(注意すべきワードが文中にあります&黄薔薇ファンの方は見ないように願います)
〜帰り道〜
今日は一段と練習がハードに感じられた。ついていく事がほとんど出来なかった。
まあ、いつもの事なんだけど、菜々に小言を言われたくらいだから、相当ダメダメだっんだろう。
こんな日は、早く返って休むのが一番なんだけど、
さっきからどんどん身体が重くなっていっている気がする。
早く家に…帰らない…と……あっ、ダメだ。
そう思うと同時に私は倒れてしまった。
自分の身体が傾いていくのを感じていく中、誰かの声を聞いた。
それは、とても聞きなれた声だった。
「ごめんなさい。でも、あなたならきっと…だって、あなたは――」
〜???〜
目を覚ますと、そこは…
「おっと。……えっ、何で…」
私は歩いている途中で、うっかり転びそうになっていた。
倒れたはずの道を、再び歩いていたのだ。
しかも、意識せずに。
全く状況が理解出来ずにいると、私は不意に抱きしめられた。
「由乃!!」
「えっ?」
「やっぱ、そうじゃない。由乃は死んでなんかいないわ。私、分かってたもの。
由乃はどこか旅行へ行っていたのよね。会いたかったわ、由乃!!」
私が知っているその人は、朝とは違い憔悴しきっていた。
それに、目が血走っておりちょっと怖さを感じた。
「ちょ、ちょっと。令ちゃん、そんなに強く抱きしめないでよ。痛いって…」
「由乃、由乃、由乃、由乃!!」
「…いい加減にしろ〜!!」
ゴツン!!
―5分後―
「どう、少しは落ち着いた?」
「う、うん。それにしても酷くない?げんこつなんて」
「自業自得よ。令ちゃん、それにしてもどうしたのよ?何かあったの?」
「だって…だって……由乃が死んだなんて皆が言うから」
「へぇ……はい?」
令ちゃんが笑顔を見せてくれ、ひとまず安心した。
だけど、直ぐに令ちゃんから衝撃の事実を告げられた。
なんと、私は帰り道の途中、赤信号であるにもかかわらず、
信号を横断してしまい、交通事故に遭ってしまったらしい。
そして、そのまま天に召されたとの事だった。
その日は、ちょうど私が倒れたと感じた日と符合していた。
そして、倒れたと思った日からは、3ヶ月が経っていた。
令ちゃんの話を聞いて、私を担ごうとしているのだと考えたが、
その目を見て、すぐにその考えは消えた。
それほどまでに令ちゃんのまとう雰囲気は異様だった。
さて、どうしようか。このまま、令ちゃんが解放してくれるとは思えない。
「ねぇ、由乃。家に帰ろうよ」
「えっ?」
「だって、それが当たり前なのよ。由乃は死んでなんかいなかったの。
きっと、私たちは夢を見ていたのよ。それに、自分の家に帰るのは当たり前でしょ?」
「……(さっきは、旅に行ってたとか言ってたのに、今度は夢って…)」
「ねっ、由乃。ねっ、ねっ、ねっ」
「…うん。分かった(令ちゃん、ごめんね!!)」
ガツン!!
私は令ちゃんをK.Oした。
憔悴しきった令ちゃんは、他愛もない。
そして、携帯と財布を持ち去った。
これでは強盗だが、令ちゃんなら許してくれるはずだ。
…うん、間違いないね。
それはそうと、確かめなければならない事があった。
〜由乃の自宅〜
令ちゃんをノックアウトしたものの、自分の家が気になったのは事実だった。
家に着いてみると、幸いな事に電気は点いていなかった。
時間的には両親が居てもおかしくなかったので多少不審に思ったものの、置き鍵を使い家に入った。
「…ホントだったんだ」
令ちゃんから聞いていたとはいえ、自分の遺影や骨壷を見るのは複雑な気持ちだった。
そして、同時に、このまま此処にいるのは不味いのだと感じた。
だが、行くあてなんて全くなく、今私が頼れるであろう人は、1人しか居なかった。
〜とあるファミレス〜
私は、あの人に令ちゃんの名前を使いメールをした。
頼るのは癪だが、あの人はあれで結構頼りになる。
ただ、いきなり1人暮らし先に行っても信用なんてしてもらえないと思い、
先ずはファミレスに呼び出した。
「涙…出てますよ?江利子様」
「……えっ…ごめんなさい。よく…似ているものだから。というか、瓜二つね。
それで、あなたは由乃ちゃんと生き別れた姉妹とかかしら?」
「そうでーす……っと言いたいところですが、違います。江利子様、私の話聞いていただけますか?」
ダメもとで私は自分の状況を洗いざらい話した。
後は、いい反応を待つしかない。
暫く思案をし、江利子様は静かに口を開いた。
「嘘みたいな話ね」
「…はい。ですが、本当です」
「そう。私としては、信じるわ」
「ありがとうございます!!早速ですが、お願いが「ちょっと待って」
「何ですか?」
「私はね、令が待っているのではないと分かって来たの」
「えっ?」
「当たり前じゃない。令から電話を貰ったわよ?‘由乃ちゃん’に携帯と財布を持っていかれたってね。
しかも、ボコボコにされたってね」
逃げる準備をした方がいいかもしれない。
先に、会計を済ませておいて正解だった。
「じゃ、じゃあ、何で来てくれたんですか?」
「もちろん、犯人を警察へ突き出すためよ。でも、止めた」
「じゃあ、どうするんです?」
「こうするのよ」
腕を捕まれそうになり、私は咄嗟に逃げようとしたが、
すぐに壁にぶち当たった。ただ、その壁はとても柔らかかった。
「いやん、エッチ」
「せ、聖様…と蓉子様」
「こら、聖。ふざけている場合じゃないでしょ」
「そうでした。ああ、逃げようとしても無駄よ。先立つものが無いと、逃亡も出来ないでしょ?」
「いつの間に…」
「まっ、場所を移しましょう。ここじゃあゆっくり話も出来ないからね〜」
私たちは聖様の下宿先へ向かった。
移動中、雷鳴が聞こえた。一雨来そうだ。
【続く】