【短編祭り参加作品】
三学期の始業式の日、放課後に武嶋蔦子は薔薇の館を訪ねた。
中に招いてくれたのは紅薔薇さまの水野蓉子さまで、他にはまだ誰も来ていない。
蔦子は二学期の終業式後に行われたクリスマスパーティーの時に撮った写真の入った封筒をいくつか取り出した。
「あら、祐巳ちゃんに渡してくれても構わなかったのよ」
「いえ、パーティーに招いていただいたお礼も改めて申し上げたかったので」
律儀ね、と微笑んで返された。
「見てもいい?」
「どうぞ」
封筒にはそれぞれ名前が書かれていて、その人が写っているものと集合写真が入っている。クラスメイトの祐巳さんと志摩子さんには朝のうちに渡してあり、持ってきたのはそれ以外の方々の物である。
「あら、こんな顔撮られてたのね」
クスクスと笑っているのはゲーム中のものを見ての事だろう。
何枚かを見ているうちにふと紅薔薇さまの手が止まった。ちょっと不思議そうな顔になった後に小声でつぶやいた。
「こういうのも入っているのか」
やがて得心したように頷くと紅薔薇さまは写真をしまった。
たぶんそれは紅薔薇さまがちょっと入り込んでいる程度で祥子さまがしっかりと写っているものであろう。
表だって姉妹の写真を欲しがるなんて祐巳さんくらいだろうが、本当はどうなんだろう、そう思った蔦子は思い切っていたずらを仕掛け、その反応が見たくてここに来たのだ。
次の人はどうかな、と期待と不安が混じった感情で蔦子は足音の主を待つのだった。