冬の朝、瞳子が薔薇の館に行くと由乃さまが流しでなにやら作業していた。
「うっ」
ごきげんよう、と挨拶する前に鼻につく激臭。これは。
「銀杏よ」
ああ、やはり。でも、どうして?
「志摩子さんがね『銀杏銀杏』ってブツブツ言ってたのよ。それを聞いて前に掃除した時に落ちてた銀杏をまとめて処分し忘れたのを思い出してね」
由乃さまのことだから何も言わずに志摩子さまに出して驚かせるつもりなのだろう。しかし。
「窓、開けますね」
「そうね」
随分部屋が臭っているのだが、慣れてしまったのか由乃さまは黙々と作業している。
代わりましょうかとは言わなかった。風変わりだけどこんな友情もありだと思ったから。
窓を開けると当の志摩子さまがついたところだった。
「志摩子さまが来ましたよ」
「本当? じゃあこのまま引き渡しちゃおうかな」
イタズラっぽく微笑む由乃さま。
このやり取りもあと何度見られるのだろう。
足音を聞きながら瞳子も志摩子さまがどんな顔をするのか想像しながら、イタズラをしているような気分で到着を待ったのだった。