「乃梨子ちゃん。何か悩みがあるなら、話聞くよ?」
文化祭が終わって何もないこの時期、薔薇の館にいるのは、私と紅薔薇のつぼみの祐巳さまだけだった。
黄薔薇姉妹は部活。紅薔薇さまは家の用事で帰られていた。志摩子さんは委員会で、まだ来ていなかった。
私はぼんやりと窓の外を見ていたのだけど、そんな私から何か感じ取ったのか、祐巳さまがそんなことを言ってきた。
祐巳さまにしては、察しが良いのかも知れない。そんな失礼なことを考えながら、考えていたことを多少なりとも形にする。
「うん。悩み……かな。でもまだ、自分でも、よくわからないんです。いや、漠然とはわかってるんだけど」
「私で良かったら、相談に乗るけど……志摩子さんの方が適任かな?」
小首をかしげてそう言う祐巳さまを見て、私は決心をした。
元々、うじうじ悩むのは趣味じゃないのだ。
「実は、祐巳さまにお願いがあるのですが……」
「うん、私でお役に立てるなら、いくらでも話を聞くけど」
私は薔薇の館に私と祐巳さましかいないことを確認して、そして、祐巳さまに近づいた。
そして、祐巳さまの耳元で、小さな事でそっと祐巳さまにあることを告げる。
「え! 祐麒に?」
びっくりした声で、叫ぶ祐巳さまの口を慌てて塞ぐ。
「えっと、本気? なの?」
びっくりした顔で、私を見つめる祐巳さまを見て、私はこくりと頷いた。
私がお願いしたこと。それは今度に日曜日に祐巳さまの弟さん――祐麒さんに逢いたいと伝えて欲しいというものだった。
【No:418】に続く