【短編祭り参加作品】
大学からの帰り道に、ふと思い立ち、あの駅のあの場所に向かう。
あの時以来、あの場所に行くのは初めてだ。
近くに寄ったときでも、極力あの場所には近寄らないようにしていたから。
程なく、私はその場所に到着した。
電車が出たばかりのせいか、その場所――あのベンチには誰も座っていなかった。
私は誰も座っていないベンチをじっと見つめる。
あの冬の日。私と約束したはずの彼女は、この場所にやってこなかった。
ここは、栞と私が引き裂かれた場所で、私の前からあなたが消えた場所。
もう、この場所には来ないと、あの時の私は誓っていた。
それが今では、あのベンチを感慨深く眺めているのだから、私も成長しているのかもしれない。
良くも悪くも、いばらの森で閉じこもっていた女の子はもういない。
私は携帯電話を取り出し、パシャリと誰もいないベンチの写真を撮った。
それからしばらく考えて、私はその写真を蓉子に送りつけた。
この写真の意図がわかるにしろ、わからないにしろ、彼女なら必ず連絡をくれるはずだ。
連絡が来たら、彼女に言うのだ。
「ねえ、蓉子。栞の連絡先教えて」って。
FIN
テーマ:「写真」OK
紅薔薇コース『原作本のサブタイトルを本文に入れる』
→いばらの森 OK
白薔薇コース『登場人物は三人までにする』
→一名 OK
黄薔薇コース『2000文字以内にする』
→478文字 OK