿論、こんな呼び方をしているのは黄薔薇さまだけだが。
さておき。
「ごきげんよう、お姉さま。ひびき」
自分の荷物をゴソゴソやっていたかと思うと、いすずは嬉しそうに二人に近寄っていく。
「はいお姉さま。調理実習で私が作ったクッキーです」
「あら、ありがとう」
「こっちはひびきの分」
「あ、ありがとうございます」
「いすずちゃん、なんで今頃出てくるのかな?」
何故か後ろからの不満げな声がかかる。
「お姉さまが来る前に全部食べられたら、たまらないじゃないですか」
「さすがにそこまではしないわよ」
「説得力ありませんよ」
いすずは二人に配った残りを中央の大皿にあける。大量にあったクッキーは当初の半分くらいに減っていた。
「それにしても随分たくさん作ったのね」
「適当に作ってたら、なんかたくさんできちゃったんですよ」
白薔薇さまの疑問に頭をかくマヤである。
「計量くらいちゃんとしなさいよ」
「ちゃんとできてるんだからいいじゃない」
「マヤちゃん!」
「はいっ」
「GJ」
親指を立てて実に良い笑顔の紅薔薇さまである。
「くっ、ろくに計量もできないくせになんでちゃんとできてるのよ。納得いかないわ」
「料理なんてのは、食べてみて美味かったらそれでいいんだよ!」
ドヤ顔でマヤはそう言った。
「たまたまうまくいっただけでしょう。皆さんどう思われます? 作るときはちゃん計量するべきですよね?」
「しつこいなー」
「なんですって!」
「美味しければなんでもいいデス!」
いつもどおりの賑やかで穏やかな時間の中で、黄薔薇さまは初めてここを訪れた頃のことを思い出して微笑んだ。当時は不安ばかりで、こんなにも幸せな時間が過ごせるようになるなんて思いもしなかったのだ。
この上さらに言うことなど何もない。
実はマヤヤ、盛大に失敗したあげく周りの人に泣きついて少しずつ分けてもらっていたら大量に集まってしまった(本人、人気者ではあるので)なんてこと、今更言うのも野暮ってものデスよね。