【3830】 百合の香りは夏の跡そろそろ書くから美しき姉妹愛  (bqex 2014-11-10 23:11:50)


※ 一応宣伝のようなものです。相変わらずメタ視点でネタバレありですが、誰も読む気もなければ実際読みやしないもののネタバレをしてもまあ、大丈夫だろう、と(笑)



 今日、福沢祐巳は久々に小笠原祥子さまに会った。
 祥子さまは卒業され学業に勤しみ、祐巳は山百合会の仕事に忙殺され、最近はバス停でその姿を見かけることもなかった。
 しばらくそんな状態が続いていて、帰りのバスが駅に着いたところで。

「祐巳」

「お姉さま」

 と声をかけられたのである。
 駅の売店でココアを買って、ベンチに二人で腰かけ、お互いの近況を話したが、祐巳にはある違和感があった。

「お姉さま」

「どうしたの、祐巳」

「何かあったのですか? なんだか、いつもと雰囲気が違うような」

「まさか」

 笑顔で祥子さまは祐巳の追及をかわす。

「それより『マリア様がみてる Complete Blu-ray BOX』が2014年12月19日に発売になるのを知っていて?」

 話によると1期から4期の全てがBDになったものらしい。特典などは取扱いサイトで確認しよう。

「ああ、その話題ですか。久し振りにお会いした時になんとなくその話題が出る気がしていましたが、やはりそうですか」

 ため息をつきながら祐巳は答えた。

「ふふ、このシリーズの祐巳は話が早くて助かるわ。その特典のイベントが『私立リリアン女学園 卒業イベント』で、2015年3月29日によみうりホールで開催予定よ」

 私を卒業させないで『マリア様がみてる』を卒業させるとは、おのれ緒雪先生め。と祐巳は心の中で突っ込んだ。

「祐巳、緒雪先生は来年1月創刊の集英社オレンジ文庫の新刊や、『ユリイカ 2014年12月号 特集:百合文化の現在』のインタビューやらで忙しいの。一年間(別の話が売れなさすぎて)遊んでたわけではなくってよ」

 いやいやいやいや、それってオレンジ文庫の宣伝をナチュラルにするための話題作りに今さらBDBOX出したりインタビューでたりしてるんですよね。

「私たちって緒雪先生が何かする度のダシにしか使われない程度じゃないですか。こんなことなら『ハローグッバイ』で終わってくれた方が……」

「おやめなさい。例えダシにされてるとしても、他はダシにすらならない作品しかないってわかっているでしょう? あの名前の思い出せないスピンオフBLのアン……もう思い出せないけどあの人が出しゃばって何ができるというの? 『今野緒雪はBLをわかっていない』という評価を更に確実にするだけでしょう?」

「何を言い出すんですか、お姉さま! それじゃあ私たちが3流BL作家の気まぐれで書かれた百合作品の登場人物に過ぎなくなってしまいます」

 祐巳の言葉に祥子さまははっと目を見開いた。

「そうね、祐巳。ごめんなさい、言いすぎたわ。ただ、BL……私は気持ち悪いから読まないけど、ああいうものは何気なく思わせぶりな展開で清らかにシーン終了し、読者に『それだけで終わるはずがない妄想』をさせそのエネルギーで作品を支えてもらうべきでしょう。祐麒くんからキスを原作がやるなんて論外よ。折角高田くんの部活の話や卒業式の生徒手帳などのいいエピソードがあったのに、いちいち腐女子が萌えないBLらしさアピールだなんて台無しよ」

「お姉さま、全然反省してないじゃないですか。ひどいネタバレですよ。BL気持ち悪いとか言いながら細部までしっかりチェックしてるじゃないですか。それに発言内容がちょっと腐女子っぽいです、どうしたんです」

 祥子さまはひどく動揺した。
 違和感の正体はこれだったのだ。
 その時背後から声をかける者があった。

「あら、祥子さん。祐巳さんも」

「三奈子さん」

「ごきげんよう」

 築山三奈子さまが笑顔で声をかけてきた。

「あ、今度の新刊のBLアンソロジーの見本できたんだけど、見る?」

 お前が犯人かーっ!
 ニコニコしながら見本誌を取り出す三奈子さま、それに引き換え祥子さまは引きつった表情でこの局面をどう乗り切ろうかと思案している模様。

 駄目だ、これは。
 私がついていないと、お姉さまは駄目なんだ。
 ならば、私は……



 翌日から祐巳は祥子さまと極力行動を共にするようになった。
 祥子さまは一時的な『妹欠乏症』のため判断が怪しかったところをリリアンかわら版に代わる何かの編集に目覚めてしまった三奈子さまの魔の誘いに乗ってしまったようで一時は本当にまずいことになっていたようだ。
 だが、それももう心配ない。祐巳分の補充により元の祥子さまに戻った。
 そしてその模様は。

「今日もシャッターチャーンス」

 メガネのカメラ乙女を喜ばせ。

「お姉さまったら、相変わらずね」

「瞳子、落ち着け」

 盾ロールのドリルがグルグル回るほどだったという。


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