あ、出た。
こんどはマジに【No:349】ちょっと交錯模様だから(篠原さま)の続き。
翌朝。祐巳が重い心で登校してくると、マリア様の前に人だかりがしていた。
「号外ですわよ。」
「号外?」
「紅薔薇のつぼみが」そこで祐巳に気づく一年生。
「あ、あの」
「私がどうしたのかしら。」
なんだかものすごくきつい目でにらむ一年生。一緒にいた子はなんか泣きそうな顔をしている。
「あの、祐巳さまは妹を交換されるんですか?」
「ええっ?」
見られていた。
「ちょちょっとその号外見せてよ。」
『紅白交錯 妹交換協定?』ななななに、その見出しは。
しかも、古い温室で志摩子さんに肩を抱かれる瞳子ちゃんの写真と、雨の中で抱き合う祐巳と乃梨子の写真が見事に撮られている。あの暗さで撮れるんだから祐巳と瞳子の方が蔦子さん、温室の方が笙子ちゃんだろう。
ってそんなこと考えてる場合じゃないって。
瞬間だけ手を合わせる。
(マリア様、みんなが泣かない結末をください。おねがいします)
クラブハウスへ駆け出す。わっ、と道を開ける人たち。後ろでシャッター音。えーい、撮りたければ撮ればいいわよ。
タンタンタンタンって階段を登って新聞部の部室。ばんっ。
「真美さんっ」
「ごきげんよう、祐巳さん。そろそろ来るだろうと思ったわ。」
「ごきげんよう、祐巳さま。」
隣で座っているのは乃梨子ちゃん。先に来ていたのね。
「祐巳さま、紅薔薇さまが許可したんだそうです。」
「お姉さまが!!」
ぺたん、と、へたり込む祐巳。
「そういうことよ。紅薔薇さままで公認の姉妹交換なの? ちょうど二人がそろったところでインタビューさせてほしいわ。」
「真美さん、どうして。」
「今朝号外を出したか? あれよ。」くいっ、と親指を指す。窓の外では演劇部が発声練習をしているところ。あれ?見たことない子が・・・・・・って瞳子ちゃんっ!?
「まさかそんなあ。」
「そのまさかよ。トレードマークの縦ロール、ばっさり。私の髪と同じくらいね。似合ってはいるけどあまりにも痛々しいわ。紅薔薇さまはそれをみて詳しいことは何も言わずに、今朝発行許可をくれたわ。」
「・・・・・・・・・。」
「乃梨子ちゃんっ!」
「乃梨子さん?」
顔をおおって部室から駆け出す乃梨子。
「どうしちゃったのよ。祐巳さん。紅薔薇様には発行せずに相談するつもりで見せたのよ。そうしたら、すぐにプリントアウトして今朝のうちに配ってほしいって。なにかわけがあるんだろうと思って、その通りにしたわ。」
「お姉さまがそんなことを。」
「姉は時には妹のおしりをひっぱたかなきゃいけないときもあるのよ、って。」
あー。なんだかわかんないよ。お姉さまはまさか、ほんとに乃梨子ちゃんを妹にしろって言うんだろうか。
中庭に走り出た乃梨子。
「瞳子っ!」
「乃梨子さん。」
「あんたいったいなにやってるのよ。」
「発声練習ですわ。」
「ってそうじゃないだろ。あんた本気で私を祐巳さまの妹にする気なの?」
「祐巳さまが本気ならしょうがないじゃないですか!」
「馬鹿っ」瞳子の頬をひっぱたく乃梨子。
ぱーん。えっ? 瞳子の首が飛んだ!?
「かつらじゃないのよっ。」
「そうですわよ。次の役でつかうかつらですわ。なんだと思ったんですか。」
「だって、だって、瞳子が自慢の縦ロールをばっさり落としてまで、絶望して、あきらめて・・・それが私のせいだって・・・・・そんなの・・・・・そんなの許せないじゃないか・・・。」
「乃梨子さん・・・・。」
大泣きして瞳子の胸に顔を埋める乃梨子。ぱさり、と頭の上でまとめていた瞳子の髪が落ちる。
「ほんとに切ったんじゃないんだね・・・・よかった・・・・」
「乃梨子さん?」
「ぐすん・・・・えぐえぐ」
「私は人の言うことなんか聞かないけど、いったん自分で心を決めたらまっしぐらに動き出す、そう言ったのは乃梨子さんですわよ。」
「そりゃ・・・・そうだけど・・・・・。」
「自分で動き出したんですもの。もう迷いませんわ。大丈夫。」
「瞳子・・・・・・。」
ぽんっ、と二人の肩をたたく手。
「白薔薇さま。」
「志摩子さん。」
「二人とも。朝礼が始まるわよ。行きましょう。」
「志摩子さん、私・・・・・・。」
「今朝の瞳子ちゃんはあなたにまかせてよかったわ。次は、紅薔薇さまと私が祐巳さんのおしりをひっぱたくのよ。」
「志摩子さんてば、楽しそう。」
なんか最近、吹っ切れたみたいだなあ、と思う乃梨子だった。