【416】 暗黒大決戦ちびかなこ  (水 2005-08-24 19:25:42)


作者:水『ちびさちこイライラ職権濫用【No:362】』の続きです
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 ちびっこの生活にも大分慣れて、乃梨子の今朝の登校は静かなものだった。
 一緒だった志摩子さんと、教室の入り口で別れるまでだったけれど。


 乃梨子が中に入ると、教室内が何か騒がしい。
 見ると教室の隅の方に人だかりがある。 反対の隅にももう一つあるようだ。 机の下越しに沢山の人影が見える。
(何か事件かな?)
「…… ごきげんよぅ」
 まあ関係ないし、おざなりに挨拶して席に着くと、その二つの人だかりが乃梨子目掛けて押し寄せて来た。 口々に何か言っているが、同時に聞き取れるものじゃないし。
「ご存知でした?――」「私ビックリして」「瞳子さんが」「お醤油取って」「山百合会で」「可南子さんは」「もぐもぐ」「ちびのりこさん、聞いていますの?」
「ああもぅっ、うるしゃいっ! わたしはしょーとくたいしじゃないんだから、いちどにゆーな!!」
 乃梨子がこう怒鳴りつけてやっと静かになった。 聞き取れた中から気になることを訊いてみる。
「いま、だれかごはんたべて――じゃなくって、とぉことかなこしゃんがどうかしたの?」
 乃梨子がそう問うのに、皆を代表して恭子さんが答えてくれた。
「こういう事です」
 その言葉に二つの人だかりが割れ、それぞれの中央から現れたのは――
「とぉこ…… かなこしゃん…… あんたらもか……」

 それは、『ちびとうこ』と『ちびかなこ』の二人だった。


「まあ、とにかくはなしをきかしぇて」
 乃梨子は二人を教室の後ろ、少し開けたところへ誘う。 三人をクラスメイトがやや遠巻きに囲む形になった。

 まずは瞳子。 『ちびとうこ』は『ちびのりこ』よりも少しちっちゃくて、短いドリルをちょこんと纏め、愛くるしい感じ。 なんだけど。
「ごめんとぉこ。 あんたにもうつしちゃったみたいだね…… わたしのめんどーみてもらってたから」
「……」
 瞳子はずっとムッツリしてる。
「なんかげんきないね。 わたしができること、なんでもしてあげるから、げんきだして」
「……」
「…… なんかゆってよ。 しょれともわたしのこと、きらいになっちゃった? うつしちゃったから……」
「ちっ、ちがぃまちゅわ!」
「!」
 ――全員静まり返る。 今の何?
「とぉこ、あんた…… いまのこえ……」
 言うなれば―― 『アニメ声』
「――ふ、ふはははっ! え〜? あんたなに、しょのこえ! どちたんでちゅか〜 かわゆいでちゅね〜 はっははは――」
「の、のりこたんっ! わらわないでくだたい! もぉっだからちゃべるのが、やだったのでちゅわ! のりこたんなら、わかってくだたるとおもっていまちたのに!」
 クラスの皆で容赦なく笑い飛ばす。 あの可南子さんまでどっかツボに入ったようだ。
「みなたんひどいでちゅわっ。 もぉとーこないちゃいまちゅっ」
「ごめんごめんとぉこ。 あまりにもはまってたもんだからつい。 かわゆくてとぉこににあってるって」
「…… ほんとでちゅか?」
「ほんとほんと」
 うんうん、とクラス全員でうなずいて。
「…… ゆるちてあげまちゅ。 もぉ、わらわないでくだたいね」
 やっと瞳子は笑顔を見せてくれた。 一応元気なようだから安心した。
「しょれで、とぉこはちびのげんいんにこころあたりある?」
「…… なにもわかりまちぇんわね……。のりこたんもかわらぢゅでちゅか?」
「うん…… なにも……」
 二人で押し黙った。


 気を取り直して、乃梨子は今度は可南子さんに向き直る。
「あれ? しょぅいえば、かなこしゃん、なんかひしゃしぶりのよぅな?」
「乃梨子さんご存知ありませんでした? 可南子さんずっとお休みでしたのよ」
 周りの誰かが乃梨子の疑問に答える。 そうか、休んでたのか。 毎日テンパってて気付きもしなかった。
「かなこしゃんはげんきだった? やっぱりちびになったからやすんでたの?」
「――それもあるわね」
「しょれも?」
「いえ、べつに」
「?」
 何か引っかかるものを感じて、乃梨子は可南子さんを見つめた。 『ちびかなこ』は確かにちびっこ、なんだけれど。
「かなこしゃんって…… ちびになってもでかいね……」
 乃梨子より頭ひとつ分近くデカい。
「むかしから、けんこうゆうりょうじなので。 うらやましいかしら?」
(ううっ、確かに今は羨ましいかも。 一応ちゃんと話せているし)
 そんな事を考える乃梨子の後ろの方から、敦子さんが話しかける。
「それにしても、新鮮ですわね。 可南子さんを見下ろせるなんて。 何だか可愛いですわ♪」
「がいやはだまれ」
 間髪おかず、可南子さんが反応する。 毒の強さは相変わらずだ。
「ええ、敦子さん。 可愛らしくて頭をなでなでしたくなっちゃいますわ♪」
 今度は美幸さん。
「うるさいだまれ。 ぼんじんがでしゃばるな。 おまえらものろうぞ」
 キレた、ように見えるけれど。 何かほんのり顔が赤い。 まさか照れてるのか? 柄にも無く。
「まあまあかなこしゃん。 のろうって、あんた――」
「ふん、しんじないの? わたしののろいのちからはみんなみているのよ」
『は?』
 どこで?―― 周りも俄かにざわめき出す。
「めのまえにあるじゃない、しょうこが。 それもみっつも」
『えっ?』
 ―― その言葉に全員沈黙する。
(それは、なんというか、まあ、あれだ……)

 息を吸い込んで。
『かなこっ!! あんたがげんいんかっ!!』
 全員でつっこんだ。


 みんなで呆れ返っていると、瞳子が踵を返してちまちま歩き出した。
「とぉこ、どこいくの?」
「ぢぶんのちぇきにかえるのでちゅ!」
「おこらないの?」
「ふん、とーこはあんなひとの、ようちないたぢゅらにちゅきあうほど、こどもではないのでちゅわ。 では、ちつれいちまちゅ。 ちねっ! ほちょかわかなこっ!」
 捨てぜりふを残して、瞳子はよちよち歩いていった。 余程可南子と関わり合いたくないらしい。 強がりは相変わらずのようだ。 ほっとこう。

「しょれでなに? なにがもくてき? へんとうしだいではただじゃおかないけど」
 乃梨子は可南子に返答を迫る。
「ふ、どうたたじゃおかないというの? そのみじかいおててでなぐる?」
「…… あんただけがちょーじょーのちからをもつとおもわないほーがいーよ」
「そう…… あなたも……」
 睨み合う二人。 じりじりと距離を離す。
(さて、どう出るか……)


 先に動かれた!

「せんてひっしょう! ふぁいあぼーる!!」
 何処からか取り出した巻物を、可南子が勢い良く広げる!
「くっ! おん・まりしえい・しょわか!!」
 守りの護法。 乃梨子は両手で素早く印を結ぶ!
「きゃ〜!」「二人とも落ち着いて!」「もぐもぐ」「に、逃げないと!」「自分で取ってよ」「瞳子さんドリルで!」「お、お姉さま!」「先生呼んでくる!」
 観客が悲鳴(?)を上げる!


 ―― 二人の魔道対決が今……!

「…… ひがでないわね……?」

「ゆ、ゆびが…… いんがうまくむしゅべないよぅ……」

 終わった。


「かなこ、あんたまりょくきらしてるの?」
 乃梨子はとりあえず仕返しは諦める事にした。
「そのようね。 のろいにかかりきりだったので」
 そこが解らない。
「だいたいなんでわたしたちをのろったの? わたしにとぉこにしゃちこしゃま。 あと、じぶんまでのろうなんてどうかしてる」
「しっぱいしたのよ。 ほんらいのねらいはひとりだったんだけど」
「はぁ? しっぱい?」
(おいおい、失敗で私はずっと苦労する羽目になったのかよ……)
「のろいをかけるごとに、はねかえされて」
「はねかえしゃれた?」
「いるじゃない? はねかえしそうなものぶらさげたやつが」
『―― あっ』
 『なるほど』と、全員で納得する。
 アレにそんな効能があったとは。 アレの乱反射で乃梨子や祥子さまが呪われた訳だ。 二人とも割と傍に居たから。

「じじょーはわかったけど、しょれならどーやってとぉこをちびにできたの?」
「ゆみさまにけーきをふたつ、ゆうそうさせていただきました。 『とうことふたりでたべてください』と、かーどをそえて」
「じゃあ、ゆみしゃまもいまごろは……」
「なっておられます」
『まあっ!』
 可南子の言葉に、周りから歓声が上がった。 聞くと、「是非お会いしたいですわ」「次の休み時間にご一緒に」等々。 
 まあ乃梨子にも気持ちは分かる。 あの祐巳さまなら、さぞ愛くるしい『まめ狸』に成り果てている事だろう。 でも。
「ゆみしゃまも、おきのどくに…… よしのしゃまにようしゃなくかわいがられるな……」
 想像するだにお気の毒な事だ。
「そのしんぱいは、いらないわ」
「え、なんで?」
「ろさ・ふぇてぃだ・あん・ぶぅとんも、ちびにしてやったので」
 ―― 今度は歓声は上がらなかった。 こちらもあるイミお気の毒。
「…… なんでまた」
「ろさ・ふぇてぃだと、とりひきしました。 せいふくがほしかったので。 よにんぶん」
 ―― これはまたお気の毒な理由で。 そういや二人の制服も高等部のデザイン。
「へぇ……」
「きのうのうちに、それぞれのいえにとどいたので、きょうわたしはとうこうしたのよ。 せいふくがなかったから」
「……」
「できあがりがはやかったので、よしのさまにはねこみみもさーびすではやしといたわ」
「かなこ……」
「なにかしら?」
「あんた…… しゅげえな……」
 とんでもねえ奴。
「ふふふ、それほどでも」
 ニヤリと可南子が笑う。
(しかし、今頃は……)
 乃梨子は想像を巡らせる。

 平和な教室に放たれた『ネコ科の猛獣』が「ガルルッ!」とか「キシャ〜ッ!」とか言って、怯える『まめ狸』に襲い掛かるのを『七三と眼鏡』が「メモメモパシャパシャ」やっている、二年松組の光景を。

 祐巳さまには本当にお気の毒なことだ…… 知らず涙が出る。

 乃梨子が悲しみを振り払って。
「そんなわけだから、なおすのはしばらくまって。 まりょくがかいふくするまで」
「まあしょーがないよなあ……」
 可南子とそんな遣り取りをしていると、周りの集団から手が上がった。 敦子さんだ。
「あの…… 発言しても良いですか?」
「まあ、いいけど。 いまはのろえないし」
「…… それでは、遠慮なく。 あの、魔力がお切れでしたら、宿屋に一晩お泊りになれば回復するのでは?」
「「はぁ?」」
 周りから「そうですわね!」「流石は敦子さん」などと聞こえてくる。
「…… このあたりで『INN』と、きのかんばんをかかげたやどやがあるとでも?」
 その返事に『あっ』と皆が思い当たる。 「そう言えば確かに……」「新宿の方になら、もしや……」「相場は何Gですの?お高いのかしら」などと口々に言っている。
 ―― まあ、心配してくれて居るのだから、有り難い事なんだろう。
 「はいっ! 良いですかっ?」
 美幸さんだ。
「―― こんどはなに?」
「はいっ、それが駄目でしたら、エリクサーなどをつかえば良いと思いますっ!」
「……」
 今度も周りから、「それなら一発ですわ!」「美幸さんもやりますわね」「何故気付かなかったのでしょう」などの声。
「じゃあ、かってきて」
 その返事に今度は『えっ』と皆が引く。 「ミルクホールに有りますかしら……」「どくけしの方が良いのでは」「秋葉原の方になら、あるやも……」「ギルの持ち合わせがございませんわ」等々なんか言っている。
 ―― その『不死の薬』がホントに在るならこんな事に使っちゃダメだろうに。

「あの、しんぱいしてくれるのはありがたいけど、のろいならじぶんでもとけるから」
 そう乃梨子が言うのに、『へ?』と全員気の抜けた声を出した。 可南子も同様だ。
「みてて。 ゆっくりとていねいにしゅれば、いんがくめるから、こうして…… あとはくじゃくみょうおうの――」
「乃梨子さん、ちょっとお待ちになって」
 何故か恭子さんが呼び止める。 早くこの忌々しい体から解放されたいのに。
「なに? なんかあるならはやくゆってよ!」
 乃梨子の返事はつい怒気を含んだものになったが、恭子さんは呑気な感じで言った。
「呪いを解いた後、何をお召しになるんですの?」
「あ」

 今日一日は我慢しなくてはならないようだ。



 そんな訳で今日の一年椿組は、ちびっこ三人が最前列に並んで座っている。

「ふむふむ……」
 ど真ん中でノートパソコンをぺちぺち叩いている乃梨子が、右を見ると。
「もぢが…… もぢがかけまちぇんわ……」
 瞳子がベソかいていて。 左を見ると。
「くすくすくす……」
 可南子が、こっちは乃梨子同様パソコンを叩きながら不気味に笑っている。

 授業中、可南子から電子メールが来た。乃梨子が開けてみると。

『瞳子さんをちびにしたのは、瞳子さんが困っていれば祐巳さまがほっとかないから。
 そうこうするうち、結果スールになるだろうという作戦。了解?』

 と、書いてあった。 乃梨子は「可南子も優しい所あるじゃないか」と思って。

『作戦は良く解ったし、私も協力はするけど。
 アホか!? 手段は選べよな、コノヤロウ!!』

 と、返信しておいた。






 後日。
 体もすっかり元通り。 瞳子以外は。
 瞳子も作戦に乗っかったから。 祐巳さまにベッタリ甘えて、祐巳さまも満更じゃ無さそう。 もう時間の問題かもしれない。
 あの件は、一年椿組だけの秘密になった。


「乃梨子さん、用事って何?」
 ここは人気の無い校舎裏。 乃梨子は可南子を呼び出した。
「借りを返して貰おうと思ってね」
「何? やるって言うの?」
 可南子の目つきが俄かに鋭くなる。
「やらないよ。 可南子、あんた、ちびの呪いの逆って出来ないの?」
「は?」
「たとえば…… 志摩子さんを…… はぁはぁ」
「ああ、そう言う事…… 祐巳さま…… はぁはぁ」
「…… 私も協力するよ?」
「どんな?」
「これを…… こう……」
「それは良いわね……」

「「うふふふふふふふ――」」



 そこには黒い笑いだけが存在した。


 おしまい♪


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