「ごきげんよう、令さま」
「ごきげんよう。 あれ、祐巳ちゃん一人?」
「はい、由乃さんはお家に忘れ物があって取りに帰りました」
「そう。 祥子も用事で遅くなるって。 先にお昼にしようか」
「そうですね。 令さまはお飲み物は?」
「あ、緑茶で」
「はい」
「いつ見ても、令さまのお弁当ってやっぱり綺麗だなあ。 それに比べて私のは……」
「ははっ、ありがと。 祐巳ちゃん今日は自分で作ったの?」
「はあ、そうなんですけど……」
「上手に出来てるじゃない。 彩りも考えてあるし」
「そう言って頂けると…… あ、そうだ令さま、味見をお願いできませんか?」
「ふふっ、良いよ、私で良ければ。 どれにする?」
「えっと、じゃあ玉子焼きで」
「私のと交換ね、はい」
「あ、ありがとうございます。 うわぁっ、令さまの玉子焼きって、私、初めて……」
「そうだった?」
「うん、上手に――」
「ええ〜〜〜〜〜〜っ!?」
「な、何!? どうしたの祐巳ちゃん!?」
「すっご〜〜い!! これ、甘くないのに美味しいっっ!? 信じられない!」
「…… 玉子焼きの事?」
「令さまっ、これ美味しいですっ。 令さまって、すごい! 甘くないのにどうやって……」
「祐巳ちゃん、それ大袈裟すぎ。 単なるだし巻き卵だって。 お出汁にコンソメを工夫した程度だよ」
「でも甘くないのに……」
「ああ、祐巳ちゃんのは確かに甘いね。 お家の味なの?」
「いえ、母のはもう少し控えめですが、美味しく作りたいなって思って……」
「祐巳ちゃんもちゃんと出来てるよ。 卵は綺麗に巻けてるし、砂糖が多いのにちょっとしか焦げていないし。 うん、上手だよ」
「でも、令さまのとは全然比べ物にならないです」
「そんなに気に入ったなら、残りの玉子焼きも交換する?」
「良いんですか!? 嬉しいっ! ああ…… 美味しい…… 私、令さま尊敬します!」
「ふふっ、今度教えてあげようか。 由乃の所のついでにでも家に寄りなよ」
「はい! ありがとうございます!!」
「令ちゃん。 これってどういう事? 祐巳さんに何をしたのよ?」
「令。 何故祐巳があなたばかり見つめているのかしら。 説明なさい」
「べ、別に……」
「お姉さま、由乃さん。 令さまを虐めないで下さい! 令さまは尊敬できる方なんです!」
「令ちゃん!?」
「令!?」
「なな、何も無いって……」
(ううっ、針のむしろだ……)
「ああ…… いっそこのまま祐巳ちゃんを手なずけちゃおうかな……」