某所で投稿したもので、瞳子が薔薇さまと呼ばれる少し先の山百合会で、前薔薇さまのお話をする何気ない日常のワンカット……の妄想です。
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「「「先代の薔薇様方の話?」」」
「はい、よろしければ聞かせていただけないかな……と」
所は今も昔も変わらない薔薇の館、ここに始めてきてから変わったことと言えば一階の物置部屋の物が年々増えていることと、階段のきしみ具合も年々増していること位だ。
お姉さまも
「いい加減、この階段も改修なりしないとダメだね」
なんて事を言ってたのに結局
「瞳子、階段の改修よろしくね」
と、仕事を残したまま卒業してしまった。
聞く話によると、お姉さまのお姉さまに当たり、遠縁ではあるが私の親戚にあたる小笠原祥子さまも卒業する前に似たような事を言い残したらしい。
さらにさらに祥子さまも、ご自身のお姉さまに同じようなことを言われたらしいのだ。
誰かがこのダラダラと続く風習を断ち切ってくれればと思うが、少なくとも自分では断ち切る気はあまりない。頼れる妹にでもそのうちに意思を託すとしよう。
閑話休題
仕事も一段落したので、山百合会の面々でお茶を飲みながら一息ついていると、紅薔薇さまなんてご大層な通称で呼ばれてる私、松平瞳子。
その妹の妹……つまり俗に言う紅薔薇の蕾の妹が、前薔薇さま方はどう言った方々なのかを質問してきたのだ。
「それまたどうして……」
白薔薇さまであり、親友でもある二条乃梨子のごもっともな疑問。
勿論話すのが嫌だという訳ではないけれど
「前薔薇さま方は色々と凄い方達だったって中等部でもかなり聞きましたよ」
白薔薇の蕾の妹も此処ぞとばかりに会話に入ってくる。
黄薔薇の蕾も口には出さないが、気になって仕方が無い様子。
菜々を含む二年生達はお姉さま方を思い出してか、それぞれが口元にうっすらと笑みを浮かべている。
「それは現薔薇さまである私たちは凄くないってことかな?」
二年生でありながら立派に黄薔薇さまの仕事をこなす有馬菜々が面白い物を見つけたと一年生ズを突っつく。
そういえば、こんな菜々を見て由乃さまは
「なんだか最近、菜々がでこっぱちに似てきたわ」
なんて呟いていたのを思い出す。菜々を窘める役割を担ってた、祐巳さまが卒業してからブレーキをかけるのも一苦労だ。
ちなみに、菜々は祐巳さまを結構本気で怒らせたことが一度だけあるのだけど、その時の落ち込み方は物凄かった。どうしても祐巳さまだけには頭が上がらないらしい。
菜々のその嫌味な質問を受けて、真面目な一年生達はとんでもないと萎縮。傷ついただの言って落ち込んだフリをする菜々。まだ純粋な一年生ズはわたわたとどうしたものかと戸惑っている。
「菜々、一年生をからかうのも程々にしてあげて頂戴」
とりあえず釘を刺しておく。なんだかんだ菜々も根は真面目なので本当の意味でトラブルを起こす事はないが、一応形式として注意しておく。
「前薔薇さまっていうと、祐巳さまと由乃さま、そして志摩子さまの3人ですよね」
白薔薇の蕾が場を持ち直すようにフォローを入れる。気の利くいい娘だ、乃梨子には勿体無いとつくづく思う。
「あの御三方は……色んな意味で凄かったです」
前薔薇さまの事を思い出して笑みを浮かべている私の妹。
卒業した後の3人の噂は高等部にまで届いているがそれはまた別の話。
「少なくとも、これまでの山百合会の在り方を変えたのは御三方で間違いないわ」
お姉さま曰く構想は、水野蓉子さま……祐巳さまの姉妹制度上のおばあさまに当たる人から受け継いだものらしい。
「『山百合会と生徒の関係をもっと身近に』……か。あの3人だからきっと出来たんだろうね」
去年の事を思い出してか乃梨子の口元にも自然と笑みが浮かんでいる。
入学した時の、どこか諦観したような華の女子高生とは思えない枯れた表情とは全く違う。
多分、私が乃梨子に話しかけたのは無意識的に乃梨子の笑顔が惹きつけられるものだと知っていたからだ。
「えぇ、由乃さまが我先にと先陣を切り突っ走って、志摩子さまがこれまでの山百合会の良い所を残しつつ、お姉さまが調和させる。本当に御三方は仲が良かったわ……」
「……紅薔薇さまが笑ってる」
言われてから自分が知らぬ間に笑っていることに気付いた……乃梨子の事を余り言えた物でもない。
「こほん……そうね、折角だから前薔薇さま方のお話をしましょうか」
いつも堂々としているように心がけている瞳子だが、祐巳さまの事となるとその演技の仮面なんてすぐに剥がれてしまう。どれほど取り繕ってもどうにもならないのだ。きっとこれからもあのぽけぽけしてるようで実はしっかりしている姉にはいつまで経っても敵わないのだろう。
「何から話したら……」
いざ祐巳さま達の話をしてみようと言われれば意外な事に困ってしまう。何も話題に挙げるようなことがないわけではない。
むしろその逆で、色々とありすぎた所為で何を、何処から話すのか迷ってしまう。
それは乃梨子も、菜々も同じようで思案してる。
「前薔薇さま方は仲が良かったって聞きましたけど、それって本当なんですか?」
紅薔薇の蕾の妹はこの話題を切り出しただけあって興味津々ということで質問をする。
「仲が良かった……なんてレベルなのかな、アレ」
「仲が良い……で済めばよかったのですけどね」
その質問に真っ先に反応する乃梨子と瞳子。二人とも口元にはなんとも微妙な笑みが浮かんでいた。
「中等部でも有名でしたよ。なんでも歴代の薔薇さま方の中でもトップクラスに仲がいいのだとか」
白薔薇の蕾の妹も会話に入ってくる。実際に会ったことが無い分気になっているのだろう。
「歴代云々は置いといて、仲が良かったのは事実ね。姉妹関係に負けない繋がりがあの御三方の中には存在していたわ」
「志摩子さん……私のお姉さまなんだけど、祐巳さまと由乃さまだけには冗談も言ったりしていて当時は結構嫉妬する事もあったなぁ……」
意外。乃梨子がそんな事を思っていただなんて思わなかった。と、言うよりもそんな事を口に出して言うタイプではないから珍しかった。
なんだかんだ言っても乃梨子も自分のお姉さまが大好きなのだ。
同じく瞳子も由乃さまと志摩子さまの2人に嫉妬することは多々あった。尤も、嫉妬する対象は必ずしもこのお二人という訳ではなかったけれども。
乃梨子に嫉妬することも少なくはなかった。むしろ多かった。祐巳さまと乃梨子は互いに部活には所属してなく、家の事情等も少ないので一緒に居ることがやたらめったら多かったのだ。一体どれだけヤキモキさせられたことか。
「言わせてもらいますが、由乃さまと志摩子さまはいちいちお姉さまに引っ付き過ぎでしたわ」
この際だから言ってしまっても時効だと勝手に納得し、当時思っていたことを吐き出す。
普段、こんな自己中心的なというか、実にもならない不満を言わないようにしている瞳子がこんな事を言っているからか乃梨子と菜々を除いた面々は目を丸くしている。
乃梨子と菜々はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべていた。ここに可南子さんが居なくて良かった……2人でも面倒くさいのに、3人ともなれば収集がつかない。
ただ、もう口から出てしまったものは仕方が無い。ここで引っ込んでも、前に出ても碌なことにならないのなら、前のめりに倒れた方がマシ。
「妹である私を差し置いて、志摩子さまの膝枕で眠っていたり、由乃さまと手を繋いでいたり……数え出せばキリがないわ」
そう、本当にキリがない。志摩子さまは自覚はないのだが、由乃さまに至っては見せつけるようにお姉さまに引っ付いているのを今でも覚えている。
「瞳子がそんな事を思ってたなんてね……素直に祐巳さまの前でそれを言えばいいのに」
ぐぅ……
それを言われると何も言い返せない。
瞳子も祐巳さまの妹になるまで、自分がここまで素直じゃなく甘えるのが下手だなんて思っていなかったのだ。
いつも演技している時のように他の人には甘えることができるのに、祐巳さまだけにはできない。演技派女優の名折れである。
「確かに、私が素直じゃなかったのは事実……でもお姉さまは少し八方美人過ぎなのよ。自覚ないのが質が悪いわ」
人の好意を素直に受け取り、素直に喜べる人。
それは簡単なようで意外と難しい。
勿論それは美徳で、そういう部分が祐巳さまの良いところで、変えて欲しいとは思わない。思わないのだが、思うところはあるのだ。
「結構噂になってましたよ。あの3人、実はデキてるんじゃないかって」
唐突な菜々の言葉の意味を舌の上でころころと転がし、ゆっくり噛んで、じっくり味わって咀嚼して飲み込もうとする、が
「「え」」
飲み込めなかった。
言葉の意味はわかる。わかるのではあるが一体全体どういうことか意味がわからない。
「あれ、知らなかったんですか?祐巳さま達の友情は世間一般で言う友情以上のものがあるんじゃないかって話を結構聞きましたよ」
うんうんと周りの面々は肯定の意を表す。
と、なるとこれを知らなかったのは瞳子と乃梨子の二人だけという事になる。
「ちょ、ちょっと待ちなさい。お姉さま方がその、深い関係だなんてそんなわけ……」
「そうよ、志摩子さんが祐巳さまとデキてるなんて……」
ありえない。
そう言う、言いたい、断言したい、絶対にありえない、そう言いたくて言いたくて仕方がなかったが
「「……ありえる」」
言えなかった。
思い返して見ればそんな噂が立つのも仕方ないと納得してしまうほどに御三方の仲が良かったのは事実。否定のしようがない。
「一番の有力説は『お姉さまと志摩子さまが真ん中に祐巳さまを挟んで取り合ってる』っていうのを新聞部の友人が言ってましたね」
瞳子と乃梨子の尋常でない様子。
普段滅多に見る事のない緊迫感漂う動揺っぷりに山百合会の面々はたじろいでいた。
ただ一人、菜々だけはそんな二人にも物怖じしない胆力を兼ね備えているようで爆弾を幾つも落とした後に、平気な顔して紅茶を啜っている。
菜々が紅茶を啜っているなんてどうでもいい。
由乃さまと志摩子さまがお姉さま……祐巳さまを取り合っている。一体全体そんなバカらしい噂はどこから湧いてきたのだ。
最初はそう思ったものの、すぐにその噂の根拠となるような出来事がぽこぽこと炭酸飲料の気泡の如く湧いてくる。
「志摩子さんと祐巳さまのお箸や筆箱なんて細々とした物がペアになってた……それだけじゃない、三年になってからよく祐巳さまのお家に泊まりに行くようになったとかお風呂に一緒に入ったとか……まだある……」
隣で乃梨子がぶつぶつ言っていて気になる単語がぽつぽつ聞こえてくるが、とりあえずはスルーだ。今は自分の事で精一杯。
とりあえず落ち着かせようと思ってカップを掴もうとするが震える手のせいで上手くいかない。なんとかカップを掴み紅茶をノドに流し込む。
「あっつい!」
今さっき淹れてもらったばかりだということを失念していて紅薔薇さまとしてみっともない醜態を晒してしまう。
「うわぁ……」
姉に向かってうわぁとはなんだうわぁとは。
まさかこんなところでずっと築いてきた完璧な紅薔薇としての威厳に瑕がつくとは思わなかった。
……が、威厳云々について考えるのは後だ。瞳子の事よりも祐巳さまのほうが大事だ。
祐巳さまを挟んで由乃さまと志摩子さまがやり取りをする。それが余りにも日常的過ぎてなんとも思わなかったが確かに言われてみれば怪しい関係のようにも見える。
実際、あの三人の中心にいたのは間違いなくお姉さまだ。由乃さまも志摩子さまも
「祐巳さんが居なかったら私たちはここまで深く繋がる事はできなかったわ」
なんて旨の事を言っていた。深く繋がるってなんなんだ……とりあえずそれは横に置いておこう。
いつだか忘れたが在学中の由乃さまが
『思いっきり突っ走るのが私、一歩引いた所から物事を俯瞰する志摩子さん。性格はともかく性質は正反対なのよ』と自慢するかのように言っていたのを思い出す。
その続きを打ち合わせていたかのように離す志摩子さまの優しい表情は今でも思い出せる。頬を染めて心底落ち着いている、リラックスしている。そんな表情だった。……今思えば恋する乙女のように見えさえする。
『私たちの間で手をとっているのが祐巳さんなの。祐巳さんがいなかったら私たちは繋がることもなく少しずつ離れて言ってたと思うわ……今があるのは祐巳さんのお陰。だから私たちは祐巳さんが好きなのよ』
そう、確かこんなことを……
「「あ、駄目だわこれ」」
考えれば考えるほどに、菜々の言う噂を裏付ける話が思い浮かぶばかりである。
「そう言えば、昼休みに中庭で3人揃ってお昼寝してたこともあったわね。真ん中にお姉さまを挟んで」
そんな事を思い出す。
当時はただ嫉妬を抑えるのに精一杯で気付かなかったが、そういう事情であるなら祐巳さまの両隣に志摩子さまと由乃さまがいつもいたのも頷ける。
「あ、その時の写真、今ではプレミアがついてますよ」
懐から一枚の写真を取り出した菜々。
ピストルの弾丸にすらダブルスコアをつけてしまうほどの速度で、示し合わせたかのように瞳子と乃梨子はその写真に食いつく。
「「ほぉ……」」
すぐにでも嫉妬の紅き焔が燃え上がるかと思ったのだが、御三方の天使のような寝顔に気勢が削がれ、見入ってしまう。
とても理想的な角度から、自然に、尚且つ3人ともが収まるように写されていた。
このレベルの写真を撮るような人間は瞳子は1人しか知らない。
一部では伝説的な盗撮魔として有名な武嶋蔦子さまに違いない。彼女でなくてもこんな絶好のシャッターチャンスを逃しはしないだろう。撮った本人はきっと小躍りするほど喜んだに違いない。
「「これ貰える?」」
またしても乃梨子と声が被った。さっきからやたら被せてくるが一体どういうつもりなのか。
祐巳さまたちの写真を手に入れて何をするつもりなのだ。乃梨子はムッツリなので、親友として乃梨子が奇行に走らないようにこの写真を保護しなければならない。
「一枚しかないので嫌です」
「「もう一度言ってもらえる」」
「「「ひっ」」」
ぎしりと、音を立てる薔薇の館。館のそこかしこからキシキシと耳に障る嫌な音が鳴り、出ていた太陽には雲が翳り、突然強くなった風が窓をバン、バンと不規則に高圧的に叩く。
まるで瞳子と乃梨子の『イイ笑顔』に反応したかのようだ。菜々を除いた山百合会の面々もお姉さま想いの私達を見て歯をカタカタと鳴らすほどに震えて感動している。
「瞳子さまと乃梨子さまなら妹なんですし、蔦子さまに言えばすぐに貰えると思いますよ」
菜々の言葉には続きがあったようで、それを聞いて乃梨子はすぐに平静を取り戻した。冷静さを失うなんて白薔薇としての誇りを持ってほしい。
ともあれ、ネガを持っている蔦子さまに言えば問題解決なのだ。そんなすぐに分かりそうなことすら思いつかないなんて私としたことが少し抜けていた。もっと気を引き締めないと。
「こほん。写真の事は置いておくとして、お姉さま……先代紅薔薇さまの福沢祐巳さまが黄薔薇さまの由乃さまと白薔薇さまの志摩子さまに挟まれていたのは事実よ。生徒たちに誤解されてしまうほどに仲が良かったのもまた事実」
喋っているうちに誤解なのかどうかすら不安になってきた。
由乃さまにとっては最初にできた最高の親友。
志摩子さまにとっては、乃梨子が来る前からの数少ない心の居場所の一つ。
祐巳さまは『THE・にぶちん』だからともかくとして、この2人は何がとは言わないが『ガチ』な気がしてきた。
祐巳さまたちがご在学中の間も、お姉さまが由乃さまと志摩子さまと間違いを起こさないようにと妹として必死に目を光らせていたがそれでは足らなかったのかもしれない。
私が御二方を警戒し出したのも全ては由乃さまの言った言葉が始まりだ。
『確かに私は祐巳さんの妹にはなれないわ。でも瞳子ちゃん、あなたもまた祐巳さんの親友にはなり得ないのよ!』
その言葉はあまりに衝撃的だった。妹としてお姉さまの一番近くに居ると驕っていた自信はそこで砕け、尊敬する先輩方が敵になったのはその時がきっかけだ。
そもそもあのお二方は……
「ただ仲が良かっただけじゃない。しっかりとぶつかる時はぶつかり合ってたのよ」
はっ。
つい自分の思考の海へとトリップしてしまった。乃梨子の方が正気に戻るのが早かったなんて屈辱だ。
「そう。でもどんなに対立しても親友なのでしょうね、喧嘩しても、すれ違いがあっても、誰の助けも借りず、3人の中で解決するの。そこに姉妹関係が関わることはなかったわ。悔しいことに3人には3人だけの誰も入り込めない特別な絆があったのよ」
乃梨子に乗っかって言葉を紡ぐ。これで取り繕えた筈だ。
しかし、もう落ち着いてお茶会しながら昔話をしようという心中ではなくなってしまった。とっとと帰って乃梨子と対策会議を開いてこれからの方向性を練らなくてはならない。
「結局の所、とても仲が良かったというだけよ。薔薇さまというネームバリューがそこに尾ひれを生やしただけではないかしら」
あくまで冷静に。綺麗に纏めて、出来うる限り薔薇として終わらなければ。とてもそうは思えないがそういう着地点を一先ずは作っておくのだ。
「ともかく、今日は仕事もないから解散よ解散。お姉さま方の話はまた今度にしましょう」
「じゃ、私達は先に帰るから。お疲れ様」
乃梨子もまた私の意思を汲み取り、スパっと切り上げてかばんを持って立ち上がる。
「「ごきげんよう」」
マリアさまが見ているのだから挨拶だけはしっかりとして帰るのだ。
ただ、お姉さま達は私達が見ていなければいけない。だから急ぐ。
私も乃梨子とほぼ時を同じくして立ち上がり、ビスケットのような扉をくぐる。
「乃梨子、勿論今日は泊まりに来るわよね」
そんなこんなで帰り道、校門までいつもより気持ち早めに歩く。
蔦子さまの写真の件、祐巳さま達が恋仲云々の噂の件と私達の前に大きな課題が降りかかってきた。
「そりゃね。着替えも置いてあるし、このまま直接行くわ……後で電話借りるわよ」
乃梨子と2人で溜まった仕事を持ち帰ってこなしたりしているうちに、いつの間にか私の家に乃梨子がいることが多くなった。
家族も乃梨子の事をいたく気に入っているし、乃梨子の保護者に当たる菫子さんも私の事を信頼してくださっているので迷惑でも何でもないのだけれど。
……ただ、タンスを一段占領され続けているのはどうなのかと思うけれど、毎度毎度着替えを持ってくるのも面倒くさそうなので見逃してあげている。
このまま乃梨子を伴って帰り夕食を食べ、時間短縮の為に一緒にお風呂に入った後、広めのベッドで乃梨子と2人で眠らない夜の会議が始まるのだ。
所戻って、嵐が過ぎ去って静けさに包まれている薔薇の館。
今日は普段見ないような薔薇さま方を見れたことから、それぞれが思い思いの感情を抱いているのだが、最後の瞳子と乃梨子の2人を見て全員が同じことを考えていた。
「あの2人は気付いてないんでしょうね……現紅薔薇さま白薔薇さまが実はデキてるんじゃないかって噂されてることに」
ボソりと呟く菜々に無言の賛同を送る現山百合会のメンバーなのだった。